小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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さて、こうした不審な出来事がM氏の身辺に起こり続けると同時に、
度重なる不法侵入に我慢できなくなり警察に相談しに行くが、

どういうわけか警察は『事件性なし』の1点張りで被害届すら受け付けようとしない。

  私は思い余って警察に相談に行きました。
  応対に出た警官は生活安全課の警官で、私の話を真面目に聞いてくれました。
  そして被害届を出したいというこちらの要望を聞き入れてくれた。
  ところがその途中で呼び出しが掛かり生活安全課の警官は一旦席を外すと暫くしてから戻ってくる。
  すると今度は打って変ったようにさっきとはまったく違う言動態度をとり始めるのです。
  私はあまりの豹変ぶりに耳目を疑いましたよ。
  だってそうでしょう、さっきまで私の話をよく聞いてくれたし被害届の要望も聞き入れてくれた警官が、  戻ってくるなり今度は頭から『事件性なし』の一点張りで私を追い返そうとする。
  それだけじゃありません、なんとなく人を小ばかにしたような目で見ていることにも気が付きました。

こうして警察に相談してもらちが明かないため、やむなくM氏は引っ越すことにした。
引っ越した当初は何事もなくやれやれと一安心する、
だが、1年ほどたったころからまたもや異変が生じる。
M氏は話す。

  或る日のことですが、エントランスの掲示板に室内修繕の張り紙がかかっていました。
  私は何気なくそれを見るとさしたる関係がなさそうなので、
  さらっと目を通す程度にするとそのまま居室へ戻りました。
  ところがそれから数日後、上階からコンクリートを削るような騒音が始まるのです。
  私は例の室内修繕かと考えたがあまりにも騒音が激しいので、
  エントランス掲示板の張り紙を見ると修繕対象の居室は上階ではなく違う居室でした。
  ところが上階居室の修繕については何も張り出されていませんでした。
  後になって気づいたことなのですが、どうやら上階の騒音が、
  室内修繕の居室に乗じて行われたものだったということです。

  ふむ、なぜそう思いますか?

  はい、上階からのコンクリートを削るような騒音の後、またも『不法侵入』が始まったからです。
  そしてその『不法侵入』は、どう考えても『室内から室内への侵入』としか言いようのないものでした。

  室内から室内への侵入ですか、なぜそう言えます?

  はい、玄関ドアやベランダのガラス戸にいろいろな仕掛けをしました。
  それは玄関ドアやベランダのガラス戸から侵入した場合、
  絶対に元の状態に戻して出ることのできない仕掛けです。
  ところが難なく室内に侵入してくる。
  これはどう考えても『外からの侵入ではなく室内からの侵入』としか考えられません。
  おそらく、上階から聞こえたコンクリートを削るような騒音、
  あれは上階から私の室内に侵入するため出入口を設けるための騒音だったと今では確信していまする

私はM氏の話からあることに思い当たる。

それはホテルの客室についてだが、内部から鍵をかけたまま客が倒れているような場合、
マスターキーでドアを開ける場合と隣の客室の天井裏を通って入り方法の二通りがあることだ。
警察がホテルの室内に立て籠もった犯人たちを制圧する場合、こうした侵入ルートを通じて急襲する。
M氏の場合、これらが応用されたのではないかとも思てくる。

  思うのですが、上階からの室内侵入の場合、一番疑わしいのはクローゼットの天井や、
  押し入れ天袋の天井、もうひとつは各階共通の作りとなっている水回りなど、
  さらにフローリングの床下が怪しいと睨んでいます。
  こうした場所か二重天井となっている箇所あるいは二重床となっている箇所を選定し、
  その箇所のコンクリートを削り取り侵入できる出入口を設けたのだと思います。

  ふふん、なるほど・・・。

  室内侵入は私が居室にいるときでも起こります。
  その場合、どこからともなく室内に風が吹いてくると、
  暫くしてから強烈な睡魔に襲われ寝入ってしまう。
  そのときの睡魔は半端じゃない、起きていられらなくなるんです。
  そして目が覚めると、例によって侵入した形跡を残していく。
  これは室内へ侵入してくる場所を知られたくないために、
  気体状の催眠剤を風と一緒に送り込み眠らせてしまうのではないかと考えています。

M氏の話を聞き続けていくうち、集団ストーカーというものが、
単なる組織的な付き纏いや嫌がらせという単純なものではなく、
その背後には何か大掛かりなことが控えているような印象が強まる。
と、同時にただの都市伝説ではすまされない、なんらかの『人権侵害活動』が、
広域にわたって組織的に行われているのではないかとすら思えてくる。
しかし、ここに疑問が浮上する。

  一体何のために?

K氏やL氏のようにその原因をカルトやリストラに特定できるならまだ話は分からないでもない。
だがM氏には、その原因が思い当たらず全く心当たりがない。
M氏は話し続ける。

  私はこうやって自分身に降りかかってみて初めて理解できることがあります。

  どんなことですか?

  はい、以前住んでい所のことなのでずが、
  あるとき窓と言う窓に一面に張り紙を張り付けている家がありました。
  そしてその張り紙には、近隣の誰某はドロボウだとか、人の家に勝手に入り込むな、
  とかそういった書き込みがなされた紙を窓一面に張り付けているのです。
  私はとても奇異に思い、近くの人に事情を聴いてみたところ、
  その家には一人暮らしの老人が住んでいるのですが、ところがその老人、
  少し頭がおかしいということでした。
  私はなるほどと思い、その時はそれで納得したのですが、今にして思えば、
  その老人も私と同じような被害に晒されていたのではないかと思えてならないのです。
 
  ふむ・・・、そうですか、で、その老人はどうなりました?

  はい、その老人の家の窓はブリキ版で覆うように完全に封鎖されてしまい、
  そして老人は姿を消してしまいました。
  近くの人に聞いたところ、精神病院に放り込まれたらしいと話していましたが、
  今にして思えばその老人は実際に度重なる不法侵入や盗難の被害に遭う続け、
  そしてその被害を闇から闇へと葬るために、
  老人を強制措置入院という形で口封じしたんじゃないかと思えてならないのです。

  なるほど・・・。

私はM氏の話から強制措置入院制度を悪用して特定人物を精神病院に収監し、
信用を失墜させ社会的に葬り去るという話を過去に聞いたことを思いだした。

だが、こういったことは政敵を失脚させる権力闘争のような、政治的策謀を必要とする階層の話であって、一般庶民には無縁の話である。

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