僕の疾走にあわせて銃声の数がどんどん増えていった。
それは打ち手の増加を意味している。
僕の心を絶望が襲う。
その時、銃弾が僕の右腕と左足をかすった。
鋭い痛みが走る。
僕はたまらず倒れこんだ。
大きな歓声が耳障りだった。
僕はこんなくだらない事で死ぬのか。
シャーリィも解放出来ずに?
馬鹿な。
死ねない。
僕は強く想った。
シャーリィをこの地獄から解放するまでは死ねない。
僕は泣きながら這った。
それは無力な自分への悔しさ、理不尽な現実への絶望の発露だった。
ふいに、銃声が止んだ。
後方では歓声の代わりに怒号が聞こえた。
この声は――ジャック中尉。
僕は咄嗟に後方を振り返る。
後方ではジャック中尉がサンチェス達を激しく叱咤する光景が見えた。
「恥ずかしくないのか!貴様ら!」
ジャック中尉は青筋を浮かべて怒鳴る。
「貴様らの銃は子供を撃つためのものなのか!」
ジャック中尉に叱責を受けているサンチェスは再びあの気味の悪い笑みを浮かべた。
「餓鬼だろうがなんだろうが、人畜は人畜ですよ。中尉殿」
「なんだと…」
「人畜は犬以下の存在だとこの国が定めているんです。それに逆らうんですか?もしや叛意がおありで?」
「貴様…」
ジャック中尉とサンチェスはにらみ合う。
両者の間には埋めがたい決定的な溝が広がっていた。
結果的に僕はジャック中尉に命を救われた。
だが、そのジャック中尉の異動が決まったのはその直後の事だった。