小説『崩壊世界の黙示録』
作者:むぎこ(海辺のバクダンりんご)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 と、
「……だからこそ、下調べをさせて欲しくて此処まで来た。いやはや、此処の自然は大層美しい。少々、私たちにも見せてくれないかな?」
――余りにも唐突に、その行動は行われた。
「手前、何のつもりだ!」
 咄嗟に玲は愛理の目の前に飛び出、そこに飛来した『死』を拳の中で受け止めた。通常ならば拳など容易く貫通するであろうその結晶弾丸は拳の中で粉に変わり、そして最後には空気へと還元されていく。
 それは、エニスが発射した結晶弾丸だった。今まで友好的な態度を保ち続けてきたエニスは、突如として愛理を消そうと試みたのだ。
 何の為か。そんなことは決まっている。機関長である彼は唯、邪魔な存在を消したかっただけ。
「おやおや、すっかり君の存在を忘れていたよ。しかしよくもまぁ、結晶弾丸を素手で受けて何の被害も受けないな。――全部隊、攻撃準備」
 台詞の割に驚いた様子も無く、エニスは後ろに控えている部隊に指示を発した。瞬間、何十もの銃口が集落の人々へと向けられる。機関の変貌振りに驚愕していた所為か、集落側の人々は反応が遅れてしまう。
 武器を構えようにも、恐らく少しでも妙な動きを見せれば撃たれる――誰もがそう確信していたからこそ、誰も動くことが出来なかった。勿論、愛理も玲も。
「貴方達……最初から乗っ取る事が目的だった訳ね!」
 愛理が拳を震わせ、憤怒をその身に宿らせた。
「ふん。君たちがどう言おうと知ったことではない。何、動かなければ撃ちはしないさ。……探せ、近くにある筈だ」
 その言葉が真実なのかどうか等、誰にも知る余地は無かった。
 動けば確実に撃たれるだろう。だが、動かなくとも一方的に撃ってくる可能性も捨てきれはしない。集落の面々が硬直状態のまま、エニスたちは我が物顔で闊歩し始めた。
(――何を探してる?何を……)
 今にも爆発しそうな怒りを抑えながらも、玲はどうにか思考を働かせた。彼らは一体何を探しているのか、そしてそれにどの様な意味があるのか。
 それを確認するのならば、直接本丸を叩いて吐かせたほうが手っ取り早く、尚且つ確実ではある。しかし、今動けば自分が大丈夫だとしても周囲への被弾は避けられない――玲はそう考えていた。故に、動くことが出来なかった。
「愛理、あいつ等の攻撃を、どうにかして無力化できねぇか?何も考えてねぇなら、短く息を吐け。それ以外は、長く」
 玲は誰にも聞こえない程度の声量――比肩するならば、精々息をする事程度だろう――で、独り言のようにそう呟いた。余程発達した聴覚でも無ければ、聞き取ることすら至難の技であろうが、運のいいことに愛理はそれを持っている。恐らく、限りなく小さな声で呟いたとしても聞き取ってもらえる筈だった。
 指示通り、彼女は『長い息』を吐いた。
「……よし、何かは考えてるんだな?なら、早くそれを実行しろ。……あいつ等には教えてやらねぇとな、此処が何処で俺たちが何かっつうことを」

-47-
Copyright ©むぎこ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える