小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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私は受付嬢に町田なる人物を問うと、ロビーのソファに座って待っているという。
私はソファーに目を向けるが誰もいない。
受付嬢も誰もいないことが判ると戸惑いながら、

  あ、あの、そこのソファでお待ちになるように告げたのですが・・・、おかしいですね。

首を捻る受付嬢に私はどのような人物だったかその人相風体を問うと、
ダークスーツを着た痩せ形の人物で年齢は30代後半から40代くらいだったという。
どんな人相かを問うと、浅黒い顔でどことなくサルに似た男だったという。

  サル顔の男・・・。

集団ストーカー被害者が目撃する人物に『サル顔の男』がいることを私は思いだすが、しかしそんな男が私の身辺を徘徊するはずもないと考える。
とりあえず私は受付嬢に何か変わったことがあったらすぐに連絡するように告げると編集部へと戻った。

デスクにもどった私はさっそく手紙の続きを読もうと引き出しを開けた瞬間、なにか違和感を感じた。
直感的に誰かが机の中を弄った形跡を感じた私は手紙を取り出し読み始める。

 この間は贈り物をどうもありがとうございましたわたしも独りでくらして古新聞を読んでいると誰かが玄関
 のチャイムを鳴らすので出てると施設の管理人さんが来たのでわたしは買いものに行きリンゴを買うと温泉
 にいこうと友人を誘い映画を観てたら掃除機からお金がでてきので犬を連れて散歩しようと歩いていると
 お菓子を食べました・・・

  なんだこれは?

ミミズがのたくったような字で訳の分からない意味不明な分が延々と続く。
明らかに手紙の中身が入れ替わっている、というより何者かによってすり替えられていることが判る。
思わず私は編集部を見回す。

みな電話の応対やら打合せやらで忙しなく動き回っている。
私は編集部の全員を見回すが、どう考えても人の机のかを弄り回して手紙をすり替えるような者がいるとは思えない。
すると私の頭に『ガスライティング』という言葉が浮かんでくる。

  ははぁ、これが噂に聞く『ガスライティング』か・・・。

私は編集部を見回しながら、この中にガスライティングを仕掛けた集団ストーカー工作員が潜入してきたことを感じ取る。
どうやら私も集団ストーカーのターゲットになったらしい。
そんなことを考えていると後ろからポンと肩を叩かれる。
振り向くと同僚のM子が話しかけてくる。

  どうしたの? さっきからキョロキョロして?

私は咄嗟に、

  あ? いや、別に・・・。

私は急いで手紙を仕舞い込むと、それを目ざとく目にしたM子はニコリと笑うと、

  なぁにそれ? あ、わかった、彼女からのラブレターね?

私は笑いながら否定する。

  ラブレター? ハハハハハ、いや、そうじゃないよ、読者からの投稿だよ。

  ふぅ〜ん・・・。

私は疑わしい目を向けてくるM子に問いかけてみる。

  ところで、編集室に誰か入ってこなかったかい?

するとM子は思いだしたように、

  そうねぇ・・・、あ、さっきビル管理関係の人が入って来たわね。

  ビル管理?

  うん、電気配線の確認とかで、この部屋を見ていったわ。

  電気配線の確認?

  そう、みんなの机の下を調べていったわよ。

  みんなの机の下だって?

  うん、一条さんの机の下も調べていたわ。

私は思わず問いかける。

  それはいつだい?

  うん? 一条さんが席を外した後、直ぐに来たわ。

  そ、そうか、で、どんな奴だった?

  うぅ〜ん・・・、ヘルメットを目深に被っていたから顔はよく見えなかったけど・・・。

私はそこまで聞くと、

  わかった、ありがとう!

M子に礼を言うと、さっそ私は電話で受付を呼び出し出版社のビル管理室の番号を問い合わせる。
番号を聞いた私はさっそくビル管理室に問いあわせた。
すると驚いたことに配線確認など実施していないという。
私は再度問い合わせたが、管理室の責任者は同じことを繰り返すだけだった。
とすると、M子が見たという人物は・・・。

私は咄嗟に悟った。

  ビル管理関係者を装った集団ストーカー工作員だ!

とうとう私の身辺にも湧き出してきたようだ。
手紙をすり替えたのはビル管理関係者を装った工作員に違いない。

幸か不幸か私は集団ストーカーに関する多くの情報から連中の手口を既に知っているためかさしたる驚きはないものの、
自分がターゲットにされたことには、正直言っていささか驚かされた。
私は深呼吸して気持ちを落ち着かせると、

  フッ、集団ストーカーか、とうとう私をターゲットにしたか、面白い、上等だ、くるならきやがれ、
  音声・映像を山のように収集してやる・・・。

呟く私はM子を呼び寄せると、すり替えられた意味不明な手紙のコピーを取らせた。
怪訝な顔のM子は中身を見たのか、首を傾げながら、

  これ、なんですか?

問いかけるM子に私はニタリと笑うと、

 それかい? 読者の投稿、いや、私への挑戦状さ。

M子は怪訝な顔で、

 挑戦状?

問いかけながら手紙のコピーをデスクに置くと、自分のデスクへと戻っていく。
そしてその時から、私の身辺に不審な出来事が起こり始めていく・・・。

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