小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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今までのK氏の話を整理すると、

 (1)近隣や職場の人たちの態度変化が起こる。
 (2)近隣からの騒音
 (3)不審な車両の待ち伏せや追跡
 (4)パトカーや救急車、消防車、警察ヘリの出現にタクシーやバス霊柩車とのタイミングの良い遭遇。
 
(1)から(3)までは判るし十分にあり得る話だ、しかし(4)に至っては理解できない。
  
一体なんの関係があるのか?

  あの・・・、Kさん、正直言ってあなたの話について、理解できない部分がありますね。

するとK氏は笑ながら、

  ハハハハ、それは無理ないことです、こんな話をしたら頭を疑われる、
  というか、それが狙いの一つなんでしょうけどね。

  と言いますと?

  集団ストーカー被害者の訴えることは、どれもこれも荒唐無稽な要素が多い。
  でずか、これは被害者を精神障害に仕立て上げてその被害内容の信ぴょう性を打ち砕くための、
  一種のパフォーマンスのようなものと、考えればいいのです。

パフォーマンスねえ・・・、私はさらに理解できなくなる。

K氏によれば事の発端は某会だ。
某会と言えば日本全国いたるところにその支部や会館を持っている広域団体である。
こうして広域性を勘案すれば、近隣にもその構成員がいることは十分に考えられる。
そして当てつけめいた行為や不審車両もそうした構成員らの腹いせ、すなわち『嫌がらせ』と考えればそれはそれで筋が通るし話としても分かりやすい。

だが、ここに警察車両や航空機、タクシーにバス、挙句の果てには霊柩車にバキュームカーまでが関係してるなどとは到底理解できない。

私はタバコを一服すると窓の外を眺めて考える。
今こここでこんな話を考えていても仕方がない、そんなことよりK氏から話を聞き出すほうが先だ。
そう判断すると私は引き続きK氏に質問する。

  警察車両云々はひとまず置くとして、待ち伏せや追跡は車両だけでしたか?

  いいえ、自転車や徒歩でも追跡してきますね。
  徒歩の場合など、なぜかこちらに追跡していることを判らせるようなやり方をしてきます。

  ふふん、と言いますと?

  ええ、わざとコツコツと靴音を立てながら追跡したり、背後からせき込んでみたり、
  かと思えば汚らしく痰唾吐いてみたり、そんな感じですね。
 
  それで、Kさんは、そんなときどう対処してます。

  そうですね、まず相手にしませんね、無視しします。
 
  それと、一度だけ、後ろから露骨な追跡を仕掛けられたとき、
  一度立ち止まって踵を返して追跡する相手に向かって歩き出したことがあります。

  ほう、どうなりました?

  ええ、相手は内心驚いたようでしたが何食わぬ顔で通り過ぎていましたよ。
  それから、こういうこともあります。
  追跡してくる相手の背後を取り、逆にこちらが追跡してみました。
  そうしたら急いで歩き去りましたよ、連中は自分が追跡されることを嫌うらしい。

と笑いだす。

  それからもうひとつ、こういうこともありました。
  毎朝決まった場所にしゃがみ込んでは、こちらを監視している男がいて、
  そう、年齢は50代くらいでしょうか、メガネをかけた男で、
  一見するだけでもどこか胡散臭さを感じさせる男で、あるときこの男を路上で発見すると、
  私は気が付かれないようにこの男の後を歩いてみました。
  暫く歩いていると、どうやらこちらに気が付いたらしく急に路上にしゃがみ込んでしまう。
  この男は一度も振り向いてはいない、にも関わらずこちらに気が付く。
  私はこのときあることを思い出しました。

  どんなことです。

  ええ、昔、テレビで見たある探偵の話についてですが、
  探偵の使用するメガネのフレームに特殊な細工が施されていて、
  そのフレームから後方が見えるように鏡のようなものが装着されているという話です。
  私はその話を思い出した途端、その男のメガネも同じような細工がなされていると・・・。

私はK氏の話から、後方の追跡者を確認するため路上に停車している車両のホディや窓に映る反射映像や、
店舗のウインドウに映る反射映像、その他あらゆる反射映像を利用して後方を確認するというテクニックがあることを思い出す。

これは主として調査員、つまり『探偵』が身に着けているテクニックのひとつだが、
すると毎朝K氏を監視していたという男は『探偵』か、そのテクニックを身に着けた『なんらかのプロ』ということになる。

そんなことを考えているとK氏が引き続き話し出す。

  で、この徒歩の追跡と言うのが、またしつこい追跡で、
  例えばこちらがコンビニやスーパーにいけば、そこまでつけてくる。

  ははぁ、スーパーまで。

  ええ、ともかくこの連中はしつこく、スーパーに行けば人が何を買うかまで監視してくる。
  それだけじゃない、他のレジが空いているにも関わらず、わざわざ人の真後ろに並びこんでは、
  購入した商品を凝視している。

  ふふん、そうですか。

  こうした追跡はどうやらリレー形式の追跡らしく、あらかじめ行く先々で待ち伏せているらしく、
  こちらが目当ての商品コーナーへ行くと、すでにちゃっかり待っている。
  そしてこちらの購入品を凝視したりする。
  まだありますよ、こうした連中はマーケットの中でも付け回してきて、
  こちらの後ろをついてきては携帯電話でなにやら話したりする。

私はK氏の話にかなり執拗な追跡らしいことが判る。
K氏は続ける。
 
  そうそう、それからマーケットへいくと不思議と『万引き防止の店内アナウンス』が流れる。
  これはマーケットに限らずデパートの書店や規模の大きい書店、それからデパ地下の食料品売り場でも。
  こうしたことがどこのマーケット、デパートに行っても繰り返される。
  また、『万引き防止の店内アナウンス』の他に『業務連絡』がすかさず流れる。
  すると暫くしてから店内に不審な人物が現れこちらを凝視したり、それとなく追跡したりする。
  こうしたアナウンスはなにもデパートだけじゃない。
  電車に乗れば乗ったでなせぜか『テロ警戒アナウンス』が流される。
  どこの駅のどの電車に乗っても、不思議とことらが乗車するとこのアナウンスが流される。

私は思わず大きく息を吐く。

  ふ〜む、不思議な話ですね。

  ええ、まったく。
  でも、それもX氏と会ってからその謎も氷塊しましたがね。

  ほほう、といういと?

  つまり、こういうことです。
  連中は私を『万引き常習者』や『テロリスト』などの『悪い噂』を吹聴しているということですよ、
  行くところ行くところね。

  ふぅ〜ん・・・・。

半信半疑に聞いている私にK氏は言う。

  こうした出来事を説明可能とすることは、ただひとつ。
  集団ストーカー犯罪には警察が関与しているということですよ。

私はK氏の指摘に耳を疑う。
犯罪に警察が関与? バカな!

私は思わず笑い出し、

 フハハハハハ、警察が関与だなんて、まさか、そんな。

するとK氏は冷静な口調で、

 そう思うのは無理ありません、誰もがそう思う、ですが、これは根拠のないことではありません。
 これらの詳しいことをお知りになりたいなら、一条さんも是非一度X氏にお会いすることをお勧めします。 そしてX氏から話を聞いてみることです。
 この世の中にはさまざまな盲点があり、
 この盲点を突いた『知られざる犯罪テクニック』が存在していることに気が付かれるでしょう。

 ふぅむ、『知られざる犯罪テクニック』ね・・・。

 より本質的な表現をとるなら『破壊的なハラスメントテクニック』と言えます。

 『破壊的なハラスメントテクニック』?

怪訝に問い返す私にK氏が説明する。

 ええ、そうです。
 狙った対象、つまりターゲットを精神障害者に追い込むかそれに仕立てる。
 あるいは『犯罪者』に仕立て上げたり『自殺』へと追い込んでいく。
 そして社会的に抹殺していく…。
 これは『嫌がらせ』を超えた『破壊的なハラスメントテクニック』ですよ。
 そしてこれらの活動が『プロフェッショナル』によるものだということです。

 すると、Kさんは・・・。

 ええ、この世の中には『破壊的なハラスメントテクニック』を売り物にする
 『プロフェッショナル』な組織が存在しているということですよ。
 もっとも、その存在を証明することは私にはできないしその正体もわかりません。
 ですが、私が体験した一連の出来事が一般人、つまり市井の素人にできることではないということです。
  
私はK氏の説明から、あることを思い出した。
それはいわゆる『復讐屋』という、カネで報復を代行する連中のことで実在することを知っている。
だが、その詳細は不明だ。
また、『調査会社』、つまり『探偵』には『特殊工作』という通常の調査業務を超えた活動を行うことも知っている、それだけではなく『ヤクザ』も似たようなことを請け負う。

こうして考えていくと、私はK氏の話から『ダークサイド』の臭いを嗅ぎつける。

私はその後もK氏の話を聞き続けた。
その話からK氏が不審者などの追跡だけではなく『室内盗聴・盗撮』『不法侵入』『路上撮影』や、さまざまな『生活妨害』を体験してきたことを知らされた。
そして私はK氏の話の中にたびたび登場するX氏に俄かに関心が高まると、K氏にその所在を教えてもらうことにした。

こうしてK氏との取材を終えた私はX氏とアポを取る前に被害の全体像を掴むため、
もう一人の被害者を取材することにした。

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