小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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萌将伝編最終話〜即位、永久の平和を〜















「・・(ボ〜)」

時刻は夜明け、まだ朝靄が辺りにひしめき、ちょうど朝陽が差してきたばかりの時間だ。俺は現在川で釣糸を垂らしている。

・・・・・・・・・・・・・・ピクッ。

釣糸に僅かに揺れた。俺は竿を一気に引き上げた。釣糸の先には川魚が引っ掛かっていた。

「5匹目・・」

俺は魚を籠に入れ、泳がせた。

「よっ!」

俺は釣り針に餌を付け、川に釣糸を放り投げた。

「・・(ボ〜)」

俺はこんな事をずっと繰り返している。またしばらくボ〜っとしながら釣りをしていると・・。

「す〜ばる♪」

後ろから誰かが抱きついた。

「・・・雪蓮か」

「ぶぅ、反応薄い。・・こんな所で何してるの?」

「釣りをしているようには見えないか?」

「ふ〜ん・・、ねぇ、私も一緒に良い?」

「構わないぞ」

俺はもう1つの釣竿を雪蓮に渡した。

「ありがと♪」

雪蓮は釣竿を受け取ると、釣り針に餌を付け、それを川に落とした。

「・・・」

「・・・」

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


10分後・・。

「あぁ〜もう、退屈!」

雪蓮は釣竿を投げ捨てた。

「まだ始めたばかりだろ。相変わらず忍耐力ないな」

後音を立てるな、魚が逃げるだろ。

「ぶぅ・・」

雪蓮は頬を膨らませる。しかし、すぐに雪蓮の顔が真顔になり・・。

「何を悩んでいるの?」

「・・・」

「昨日の事、考えてるの?」

「・・・」

「そんなに悩む事じゃないと思うけどな〜」

「悩むだろ・・」

雪蓮が何の事を言っているのか。時は数日前に遡る・・。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


天下一品武闘会が終了して1ヶ月程が経ったある日。成都でいつものように過ごしていた俺に1通の文が届いた。送り主はなんと献帝。内容は俺に会ってみたいという内容で、是非1度献帝の元へ来てほしいとの事だった。献帝の要望とあらば断る訳にはいかず、・・ま〜そもそも断る理由もないんだが・・、俺は桃香と護衛の将兵を引き連れて献帝の元へ向かった。

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


いざ到着し、警護の衛兵に手持ちの武器を預けると、俺と桃香は献帝の居る玉座の間に案内された。衛兵が玉座の間の扉を開けると、そこには華琳と雪蓮に蓮華、そして献帝の姿があった。

「遠路はるばるご苦労であった、劉備、そして御剣昴よ」

「・・・」

あの方が献帝・・。

透き通るような長い銀髪、出で立ちはとても美しく、もはや芸術とも思える程麗しい。

俺は片膝を付き、右手を胸の所で左手で包み・・。

「御初に御目にかかります。姓は御剣、名は昴。成都よりまかり越しました」

「ふむ・・」

献帝がスッ・・、と手を前に翳すと、玉座の間に居る衛兵達が一礼をして玉座の間を後にした。

「本来ならばこちらからお訪ねするのが筋なのですが、立場上それが許されない身、遠方より呼びつけた非礼、お詫び致します」

と、献帝が頭を下げた。

「お止め下さい劉協様、劉協様の要請とあらば参じるのは当然の事。それに私は四国同盟の盟主なれど無位無冠の身、劉協様に頭を下げる程の者ではありません」

「・・・」

俺がそう告げると献帝は何かを考える素振りを見せ・・。

「あなた達から聞いていた話とはかなり違うみたいね?」

「?」

話?

「御剣昴殿。既に兵達は全て下がらせました、あなたの喋りやすい口調で構いませんよ」

献帝がそう言い、俺は華琳や雪蓮達に視線を移すと皆が無言で頷いた。

「分かった。これで良いのか?」

「構いません。公務ではありませんから堅苦しいのは無しにしましょう」

・・良いのかな。

「こういう御方なのよ、劉協様は」

「あら? あなたもいつもどおりで構わないのよ、華琳殿?」

「ふふっ、ならそうさせてもらうわ」

華琳も口調を崩したようだ。

「さて、御剣昴殿を呼びつけた用ですが、1つはあなたがどのような人物かこの目で見てみたかったのですよ」

「俺を?」

「えぇ。この大陸に舞い降りた天の御遣い。それが如何なる人物か・・」

「そうだったのか。俺はてっきり叱責でも受ける者かと」

「叱責? 何故?」

「いや、ふてぶてしくも天を自称していた訳だからな」

この時代の天といえば天子等を意味する。にもかかわらず天を自称するという事は天子に対する不敬を意味する。俺がそう言うと献帝はクスクスと笑い・・。

「叱責等と、どちらが天を名乗るに相応しいかは火を見るより明らかです。私に叱責をする謂われはありませんよ」

「いや、そんな事は・・」

「その件に関しては気にする必要はありませんので悪しからず。・・ふふっ、やはりあなたは聞いていた通りのお方のようですね」

「はぁ・・」

「華琳殿達からは全てを兼ね備えた御仁と聞いておりましたが、噂通りのようですね。この私も会えて光栄です」

「少々大げさだと思うが・・」

献帝が襟を正すと真剣な表情を浮かべ・・。

「では次が本題です。私の話を聞いていただけますか?」

「はい」

「私は献帝の座を辞そうと思っています」

「・・・」

あまりに突然の話だな。

「そして新たにこの大陸の象徴として天の御遣い、御剣昴殿。あなたに献帝として即位してもらいたい」

「!? 本気ですか!?」

「本気です。・・私は献帝として何も出来ませんでした。この国が腐敗していくのをただ見ている事しか・・」

劉協様がスッと瞳を閉じた。

「しかし、当時の情勢を考えれば誰が献帝であっても変わらなかったと思うが?」

当時は腐った官吏達が蔓延っていたし、献帝の権力なんてあって無いようなものだ。

「それは言い訳に過ぎません。私にもっと力や知恵・・いえ、もっと勇気があったなら、この国に住まう民達に苦労を掛ける事もなかったでしょう」

「・・・」

それは違う。もしそうだったなら官吏や十常侍達に暗殺されていただろう。都合良いように動かない傀儡等、奴等にとっては厄介なだけだからな。けどこれを告げても納得はしないか・・。

「ですがあなたはあなたの手で桃香殿を支え、蜀を建国し、魏、呉、蜀の三国を纏め、侵攻してきた五胡を退け、さらに盟を結ぶに至った。あなたが積み上げた実績は高租劉邦と比べても遜色ありません」

「待ってくれ、俺は桃香の掲げた理想の元、力を貸しただけだ。蜀を纏め、建国したのは桃香の実績。五胡の退けたのも三国の皆が力を合わせた結果。俺は助力したに過ぎない」

「その様に謙虚な所も新たな献帝として相応しい器と思っています。これは私の思いでもありますが、ここにいる王達の願いでもあるのですよ?」

「そうなのか?」

俺は桃香達を見渡す。

「えぇ。あなたは以前に言っていたそうね? 桃香の掲げる天下三分は最も犠牲を払わず平和を得る方法。そして私の覇道は最も長く平和を維持出来る方法と」

「ああ」

「ならばこうして得た平和を長く維持するために魏、蜀。そして私達の呉を解散し・・」

「ご主人様を新たな皇帝として私達の国を治めてもらうの」

桃香と蓮華がそれに続く。

「・・しかしな、さっきも言ったが、俺は無位無冠なんだぞ? それに高貴な血筋でもなければこの国の出身ですらない。ただの風来坊だ」

「血筋なんて関係ないんじゃない?」

「そうは言うがな雪蓮。正統なる血筋を乱せば国も乱すきっかけにもなりかねない」

「む〜」

雪蓮が口を尖らせる。事実、それが原因で滅んだ国もある。まあ血筋を優先して愚物を王に据えて滅んだ国もあるが・・。

「血筋等気にする事はないとは思いますが、そこまで気になさると言うなら・・」

コホンと咳き込み・・。

「あなたが婿として私の元に来ていただくのはどうでしょう? そうすればあなたも晴れて高貴な血筋ですよ♪」

劉協様が悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「劉協様!? それは・・」

桃香が驚愕する。これは劉協様の独断みたいだな。

「それとも私が妻では不服かしら?」

「・・・むしろ恐れ多いんだがな」

「とは言え、御剣昴殿にとっては突然の事でもあります。暫しの間ご検討下さい。ちなみにここでの話はただの世間話。礼式とは関係ありませんので悪しからずに・・」

「・・分かった」




















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


と言った感じだ。

「何をそんなに迷ってるの?」

「ん〜、率直に言って柄じゃないんだよな」

「そう? 昴ならお似合いだと私は思うけど」

俺は頭を掻き・・。

「正直、これ以上堅苦しくなるのは勘弁してほしいかな」

「まあ皇帝になればいろいろ大変かもね♪」

「・・他人事だな」

雪蓮がスッと立ち上がると・・。

「でもね、私は昴に皇帝なってほしいと思っているわ」

「雪蓮・・」

「ゆっくり考えてね、昴。私はあなたが決断してくれるのを待っているわ。それじゃ、またね」

雪蓮は手をヒラヒラさせながらその場から去っていった。

「はぁ・・」

皇帝・・か。俺に務まるのか・・。またしばらく釣り糸を垂らしていると・・。

「ここに居たのね、昴」

「・・今度は蓮華か」

蓮華が俺の横に座る。

「悩んでいるのね」

「簡単には決められないよ」

「珍しいわね。即断即決があなたの信条ではなかったの?」

「・・それは戦時中での話だし、それとこれとは話が違う」

悩んでも良い答えが出るとは限らないからな。

「あなたはこの国を救ってくれた。もしあなたが居なければ戦乱は未だ続き、もしかしたら滅んでいたかもしれない。私はあなたこそ皇帝に相応しいと思うわ。もちろん、劉協様が相応しくないと言う訳ではないけれど・・」

「・・・」

「あなたなら出来ると私は信じているわ。だから昴、皆の為、この国の未来の為、あなたの決断を待っているわ」

蓮華はそれだけ言って去っていった。

「気持ちは嬉しいけどな・・」

けど俺は・・。




















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※※※※


それから代わる代わる俺の元へ将達がやってきた。

「ご主人様、この国に住む民の為、この国の未来の為、皇帝になって下さい」

「昴なら出来るよ。私も支えるから頑張って!」

「主よ、皇帝となり、皆を導く主の姿を見てみたく思います」

「ご主人様、この諸葛孔明、今一度、ご主人様の為にこの知を奮う所存です」

「私もご主人様に救われたこの命、その恩に報いる為、朱里ちゃんと共にこの知をもってご主人様を支えます」

「ご主人様! 皇帝になっちまえよ! あたしは賛成だぜ!」

「たんぽぽもお姉様と同じで賛成だよ!」

「昴様、皇帝にお成り下さい。わたくしはあなたの即位をお待ちしていますわ!」

「ご主人様、私も璃々共々ご主人様が皇帝になるのをお待ちしています」

「ご主人様、頑張って!」

「お館様よ、新たな皇帝、儂は心待ちにしておりますぞ」

「皇帝はお館様にこそ相応しいです! 是非お引き受け下さい!」

次々と俺の即位を心待ちにする決断を望んでいる。

「・・人の気も知らないで」

俺は釣り糸を取り、籠を手に取ると、俺は釣りを切り上げた。




















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※※※※


俺は城に戻るため、城下町を歩いている。街は既に活気に溢れ、民は商売の準備を始めていた。

「おぉ、御遣い様だ!」

「御遣い様ーっ!」

「ありがたやありがたや」

「新皇帝様だーっ!」

「?」

やけに騒がしいな。て言うか今新皇帝って・・。

民達が商売の準備の手を止め、俺に手を振っている。

「人気者ね、昴」

「華琳か・・」

俺の歩く先に華琳が立っていた。

「いったい何の騒ぎなんだ? それに新皇帝って・・」

「ふふっ、噂を流したのよ。新たな皇帝に天の御遣いがなるかもしれない、と」

「・・良いのかよ。献帝様のお膝元でそんなことして・・」

「良いも何も劉協様の指示だもの」

「劉協様の?」

「その結果がこれよ。・・民は求めているわ。あなたを」

「・・・」

「自信を持ちなさい。これはあなたに出来る、あなたにしか出来ない事よ。この声に応えてあげなさい」

「・・・」

「では待っているわ」

華琳は俺の横を抜けていった。

「民の声、か・・」

今も絶えずに割れんばかりの歓声が沸いている。俺はその歓声を背に城に向かった。




















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※※※※


城に着き、宛がわれた部屋に行くと、俺は寝台に腰掛けた。

「・・・」

皆が望んでいる。俺の即位を・・。けど、俺は・・。

「ご主人様」

その声に反応し、俺は顔を上げる。そこには桃香が居た。

「悩んでいるの?」

「まぁな」

「どうしてなの?」

「・・・」

「ご主人様?」

「・・俺の手は血で汚れている」

「ご主人様・・」

「俺は何人もの命をこの手にかけた。俺の命で何人もの命が散っていった。そんな俺に太平の世の皇帝が務まるのか・・、何より、俺の存在が争乱を生む原因になることが怖いんだ」

風来坊の異民族が皇帝になれば、不満を持つ者も出るだろう。その者が反乱を起こしたら・・。鎮圧するのは簡単だ。だがその度に従わない者を討つのか?

「ご主人様・・」

桃香が俺の元に歩み寄り・・。

ギュッ・・。

俺をそっと抱きしめた。

「桃香・・」

「大丈夫・・。大丈夫だよ。ご主人様なら大丈夫。皆の声を聞いたでしょ?皆がご主人様の即位を望んでいるんだよ。大丈夫・・」

「桃香・・」

桃香は俺を抱きしめたまま『大丈夫』と呟き続けた。


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


「落ち着いた?」

「ああ」

桃香は俺から体を離した。

「・・悪い桃香。しばらく1人にしてくれないか?」

「うん、分かった」

桃香は扉の方まで歩み寄り・・。

「待ってるからね」

それだけ言って桃香は部屋を後にした。

「・・・」

皆が俺に期待している。正直、不安はあるけど・・。





















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※※※※


翌日・・。

俺は再び、劉協様の元へと向かった。

ギィッ・・。

玉座の間の扉が開けられ、中へと入る。桃香、華琳、雪蓮、蓮華は既に中に居た。

「答えは出ましたか?」

「はい」

皆が真剣な面持ちで俺を顔を覗く。

「皇帝の即位の儀、私は―――」

















「―――お引き受け致します」



















俺がそう答えると皆の表情が明るくなった。

「良く決心してくれましたね」

「・・当初は自信がなかった。俺は戦しか知らず、こんな汚れた手で皆を導いていけるか不安だった。・・でも、思い出したんだ。俺がこの国を1度去る時、必ずこの国に戻り、皆を幸せにすると。正直不安はある。だけど俺は1人じゃない。俺には心強く、大切で、そして、大好きな皆が居る。皆と力を合わせて俺はこの国を皆が笑顔で暮らせる国にしてみせる!」

「うん! ご主人様なら出来るよ!」

「良いでしょう。私もあなたの想う国の為に力を貸すわ」

「頑張ってね、す〜ばる♪」

「私もこの力、あなたの為に使うわ!」

「ありがとう、皆・・」

「では、正式な即位は改めて公の場をもって行います。それでは、あなたの即位、待っていますよ」

「はっ!」

俺は右拳を左手で包み、大きな声で返事をした・・。





















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※※※※


それから数ヶ月後、御剣昴は新たな皇帝に即位した。これをもって漢の国はその歴史から幕を閉じ、そして、新たな国家が建国された。その国は数百年に渡り、平和で笑顔が絶えない国だったという。


















これにより、外史の守り手、御剣昴の物語は終幕した・・。



















〜 了 〜



















―――――――後書き―――――――

以上をもちまして、本編及び、萌将伝編を完結と致します。一部注目を浴びる事が出来なかったキャラも出てしまい、そのキャラのファンの方々、申し訳ありません。

これで外史の守り手は完結になりますが、この後ににじファンで投稿しました外史の守り手の外伝的なお話と特別企画として投稿したとあるキャラにスポットを当てた短編小説も投稿しますので宜しければそちらにもお付き合い下さい。

それでは、この物語に最後までお付き合いしていただき、ありがとうございました! 次回作も投稿予定ですので、投稿致しましたら是非覗いていただき、批判の1つでもお願いします。

それではまた!

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