小説『ボーンシルヴィアの罪』
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グラス大佐による特別訓練は多岐に渡った。

白兵戦闘術、銃器の取り扱い、擲弾、砲弾の作成方法、部隊指揮の基本、戦争における基礎知識などの座学に始まり、広大な森林を使っての実践訓練に明け暮れる日々。その過程で訓練について来れない者は予告通り頭を打ち抜かれた。訓練生たちは死にもの狂いで学び、死にもの狂いで戦った。

もはや、自分達に帰る場所などない事。もはや自分達に選択肢などない事は分かり切っていた。
選択肢がある者は幸せだ。多様な選択肢から自分の道を選べるという事がどんなに幸福な事なのか。
それは選択肢を失ってみないとわからない。

人間は大切な物を失って初めてそれがどれだけ大切なのかを知る。
僕は幸福になるにはあまりにも多くのものを失い過ぎていた。
 
訓練は順調に進み、訓練生も順調に数を減らしていった。営庭の隅には墓標のない墓がどんどん建てられてゆく。僕らは墓を建てる事はあっても、冥福を祈る事はしなかった。なぜなら次の日に墓の下に入っているのが自分かも知れないからだ。

僕らは仲間が一人、また一人と頭を打ち抜かれる度に?自分の命の大切さ?を知る。

僕らは自身の命の大切さを知れば知る程、自身の命を守る事に必死になり、他人の命に対して無関心になってゆく。人は必要のためならどこまでも残酷になれる。裏切り、策謀の全ては自身の命を守る事に集約される。

そこから軍への絶対忠誠の名の元に、自身の命を軍に捧げる事の必要さを教え込まれる。

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