小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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1 Kさんの場合
 
私は都市伝説『集団ストーカー』を解明すべく、
実際にその被害に会ったという人物にアポをとり取材に向かった。

仮にその人物をK氏としておこう。

Kさんの職業は某大手企業に勤務する独身サラリーマンで公団に居住している。
賃貸ということもあってかあまり近所づきあいはないらしい。
Kさんは私のアポに快く応じてくれただけでなく自分の被害体験の全て話してくれるという。
待ち合わせ場所はQ出版社近辺のとある喫茶店。

示された喫茶店に向かうとすでにK氏が待っていた。
私はK氏の座るテーブルに着くと簡単な挨拶と取材に応じてくれた礼を言う。

   初めまして、一条です。
   今回、私の取材に応じてくださいましてありがとうございます。

私は名刺をK氏に渡す。
実際に見るK氏はどこにでもいるごく普通のサラリーマンで特に変わったところはない。
時折店内に目を配るくらいだ。

   あ、どうも、はじめまして、私はKです。

と名刺を差し出してくる。

私は取材の前置きとして断りをいれる。
 
   今回の取材に関しましてお話の内容のすべての録音、そして誌面に公開してもよろしいでしょうか?

K氏は店内を見回しながら、

   ええ、どうぞ、かまいませんよ。

私はICレコーダーのスイッチをオンにするとそれわテーブルの上において事の発端から聞いてみた。

   Kさんは、所謂集団ストーカーの被害者だということですが、
   そもそも、その発端はなんでしょうか?

K氏は少し考えると、

   私が体験した、いや、現在進行形の被害についての発端は、
   ある団体の機関紙購読拒否から始まったようです・・・。

   現在進行形? と言いますと? 

   ええ、未だに付き纏われ続けていますよ。

苦笑するK氏は時折店内に目を配らせる。

   ふむ・・・、そうですか、で、ある団体の機関紙と言われましたが? それはどのような?

K氏はその団体名を某会と言い、その団体はしつこい団体らしく、
執拗に新聞購読の勧誘をしにきたという。
さらに新聞購読だけでなく組織への入会勧誘も執拗だったらしい。

私はK氏の話に一瞬耳を疑う、某会と言えば人権擁護や世界平和に力を入れた団体であり、
諸外国でもよく知られた団体だからだ。
それだけではない、系列の私立学校もある。
しかも幼稚園から大学までの一貫教育で偏差値も結構高い。

実際にその高校に通う生徒たちを何度も目にしてきているが、
男子生徒はともかくとして、女子生徒あたりはなかなか育ちのよさそうなお嬢様タイプが多い。

   ほう・・・、某会がね・・・。
   ちょっと信じがたいですね。

首を捻る私は、かの団体に対する私なりの印象を話すと途端にK氏は激しく首を振りながら、

   とんでもない! あなたは判っていない、いや、あなただけでない、
   今の人々はあの連中がどのような体質を持っているかを知らない者が多い、
   上辺に誤魔化されてはダメですよ。

私は憤るK氏を静かに見つめる。

   ・・・そうですか、ふぅ〜む。

K氏はさらにこう言う。

   連中についてネットで調べてごらんなさい、未だにその被害情報は山のように出てくる。
   それだけじゃない、諸外国からもカルト指定されていることを知ってますか?

私は驚く。

   は? カルト指定ですって?

私もジャーナリストの端くれ、某会をまったく知らないわけじゃない。
確かに過去に何度か問題を起こしてきたことは判っている。
だが、それはすべて過去の話であり何十年も昔の話だ。
組織の成長過程で起こる『過ち』であり、今ではとっくにそれを乗り越えているもの、
と、私は理解していた。

K氏は続ける。

   まぁ、そんな話はいい、今回の取材とはさしあたって関係ないことですから。

私は話を本筋に戻すべくK氏に問いかける。

   あなたは、かの団体の機関紙購読を拒否したことが原因と言っていますが、
   なぜそう言い切れるのしょう?

するとK氏は、フッと笑うと、
 
   そう考えるしか合理的な説明がつかないからですよ。
   ともかく連中は明確な証拠を残さない巧妙な手口を行使してきますからね。
   それは単に手口と言うよりは、一種のマニュアル化されたひとつのノウハウ、
   あるいはテクニックとも言えます。
   しいて証拠を上げるならば状況証拠を上げるだけです。
   とはいえこの状況証拠は山のようにある。

私はK氏の言う証拠を残さない巧妙な手口、マニュアル化されたテクニックという言葉に興味を覚えた。

   ふむ・・・、証拠を残さない巧妙な手口、マニュアル化された手口・・・、ですか。
 
   ええ、そうです、連中は私にだけ判るようなやり方で攻め立ててくる、
   というか執拗な挑発を加えてくる。

   ふむ・・・、例えば?

   例えば音。
   せき込む声やくしゃみ、笑い声、痰唾をカーッ、ぺッ!と汚らしく聞かせるように吐いてみたり、
   クルマやバイクのエンジン音やクラクションの音響、
   かと思えば窓をピシャリと音を立てて閉めてみたり、カーテンをシャーッと音を立てたりする、
   それから玄関ドアをバターンと大きくな音を立てて閉めてみたり、
   シャッターなどまるで親の仇かのようにガシャーンとものすごい音を立てて閉めたりする、
   それから布団、狂ったようにパンパンと大きくな音を立てる。
   こうした騒音を立てるといった音響による神経戦を私にだけ判るように仕掛ける。

   ははぁ・・・、音響ね、他には?

   そうですね、それから光。
   夜間においてわざとヘッドライトで照らしてみたり、ハザードを点滅させたり、
   火のついたタバコを投げ捨ててみたりする。
   それから窓の光を点灯させたり消したり、といったともかく光を使った神経戦。

   ふぅむ・・・、今度は光ですか。

私はK氏の話が今一つ実感が持てない。
騒音を立てる嫌がらせと言うのは知っている、これはヤクザが使う妨害手口だ。
だが、K氏の言う音響による嫌がらせは、どこか逸脱している、というより何か大げさな印象を受ける。
私は一呼吸置くと、

   音響や光はひとまず置くとして、あなたはマニュアル化された手口と言われましたが、
   そう考える理由はなんでしょう?

K氏は答える。

   それは今いったようなことが、何処へ行っても行われるからですよ。
 
   ほほう、例えば?

   そうですね、例えば引っ越したとします。
   するとその引っ越し先でも同じことが起こる。

   ふむ・・・。

   引っ越しだけじゃない、外出先など、ともかく行くところ行くところで同じようなことが起こる。
   これは同一人物による犯行だけでは説明しきれない。
   なんらかのマニュアル化された手口を不特定多数が行使してくるとしか言いようがないからです。

私は質問を続けるより、一度K氏の体験した出来事を聞いてみようと思い立つ。

   ふむ、なにか組織的なもののようですね。

K氏は我が意を得たりとばかりに、

   そうです、一条さんの仰る通り、まさにそれは組織的と言っても過言ではありません。

   どうでしょう? Kさん、あなたが体験した出来事を一通り話してくれませんか?

   ええ、いいですとも! ついでに私の話の全てを誌面に公開してくれてもけっこうです。

K氏は語り出す。

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