小説『ボーンシルヴィアの罪』
作者:()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

きっかけは実にくだらないものだった。
 
王国では王族、貴族の度を知らない放蕩振りの所為で財政の悪化が進行。その額は始末に負えない程に膨れ上がっていた。生存税の増税のみでは賄えないと判断した上層部は周辺諸外国に対してこじつけに近い理由で次々と侵略戦争を仕掛けるに至った。国内産業の保護と活発化という発想を知らない王国上層部は短略的な戦時好景気による利益の独占に着手。王族、貴族が作り出した財政赤字を兵の命で賄うという構造が出来上がった。無意味にその命を散らす兵とは対照的に王族、貴族達は放蕩の限りを続ける。財政赤字を解消するために侵略戦争を仕掛け続ける日々が1年以上継続された。
 

だが、その報いは思いもよらぬ形でもたらされた。
 

王国の横暴振りに喘ぐ周辺諸外国がクリミア帝国に協力を打診。クリミア帝国はそれを承諾したのだった。クリミア帝国もまた戦時好景気、ならびに王国の領土を目的としていたが、あくまでも王国の横暴に反旗を翻すと主張する限り、大義名分はクリミア帝国にあった。
 
クリミア帝国の宣戦布告に国王ルイ=オーギュスト=アルハンドラ14世をはじめ王族、貴族達は震えあがった。そして、本土防衛、ならびに動員命令を王国軍全軍に発令。王国とクリミアの戦争の火ぶたが切って落とされた。
 
さすがにクリミア帝国軍は強大だった。その総兵力に加えて、装備、物資量、兵の練度。どこをとってもこれまで王国がいたぶってきた弱小国とは格が違う事を、上層部は日が経つごとに思い知らされる事となる。王族、貴族の尻拭いのために数万人の兵士の命が失われるなど笑い話にもならない。だが、兵は王国に滅びをもたらした弱兵と歴史に名を残す事を恐れた。それは兵達のせめてもの意地だったのかもしれない。
 

-73-
Copyright ©樹 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える