小説『崩壊世界の黙示録』
作者:むぎこ(海辺のバクダンりんご)

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第2章/襲撃……


この世界の王とされる新人類が居を構える区画、正式名称≪第8区画マルクト≫。およそ400年も前から街の発展が始まり、≪王国≫と呼ばれるほどの勢力を付けた後も、徐々にではあるが勢力の拡大が行われていっている、比較的栄えた区画だ。
 区の中心に聳えた≪ベース≫は、≪黙示録≫――旧暦の人類が残した、セフィロト粛正を成す為の方法が記録されているといわれる小型記録媒体――の錠を解除するために組まれた機関の本拠地であり、一般市民権しか持っていない賢者には入ることが出来ない建物だ。機関の隊員登録証、若しくは通行許可書を持っていなければ入ることは出来ない上、仕様上そのどちらもが結局は試験で入手する他無かった為、外部の人間に容易く乗っ取られたり、ということは決して無い強固なセキュリティを誇っている。
 機関の内部構造は、様々な分野への人員が配置。小隊長以上の各々が、それぞれの隊を形成して指揮、回ってきた任務に当たる……というのが基本であり、それが毎日のように行われている。
 それは例えば愚者の討伐依頼であったり、何かの護衛の仕事であったり、その殆どが危険なことに携わることとなる実地任務。実質≪黙示録≫の解明に当たっているのは、優秀な頭脳を備えている解析部署だけだった。とはいえ、最近ではそちらも手付かずで困り果てているようだったが。

 さらに、このベース内部には様々な施設がある。
戦闘に関する訓練室に食堂。果ては大浴場や売店など無駄なものまで色とりどりの取り揃えだ。
 訓練施設は設備が揃っている上、費用は必要としない。娯楽施設はどれも安価で済む上にバリエーションも豊富なので、生活に事欠けることは一切無い。
 勿論のこと、ここで生活する人間の為に、それぞれ質素ながらも自室は用意されている。だが、それも副隊長以上の立場で無いと個室は与えられない為、一般は所謂「雑魚寝部屋」に4人ずつほど置かれることになっていた。それを不満に思うか、寧ろ寂しさを感じないから良いと考えるかは、その仲間の良し悪しにもよるだろう。

――そんな巨大規模を誇った機関のベース内部、それぞれの場所へと通じる大筋の廊下を、1人は苛立たしげに踏みながら。1人は一喜一憂しながら。歩く2人が居た。
「いや、結構ドキドキハラハラとしたいい旅路だったね」
 その内一喜一憂を繰り返していた青年リコスは、至福の思い出でも語るように口を開いていた。
 彼の隣には、美麗な顔の額に常時皺を畳んでいるアシエが居た。不機嫌さは歩調、目つき、何よりその皺を見れば誰でもわかるようで、先程からアシエの通る先に居る賢者達は、自然と道を空けてくれている程だ。
 普段単独でしか行動しないアシエが、ましてや規定の制服を着ていない者と共に歩いている事による、好奇の視線を一身に浴びながらも彼女は苛立たしげに吐き棄てた。
「いい旅路?それをそう思えるなら、あなたの脳はよほど手遅れみたいね」
 少女がそう言うや否や、そんな剣呑とした言葉など意味が無い、と言った様子で、リコスが下手糞な笑みを浮かべて喉を動かす。
「そう?俺はそもそもこの世界が嫌いだから、あんな事があると寧ろ楽しいんだけどな。ま、愚者も大嫌いだけどね」
「矛盾よ、矛盾。第一、あなたが本当に嫌ってるものって何なの?此処に帰ってくるまでの間、あなた全部の事柄に『嫌いだけど』って付け加えてきたじゃない。私はそんなあなたが大嫌いだけど」
 実際、此処に帰って来れるまでの5日間――結局、色々な邪魔が入りすぎてそれだけ掛かってしまった――の旅中で、幾度リコスに殺意が芽生えたことかはもう覚えても居なかった。彼の運転ミスで愚者の群れに包囲された時など、本当に海の藻屑にしてやろうとすら思った程である。

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