小説『ボーンシルヴィアの罪』
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「ようこそ。地獄の戦場へ。心より歓迎する。ドレーク少佐」
 
ラッツィンガー少将は笑って手を差し出した。
差し出された手を握るだけでこの男はそこら辺の軍人とは格が違う。そう確信出来た。
 
軍帽を深く被り、その右頬には大きな傷がある。笑うと歯茎が見える。何でも15年程前に自らが所属していた中隊が砲撃によって壊滅し、自らの右頬も吹き飛ばされたらしい。

「この度は災難でしたな。閣下」
世辞ではない。本当に同情していた。
「全くだ。これだからボンボン貴族は使えん。貴様があの莫迦よりもマシである事を心より祈っている」
僕は苦笑した。
正直な男だ。これが?気難しい人間?と言われる所以なのかもしれない。
「敵の現有戦力は」
「約1万8千だ。それに対してこちらは負傷兵をかき集めても7千かそこらって所だ。士気も高いとは言えん」
思わずため息をつきたくなった。グレマンのアホが余計な事をするから面倒が残る。
僕の様子を察したのかラッツィンガー少将はニヤリと笑う。
「それに加えてカサンドラから増援が来るまで最低10日間はかかる。儂らは最低10日間は帰れん。敵戦力はこちらの倍以上。当方戦力はズタボロ、死にかけの一個旅団に元気いっぱいの一個大隊。支援は皆無。逃げ場はなし。どうだ。楽しいだろう」
誰がどう見ても絶望的な状況下でラッツィンガー少将は笑っている。まるで玩具を与えられた子供の様な無邪気な笑顔を浮かべている。
「楽しいですな」と僕は応える。
ラッツィンガー少将は「ほう」と眉を上げる。
「戦争とはつまる所弱い者いじめと敵への嫌がらせの徹底。これに尽きます。これだけの戦力差ならやりがいがあるでしょう、閣下?」
「はっはっはっはっは!違いない!」
ラッツィンガー少将は腹を抱えて笑う。

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