10話「彼ニ彼女ガイルコトヲ彼女ガ知ッタラドウ切リ出スノダロウ」
「先輩!一緒に帰りましょう」
授業が終わって1秒ほど経って真登ちゃんが教室に来た。
「ひぃ!」
真登ちゃんの過去を兄である江島に聞いたあの日からもう一週間が経とうとしていた。
あれから真登ちゃんは、毎日こうして俺の教室へ足を運ぶ。
「先輩、帰り、あの店寄って行きましょう」
あの店と言うのは初デートの時に行ったあのアイスクリーム屋さんのことだ。
「分かったよ…。一緒に帰る。その代わり…」
「分かってますよー。今日は、そのまま帰ります」
あの日以来、俺たちは、着々とみんなの公認のカップルになってきている。
クラスの奴らには、真登ちゃんの悪態が知れていないので「もったいない」と言われるが、
歴同会のメンバーには俺は憐みの目を向けられながら教室を出ていく。
「先輩はいつものですか?」
アイスクリーム屋さんに着くと真登ちゃんは早速そう言った。
「いや、今日は、ストロベリーチーズケーキにしようかな」
「本当ですか?珍しいですね。ストロベリー系なんて」
「たまにはね」
そんな会話をしながらアイスクリームを受け取り一緒に食べる。
「先輩、もしかして、苺苦手ですか?」
真登ちゃんが何気なくそう呟く。
「…いや…苦手だったんだけど…食べようと思って…」
「それで、駄目だったんですね」
真登ちゃんの言うとおりである。
真登ちゃんが、こないだ食べててその食べる顔が本当に幸せそうな顔してたから
…行ける気がしたんだけどなぁ…。
「食べてください。私の」
そう言って真登ちゃんは、自分のアイスクリームを前に出してその隣に空いてる手もだした。
その手の意味は、俺には分からなかった。
「その手は?」
「えっ…。何って…先輩の分もったいないんで交換して食べてあげます…」
真登ちゃんは、恥ずかしそうにそう言うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。
可愛いなぁ。
真登ちゃん…。
と言うか、いい子やな…。
そんな事を思いながら俺は、真登ちゃんとアイスクリームを交換する。
そして、真登ちゃんが、俺のストロベリーチーズケーキを食べる。
「やった。先輩との間接キスゲット!」
そう言って、真登ちゃんは「べっ」と舌を出して笑った。
そうだよ…。こういう子だったよ……。
そんなやりとりをすませ、俺たちはアイスクリーム屋さんを出る。
すると、真登ちゃんが、
「先輩、寒いから手ぇ繋いでいいですか?」
と言いながら俺の手を握る。
もう俺に拒否権はない。
「いいよ」
俺たちは手を繋いで前を見る。
「…丞?それ…彼女?」
俺たちの前に現れた人。
「ね、姉ちゃん…」
「お姉さん……」