小説『鬼畜の宴』
作者:ウィンダム()

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私の住む賃貸マンションの自治会は一階の居室を共用化させた場所にあり、そこを○○シティ××通りマンション自治会事務室の看板を掲げて運営されている。

滅多に近づくことのないマンション自治会事務所、私はそこへ足を運ぶと事務室に灯がついている。
どうや自治会役員がなにやら事務作業をしているらしい。
さっそく私は事務室に入ると、駐車場の一件を切り出してみた。

  あのぅ・・・、すいません、私はこのマンションの○○○号室に居住する一条と申しますが・・・。

私の声に反応したのか、デスクで事務作業していた60代くらいの初老の男が顔をあげながら返事する。
菊池という名前の役員で民政員も兼ねている。

  はぁ、なんでしょうか?
 
  あのぅ・・・、ちょっとお伺いしたいことがありまして・・・。

  はぁ、どういったことで?

  いやぁ、実は、駐車場の件で、ちょっと・・・。

  はぁ、駐車場? どのような?

私は駐車場に出入りする不審車両に関する話を撮影した写真を提示しながら切り出した。
一通りの話を聞いた自治会役員は苦笑するように答えた。

  ふぅむ・・・、なるほど、で、それが何か?

私は肩透かしを食らったかのように唖然とする、それが何か? なんだこの言い草は?
私は憤りを抑え落ち着いた口調で問い返す。

  いやぁ、マンション規約に照らし合わせてみて、どうも納得がいかないもので。

菊池は笑いながら、

  ハハハ、そうですか、確かにご指摘通り、ですが、それがあなたの生活とどのような関係がありますかね?
 
  は? どういうことですか?

  わかりませんかね、つまりあなたがそれでどのような不利益を被っているか、ということですよ。

  いや、別に、そういったことは・・・。

  ならいいじゃないですか、その程度のこと。

  その程度のことって、ちょっと待ってくださいよ、確かに実害があるわけではありませんが、
  しかし、どう考えても不審な車両が出入りするというのは、居住者としてキモチ悪いんですよね。

  気持ち悪い? ほほう、なら引っ越されたらどうです?

私は思わずムッとする。

  ちょっと待ってくださいよ、なんですか、そんな言い方はないでしょう、自治会の役員がそんなものの言い方でいいんですか?
  自治会の規約にだって駐車場利用についての取り決めがきちんと明記されているじゃないですか!

憤る私の言葉に、菊池さんは笑いながら分かった分かったというゼスチャーを示しながら、

  ああ、はいはい、分かりりました分かりました、そうそう、一条さんのご指摘は全くその通り、御最も、ですがね。

  ですが? ですがなんですか!

憮然とする私に菊池は笑みを浮かべながら話す。

  ご存じのとおり、ここは賃貸ですよ、分譲マンションを買ったわけじゃない、私たちは市から借りているだけですからね、
  そんなこと気にしたって仕様がないですよ、それに、その程度のことはどこでもやってることですよ。

私は菊池さんの『市から借りている』と言う言葉に引っ掛る。

  市から借りている? ちょっとまってください、ここは公団の賃貸マンションですよ、公団から借りているんでしょ?

すると菊池さんは笑いながら答える。

  おや? 御存じないようですね、この賃貸マンションは確かに公団ですが、
  居室の過半数は市が公団から一括して借り受けているんですよ。
  その借り受けた各居室を格安の家賃で市民に貸しているんです。

私は驚いた、初めて聞く話だ。

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