小説『崩壊世界の黙示録』
作者:むぎこ(海辺のバクダンりんご)

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「いやぁ、美味しそうだ」
 リコスは注文したメニューであるハンバーグなるものが机に届けられると、立ち上がる香り付きの湯気を吸い込んでそう言った。言う割りに、リコスは一切それを口に運ぼうとしないが。
 「食べれば?」と言って相手の食を促しながらも、アシエもまた自分の注文したスープを啜った。経費削減の為なのか、食材の質はあまり良くなかったが、それでも不味くは無い味だった。

「ねぇ、そう言えば黙示録ってさ、何処から発掘されたのさ?」
 彼の珍しい疑問に、少女は口内のスープを喉奥へと流し込みながらも、質問の答えを脳内の書庫から引っ張り出した。
「ん?確か、旧文明の名所だって呼ばれてた建物の残骸とかから、断片的に見つかっていったらしいけど。結構周りの陸地同士が近いから、見付かると真っ先に解析環境の整った此処に情報が来るのよね。確か、核爆発の振動で『プレート』っていう地球の表面板みたいなのが移動して、それぞれの大陸同士が近くなった……っていう話だけど」
 頭の中に残る曖昧な記憶を辿り、情報と情報を繋ぎ合わせて言葉にしていく。その過程を辿るたび、「あ、そうだっけ」という事実もまた発覚していくのだが、大概はどうでもいい情報ばかりだったので直ぐに忘れてしまった。
「まぁ、そもそも黙示録を暗号化した意味がわからないんだけどね。本当に世界から結晶放射を消したいんなら、そんな二度手間な事しなくて良いのに」
「……あのさ、希望の無い世界っていうものがどういうものなのか、君には分かるかい?」
 突然青年の纏う雰囲気が変わった。その事に少なからず驚きを覚えつつも、アシエは「何?」と問い直す。
 それからリコスは暫しの間、考え込むようにして首を垂れていたが――やがて何か決心をしたように、重々しく口を開いた。
「――絶望しかない。こんな結晶放射が満ちた世界で、俺たちは生活している。だけど、それも無期限に保障されているものではないだろう?実際、最近の人間は結晶放射に対する耐性が著しく低下してきているし……何時かは滅びを迎える事になるのは間違いない。だけどさ、今の俺たちには『黙示録の解明』という目標が設定されているようなもんだ。だからこそ毎日生きることを頑張れるし、それを諦める事だって絶対にしない。……でもさ、もしもその目標が無ければどうなる?救われる希望も無い世界で、俺たちはこんなにも秩序を守って生きてこられたか?少なくとも俺はそう思わない」
 リコスは、語り終えると短い溜息を吐き出した。徐々に暗いオーラが払われていき、いつもの飄々とした胡散臭さが戻ってくる。

――正直、彼がそこまで考えているとは予想外だった。
 リコスが語ってくれる絶望は、それを味わったものにしか分からない様な、暗澹たる檻を孕んでいる。実際アシエ自身もそれを味わったからこそ、それを汲み取る事が出来たのだろう。
 絶望しかない世界。希望という彩りも無い世界で、滅びだけを待つような世界――それを聞いただけでも、一体その世界がどんな光景に成り果てているかは想像に固くなく、また思い半ばに過ぎる。

「……中々いい憶測だと思う」
 散々悩んだ挙句、口に出来た言葉はそれだけだった。他に何も口に出来る言葉など、見つかりはしなかったのだ。
 それが果たして何故なのか、それはよく分からなかった。

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