小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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萌将伝編第8話〜幼児退行、無垢なる気持ち〜















それはある日突然起こった。魏国を震撼(ある意味)させた事件が突然起こった・・。























※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


城の庭、そこに王である華琳を含め、全将が集められた。

「いったいどうしたと言うの? 庭に全員集めて・・」

全員集まると華琳が俺に尋ねた。

「いやな、少々・・、面倒な事が起きてな」

「面倒な事?」

「説明するより見てもらった方が早いな」

俺は華琳の目の前に渦中の根源である春蘭を前に出した。

「・・(ボ〜)」

「春蘭? 春蘭がいったいどうした言うの? ボーッとしているみたいだけど・・」

「はぁ・・」

俺は1つため息を付き・・。

「春蘭、君は今いくつかな?」

「昴。いくらなんでもそれは姉者に失礼・・」

秋蘭が俺を諌めようとしたその時、ボーッとしていた春蘭が口を開いた。

「3さいだよ!」

「だろう・・・なっ!?」

「「「「なっ!?」」」」

そこにいる全ての将が驚愕した。

「わ〜い! ちょうちょ〜!」

春蘭がヒラヒラ飛んでいた蝶を追いかけ始めた。

「「「「・・・」」」」

「・・・昴、これはいったいどういう事?」

「・・簡単に説明するとだな・・」

俺は数時間前に起こった事を説明した。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


「はぁ!」

ガキィン!!!

「ふっ!」

ギィン!!!

俺は庭で春蘭と模擬戦をしている。

「ほう、腕を上げたな、春蘭」

「ハッハッハッ! いつまでも負けっぱなしだと思うな!」

ギィン!!!

鋭い斬撃が俺を襲う。

くっ! 重い・・。それに速い! 当たり前と言えば当たり前だが、しばらく会わない内にかなり腕を上げたな。

「だが、まだまだだ!」

ガキィン!!!

俺も春蘭に斬撃を浴びせる。

「ぐくっ! こっちもまだまだだ!」

怯まず春蘭が俺に向かってくる。

しばらく斬り結んでいると・・。

「おぉーーっ!!!」

春蘭が俺の隙を突いて俺に突撃を敢行する。

「ちっ!」

俺は剣が激突する瞬間に縮地で横っ飛びで避けた。

「なっ!」

春蘭は直撃するか村雨で受けると予想していたのか、春蘭が驚愕した。そしてその突撃の勢いを殺しきれず、俺のすぐ真後ろに聳え立っていた大木に頭から激突した。

ゴツーン!!! ・・ギギギギ・・ドスーン!!!

春蘭が激突すると、大木は音を立てながらゆっくり倒れた。

「派手にぶつけたな・・」

春蘭は大木に激突したままピクリとも動かない。心配になって春蘭に歩み寄る。

「春蘭、大丈夫か?」

俺は抱き寄せ、揺すった。

「うっ・・」

春蘭がそっと目を開けた。

「春蘭、大丈夫か?」

もう一度声を掛けた。

「・・(ジ〜)」

春蘭がキョトンとしながら俺をジ〜っと見つめている。

「春蘭?」

「わ〜い! すばるー!」

「うおっ!」

春蘭が俺に抱きついた。その後、冷静に話を聞いてみると、春蘭の幼児退行している事が明らかになった。





















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※※※※


「とまあ、そんな訳だ」

「・・なるほど」

渦中の春蘭は先ほどの蝶を追いかけていた。

「それで、春蘭は治るのかしら?」

「・・それは分からない。明日になったら治ってるかもしれないし、もしかしたら当分このままかもしれないし・・、何とも言えないな」

「それは困ったわね。あれでも春蘭はこの国の中枢を担う将。その春蘭があれでは困るわ」

「確かにな」

「春蘭は私達の事は分かるの?」

「分かるみたいだぞ。精神年齢が子供まで下がったってだけで、顔や記憶は認識しているみたいだ」

「それは何よりだわ。・・春蘭、こっちにいらっしゃい!」

蝶を追っていた春蘭が華琳の方を振り向き・・。

「はーい、かりんさま〜!」

春蘭がトコトコ華琳の元へやってきた。

「かりんさま〜! ちょうちょつかまえたよ〜!」

春蘭が無垢な瞳をキラキラさせながら捕まえた蝶を華琳に見せる。華琳は春蘭から顔を逸らし・・。

「・・昴、閨に春蘭を連れていけば治るかしら?」

「やめとけ。今の春蘭は心は3歳児なんだぞ・・」

華琳は春蘭の可愛さに身悶えながらポツリと呟いた。

「ごほんごほん・・。今問題なのは春蘭が将として機能出来ない事ね」

「それだよな」

春蘭とて将。それも魏国では事実上のナンバー2。当然その立場に見合った責任や業務がある。その春蘭が機能しないといろいろと不都合が生まれるのは当然だ。

「それなら春蘭が担当していた業務は俺が引き継ごう」

「昴が?」

「俺は他の皆と違って手透きだからな。問題はないだろ?」

「・・そうね。あなたは今や魏の人間でもあるし、以前に客将をしていた昴なら私達のやり方を熟知しているでしょうから、代理は充分務まりそうね」

「むしろ、春蘭より務まるのではないんじゃない?」

桂花が皮肉を言った。

「むぅ。けいふぁおねえちゃんひどい! しゅんらんだってちゃんとおしごとできるもん!」

春蘭はプンプンしながら桂花にかみつく。

「・・・くっ//」

普段は犬猿の仲の2人だが、さすがに桂花もこの春蘭にはいつもの毒は吐けないみたいだな。心なしか少々悶えているようにも見える。

「決まりね。後はこの春蘭をどうするかだけど・・」

「?」

皆の注目が春蘭に集まる。当の春蘭は訳が分からず、キョトンとしている。

「確かに、この春蘭をそのままにしておく訳にはいかないよな」

この春蘭をそのまま放置・・ていう訳にも行かないよな。心が3才児なら保護者は当然必要だ。

「誰かが春蘭の面倒を見るしかないだろう。」

とは言っても、身体は大人の春蘭の面倒を見るとなると、文官には荷が重いだろう。万が一暴れだしたら抑えられないだろうし。

「とりあえず、誰に面倒見てもらいたいかは春蘭に決めてもらったらどうだ?」

誰かに押し付けるより、その方が春蘭にとってもそれが良いだろう。

「それもそうね。・・春蘭、これからあなたをこの中の誰かと一緒に居てもらおうと思うのだけど、誰と一緒に居たい?」

華琳が春蘭に優しく尋ねる。

「ん〜とね」

春蘭が人差し指を加えながら庭に集まる将を見渡す。

ま、選ぶのは華琳なんだろうな。

やがて春蘭を全員を見渡した後・・。

「すばるといっしょがいいー!」

「そうそう華琳に・・て、俺か!?」

華琳じゃないのかよ。

「しゅんらんはすばるといっしょがいい! すばるはしゅんらんのこときらいなの?」

「うっ・・」

春蘭が目に涙を浮かべながら俺を見つめる。

うっ・・。可愛い。一瞬春蘭を抱きしめたいという衝動にかられた。

「ぷはぁ!」

俺の背後から断末魔のような叫びが聞こえた。

「稟、君は見ない方が良い。血液がいくらあっても足らな・・・・って秋蘭かよ!」

「姉者ぁ・・、姉者ぁ・・」

振り返ると、秋蘭が鼻血を吹いて恍惚の笑みを浮かべながら倒れていた。

「稟ちゃんはあっちなのですー」

「・・あー・・」

稟は既に血塗れで衛生兵に担架で運ばれていた。

「とにかく・・、春蘭の面倒と業務は俺が引き受けるから、書簡や報告書等は後で俺の部屋に持ってきてくれ」

ここでの話はとりあえずこれで終結した。



















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※※※※


その後、春蘭を連れて俺は部屋に戻った。しばらくすると、春蘭が整理するはずだった書簡が届いたのでそれを片付ける事にした。

「♪〜♪」

春蘭は床に寝そべりながら何やらお絵描きをしている。俺は軍務やら報告書やらの作成に勤しむ。

「すばるー、おそとであそぼーよー」

「んー、お仕事終わったらなー」

「むぅ! やーだー、おそといくのー!」

お絵描きに飽きたのか、春蘭が頬を膨らませながら駄々をこね始めた。

「後少しで終わるからもう少し我慢しようなー」

「あとすこしってどれくらい?」

「後少しだよ」

「いーやーだー! おそとであそぶのー!」

春蘭がその場でじたばたし始めた。

「はぁ、これはなかなか大変だな・・」

考えてみると璃々はホントに聞き分けの良い娘だったんだな。

俺が物思いに耽っていると、春蘭がいつの間にか俺の背後に駆け寄っており・・。

フニュン・・。

「ねぇ、あそぼーよー!」

背後から春蘭が抱きついた。心は子供と言っても身体は完全な大人。しかも春蘭のスタイルはかなり良い。大きく実った果実が俺の背中に当たる。そして俺の顔を背後から覗きこんだ際に仄かに良い香りが俺の鼻孔に漂った。

「くっ//」

いかん。これはまずいな。仕事どころじゃねぇ!

「?」

春蘭は訳も分からず、純粋かつ無垢な瞳を俺に向けてくる。

うぐっ! 秋蘭ではないが、姉者は可愛いなぁ。油断すると抱きしめたくなる! 歯止めが効かなくなって口付けなんてした日にはまず間違いなく春蘭に斬られる! 俺が大切な何かと戦っているのを尻目に春蘭は・・。

「えーい!」

「むぐっ!」

春蘭は俺の太股に座り、今度は正面から抱きしめた。春蘭の大きな胸に鼻と口を塞がれる。

「・・・ぷはぁ!」

俺はどうにか春蘭から顔を放した。

「春蘭、頼む、離れてくれ!」

「えー? なんでー?」

「いろいろまずいから離れてくれ!」

俺の今後に関わる問題だ。春蘭が聞き分けたのか、俺から身体を離した。

ほっ・・良かっ・・。

と思いきや。

「・・グスッ・・、うえーん!!」

「うそぉ!」

春蘭が泣き始めた。

「うえーん! すばるはしゅんらんのこときらいなんだ! だからはなれたいんだー!」

「いや、そういう事じゃなくて・・」

「うえーん!!」

これは手が掛かるな・・。

俺は指で春蘭の涙を拭い・・。

「嫌いな訳ないだろ? 俺は春蘭の事大好きだぞ。」

「・・ほんと?」

「本当だよ」

俺は春蘭の頭をナデナデした。

「えへへー。しゅんらんもだいすきー!」

春蘭は泣き止み、再び俺に抱きついた。

はぁ、これはもう仕事は無理だな。続きは夜にでもやろう。

「よし、春蘭、外に行くか?」

「いいの?」

「ああ、街にでも行こうか」

「うん!」




















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※※※※


「わーい!」

街に行くと、春蘭は大喜びしながら駆け始めた(一応春蘭の顔バレしないように帽子を被せている)。

「すばるー、あれたべたーい!」

「はいはい。」

俺は金を払い、屋台で串団子を2本購入した。

「パクっ・・んぐんぐ・・」

春蘭は嬉しそうに団子を口にした。

「ほらほら、口にタレが付いてるぞ」

「むぐっ!」

俺はハンカチで春蘭の口を拭った。しばらく屋台や出店を見て回った。

「・・(ジ〜)」

春蘭が何かを見つめている。春蘭の視線を追ってみると、そこは一軒の服屋。その店頭に飾られている1着の服を見つめていた。

「着てみるか?」

「・・・いいの?」

「構わないよ。行こうか」

「うん!」

俺達は服屋に向かった。

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


店に入り、店頭に飾られていた服、艶やかなドレスのような服を春蘭に着せてもらった。着付けを店員に頼み、待っていると・・。

「ねえすばる、どう!?」

ドレスを着て出てきた春蘭はとても綺麗だった。店員が気を利かして髪を纏めたり、装飾品まで身に付けていた。

「・・うん。すごく似合ってるよ。まるでお姫様だ」

俺は素直な感想を言った。すると春蘭はパアッと笑顔を浮かべ・・。

「しゅんらんおひめさま!? わーい!」

春蘭はその場で跳び跳ねるように喜んだ。・・・・うん、決めた。

「この服、このままいただくよ。店主、会計を頼む」

「いいの?」

「贈らせてもらうよ」

「わーい! ありがとうー、すばる!」

「ふふっ、店主」

「はい! こちら――になります!」

「・・・まじ?」

桁が違くないか?

「はい! こちらは高級の生地をふんだんに使用し、一流の職人達が丹精込めて作成した一品ですので!」

・・何その逸話。一方では春蘭が笑顔で喜んでいる。

「・・お会計、お願いします」

「毎度ー! 装飾品もお値段に含まれていますので!」

「・・ありがとうございます」

これ必要経費で落ちるかなー。無理かー!




















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※※※※


その後、店で購入した衣装のまま街を巡った。当然ながら注目浴びた。理由は人目を引く春蘭の美しさだ。女性からは羨望、男からは嫉妬と殺意を。いろいろ街を巡っていると日が暮れてきたので、俺達は城へ戻った。そして現在、俺達は城壁に登った。

「うわー、きれい!」

雲1つない夕空に夕陽が輝いている。

「今日は楽しかったか?」

「うん! たのしかったー!」

春蘭は溢れんばかりの笑顔を浮かべた。

「なら良かった」

「ねえすばる」

「ん?」

・・・チュッ♪

「!?」

突如、春蘭が俺に口付けをした。

「えへへ! すばるだいすきー! ・・すばるはしゅんらんのことすき?」

春蘭は真剣な顔を浮かべ、俺に尋ねた。

「俺は・・」

春蘭の顔は真剣だ。今の春蘭は心は子供でも女の子・・。

「好きだ。忠実なる華琳への忠義。ただひたすらに高みを目指す武人。そしてとても可愛らしい春蘭が俺は好きだ」

「すばる・・」

春蘭は瞳を潤ませ、そっと瞳を閉じた。

「ん・・」

そんな春蘭に俺は口付けを交わした。しばらく間口付けをしていると・・。

ドン!!!

「うぉ!」

春蘭が俺を突き飛ばした。

「なななななななななっ//」

春蘭の顔がみるみる赤くなっていく。

「きききききききききっ貴様//」

ん? この反応、もしかして・・。

「春蘭、記憶が戻ったのか?」

「おおおおおおおおおお前//」

春蘭が口をパクパクしながらあわあわしている。

「春蘭?」

俺がそっと春蘭の頬に触れる。

「い・・」

「い?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

甲高い悲鳴を上げて春蘭は走り去っていった。

「・・少し、可哀想な事したな」

間違いなく記憶が戻ったな。しかも・・、ご丁寧にその間の記憶はある。

「明日から大丈夫かな・・」

俺は不安にかられながら部屋に戻り、今日片付かなかった仕事に取りかかった。




















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※※※※


翌日・・。

「よう、春蘭」

「・・(プイッ)」


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


「春蘭・・」

「ガルルルルル・・!」

とまあ、翌日からの春蘭はこんな感じだ。顔を合わすと避けられたり噛みつかれそうになったりする。

「これはほとぼりが冷めるまでしばらく待つか」



















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※※※※


その夜・・。自室での仕事終え、寝支度をしていると・・。

ガチャ・・。

部屋の扉が開かれた。

「・・・」

開かれた扉から春蘭が出てきた。

「春蘭・・。どうしたんだ?」

「・・・」

春蘭は何も言わず、ただ押し黙っている。しばらく部屋に静寂が生まれた。そしてその静寂を打ち破るように春蘭が口を開いた。

「昴・・、貴様が昨日私に言った言葉、それは今の私に言ったのか、それとも記憶無くした私に言ったのかどっちなんだ?」

春蘭はこちらに目を向け、尋ねた。

「そうだな・・。両方だ」

「・・・くっ//」

春蘭は顔を赤らめて俺から視線を反らした。

「・・私は嘘は嫌いだ。あの言葉、本当だろうな?」

「ああ、俺は春蘭が好きだ。愛している」

「// ・・駄目だ信じん。口先の言葉など、私は信じん」

「そうか、なら・・」

俺は春蘭の傍に歩み寄り、春蘭の肩に手を掛けた。

「昴・・」

肩に手を掛けると、春蘭が俺の顔を見上げた。

「ん・・」

俺は春蘭にそっと口付けをした。

「// ・・もっとだ! もっと私を信用させろ!」

「・・分かった」

俺は左腕を春蘭の背中に回し、右腕を膝裏に回し、春蘭を抱き上げた。

「ひゃっ//」

抱き上げると春蘭は軽く悲鳴を上げた。俺はそのまま寝台に春蘭を運び、そっと寝かせた。

「春蘭・・」

そして再び、俺と春蘭の距離が0になった・・。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


そしてその夜、魏国を震撼させた大事件は終結した・・。




















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※※※※


さらに翌日、またいつもの日常が魏に戻った・・・・はずだったのだが・・。

「・・・」

「「「「・・・」」」」

再び城の庭に集められる俺と華琳と将達。皆が一様にある1人に視線を向けている。視線の先には大陸全土にその名を轟かせる夏侯淵将軍。

「しゅーらん、3さいだよ!」

もう勘弁してくれ・・・。











続く

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