僕らはそんな母に対して、何と声をかければ良かったのだろう。
“僕らの事は見殺しにしていいよ。だから自分のために生きて”。
そう言えば良かったのだろうか。
僕が母に出来る事と言えば、母の貴重な睡眠時間を邪魔しない事。
そして、食い扶持を減らすために自殺を試みる事だった。
真夜中の静まりきったキッチンで幾度となく、自分の喉に刃を突き立てた。
まだ10歳にも満たない子供ではあったが、“死”の恐怖は十分に認識していた。
月光が淡く照らすキッチンで刃の光が煌く。
死ぬために握った刃には吸い込まれそうな魅力があった。
自分はこの刃で死ぬのだ。
自分が死ぬ事によって母と妹が生き残る確率を少しでも上げるのだ。