小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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周囲の人々の態度変化は次第にK氏に対する『鵜の目鷹の目』、あるいは『蔑視』、
あるいは『反感』や『敵意』のようなものへと変わっていったという。

そして以前なら普通の応対だったものが、どこかつっけんどんになったり、
冷たい態度や、無愛想な態度を見せるようになる。

また、今まで普通に回ってきた回覧板が、なぜか回ってこなくなったり、
回ってきたとしてもどうでもいい内容ばかりで重要な知らせが回らなくなってきた。

さらにK氏が外出あるいは帰宅すると窓をピシャリと閉める音や、カーテンをシャーッと閉める音、
シャッターをガシャーン! と物凄い音を立てて閉めたりする住居が目立ち始める。

当初はさして気にも留めていなかったK氏は、外出や帰宅すると決まってそうしたことが起こる。
どうやら自分への当てつけてらしいことを薄々と感じ始める。
また、休日に洗濯物を干そうとすると決まって近隣の住居が狂ったように布団をバンバンと音を立てながら叩き出す。

K氏はそうした住居の住人らと近所付き合いはない、それどころかどんな人が住んでいるのかさえ知らない。
自分と関係ない人たちが何をしようがどうでもいいと考えたK氏は、そんな住人たちのすることなど気にしないようにした。

それから暫くしたある日の夜半。

仕事から帰宅したK氏は自分の居住する公団のエントランス前の路上に、
見慣れない車両が停車していることに気が付く。
その車両はスモークタイプのワゴンでK氏がエントランスに近づくと、
突如ヘッドライトを点灯させK氏を照らし出す。
K氏が怪訝に車両を見るとその車両は徐に走り去っていく。

こうしてK氏は度々、不審な車両の待ち伏せを受けたり追跡されたりするようになる。
そしてその待ち伏せや追跡は夜間だけではなく出勤途中の駅前ロータリにまで現れたり、
日中に追跡してきたりするようになる。
どうやら、あきらかに『何者』かの追跡であることが判ってくる。


淡々と話すK氏に私はいくつか質問してみた。

  ふぅむ・・・、そうですか。
  これ見よがしに音を立てて窓やカーテンを閉め見たり布団を叩いてみたり、
  故意に回覧板を回さないという話、これは近隣トラブルなんかで時折耳にする話ですね。
  特に集合住宅なんかでそうしたことが起こりやすい。
  甚だしい場合はこうしたことが警察沙汰になったりもする、
  実際、そうした行為で逮捕された人もいる。
  そうした観点から問うのですが、Kさんは近隣とのトラブルの心当たりはありませんか?

K氏は私の質問をキッパリと否定する。

  まったくないですね、第一、私はそういう当てつけめいた行為を繰り返す住民らを知りませんからね。
  名前はおろかどんな人が住んでいるのかさえ知らない。

  そうですか・・・、心当たりはないわけですね。

近隣トラブルではないとすれば、その原因はなんだろうか?
そういう行為をしてくる以上、なにか原因があるはずた。
私は引き続きK氏に問う。

  ところで、今のKさんのお話から、車両による待ち伏せや追跡をされたとありますが、
  それについてもう少し詳しく聞かせてください。

  ええ、いいてずよ。

  その、所謂不審な車両についてですが、スモークタイプのワゴンと言われましたが、
  他の車種はないですか?

  ええ、ありますよ、バンタイプや一般車両、暴走族風の車両やヤクザ風の車両。

  ふむ、で、そうした車両について、他に変わった点はありませんか?

  ええ、あります、こうした不審車両はどういうわけかスモークタイプで、
  なぜかナンバーがゾロ目というのが多い。

  ほほう、ナンバーがゾロ目ね、他には?

  ええ、まだあります、不審車両は走行の仕方に特徴があって、
  例えば背後から追跡してくる場合、惰性走行のように静かに追跡してくる。
  また、発信の際になにかヨタヨタするような走行を示したり、
  右折するのか左折するの迷うような走行を示す。
  これはルームミラーでこちらの挙動を見ながら走行するため、
  このような走行になるものと睨んでいます。
 
  ふふん、なるほど、で、そうした車両のドライバーはどうです?

  そうですね、まず、野球帽のような帽子を目深にかぶって人相を隠していますね。
  また、人相を隠さない場合、ドライバーはどこか柄の悪い男の場合が多い。

  ふむ、他には?

  不審車両は待ち伏せしたり追跡したりするだけではなく、
  私が姿を現すと決まってエンジンを掛けて走り出したり、
  クラクションを鳴らしたりします。
  また、路上なんかではハザードを点滅させて停車し、私の姿を見ると走り去って行ったりもする。

ここでK氏はタバコを取り出し、

  あの・・・、タバコ吸っていいですか?

  あ、ええ、どうぞ、気が付きませんで。

私もタバコを取り出し吸い始める。
K氏はタバコを吸いながら話し出す。

  例えば、このタバコ、これなんかも連中の小道具になるらしく、
  夜間に停車した車の中から火のついたタバコを投げ捨ててこちらに気付かせる。
  なんてこもとありますね。 
  それと、奇妙なことがあるのですが・・・。

  奇妙なこと? といいますと?
 
  ええ、背後から追跡し来る不審車両の走行特性なんですが、
  なぜかパトカーの走行特性に酷似しているというこです。

  ほほう、パトカーと、それはどのような?

  ええ、この話はこれから話すことになるのですが、身辺に異変が生じて以来、
  なぜかパトカーと遭遇する頻度がとても多くなるんです。
  これはパトカーだけじゃなく救急車、さらには消防車、極め付きは警察ヘリですね。

私はK氏の話が俄かに理解できない。
パトカーならまだしも、救急車や消防車に果ては警察ヘリ?
いったいなんの話をしているのだろう?
私は問いかけたる

  ちょっと待ってください、なんですか、その救急車だの消防車だの警察ヘリなどというのは?

K氏はニコリと笑い、

  ああ、そうですね、突然こんな話になってもご理解いただけないでしょうと思いますが、
  身辺に異変が生じて以来、こうしたパトカーや救急車が頻繁に目につくようになるわけです。
  それと警察ヘリも・・・。

  すると、Kさんはそうした警察車両や航空機が付き纏うと?

K氏は一呼吸置くと言葉を選ぶように話す。

  そうですね、そう考えるしかありません。
  実はこうしたパトカーや救急車、警察ヘリの身辺俳諧については、
  多くの集団ストーカー被害者が同様に体験することなんです。
  なぜそうしたことが起こるのか、私にもそれは判らない。
  ひとつの謎ですね。

  偶然かなにかではないでしょうか。

  いや、偶然ではありませんね、特にパトカー、これは明らかにマークしているとしかいいようがない。

  なぜそう言えます?

  それは、私の身辺に頻繁に現るからです、それだけじゃない、
  なんでこんな場所で出っくわすのかといった、どこか不自然な遭遇の仕方が起こる。
  また、これは先ほどの話に戻るのですが、パトカーが背後から静かに追跡し追い抜く、
  実は不審車両がこれとまったく同じ走行を示すということです。
  さらに、電柱や街路樹を利用して身を隠す突然停車する、これもパトカーとそっくりです。
  さらに追跡車両はなぜか走り去ると決まって直近を右折して姿を消す。
  これもパトカーが見せる走行と酷似しています。

ここまでの話を聞いて私は、K氏の話が見えなくなってきた、というよ正直言って理解できない。

近隣が音を立てて窓やカーテンを閉めたり布団を叩いたり、不審な車両が付き纏資うというこまでは判る。
実際に『尾行』を行う業者がいるからだ、例えば『調査会社』、ひらたく言えば『探偵』だ。
警察なんかもその範疇に入れるなら、覆面パトカーにより追跡というものがある。
だとしても、救急車だの消防車、果て警察ヘリにいたっては理解できない。

  ハハハハハ、一条さん、私の話を聞いて首を捻るでしょう?
  ですが、こうした不可解な出来事が身辺に頻繁に起こるようになる。
  なにも救急車だの消防車、果て警察ヘリだけじゃない、タクシーやバスなんかもね、それから霊柩車。
  こうしたことは多くの集団ストーカー被害者が同じような体験をする。

  タクシー、霊柩車?

私は思わず問い返した。

  ええ、タクシーなど、なぜこんなところに現れるのか、という不自然な遭遇が起こります。
  その遭遇は実にタイミングのいい遭遇です、まるでこちらを待ち伏せていたかのようです。
  こうした体験のひとつに、あるとき室内で電話していてバキュームカーの話題になった。
  そしたら次の日、さっそくバキュームカーが現れる、それも実にタイミングのいい現れ方をする。

私はタバコを取り出し一服すると自分の頭を整理する。

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