小説『崩壊世界の黙示録』
作者:むぎこ(海辺のバクダンりんご)

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「くぅっ……!?」
 刹那、鋭い一蹴が、アシエの咄嗟に掲げていた上腕部に打撃として命中した。余りの重さに、鍛え上げていた筈の筋肉という壁を通り越し、骨の髄まで振動が伝わる。

 敵は2人だった。両者共に、襤褸切れの様なマントで全身が覆い隠されているが――攻撃を受けた時の衝撃は、普通の膂力からは繰り出される事の無いほど、威力を秘めていた。
「やぁ、2人とも。元気そうで何よりだよ」
 何故かリコスはその2人に、特別人懐こそうな笑みを浮かべて軽く会釈した。最も、纏うオーラの方は敵対心丸出しだったが。
 しかし声を掛けられた2つの人影は全くそれに反応することも無く、呼吸の音すら響かせはしなかった。代わりに彼の返ってきたのは――
「っと、危ないよ……いきなりなんて、随分とご挨拶じゃないか」
――視界にも止まらぬ、俊足の拳だった。攻撃を繰り出されたリコスの方は難なくそれを回避したが、いずれも尋常な速度ではない。
 流石に、あの2人を同時に相手するのはどんなに訓練を積んだ人間でも不可能だ。となれば、自分も戦わなければならない。自らが動き、そして敵を倒さなければならないのだ。

「どきなさい!」
 思い立つと同時に、アシエは隙を伺っていた1人に、マグナム型結晶器での発砲を放った。反動が肩を揺らすのと同時に、大型経口から発射された鋭い結晶放射の流れが空を切り裂き、敵の下へ凄まじい速度で飛来する。
 だが、敵は体を僅かに沈ませてそれをいとも簡単に回避した。そしてその体勢のまま、地面が爆ぜたような音を響かせ、一瞬でアシエとの距離を詰めてくる。しかも突っ込んでくる手には、大振りのバタフライナイフが握り込まれていた。
 アシエはその突進を視認すると同時に、地面を蹴って宙へと体を躍らせる。紙一重で突進が今まで居た場所を通過し、切り裂くような風の奔流を生み出す。

「アシエ、引け!路地の裏でコイツらを撒くよ!」
 突然、リコスの必死な叫びが空間に反響した。向こうは向こうで死闘が繰り広げられているようで、彼の目は此方に向いてこそいないが。
 投げかけられた提案に、アシエは戸惑った。確かに、あの速度は尋常ではないし、誇る膂力も計り知れない。
 それに――数瞬という間ですらも、敵が息をつかせてくれる訳が無い。
「わかった……ッ!」
 体制的に、多少無理をしてでも返事をすると、背後に佇む敵を無視して踵を返し、反対側の通路を奥へ向かって一気に駆け始めた。それと同時にリコスも駆け出し、2人は横1列に肩を並べる。
「これからどうする気!?」
 アシエは半ば叫ぶ勢いで、隣を駆けるリコスに問いかけた。
「まず、あいつ等を完全に撒く。俺1人なら普通に戦うんだけど、君が居たら少し危ない。……とにかく、このままベースを目指そう。あっちもたった2人じゃあ、兵器付きの本拠地には乗り込んでこられない筈だからね。それに、あそこは戦闘慣れした人がとにかく多い。いざとなったら撃退も可能だろう」
 こんな状況下に置かれても、リコスの振る舞いと判断は、至極冷静沈着だった。
 アシエも普段なら冷静さを保っていられるのだが、まさかあんな化け物2人に狙われては生きた心地がしない。
 先ほど、1人とはいえあの化け物を相手にして、完全に優勢状況に居たリコスも十分な化け物といえば正解ではあったかもしれないが――

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