少年が眠りから覚めてゆるゆると目を開くと、足元でリンが寝息を立てていた。
少年が身体を起こそうとすると、ギシキシと音がして身体の節々に痛みが走った。
どうやら長い間眠っていたらしい。
時計を見ると、今は夕方のようで窓の外が赤く染まっていた。
少年は喉が渇いていたので水を飲もうとそっとベッドを抜け出した。
すると、リンがもぞもぞと身動ぎしてパチッと目を開けた。
「あ、レン。気づいたんだ。」
リンが言った。
少年はリンを睨んだ。
「その名前で呼ぶなって言ってんだろ」
「なんで?他に名前があるの?レンはレンでしょう?」
「っ―…」
「そうやって逃げてばかりじゃダメなんじゃない?」
リンが立ち上がって少年をねめつけた。
「俺に名前なんかいらない」
少年は下を向いて爪先に向かって呟いた。
「そういえば、あの人に似てる人を見つけたよ」
リンが大きな伸びをしながら言った。
「は?」
少年がぽかんと口を開けた。
「だって、死んだ筈じゃ」
「え?死んだなんて言ってないじゃない…」
少年は目を見開いた。
じゃあ、あいつは生きてるって事なのか?
「案内してくれ」
少年はまっすぐな視線をリンに向けた。
「いいよ。行こう」
リンが笑った。
街に出る前、少年は帽子を目深に被った。
周りの人間に騒がれるのが嫌だったし、リンにも迷惑だろうと思ったからだ。
リンは先にたって歩きながら、あちこちの露店を覗いては真新しいものや美味しそうな果実を見つけて喜んだ。
少年はそんなリンに、「あー」とか、「へー」とか適当に相づちをうち、下を向いて歩いた。
「まだ??」
少年は辺りをキョロキョロ見回しながら小声で尋ねた。
「もうちょい」
露店のお姉さんにサービスしてもらった果物をかじりながらリンが答えた。
ここ、イオリの家の近くだよな。
「ココだよ」
リンが口の周りを果汁でベタベタにしている。
リンが指差した先にあったのは、
「冗談やめろよ」
少年は意味もなく瞬きを繰り返した。
「ココだよ、間違いなく」
イオリの家を指差しながらリンがきっぱり言い切って見せた。
「もう、逃げるのやめたら??」
リンが服の袖で口元を拭いながら言った。
「逃げてない」
「嘘ばっかり」
リンに言われて、少年はまた嘘つきと言われちゃったなと自嘲的な笑みを浮かべた。