小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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萌将伝編4話〜呉への訪問、美周嬢の夢〜















「もうすぐだな」

俺は現在成都を離れ、呉領の建業へと向かっている。それは俺宛に届いた1通の手紙が理由だ。

『孫呉の王を継いだ蓮華様に、王としての指導を昴にお願いしたい』

という、冥琳からの手紙だった。雪蓮は五胡との同盟が締結してしばらく経ってから王位を蓮華に譲った。現在では蓮華が呉王として国を引っ張っている。俺はその要請を受ける事にし、手紙が届いた2日後、護衛の将兵を連れて建業へと出発した。

「ん?」

前方から砂塵が見えてきた。

「ふむ、孫の旗。どうやら孫呉の出迎えのようですな」

「みたいだな」

星が前方の砂塵から見える旗を見て俺に告げた。

「率いている将は・・・、楓と亜莎か」

徐々に近づいてくる隊から楓と亜莎の姿が見えた。やがて楓と亜莎の小隊は俺達の所へやってきた。

「旦那! 久しぶりだな!」

「3周年の酒宴以来だな、楓」

「昴様! お久しぶりです!」

「亜莎も、久しぶりだな」

3年前とは少し変わった2人の姿があった。2人供大人っぽくなっており、楓はボーイッシュな感じだったのが、現在では女性の魅力が滲み出ていた。

一方亜莎は何と言うか、軍師の風格が出ており、まるで冥琳のような存在感が醸し出していた。

「蓮華の大将が城で待ってる。話はそこでゆっくりしようぜ」

「分かった、そうしよう」

「ではこれより私達が護衛致します」

「頼む」

俺達は楓と亜莎の先導で建業へと向かった。






















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


建業へ到着し、街へと入ると、民や商人達の声で賑わっていた。

「活気に溢れていて良い街だ」

「当然だろ! 蓮華の大将がこの国を立派に治めているんだからな!」

「それもそうだな」

「後は、昴様がこの国を去られる前に残していただいた政策によるものも大きいです」

と、亜莎が捕捉した。

「役に立ったんなら何よりだ」

「さすが昴様です! 私では到底思い付かない政策です!」

「正確には俺が思い付いた訳じゃないんだけどな・・」

別の外史で行われていたものをこの国の文化や風習に合わせたものに過ぎない。本当に凄いのはそれを思い付いた人間だと俺は思う。

2人と話をしながら歩いていると・・。

「やっほ〜、昴〜♪」

前方から桃色の長髪を靡かせた女性が駆け寄ってきた。

あれは雪蓮? ・・じゃないな、あの娘は・・。

「久しぶり、シャオ」

シャオが俺に駆け寄り、俺に抱きついた。シャオもしばらく会わない内に急成長していた。背丈は蓮華に近いくらいにまで伸び、孫家の血によるものか、胸も順調に成長しており、シャオの心配は杞憂に終わったみたいだ。冥琳に言わせると・・。

『小蓮様はここ数年で心身共に立派に成長し、雪蓮のような風格を得るまでに成長した』

だそうだ。武勇は今では蓮華を凌ぎ、楓でも手を焼く程らしい。

「元気そうだな、シャオ」

「私はいつでも元気だよ♪ ねえ昴、これからシャオと街を回ろうよ♪」

と、シャオが俺の腕を抱いた。急成長した胸がフニュン・・と腕に当たる。

「まず蓮華に会わなきゃならないからな。・・それより、シャオは今日休みなのか?」

「今日のシャオは休みだよ♪」

俺は亜莎の方をチラリと見る。亜莎はそっと首を横に振った。

「仕事サボったな、シャオ」

「えへへ〜」

そういえば冥琳はこうも言ってたな。

『似なくていい所まで雪蓮に似てしまった』

と、溜め息を付きながら話していたな。

「また今度な。今は蓮華に挨拶に行ってくるよ」

「ブーブー! 絶対だからね!」

シャオは口を尖らせながら俺から腕を離した。

「では昴様、行きましょう」

亜莎が再び先導する。

「それじゃ、まったね〜♪」

「お嬢も一緒に戻りますよ」

せっせと去ろうとするシャオの襟を楓が掴んだ。

「ちょっとー! 離しなさいよ楓! シャオはこれから買い物するんだから!」

「駄目に決まってんでしょ。政務ほったらかして、ほら、戻りますよ」

「はーなーしーてー!」

シャオも楓に引き摺られながら一緒に城に向かった。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


城に案内され、俺と護衛で来た星は玉座の間に向かった。そこには現呉王の蓮華を始め、ほとんどの将が揃っていた。

「昴! 成都からはるばる良く来てくれたわ。呉を代表して礼を言うわ」

「何、向こうでは何分退屈だったからちょうど良かったよ」

俺は頭を下げる蓮華を手で制した。

「だがしかし俺で良かったのか? 俺は乱世で国を治めた事はあっても治世で国を治めた経験は無いんだぜ? 正直指導なんて出来るどうかは分からないぜ?」

「戦時中の昴の評価は蜀の皆からのお墨付きだ。政と軍事を的確にこなし。かつ将兵から民まで絶大なる信頼を得て、さらに蜀の国を奇抜な発想と政策で豊かな国に繁栄させた昴の手腕を是非学び、呉国の繁栄の為に生かしたい」

随分と過大評価だな・・。

「俺にその役目が務まるかは分からないが、やれる事はさせてもらうよ」

「感謝する、昴!」

「・・そういや1つ気になったんだが、雪蓮はどうしたんだ?姿を見かけないが・・」

「「「「・・・」」」」

呉の皆が沈黙する。

ん? 聞いたらまずかったかのか?

「説明するより、これを読んでもらった方が早いな」

蓮華の横にいた冥琳が厳なりとした顔を浮かべながら1通の手紙を差し出した。

「えーっと・・」

内容は・・。

『やっほ〜、冥琳♪ 建業に恋が立ち寄っていたから私は恋と一緒に旅に出るわ。後の事は愛しの冥琳に任せるわ。それじゃ、まったね〜♪ 雪蓮』

「・・なるほど」

痛いほど理解したわ。

「全く、あの馬鹿娘は王位を蓮華様に譲った途端にこれだ・・」

「はぁ、雪蓮姉様には困ったものだわ」

蓮華と冥琳は深い溜め息を付きながら呟いた。

「ホント、姉様には困ったものね」

「お前が言うな、小蓮!」

「てへ♪」

蓮華がシャオに怒り、シャオは舌を出して誤魔化した。

「まぁ、一応傍には恋が居るようだし、呉全土に雪蓮を見つけたら羽交い締めにしてでも拘束して連れ帰るようにお達しを出しておいたからすぐに戻ってくるだろう。はぁ・・、何故こんな事を・・」

苦労してるな、冥琳。

「ま、とにかく、これからしばらくお世話になる。皆よろしくな?」

「そう畏まらなくて良い。昴は大事なお客様なのだからな」

「そうですよ〜。昴さんは孫家の一員みたいなものなんですから〜」

「うむ、ゆっくりしていくが良い」

「よろしくお願いします、昴様!」

穏、祭、明命が歓迎の言葉に俺は嬉しさが込み上げてきた。

「ありがとう。とにかくよろしく頼むよ」

俺の呉での生活が始まった。






















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


あれから数日・・。

指導すると言っても教えられる事はあまりない。正直、王と言うのは言葉で教えられるものではないからな。俺は結局、蓮華の仕事を手伝いながら、王の心構えみたいなものを教えた。ま、あくまでも俺流の、だけどな。蓮華は俺の言葉を目をキラキラさせながら心に刻んでいた。参考になったなら何よりだ。それ以外では他の将の手伝い等をした。まぁこの辺は蜀と一緒でほとんど遠慮されだが、無理にとお願いしてやらせてもらった。ストレス解消に呉の親衛隊の連中を灰になるまで組み手をしたのは内緒だ。

そんな事をしながら数日が経ち、今日は朝からシャオに叩き起こされ、買い物や遠乗り等を夜まで付き合わされた(シャオはその後蓮華にこっぴどく叱られた)。深夜、何気無く城を歩いていると、とある一室の扉の隙間から薄光が漏れていた。部屋を覗くと、冥琳が書簡の整理をしていた。

「相変わらずだな・・」

治世になってもやる事は多い。軍事行動が無くなった代わりに戦時中に後回しにされたものをしなければならないし、新しい政策を打ち立てればそれの対応に追われる。穏や成長した亜莎が居るとは言っても冥琳の仕事量は相変わらずのようだ。

「仕方ないな・・」

俺は一度冥琳の部屋の前から離れ、俺の部屋からある物を取りに向かった。


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


今一度冥琳の部屋に戻ると・・。

「ふぅ、こんな所か・・」

冥琳は筆を置いた。

ちょうど良いタイミングだ。

「お疲れ様、冥琳」

「ん? 昴か?」

「扉の隙間から光が見えてな。今大丈夫か?」

「ああ、構わないぞ」

冥琳から許可が降りたので俺は部屋に入った。

「相変わらずこんな遅くまで政務か?」

「今日の内に片付けなければならない案件があってな。・・それより昴こそどうした? こんな夜更けに・・」

「何、これを一緒にどうかと思ってな」

俺は冥琳に持っていた酒瓶を見せた。

「たまにはどうだ?」

冥琳は少し考え・・。

「そうだな。戴こうか」

「そうこなくちゃな」

俺は酒瓶の蓋をを空け、持っていた器を卓に2つ置き、酒を注いだ。

「蜀の国特産の酒だ。味は保証するよ」

冥琳は器を取り、クイッと一口酒を口にした。

「なるほど、言うほどの事はあるな」

「お気に召してなりよりだ」

俺も酒を一口飲んだ。

「・・・」

「・・・」

しばらく俺と冥琳は無言で酒を飲み続けた。

「で?」

「ん?」

冥琳は持っていた器を卓に置き。

「何故こんな夜更けに私を酒に誘ったのだ?」

「・・冥琳と酒を酌み交わしながら話しでもとしたい気分だったんだよ」

俺は空になった冥琳の器に酒を注いだ。

「ふふっ、なるほど」

冥琳は器を取り、グイッと酒を飲み干した。

俺は自身の器に酒を注ぎ・・。

「・・あまり無理はするなよ」

「やはりそれか。心配するな、限度は弁えているよ」

「なら良いがな・・」

俺は酒を飲み干した。




















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


しばらく飲み続けていると、徐々に冥琳に酒が回ってきたようだ。

「まったく〜、ヒック、雪蓮はいつもいつも〜・・んぐっ、んぐっ・・」

「苦労したんだな」

「苦労なんて言葉で片付けるな〜! ヒック・・、私がどれだけ雪蓮に〜・・!」

迷惑掛けてばっかだったんだな、雪蓮の奴・・、でも・・。

「でも、大好きなんだろ、雪蓮の事」

俺がそう言うと、冥琳はフッと笑顔を浮かべ・・。

「ああ。雪蓮は私の幼き頃からの友だからな」

なんだかんだで、憎みきれないんだな・・。

「・・だが! それとこれとは話しは別だ! あの馬鹿娘はいつも政務から逃げ出して酒ばかり飲んで! 私がどれだけ苦労したと・・!」

いや、結構憎んでいるようだ。雪蓮・・、もうちょい友を気遣ってやろうぜ。

「あの馬鹿娘〜・・」

バンっと、冥琳が卓を叩き、椅子から立ち上がった。だが酒が回った状態で急に立ち上がったものだから冥琳は足に力が入らず、その場でバランスを崩した。

「危ない!」

俺は慌てて冥琳を抱き止めた。

トン・・。

「あっ・・」

慌てて抱き止めた為、冥琳が俺の胸に顔をうずめる形になった。

「大丈夫か?」

反応が無いため、冥琳に問いかけてみた。すると冥琳が俺の背に手を回した。

「・・お前には感謝している」

「どうした突然?」

「お前のおかげで私は雪蓮と交わした夢を実現する事が出来た」

「雪蓮と冥琳の夢?」

「ああ。雪蓮の母君である文台様が亡くなられた時に交わした2人の夢」

「孫家の復興と繁栄か・・」

「ああ。お前のおかげで、夢を叶える事が出来た」

「俺のおかげではないだろ。雪蓮と冥琳と、呉の皆が頑張ったからだろ?」

冥琳は俺の胸に顔をうずめながら顔を横に振り・・。

「お前が命を懸けて私の運命を変えてくれたおかげで私は雪蓮と共に夢を叶え、共有する事が出来た。ありがとう、昴」

「当然の事をしたまでだよ」

俺は冥琳の頭を撫でた。

「あっ//」

「すまない、嫌だったか?」

「・・いや、たまには悪くない」

「そうか・・」

俺はそのまま冥琳の頭を撫で続けた。

「・・・」

しばらくすると、冥琳が顔を上げ、両手で俺の頬に触れた。

「冥琳?」

冥琳が目を潤ませながら俺の目を見つめる。

「昴、私にはもう1つの夢がある」

「もう1つの夢?」

「ああ。あの時、お前が私を救い、お前が目を覚ました時に出来たもう1つの夢だ」

そう言うと、冥琳が俺の顔に自身の顔を徐々に近づけていく。少しずつ俺との距離が縮まり、そして・・。

「ん・・」

2人の距離が0になった。

10秒程口づけをすると冥琳は顔を離した。

「昴、私の夢を叶えてくれないか? 私の・・、女としての夢・・。私はお前の子を産みたい」

「冥琳・・」

俺は1度大きく瞬きをし・・。

「良いのか俺で・・。それに雪蓮の事も・・」

「お前でなくては駄目なんだ。・・雪蓮の事は・・、これは雪蓮と約束した事だが、互いに遠慮しないと誓ったんだ。私と雪蓮、どちらが先にお前と結ばれても、恨みっこ無しと」

「そうだったのか」

「どのみち、せっせと旅に出た雪蓮に遠慮などないがな」

冥琳はフッと笑顔を浮かべた。

「昴・・、私の夢を叶えてくれ」

「・・良いんだな?」

「ああ」

冥琳は深く頷いた。

「・・分かった」

俺は冥琳を抱きしめ、今度は俺から口付けをした・・。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


月明かりが照らす部屋。俺と冥琳は産まれたままの姿で寝台にて抱き合っている。

「ん・・」

俺はそっと冥琳の髪を撫でる。

「今私はとても幸せだ。とても心地よく、とても満たされている気分だ」

「俺もだよ」

冥琳は起き上がり、俺に覆い被さると・・。

「ありがとう、私を救ってくれて・・。ありがとう、私と出会ってくれて・・」

そう呟き、もう一度俺に口づけをした・・。












続く

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