小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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3 Mさんの場合。

Mさんは都内に在住する会社員。
或る日を境に身辺に異変が起きる。

その異変は例によって周囲の人々の態度変化から始まる。

M氏の場合も他の被害者同様に同じような被害に遭遇するが主として『不法侵入』による被害が続く。
それはあたかも、

  『お前の部屋に入ったぞ』

と言わんばかりに家具や家電製品、置物やその他物品の角度や位置を変えたり隠したり、かと思えば、
洗濯バサミや衣文かけ、市の指定ゴミ袋、タオル、スプーン、重石用のコンクリートブロックといった、
どうでもいいつまらない物を持ち去ったりしていく。

この『不法侵入』は出勤や外出などの留守中や睡眠時に行われるらしく、
帰宅時や睡眠から覚めたときに『不法侵入』の形式を残していく。

また、M氏の話から、どういうわけか室内にいるM氏の居場所が上階の住人に判るらしく、

 ■M氏がトイレに行けば上階住人がトイレの水を流す音をさせる、

 ■バスルームに行けば上階からカチカチという音をさせる、

 ■ベッドに入れば天井から歩く音がしたり、寝入り端にドスンという物音を立てたりする。

さらに、

 ■室内におけるM氏の居場所は両隣からも判る。

らしく、玄関に行けば隣室の住人がドアのチェーンをガチャガチャと音をせるなど、
まるでM氏の居室を中心として、その上下両サイドの居室がアジト化されているかのようだったという。

ここで少しM氏の話を聞いてみよう。

  Mさんは執拗な不法侵入に晒されたということですが、何かほかに変わったことはありませんでしたか?

  ええ、あります。不法侵入が始まる数か月前に『部屋鍵の一斉交換』がありました。
  どうもその時に合鍵を偽造されてしまったらしいのです。

  ほう、なるほど、他には?

  そうですね、私の居室を中心とした上下両サイドの住人達は元々の住人ではなく、
  後から入ってきた人たちだということです。
  それもおかしな入居の仕方で、上階の場合など表札は変わっているのに三か月間も空室のまま、
  ようやく引っ越してきたかと思えば室内には家具らしいがほとんどない、
  それでいて入居者は子供のいる所帯持ちということになっていました。

  ふぅむ・・・。
 
  それだけじゃない、表札は変わらないのにどうにも入居者が入れ替わる。
  まるでひとつの部屋を何人かで交互に使いまわしているという感じでした。
  さらに不可解なのは、私の居室を中心とした上下両サイドの居室は、
  どれもこれも生活感というものが全くないのです。
  子供のいる所帯持ちということになっていながら子供のはしゃぐ声や笑い声、
  泣き声がまったく聞かれない。
  私はあまりに不可解なので自分なりに調べてみたことがあります。

  ほう、どんなことを調べましたか?

  ええ、本当に住んでいるのかどうかを調べるため、
  私は上下両サイドの居室の玄関先に設置してある電気メーターを調べてみました。
  すると夜のゴールデンタイムにも関わらずメーターが停止している。
  表へ回れば部屋は真っ暗、普通なら家族で食卓を囲んでいるか夕食の準備をしている時間帯ですよ、
  そしてそんな状態が半月近くも続くわけです。
  おかしいと思いませんか?
  さらに首を捻るこことは、洗濯物や布団を干すということがまったくない。
  たまに干してあるかと思えば、一向に取りこまず数日間も放置されている。
  また、回覧板なんかは玄関ドアにかかったまま何日も放置状態。
  それでいながら入居者らは子供のいる夫婦ものということになっている。
  こんなおかしな話はありませんよ。

  ふむ、確かにおかしいですね。

  でしょう? 誰が聞いたってこんなのはおかしいですよ。
  それからこんなこともありました。
  めずらしく急ぎの回覧板が回ってきたため私は例の上階の住人に手渡そうとその部屋に行きました。
  ところがドアのチャイムを何回鳴らしても一向に出てこようとしない。
  なぜか居留守を使っている。

  なぜ居留守を使っていると言えますか?
 
  ええ、上階からの物音がしていましたから。

  ふふん、それで? 
 
  で、私が執拗にチャイムを鳴らしていると、急いで階段を駆け上がってくる足音が聞こえる。
  私が目を向けるとひれは、その部屋の住人でした。
  ちなみにその部屋、若夫婦が住んでいることになっていました。
  で、その若いダンナさん、息を切らしながらこう言う。

    『すいません、ちょっと留守にしていたもので』

  私はこの一言で確信を持ちましたよ、この部屋には別な『誰か』が出入りしているとね。
  きっと私が執拗にチャイムを鳴らし続けたため、その部屋に入り込んでいる『誰か』が、
  出るに出られないため急遽携帯電話でその若ダンナを呼び付けたんじゃないかと・・・。

  ふむ、考えうることですね。

  ええ、ともかく上階はおかしかったですね。
  おかしな点と言えばこんなこともありました。
  天井からコンコンとコンクリートの床を叩く音がする、
  ところがその部屋は和室になっているはずです。
  畳の上からではそんな音を立てることはできない、
  となれば畳を引っ剥がしてむき出しになったコンクリート床を直接叩いて、
  音をさせていたとしか考えられない。

M氏の話が間違いないとすれば、M氏の居室を中心とした上下両サイドの居室が
監視アジト化していたことを意味する。
そしてその各居室を入れ代わり立ち代わりしながら『誰か』が使用していたことになる。
私はその点をぶつけてみた。

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