小説『オオカミ少年の最後の嘘』
作者:レン(Yellow☆Fall)

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テーベの村に来る前、少年はここから20?程度離れた大きな町に住んでいた。


「◯◯!!ちゃんとロッキーの散歩に行きなさい!」

広い室内に、母親の声が響き渡る。

「わかってるって!!!」
少年は小型犬のロッキーの手綱を掴み、外に出ようとした。

「まってお兄ちゃん!!」
背後からパタパタとこちらにかけよって来る足音がしたので少年は振り返った。


「あ、**」
少年は後ろから駆けて来た少女の名前を呼んだ。

「私も一緒に行く!」


「ええ、いいよ来なくて!」
少年は嫌そうな顔をしてそっぽを向いた。
「なんでよ、私も一緒に行きたいよ!ロきーのおさんぽしたいよ!!」
舌足らずに少女が地団駄を踏む。


「◯◯、あなたお兄さんなんだから、ちゃんと面倒みてあげなさい。」
母親が少年を咎めるので、少年はふてくされて母親を睨んだ。

「そんな目つきしちゃいけません。さあ、お兄ちゃんのいうことをよく聞いて、気をつけて行ってくるのよ」

「うんっ!!」


少女は首が抜けそうになる位の勢いで頷いて、少年が手綱を握っていない方の手をぎゅっと握った。

「いってきます!」
少女が元気に挨拶した。

「いってらっしゃい」

玄関の前でドアを抑えながら母親がふわりと花開くような優しい顔で笑った。





玄関から見えない所まで歩くと、少年は少女の手を振り払った。

「なんでついてくるんだよ!」

少年は叫んだ。
「え、なんでついてっちゃだめなの?」

「お前、うっとおしいんだよ」
少年は吐き捨てるように言った。視界の隅には驚いたように眼を丸くする、妹の姿が映っていた。



少年は妹を置いて歩き出した。


後ろから、すすりなくような声がしたが、少年は無視した。

しかし、2、3m歩いただけで、ロッキーが足を踏ん張って動かなくなってしまった。

「ロッキー、行くぞ」

少年は力づくでロッキーを引っ張ったが、動かない。

「ロッキー?」

ロッキーは、一点を見つめたまま動かない。

少年は、犬が見つめている先を見やってその場に凍りついたように動けなくなった。


10m程度先の細い路地の隙間に、いた。

「オオカミ…」

少年はゴクリとつばを飲み込んだ。




なんでこんな所に。


ここは山奥の町ではあったがオオカミがこんな町中まで迷いこんでくることはない。



よほど何日も餌を食べていないのだろう、痩せさらばえた体に、らんらんと眼を光らせて
オオカミはどんどんこちらに近づいてくる。


「やべえ…」

少年はガチガチに硬直した犬を無理やり引きずって妹の所に戻ると、妹をおぶってかけ出した。


途中、走りながら「オオカミだ、みんな逃げろ!!」
とさけんで回った。


少年のただならぬ形相にみんな血相を変えて家の中に逃げ込んだ。



少年の家まであと20m。



少年はドタバタ走りながら後ろを振り返った。


「っっっっっ!!!!!!」

少年は危うく足がもつれて転びそうになった。


オオカミがすぐ後ろまで迫っている。



「お兄ちゃんっ!」
妹が泣きわめいた。



犬がギャンギャン吠えて、暴れ回り、手綱が少年の足に絡みつき、少年はその場に倒れた。



ヤバい!!

転んだ拍子に犬をつなぎとめていた手綱がスルリと手を離れ、犬が泡をくったように走り去った。


「あ!ロッキー!」
妹が逃げた犬を追おうとして、ふらりと歩道の真ん中に躍り出た。


「**!危ない!!」

少年は金切り声をあげた。


オオカミが目を光らせ、飛びかかるのが見えた。

少女の叫び声が辺りにこだまし、鮮血が床に転々と染みを作った。

周りの大人達は我先にと逃げ出し、二人を助けようとするものはなく、少年は泣きながらオオカミに向かって石を投げた。

非力な自分では、全力で石を投げても小石をぶつけたくらいの威力しかなく、オオカミは妹から離れようとしない。


「助けて…」

妹がかぼそい声で少年に手を伸ばした。


少年はすぐそばの家に立て掛けてあったシャベルをひっつかみ、目の前の獣に向かって叩きつけた。


これにはオオカミも無視を決め込むことが出来なかったらしく、こちらを振り向いてうなり声を上げた。


口元には赤い液体がこびりつき、滴り落ちている。


オオカミの向こうにうずくまる妹は細かく震えているように見えた。

少年はまたシャベルを振り上げた。


オオカミが飛びかかってきた。

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