小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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M氏は一呼吸おいて話し出す。

  こうして、いつの間にか私の周囲には『おかしな人間たち』が徘徊するようになるのですが、
  あるとき『民生委員』を名乗るオバサンが来て、私の名前とか家族構成、職業なんかを聞いてくる。
  なんで私のところに民生員が来るのか不可解なため、相手の名前を聞こうとしたところ、
 
   『それは個人情報ですからお答えできません』という。

  こちらのプライバシーを聞きながら自分は個人情報を盾にとって名前すら言わない。
  こんなバカな話はない。
  私は思いましたよ、このババア、民生員を騙ってこっちの情報を聞き出そうとしているなと。
  で、私は言ってやりましたよ、

    『お宅が個人情報を盾にとるなら私も同じ、あんたに答える必要はないね』

  するとこう言う
   
    『いえ、それでは困ります』
  と。

  だから私はこう言った。
 
    『お宅、民生員といってますが、それを証明する身分証は?』
 
    『いえ、そういものはありません』
 
    『ないの? じゃお宅が民生委員だという証拠がないね?』

  私は嫌味を言うと、そのババア、
 
    『私が信用できないのですか?』
  
  とぬけぬけとほざく。

  だから私も、
 
    『自分の名前も明らかにしなければ身分証もない、
     そんな相手を世の中誰が信用すると思いすまかね?』

  するとその民生委員のババア、苦笑しながら帰りましたよ。

M氏の身辺にはこのような『不審人物』『近隣の監視員』以外にも、
頻繁な『不審電話』がかかってくるようになる。
それらの電話の多くは業者を名乗る電話だが、その電話のどれもがまるでなっていないという。

  ともかく不審な電話は、どいつこいつも業者を騙る。
  その多くが『マンション業者』とか『不動産業者』。
  ところが営業電話の掛け方というか、ビジネスマンとしての電話の基本がまるでなっていない。
  というよりその『不審電話の主』は、まっとうな職業社会で働いた経験がないかのような、
  そんな口のきき方をしてくる。
  私は思わず笑っちゃいましたよ。
  こんな電話の掛け方で業者を装い相手を騙せると考えているなんて、まったくのバカ丸出しですよ。

と嗤うM氏は、不審電話に共通するいくつかの傾向を話してくれた。
彼によると、

 ■不審電話は自分の所属する企業名や名前を最初に名乗らない、こちらが聞きない限り答えない

 ■不審電話は自分の所属する企業名や名前を明確化しない、テキトーに端折る。

 ■不審電話は一方的にこちらのことを聞き出したがる。

 ■不審電話は社会人としての電話の基本がまるでなっていない。

 ■不審電話は電話以前に他人様に対する口のきき方を知らないらしい。

 ■不審電話は暗示的なものの言い方をする。

 ■不審電話の主は一様に常識が欠落し野卑で粗雑、無教養で愚昧な輩を疑わせる。

だいたいこんな傾向があるそうだ。

さらにM氏は『無言電話』も多かったという。

あるときM氏は掛かってきた『無言電話』に対して『無言』で応酬してみた。
すると相手はいつまでもダンマリを決め込んでいて一向に話し出そうとしない。
そこでM氏はこちらに電話料金の負担がないことに気が付くと、そのまま受話器を放置してみた。
暫くすると『無言電話』は切れていた。

それ以来M氏は『無言電話』には無言で応酬し続けたが、だんだんとバカバカしくなってきたため、
それからというもの、『無言電話』がかかってくると『無言』のまま一方的に電話を切っているという。
そうしたところで実害はまったくないそうだ。

M氏の話を聞きとても参考になったので、私もさっさく『無言電話』に対して『無言』で対処してみることにした。

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