小説『崩壊世界の黙示録』
作者:むぎこ(海辺のバクダンりんご)

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――と、その瞬間。

「自分だけ拳銃を使うのは卑怯じゃないかな。小隊長?」
 発射主不明の一撃が1匹のグラゴネイルを射抜く。鮮血を散らし、青鱗を貫かれたグラゴネイルが地面に伏せるのと同じくして、アシエはその射手が居るであろう方向を振り返った。
「な、リコス!あなた何で!」
「やあ」
 何時から其処に居たのか、積もった瓦礫の山の上には、彼――リコス・ヴェイユの姿があった。右手に持ったリボルバーの銃口からは白煙が上がり、たった今使用されたことを主張している。どうやら病院の中に保管されていた結晶器と衣装は無事に取り戻せたようだ。
「ティラはちょっと足止めを喰らっててね。どうにも、こっちまで来れそうに無い」
「はぁ?ちょ、それどういう……」
「急いだほうがいい。メンダークスよりも先に、グラゴネイルに喰われる事になりたくなければね」
 もう1度、彼の手に握られたリボルバーが弾丸を放つ。発射された白輝の閃光はアシエの視界から一瞬で外れ、間もなく後方から愚者の断末魔が上がった。
「……そうみたいね」
 戦闘は、さらに激しさを増していた。どうやら戦況は機関側が一方的に不利なようで、一列に並んでいたはずの前線が徐々に押されつつある。もしも結晶器が使えるならば、独力押し返すことも可能なのだろうが、生憎それは不可能な話だ。
「俺が前線に出る。このまま押し切られると、民間人の避難先にまで被害が拡大する恐れが出てくる」
 リコスは両手2丁の拳銃をそれぞれ左右のアンクルホルスターにしまい込むと、今度は上着の両ポケットに手を突っ込んで大振りのバタフライナイフを取り出した。瓦礫の山を蹴ると、左手のナイフは切っ先を前に、右手のナイフは逆手持ちに、それぞれ左右対称の構えで愚者の群れに突っ込む。降り注ぐ火の粉と熱風の壁を突き破り、滑空状態に入った。
「案外、よく考えて行動できてるじゃない」
 その姿を視界の隅に置きながらも、アシエは結晶器の銃口を群れから独立していた1匹のグラゴネイルに向ける。鍛え上げられた鋭い感覚により、一瞬で照準を目測で捉えると、そのまま引き金を引く。その反動が肩を襲うと同時に、目標のグラゴネイルは完全に沈黙した。
「第41号小隊、これより56号小隊の傘下へ入る!56号小隊の指示を待ち、冷静に行動せよ!」
 不利を見取ったのか、交戦中だった41小隊の男が猛々しく叫んだ。その余裕の無い歪められた表情は、唯苦戦しているからなのか、それとも――他の小隊、ましてや女性の指示に従わなければならない状況なのが不服なのか。
 だがそれは、アシエにしてみればどうでもいい事だった。『従ってくれる』というのならば、的確な指示で彼らと共に生き残る事に尽力せねばならない。そこに、男女の壁など存在しないのだから。
「――各自、作戦変更!仕方が無い、結晶爆弾(クリスタ・バーン)を使うわ!」
 結晶器による砲撃が通じず、近接では有利に持ち込まれてしまう。ともなれば、危険覚悟であれ結晶爆弾――発火性の高い結晶放射を、内部から熱で急速に熱する事で大きな爆発を起こさせる特殊兵器――を使う他無い。

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