小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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萌将伝編第5話〜母親の想い、秘めていた想い〜















建業に来てから1ヶ月。現在俺は建業を離れ、1人旅をしている。目的は、俺の旧友に会うためだ。1人で行った理由は、その旧友に会うのにぞろぞろと兵を連れていきたくはなかったからだ。建業を出て2日後、旧友の居る街に着いた。

「この辺りのはずだが・・」

俺は旧友を探す為に聞き込みをしながら街を歩いていく。

「ここか・・」

着いたのは小さな広場のある一軒家。広場では小さな子供達が元気に駆け回っている。俺が広場に入ると遊んでいた子供達が俺に寄ってきた。

「おにいちゃんだあれ? おかあさんのおともだち?」

俺は屈んでその子供に目線を合わせ・・。

「ああ、そうだよ。悪いんだけど、――を呼んできてもらえないか?」

「うん! 分かった!」

その子供はトテトテと駆けながら家へと向かっていった。5分程待っていると、さっきの子供に手を引かれて艶やかで落ち着きのあるチャイナドレスを纏ったその旧友が家から出てきた。

「むっ? お友達という言うから誰かと思えば、お前だったのか」

「久しぶりだな―――」

















「―――思春」



















俺が会いにきた旧友とは思春の事だ。

思春は五胡との同盟が締結したすぐ後に将軍職を退いた。雪蓮や蓮華はもちろん、皆が引き留めようとしたが、思春は・・。

『五胡との同盟が成り、本当の意味で乱世が終結した今、私のような武官はもはや必要ない。これから必要なのは政を司る文官と国の未来を担う子供達だ。私は戦によって親を失った子供達を引き取り、育てていきたいと思う。だから私は将軍の座を退く』

と言った。思春の決意が固い事を知った皆は快くそれを承諾し、思春を送り出した。思春は建業から少し離れたこの街に私財をはたいて家を建て、戦乱で親を失った子供達を引き取り、そして今に至る。思春以外にも、将軍職を離れた者はいる。蜀では同時期に恋が成都をフラッと去り、旅に出た。ねねはそれに付いていった。魏では沙和と流琉、霞が一時的に離れていた(霞は五胡で再会後、魏に戻り、復帰した)。沙和は衣服関係の店を開き、現在沙和の店は、阿蘇阿蘇に特集が組まれるぐらいに有名な店らしい。流琉は許昌で料理の店を開き、大繁盛しているみたいだ。呉では今挙げた思春。雪蓮は王位を蓮華に譲った(現在蓮華の護衛は楓が務めている)。

まあこんな感じだ。

俺は思春が『せっかく来たのだからゆっくりしていけ』と言われたので家の広場が見える縁側に腰掛けた。俺は思春が急須で入れてくれたお茶を飲みながら子供達を眺めていた。

「お前が戻って来たことは蓮華様から文で聞いていた。和平の3周年の酒宴の事も知っていたが、子供達を連れて行く訳にも置いていく訳にもいかなくてな」

「ま、それは仕方ないさ。建業に所用があってな。せっかく建業に来たからこうして会いにきたって訳だ」

「たいしたもてなしも出来んがな」

「気にするな、俺が勝手に来たんだからな」

「そうか」

俺は再び子供達に視線を移す。すると子供の1人が思春に大きく手を振った。その子供にたいして思春は慈愛に満ちた笑顔を浮かべてそっと手を振り返した。

「良い顔するようになったな」

「子供達の元気な姿と笑顔を見るとつい綻んでしまう」

「確かにな」

ホント、思春は変わったな。以前雪蓮の元で客将をしていた時の思春は無愛想で、仏頂面ばかりだったが、今ではとても自然な笑顔を浮かべている。まるで優しい母親のように。思春は子供達に文字や学問、武術等も教えているらしい。子供達が士官を望めばそれ相応に鍛えるつもりみたいだ。

「今日はこれからどうする? 宿は決まっているのか?」

「まだ決まってないよ」

「ならばここに泊まっていけ。離れが客間になっているからそこで寝泊まりすると良い」

「恩に着るよ」

俺が礼を言うと、思春は立ち上がり・・。

「ならば今晩はせめてものもてなしとして私が料理を振る舞おう」

「へぇー、思春料理出来んだ?」

「祭殿や流琉に習ったからな。子供達の評判も悪くないのだぞ?」

「それは楽しみだ」

「ふむ、それでは準備をしよう。しかし食材の買い出しに子供達に行かせたのだが遅いな。寄り道でもしているのか?」

思春が心配していると、広場の入り口から子供が帰ってきた。

「帰ってきた・・ん? 何か様子が変だな」

買い出しに行ったにもかかわらず手ぶらだ。何やら泣いているようにも見える。思春がその子供に駆け寄ると・・。

「ヒック・・ヒック、弥智留がぁ、弥智留がぁ・・」

「弥智留がいったいどうした? 何があった!?」

思春が語気を荒げる。泣いている子供が1枚の手紙の様な物を出した。

「これは? ・・・・・っ!?」

思春が手紙を読むと何やら動揺した。俺は思春の背後からその手紙を覗くと・・。

『子供は預かった。無事に返して欲しければ甘寧、貴様1人で街外れの森の庵まで来い。 蘇飛』

「蘇飛・・!」

思春は手紙を読むと怒りの形相を浮かべてその手紙をグシャっと握りつぶした。

「蘇飛・・知っているのか?」

「・・ああ。私が昔、錦帆賊という川賊をしていて、劉表の配下、黄祖に与していたのは知っているな?」

「ああ。確か黄祖に帰郷を妨げられてやむ無く与していたんだよな?」

以前に祭さんから聞いた事がある。

「正確には帰郷を妨げたのは黄祖ではなく、蘇飛だ」

「・・・」

「奴は別行動をしていた仲間と副官を人質に取って、仲間を無事返して欲しければ当時水軍を率いていた楓の父、凌操殿の軍を殲滅し、凌操殿を討てと脅迫した。だからやむ無く私は・・!」

「・・そうだったのか」

「だが奴は約束を守る気は初めからなかった。恐らく最初から凌操殿の水軍を足止めする為の捨て駒として利用しただけなのだろう。結局仲間は全て奴に・・!」

思春はギリッと歯を噛んだ。

「だから私はその後の劉表本隊との戦で蘇飛を殺した・・はずだった」

「だが生きていたという訳か」

そしてその復讐、いや、逆恨みをしようとしている訳か。

「くっ、こうしてはいられない!」

思春は家に戻り、鈴音を手に取ると、外へ駆け出そうした。

「待て! どうするつもりだ!?」

俺は思春の手を掴み、止めた。

「離せ! 弥智留を・・あの子を助けなければ・・!」

「落ち着け! 敵の狙いがお前ならすぐには手を出さない。人質は無事でなければ意味がないんだ。少なくとも対応策を考えてからでも遅くはない!」

俺がそう言うと、思春は俺の手を振り切り・・。

「そんな保証が何処にある!」

思春は額に手をやり・・。

「あの子は私にとって大切な・・、かけがえのない家族、子供なんだ! 私のせいであの子に何かあったら・・っ!」

思春はそのまま走り出した。

「思春! ・・ちっ!」

昔の思春ならこんな迂濶な事はしなかったはずだ。相手が元将ならまず間違いないなく罠が用意されている。敵の罠に無策で飛び込むのが如何に危険か、思春なら分かるはずだ。それに、要求通りにした所で人質を解放する保証ない。

「くそっ!」

俺が思春を追いかけようと一歩踏み出した所で子供達の姿が目に入った。

「「「「・・・」」」」

子供達を残していく訳にもいかないか・・。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


思春side

「ハァ、ハァ、ハァ・・」

私はとにかく走った。弥智留を・・、大切な我が子を助ける為に・・。

「ハァ、ハァ、ハァ・・くっ! ・・ここか・・」

蘇飛が指定した場所はここだ。

「約束通り1人で来た! 出てこい!」

私が叫ぶと庵から男が3人出てきた。その内の1人は・・、奴だ・・。

「久しぶりじゃねぇか、甘寧〜」

「貴様!」

「おっと、それ以上動くなよ〜、動いたらこのガキの命は無いからな〜」

「・・ちっ!」

「いやいや驚いたぜ〜、たまたまこの街に来たらお前がこんなガキ共に囲まれて立派に母親してんだからな〜」

「うぅ・・」

そう言って奴は弥智留の髪を力を込めて引っ張った。

「止めろ! その子に手を出すな!」

「動くなって言っただろ〜。しかし信じられないな〜。こんなガキの為にお前がノコノコ1人で来るなんてよ〜。てめえずいぶん丸くなったな〜」

「約束通りここに来た。その子を離せ。用があるのは私だろう?」

「そういう訳にもいかないな〜。いくら丸くなっと言ってもお前は大陸に名を馳せた鈴の甘寧だからな〜。俺達じゃあっという間に殺られちまう」

「・・何故だ。何故こんな事を・・」

「何故・・だと!? 気に入らねぇんだよ! たかがクソ川賊上がりのてめえが今や鈴の甘寧とか何とか崇められて、こっちは今や賊だ! 挙げ句にてめえのせいでこの有り様だ!」

「・・・」

奴の右腕が無い。あれは劉表本隊との戦のおり、私が斬り取ったものだ。

「何とか命は拾ったがよ〜、右腕だけは治んなかったんだよ〜。毎日毎日、毎日毎日毎日! 無くなった右腕が疼くんだよ〜。この腕のせいでろくに仕官も出来ねぇ〜。全部てめえのせいだ!」

「・・その子を離せ。その子は関係ないだろ」

「やだね。てめえは俺の右腕を奪ったんだ。俺はてめえの全てを奪ってやる。・・武器を捨てろ」

「・・・」

「捨てろって言ってんだよ!」

蘇飛が弥智留に剣先を突き付けた。

「くっ・・」

カシャン!!!

やむ無く私は鈴音を捨てた。

「おい、ガキ見張ってろ。奴が妙な動きをしたら構わねぇ、腕の1本でも斬り落とせ」

蘇飛が私に歩み寄る。

「てめえを穢し尽くしてやるよ〜」

蘇飛が下卑た笑顔を浮かべながら私に歩み寄ってくる。

「くっ!」

鈴音が無い上に弥智留までの距離が遠すぎる。

ザッ・・。

また1歩奴が私に近づく。

こんな奴に・・、こんな奴に私は穢されてしまうのか・・。

ザッ・・。

私のせいで弥智留が・・。

ザッ・・。

奴と私の距離がほんの僅かになったその時・・。

ヒュン!!!

私の耳に甲高い音が鳴り響いた。それと同時に・・。

「ぐはっ!」

弥智留を見張っていた男の胸から鮮血が溢れた。

「何だ・・、てめえ、何しやがった!」

蘇飛が動揺する。

ヒュン!!!

またさらに甲高い音が鳴り響く。

「がふっ!」

それと同時に弥智留を見張っていたもう1人の男が頭から血が飛び出し、絶命した。

「何がどうなってんだよ!?」

蘇飛が怯え始めた。

人質を見張る者は居なくなった、今だ!

私は先ほど放った鈴音を拾い、蘇飛に飛び掛かった。

「しまっ・・!」

「覚悟ぉ!」

ブシュ!!!

「がはぁ!」

蘇飛の胸を斬りつけた。蘇飛が崩れおちるように倒れた。

「弥智留!」

「おかあさん〜!」

私は弥智留を抱きしめた。

「すまなかった、弥智留」

私は力一杯弥智留を抱きしめた。

「危なかったな」

「やはりお前だったか、昴」

そこには長剣を肩に掛けた昴が居た。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

俺はあの後すぐに思春を追いかけた。街の近くの森に着くと、気配を消しながら思春を追いかけた。とある一軒の庵の前に思春が居た。俺は大木の枝の上から様子を伺う。

「あれじゃ思春は身動き出来ないな」

男2人が離れた場所で子供を人質に取っている。いくら思春でもあの距離は詰められない。かといって俺も気取らず近づくのは無理だ。

隻腕の男が思春に近付いていく。

まずいな、このままじゃ思春が・・。近づく事が出来ないなら。

俺は村雨を抜き、切っ先を子供を人質に取っている男に向け、村雨に氣を込める。

氣功弾・・。

氣を込めてそれを相手に撃ち込む技だ。通常、氣を飛ばすと、遠くに行けば行くほど氣は霧散してしまう。俺や凪が使う氣功多連弾の射程はせいぜい5メートル程度。ここから人質を取っている男までの距離は200メートル。氣を遠くに飛ばすには大質量の氣を村雨に込め、それを剣先に圧縮しながら集中させる。後はそれを目標に向かって、撃ち抜くだけだ!

ドォン!!!

放たれた氣は霧散せずに飛んでいき、人質を取っている男の胸を撃ち抜いた。

「あと1人・・」

俺は今一度村雨に氣を大量に込め・・。

ドォン!!!

残りの1人を撃ち抜いた。それに呼応して思春が地面に落ちていた鈴音を拾い、隻腕の男の胸を斬り裂いた。

「ふぅ」

何とか仕留めたか。

俺は枝から降り、思春の元へ向かった。

「危なかったな」

「やはりお前だったか、昴」

「まったく、気持ちは分かるが、迂濶に行けばこうなる事は目に見えていただろう」

「・・すまん」

思春は申し訳なさそうに謝った。

「でも、そんな思春、俺は好きだぜ」

「っ//」

「おかあさん、お顔真っ赤〜」

「う、うるさいぞ、弥智留!」

弥智留と呼んだ子供の頭を叩く。

「あ〜あ、しくじっちまったか」

「っ!? ・・蘇飛、貴様まだ生きていたのか・・」

隻腕の男、蘇飛が倒れたまま喋り出した。

「お前のくだらない逆恨みはこれで終わりだ、今楽にしてやる」

俺は蘇飛に近づく。

「終わり? いいや違うね〜」

「あん?」

「俺だって仮にも鈴の甘寧相手にたった3人でどうにかなるとは思ってねぇよ。俺はなぁ、ある兵崩れの賊の集団に金でこう以来したんだよ。甘寧が森に来たら家のガキ共を1人残らず殺せってな〜」

「「!?」」

「お前らと入れ違いさ。今頃ガキ共は〜・・クックックッ」

「くそっ!」

「みんな〜!」

思春が踵を返して駆け出した。弥智留と呼ばれた子供も思春を追いかけていった。

「無駄無駄。もう遅ぇーよ。今頃ガキ共は皆殺し。ホントはお前を犯り尽くした後に奴の前に並べる予定だったが、まあいい、せいぜい絶望に浸ってくれよ〜」

「ゲスが」

「ああそうだ。俺はゲスだ。だが甘寧も同じだ。川賊で、将で、散々奪い、殺してきたんだ。甘寧も俺と同類だ」

「一緒にするな。思春はお前と違って私利私欲やつまらない逆恨みの為に戦ってきた訳じゃない。あいつはいつだって、主君の為、大切なものを守る為に戦ってきた。お前とは違う」

「どうでも良いんだよそんなの。俺は奴が絶望に浸ればそれで良いんだよ」

「残念だが、お前のつまらない企みなど成功しない」

「何だと?」

「怪我の光明と言うか、まさかこんな事になるとはな。今頃その賊達は・・」




















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


思春side

「くそっ! 蘇飛め・・!」

頼む、間に合ってくれ! 無事でいてくれ!

私は力一杯走った。やがて街に着き、家の広場に到着すると、そこには・・。

「!? ・・これは?」

そこには無数の死体が転がっていた。だがそれは子供達ではなく、賊達のものだった。私が唖然としてその光景を見つめているた・・。

「あら思春じゃない? 久しぶりね」

「久しぶり」

「久しぶりなのです!」

そこには雪蓮様と恋と音々音の姿があった。





















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※※※※


昴side

「ま、全滅してるだろうな」

俺は思春の家に向かう前にたまたま出会った雪蓮と恋とねねに子供達のお目付け役を頼んでから思春を追った。当初の目的とは違うが、この雪蓮と恋の2人相手じゃ、2千や3千では歯が立たないだろう。こいつが金で雇った賊なんて多く見積もっても百程度だろう。

「てめえ、見抜いてやがったのか!?」

蘇飛が睨み付けながら俺に尋ねる。

「まさか。俺はただ子供達が無茶な事しないようにお目付け役の為にたまたまあの街に居た3人にお願いしただけだ」

「・・くそっ!」

蘇飛は苦々しく吐き捨てる。

「ま、小悪党の逆恨みなんてその程度だ」

俺は村雨を天に掲げた。

「賊に身を落とし、さらにゲスにまで堕ちた貴様だが、せめてもの情けだ。今楽にしてやる」

「ちっ」

「来世では真っ当に生きてくれ」

俺は村雨で蘇飛の首を飛ばした。




















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※※※※


俺はその後、思春の家に戻った。

「雪蓮、それに恋とねねも、すまなかったな。まさかこんな事になるとは思わなかった」

「構わないわ。孫呉の領内に巣くう賊の討伐はそもそも私達の仕事・・いや、落ち度だわ」

「恋も構わない」

「ふん! まあ良いのです!」

「ありがとうございます。雪蓮様。それに恋にねねも」

思春は2人に頭を深々と下げた。

「ありがとな皆。3人はこの後どうするんだ」

「私達は宿に戻るわ」

「・・(コクッ)」

「宿に戻るのです」

「そうか」

「ならまた明日ね」

雪蓮が思春の元に歩み寄り・・。

「しっかり決めなさい(ボソッ)」

「っ//」

雪蓮が思春の耳元で何か告げると、思春の顔がみるみる赤くなった。

「?」

何だ? ・・まあ良いか。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


雪蓮と恋が宿に戻り、俺は思春の家にお邪魔した。ちなみに子供達は全員無事で、怪我1つなかった。その夜は思春が料理を振る舞ってくれた。言うだけあってなかなか美味しかった。夕食後、後片付けを手伝い、子供達を寝かし付けた後、家の傍にある離れに案内された。俺は特にやる事もなかったので早々に眠る事にした。


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


「?」

時刻は深夜。俺は何か気配を感じて目が覚めた。

「昴、起きているか?」

「思春か? 起きてるぞ」

ホントは寝ていたが、何となくそう言った。

「し、失礼する」

寝間着姿の思春が入ってきた。

「・・//」

思春が何やらもじもじしている。

「どうした?」

「・・今日は子供達を助けてくれて本当にありがとう」

「礼なら雪蓮や恋に言ってやれよ」

「無論、雪蓮様と恋にも礼は言った。もし昴が居なければ子供達を守れなかった。私もどうなっていたか分からない」

「当然の事をしたまでだよ」

「お前には何か礼をしなければならない。だが私はもう孫呉の将ではない。恩を返す事が出来ない。だから・・」

バッ・・。

思春が纏っていた寝間着を脱ぎ捨てた。そこには一糸も纏わない思春の姿があった。月明かりに照らされた思春からは卑猥という言葉ではなく、綺麗という感想が浮かんだ。

俺が思春を見つめていると、思春は顔を赤らめて俺から目を逸らすと・・。

「あ、あまりじろじろ見ないでくれ、は、恥ずかしい//」

「あ、あぁ、すまない//」

俺も思春から目を逸らした。

「昴、私がお前に返せるものは私自身だけだ。どうか受け取ってくれ//」

「待て。それは受け取れない。いくら礼の為だからといって、思春を抱く事は出来ない。無理はするな。嫌なら他のもので・・」

パシン!!!

俺が言い終わる前に思春が俺の頬を張った。

「この馬鹿者が」

「思春?」

「いくら礼の為だからといって、私が何も想っていない相手に身体を許すと思っているのか?」

すると思春が俺の胸に飛び込んだ。

「昴。3年前、最後の戦の折りにお前が死の淵をさ迷っていた時、お前に告げた言葉を覚えているか?」

「ああ」

「私はお前に伝えたい言葉があると、伝えたい想いがあると。それを今、お前にぶつける。昴、私はお前が好きだ! 愛している! お前が孫呉を去った後、お前の事を考えない日はなかった! お前が倒れた時、私は悲しさで胸が張り裂けそうになった。昴、もし私の事を僅かでも想っているなら、私の愛を受け取ってくれ!」

思春が俺に想いをぶつけた。

「思春・・」

俺はその言葉を聞いて胸が暖かくなった。俺は思春の顔を見つめた。思春はそっと瞳を閉じた。俺は思春に顔を近づけ、口付けを交わした・・。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


「思春、大丈夫か?」

「うむ、少々その・・違和感があるが、今はそれが心地好い」

「そうか・・。」

俺は思春の頬にそっと触れた。

「昴。永久に愛している」

俺はもう一度思春に口付けをした。



















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※※※※


翌日・・。

「世話になったな」

「こちらもな」

先ほど家にやってきた雪蓮が思春に・・。

「昨夜は頑張ったみたいね」

「はい。ありがとうございます、雪蓮様」

「ふふっ、なら良かったわ」

俺は手荷物を持ち・・。

「なら俺はそろそろ行くな」

「そうか。・・また来い、いつでも歓迎する」

「おにいちゃん、またきてね〜!」

「またあそびにきてね〜!」

「きのうはありがとう!」

「ああ、また遊びに来るよ。・・思春、またな。思春もたまには遊びに来てくれ」

「ああ、子供達を連れて会いに行こう」

「それじゃ、またな!」

「ああ!」

思春は笑顔で手を振り、見送ってくれた。





















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※※※※


思春side

「いっちゃったね」

「またきてくれるかな?」

「きっと来るさ。あいつは約束は守る男だ。さぁ皆、家に入るんだ」

「「「「は〜い!」」」」

子供達が家の中へと入っていく。

私は家の扉の前でもう一度振り返る。

「昴・・」

いつか、お前の子供を私に授けてくれ。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

街の入り口にて・・。

「雪蓮と恋とねねはこの後どうするんだ?」

「恋は1度成都に戻る」

「ねねは恋殿が行くところについていきますぞ!」

「なら私も2人についていくわ♪」

「そうか。俺は建業に戻る」

「そう、なら蓮華や冥琳達によろしくね♪」

「分かった。なら雪蓮、恋、ねね、またな」

「またね♪」

「・・(コクリ)」

「またなのです!」

俺達は3人を見送った。そして俺は建業に帰ろう・・としたのだが・・。

「あっ、雪蓮、ちょっと待った」

「? ・・何かしら?」

「冥琳から預かっていたものがあったの忘れてた」

「えっ! なになに?」

俺は冥琳から預かった手紙を雪蓮に渡した。雪蓮は手紙を開いて中を読む。手紙に書かれている内容は・・。

『この馬鹿娘! 早く帰ってきなさい!#』

「・・・」

雪蓮は無言になる。

「あはは・・」

雪蓮は笑いながら何処かへ行こうとする。

ガシッ!!!

「さぁ、帰ろうか」

「ちょっ! 昴、離してよ!」

「か・え・る・ぞ!」

「うわーん! 昴の意地悪〜!」

俺は嫌がる雪蓮を引きずりながら建業へ帰った。











続く

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