小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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5 X氏との会見

X氏とのアポをとった私は、さっそく取材のためタクシーに乗り込むとS駅へ向かう。
今回については今までの取材と違って、待ち合わせ場所も取材場所もすべてX氏の指定となっている。
特に取材する場所については現地で示される。

S駅に到着した私は改札付近へ向かうが既に多くの待ち人がいるためどれがX氏か判別しにくい。
そこで私はアポをとるときにX氏から示された携帯電話の番号に電話することにした。
こちらが電話すればX氏は携帯電話を取り出す挙動を見せるだろう。
すると案の定、ショルダーバッグから携帯電話を取り出す人物がいる、どうやらX氏だ。
私はX氏に近づくと声をかける。

 あの・・・、失礼ですがXさん、ですか?

私の声に顔を向けたX氏に挨拶する。

 どうも、私はQ出版社の一条です、今回はお忙しい中、取材に応じていただきありがとうございます。

するとX氏も丁重に挨拶してくる。
取材した他の被害者と同様、実際に見るX氏もどこにでもいるごく普通の人だ、変わったところは何もない。
さっそくX氏は取材に応じるため、

 じゃ、どうぞ、私と一緒についてきてください。

と歩き出す。
どこへ行くのかわからない私は向かう場所を尋ねる。

 どちらへ行かれますか?

 この先にあるカラオケハウスです。

カラオケハウス?
変わったところへ行くものだと怪訝にX氏を見る私は、後でその理由を知らされる。

駅前繁華街を少し歩くと大小のさまざまな店舗の合間に立っているカラオケハウスの建物に向かうと中に入っていく。
私とX氏はカウンターで示された部屋に向かう。
部屋に入るとソファに座るX氏はさっそくカラオケハウスを取材場所にした理由を説明する。

 今回、この場所を選んだことを疑問に思われるでしょう?
 ですがここならこの部屋には私と一条さんしかいません。
 だから私たちの会話に聞き耳を立てる『屑ども』はいません。

屑ども?
私は乱暴な言葉を使いだすX氏に以外な思いがする。

 はぁ、そうですか、会話の秘匿性と言う観点からここを選ばれわけですね、なるほど・・・。
 なかなか上手い方法ですが、ところで、その・・・、『屑ども』というのは?

X氏は笑みを浮かべながら説明する。

 『屑ども』とは集団ストーカーの連中のことですよ。
 私にとって連中は『人間の屑』でしかありませんからね。

 はぁ・・・、人間の屑ですか?

 ええ、連中は『人間の屑』です、屑で悪ければ『人非人』、それで悪ければ『犬畜生以下』。

語気を強めてキッパリと言うX氏に戸惑いながらも質問する。

 『人減の屑』はまだしも、『犬畜生以下』というのは、ちょっと・・・。

するとX氏は私を見据えるように言う。

 ちょっともなにもないですよ。
 連中が仕掛ける忌々しい所業の数々を実際に体験されれば誰でもそう思うはずです。

X氏自身も被害体験を持っていることは既に知ってはいる。
だが、正直言ってここまで酷評するとは思ってはいなかった。
私はX氏が集団ストーカーというものにどのような見解を持っているか興味を感じる。

 ふむ・・・、そうですか、それでは、最初にお聞きしたいのですが、
 Xさんにとって集団ストーカーとは何かということを一言に言い表す場合、
 それはどのようなものになるのでしょう?

するとX氏は即答する。

 集団ストーカーを一言で言い表すならば、それは『鬼畜の集団』です。

『鬼畜の集団』!
私は思わず声を出して反復してしまいそうになった。
『鬼畜の集団』とはこれまた凄まじい言い方だ。
これだけの言い方をするからには相当の目に遭ってきたのだろう。
私はX氏の目に集団ストーカーに対する並々ならぬ憎悪の炎を見るような思いがする。

 はぁ・・・、鬼畜の集団ね・・・、正直言って表現がオーバーな気もしますが。

するとX氏はニヤリと笑い反論する。

 いえ、少しもオーバーではありませんよ。
 そう思えるのは一条さんがまだお分かりになっていないからですよ。

そう言われた私はいささか気に障る。

 そうですか、私も実際に十数名の被害者に取材し、大凡のことは分かったつもりです。

するとX氏は笑い出す。

  ハハハハハ、一条さん、あなたが取材した人たちは被害の全てを話しているわけではありません。
  それにあなたが取材した のは十数名にしか過ぎません。 
  別に自慢して言うわけではありませんから誤解しないで欲しいのですが、私は自分の体験も含めて、
  実際に百名以上の被害者と会ってきました。
  その被害は言葉では言い尽くせない酷いものですよ、この被害の全貌を知った時、
  いや、あなたが実際に連中が仕掛ける所業の数々を身を持って体験したとき、
  連中が『鬼畜の集団』だということを嫌と言うほど悟るでしょう。

私はX氏の言葉に反論できない、それは私が知ったことは被害者の体験でしかないからだ。
実際にこの身でその被害を体験したわけではない。

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