「ギルバート…すまない。まさか…俺が王都に定時報告に行っている間にこんな事になるとは…すまない」
ジャック=エンノイア中尉は泣いていた。
「ジャック中尉…そんな慰めの言葉なんて聞きたくないんですよ…」
気が付いた時には、僕はジャック中尉に馬乗りになって拳を突き出していた。
だが、ジャック中尉は一切抵抗しない。
「…殴りたいなら殴れ。俺に何も言う資格はない」
「なんで…なんでシャーリィが死ななくちゃいけないんですか!金を失う事が…人畜に堕ちる事がこんなにも罪深いんですか!」
「…」
「許さない…許せるものか!全員殺してやる!いつか…必ず…復讐してやる!」
「待て!ギルバート!確かに妹さんの事は不幸だった。だが、君が復讐に手を染める事は妹さんが望んでいる事なのか!?復讐に囚われてはいけない!」
「うるさい!シャーリィは死んだ!シャーリィが何を望んでいるかなんて誰にもわからない!もう…誰にもわからないんだよ!」
「妹さんの分まで生きるんだ!復讐に囚われずに、君の人生を…精一杯生きろ!ギルバート!」
「うるさい!うるさい!うるさい!黙れ!」
乾いた音が響いた。
僕はジャック中尉の腰にあった銃を奪い、引き金を引いていた。
ジャック中尉の頭からは鮮血が溢れている。
ジャック中尉の目は虚ろなまま虚空を見つめていた。
僕は震える両手を見る。
僕の両手はジャック中尉の血で染まっていた。
「あ…あぁ…」
その時、僕の中で人間として大切なものが音を立てて崩れていくのが分かった。
もう、戻れない。
僕の生き方はその瞬間、決定されたのだった。
僕はシャーリィの墓に向き直る。
「シャーリィ…僕はおまえを殺した奴らが許せない。必ずおまえの仇をとる。僕は、そのために生きる」
エリスグール収容所の兵士達。
サンチェス=エベール。
カースト制度。
国王ルイ=オーギュスト=アルハンドラ14世。
奴らに報いを。
奴らに絶望的な死を。
僕は、シャーリィの復讐をボーンシルヴィアに誓った。