小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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4 奇妙な精神科医S

私はパソコンに入力しておいた取材時のICレコーダー音声データ、そしてその分析内容データを大容量メモリースティックにコピーする。
そこで、ふと、被害者らの話を思い出す。

  それはパソコン内のデータが消されてしまうという事象だ。

大方ソフトの不具合でパソコン内のどこかに潜り込んでしまっているのだろう思うのだが、
そうであるとも断言できない。

『ハッカー』の存在を考えるならば不正アクセスによって、相手のパソコン内に侵入しデータを抜き取ったり書き換えたりといったコンピューター犯罪が実際に起こる。

私は自分のパソコンを眺めながら、まさかとは思いながらも一抹の疑念が拭えなくなってくる。
転ばぬ先の杖ではないが、一応念のためログインのパスワードを変更するとメモリースティックをショルダーバッグに入れQ出版社へと向かった。

編集部に到着した私は編集長に取材結果を説明するため編集部の人たちに手伝ってもらい、応接室にスクリーンとプロくジェクターをセッティングする。
準備が整ったのでさっそく編集長を呼びに行こうとしたところ、すでに編集長が一人の女性を同伴して応接間に入ってきた。
黒いOLスーツのスレンダーな女性は、私を見るとニコリと笑みを浮かべて挨拶してくる。

  やあ、一条君、取材ご苦労様。
  そうそう、紹介しておこう、こちらの方は精神科医の医師Sさんだ。
  彼女は博士号を持つ列記したドクターだよ、今回の取材報告に参加していただくことになった。

精神科医が?
なぜそんなものが参加してくるのか俄かに理解できない。
これから話すことは広範囲に渡って引き起こされている人権侵害の疑いと、その被害実態についてだ。
病気の話をするわけじゃない。
警察や弁護士が参加するというのなら話は分かるが精神科医というのはちょっと解せない。
怪訝な表情を浮かべる私に編集長は心中を察したのか説明してくる。

  今回一条君が取材した件について実は私も自分なりに調べてみようと何人かの知り合いと相談してみた。
  そうしたところ或る知り合いから、こうしたことは精神科医の見解と合わせて考えていく必要がある、
  と助言されてね、で、こちらのS医師を紹介されたというわけだよ。 
  アメリカあたりでは犯罪捜査にも『犯罪心理学』を専門にする医師や犯罪被害によるPTSD、
  つまり『心的外傷後ストレス障害』による被害者の心理的ケアに取り組む専門医師がいる。
  そうした意味からも今回の一件について、専門家の立場からの見解が必要となるわけだ。

  なるほど、それで参加されるわけですね。

編集長の説明に納得した私は、さっそく取材結果の報告を始める。
私は編集部のパソコンに入力したデータをもとにプロジェクターを使った状況説明に入る。
そして論より証拠、というわけでもないが、実際に取材した被害者の肉声を聞いてもらうことにした。

数名の録音音声を聞かせながら、私は編集長と女医がどのような感想を述べるか興味を感じ始めた。
果たしてこの二人が自分と同じようなことを考えるか否か。
もし、同じ考えであるならば、集団ストーカーに関する私なりの観方が穿った見方をしていないことが判るからだ。

音声を聞き終えると私は自分の考えよりも先にこの二人に考えている事を述べさせる。

  どうでしょう? 実際の被害者の話を聞いてみて、いかが思われますか?

編集長は腕を組み眉間に皺をよせながら大きくため息を吐く。

  うう〜ん、そうだね・・・、実際の被害者の話を聞いてみて、
  どうやらこれは単なるストーカー行為や嫌がらせではないようだね。

  ふむ・・・、と言われますと?

  うむ、なんていうか、オカルティックというかSF的というか、
  どう表現していいのか適切な言葉が俄かには思い浮かばないが、
  そうだねぇ、その・・・、そう、何か背弧に大掛かりなことが控えているようにも感じる、
  が、しかし、これらはあくまでも被害者の話でしかない。

  ん? それはどういうことでしょうか?


  うん、つまり、これらはすべて被害を受けたという被害者らが主観を述べているだけで、
  客観性がない、そしてそれを証明する証拠もない。

私は反論する。

  客観性ならば、現に多くの被害者が同じようなことを体験しています。
  このような不特定多数の人々が同じようなことを体験する場合、
  これは主観的と言う範疇を超えていることになります。
  また、証拠であれば、それは取材した人たちの一部が集団ストーカーを示す音声記録や映像記録、
  その他の物証を集めています。

  ふぅん、で、君はその証拠を見たのかね?

  いえ、それはまだ・・・。

  それでは意味がない、ただ被害者の言い分を聞いて『ああ、そうですか』と言っているに等しい。

編集長は一呼吸置くと、

  たぶん、私は君と同じようなことを考えている、というか感じていると思う。
  だが、それが正しいと考えるならば被害を証明する客観的な証拠を必要とする、違うかね?

  ええ、確かに、それはその通りです。

  うむ、どんなことにも人々が納得する客観的証拠を必要とする。

私はさらに反論する。

  しかし、こうして実際の被害者と会い、そしてその話を聞く限り被害者の身辺に生じる出来事は、
  そのどれもが極めて似通っているか、場合によっては酷似していると言えます。
  しかも、私が取材した人たちは、その誰もが互いに面識もなく住むところも職業も違う。
  にもかかわらずに同じようなことがその身に降りかかる。
  さらに多くの被害者らは、そうしたことが自分の身に降りかかる原因をほぼ特定している。
  それはカルトやリストラが原因となっていることを。
 

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