小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第20話〜深き因縁、真の心〜















楓「はぁ!」

昴「ふっ!」

バキッ!!!

楓の一撃を避ける。

楓「まだだ!」

避けた先に右の正拳突きが襲う。

昴「甘い」

それを左手で受け流す。

昴「次は俺から行くぞ。はっ!」

俺は楓に飛び込み、拳のラッシュをかける。

楓「ぐっ!」

楓は拳の嵐をウィービング、パリング、ガードを駆使して対応する。しかし徐々に捌ききれなくなり・・。

楓「くそ!」

焦った楓が蹴りで俺の首を狙う。

昴「焦ったな」

楓「!?」

蹴りをしゃがんで避け、水面蹴りで楓の脚を刈り取る。

楓「うわっ!」

体勢を崩し、倒れた楓に顔スレスレに拳を止める。

楓「うっ、まいった」

昴「また俺の勝ちだな」

楓に手を差し出し、楓は手を掴み立ち上がる。

昴「劣勢になると一撃必殺を狙うのは悪い癖だぞ?」

楓「分かっちゃいるんだが・・」

パンパンと埃を払いながら答える。

楓「それにしても、昴の旦那は強ぇな、全く歯が立たねぇ」

昴「こっちもそれほど余裕があるわけじゃないけどな。それに、楓もどんどん筋が良くなってきてるよ」

楓「そう言ってくれると嬉しいぜ。・・それにしても旦那は無手も使えるんだな」

昴「まぁ、必ずしも武器が使える状況ばかりとは限らないからな。あらゆる事態に対応出来るように身につけておいた」

楓「それでそこまでの使い手になれんだから旦那は化け物だな」

昴「化け物はないだろ・・」

楓「ハハハッ」

楓と話をしていると・・。

思「公績」

ん? 思春か? 確認しようとしたその時・・。

ピシッ!!!

まるで空気に亀裂が走ったようにその場がピリついた。

楓「・・・何だ?」

思「これより軍議だ、すぐに集まれ」

楓「・・分かった」

思「急げよ」

楓「・・・」

思春はそれだけ伝えると、その場を立ち去っていった。

何だ? この2人・・。

仲が悪いとか、ソリが合わないとか、そんな感じじゃない。

昴「楓?」

楓「わりぃ、行くわ」

楓はそう言うと思春の後を追った。楓の顔を伺うことは出来なかった。

昴「あの2人に何が・・」

あまり人の心に踏み込むものではないが・・、少し・・・気になるな。俺は何か釈然としないものを感じながらその場を後にした。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


城の廊下を歩いていると・・。

穏「昴さ〜ん!」

お、穏か。

穏が大きな胸を揺らしながら駆け寄ってきた。

穏「こんなところで奇遇ですね〜」

昴「そうだな」

穏「またお暇でしたら症状克服のお手伝いをしてくださいね〜」

昴「あ、あぁ」

今でも穏の性癖を克服する訓練に付き合っている。と言っても本は読ませないが・・・そうだ、穏なら楓と思春のことついて知っているかも。

昴「なぁ穏、1つ聞きたいことがあるんだが」

穏「何でしょう〜?」

昴「楓と思春の間に何があるんだ?」

穏「!? ・・・何でですか〜?」

昴「あの2人・・溝というか、何か因縁めいたものがあると思うんだが・・」

沈黙する穏。

穏「・・・申し訳ありません。私から申し上げることはできません」

昴「そうか・・」

穏は申し訳なさそうに告げた。

穏「それでは〜、お仕事が残っているので失礼します〜」

穏はそそくさと足早にその場を去った。

昴「やれやれ」

どうしたものかな、こんなの本人には聞けないしな。思春なんか確実に話さないだろう。こういう時は・・・あの人しかいないか・・しょうがない。俺はとりあえず街へ繰り出し、手土産を買いに行った。




















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※※※※


その日の夜、俺はとある一室を目指し、歩いている。確か・・・・ここだな。

昴「昴です。起きてますか?」

祭「ぬっ? 昴かどうしたのじゃ?」

昴「祭さんに用がありまして、忙しければ後日にしますが・・」

祭「構わぬよ、今扉を開ける」

キィ・・。

祭「こんな遅くに何の用じゃ?」

俺は手に持っている酒と器を出し、

昴「どうです? ご一緒に」

祭「・・ふむ、付き合おう」



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


しばらく近況報告や世間話をしながら酒を酌み交わしていると、

祭「・・それで? わざわざ酒を飲むためだけに儂のところに来たのではないのじゃろ?」

昴「やっぱり分かりますか?」

祭「伊達に長生きはしておらぬわ。儂に聞きたいことがあるのじゃろ?」

昴「はい・・・それなら率直に聞きます。楓と思春の間に何かあったんですか?」

そう尋ねると祭さんはピクッと酒を飲む手を止め、器を卓に戻した。

祭「何故そう思う?」

昴「今日、2人の様子がおかしかったからです。正直、2人の間にただならぬ何かがあるような、そんな感じがしました」

祭「・・それを知ってお主はどうするのじゃ?」

昴「俺は2人の仲を取りなしたいと思っています。俺は期間限定とはいえ今は孫家の仲間ですから」

祭「・・儂らにもどうにもならぬことなのじゃぞ?」

その言い方からしてやはり何かあるんだな。それも大きな何かが・・。

昴「それでも、俺は2人の中にあるわだかまりを解決したいと考えています」

祭「何故じゃ?」

昴「大切な仲間だからです」

祭「・・・」

昴「・・・」

暫し祭さんと見つめ合う。

祭「ふぅ、あまり人の事をペラペラと喋る趣味はないじゃがのう」

昴「すみません」

祭さんが器に酒を入れ、それを一気に煽ると・・。

祭「簡単に言うとじゃ、楓にとって思春は父の仇なのじゃ」

昴「!? ・・どういうことですか?」

祭さんは説明してくれた。時は数年前、まだ前王孫文台が存命の頃、劉表との戦で、劉表本隊との決戦の前に立ち塞がったのが部下である黄祖である。当時思春は錦帆賊と呼ばれる川賊の頭領だった。思春は錦帆賊の帰郷を黄祖に妨げられ、やむなく黄祖に与していた。孫堅本隊が黄祖に当たったのに対し、思春率いる錦帆賊には当時、水軍を率いていた楓とその父凌操が相対した。楓が賊兵を相手にしているなか、思春と凌操の一騎討ちが始まった。戦いは壮絶なものとなり、何合にも及ぶ打ち合いとなった。そしてほんの僅か、たったほんの僅かの差で思春が凌操に勝利した。凌操は即死ではなかったものの、深傷を負ったことにより亡くなった。楓は怒りから思春を殺そうとするがそれと同時に黄祖の本陣が陥落。思春率いる錦帆賊は包囲され、思春は投降した。思春は斬首を潔しとし、望んだが、思春の部下達の懇願と黄祖によって戦わざるを得なかったこと。その他に凌操を失ったことにより水軍を率いられる将がいなくなったことと、江東、荊州で最も有名で屈強の川賊の頭領を組み入れれば水軍の強化と共に江東一帯の川賊を無力化出来るという利もあり、思春は孫家に降った。だが当然楓にとって納得いくはずもなかったが孫家のため仕方なく従った。

祭「ふぅ」

説明を終えるとまた一献酒を煽った。

仇・・か。

自分の大切な家族を殺した相手が味方陣営にいる。その心中はとてもではないが・・。

昴「2人の一騎討ちはどうだったのですか?」

祭「壮絶じゃった。双方実力は拮抗しており、勝負は一進一退。どちらが勝ってもおかしくはなかった。再び相対することがあったなら次は違う結果になることもあり得るじゃろう」

昴「そう・・ですか・・」

楓にとっては同じ孫家に仕える将であると共に父の仇でもある。忠義との板挟み、か。

昴「思春は正当な一騎討ちをしたんですよね? 策を企てたりとかそんなことはなく」

祭「ふむ、互いが名乗りをあげ、互いが武人として誉れある一騎討ちを行っておった。儂も見ておったし、部下からも同様の意見じゃ」

昴「そうですか・・」

そうか・・だから楓は・・だったら・・。

昴「ありがとうございます。2人の事は俺が何とかしてみます」

祭「うむ、では任せるぞ」

昴「それではもう行きますね。酒はここ置いておきますから。では」

俺は祭さんの部屋を後にした。2人のわだかまりを解くにはいくら言葉を重ねても意味がない。問題は思春より楓だな。・・・やはり方法は1つしかないな。多少危険だが、やるしかない。さてととりあえず明日に備えるか。俺は自室に戻った。




















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※※※※


祭side

祭「ふぅ」

昴がいなくなった後も1人酒を飲む。

祭「何故あんな話をしてしまったのかのう」

決して話したことを後悔しとるわけではないが、不思議とあの時昴なら何とかしてくれると思った。

祭「儂にはどうすることも出来なかった・・。昴よ、2人を頼むぞ」

再び酒を一杯煽った。


















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※※※※


昴side

翌日、俺は楓を連れて街の外を歩いていた。

楓「なぁ、どこまで行くんだ?」

昴「何、もうすぐ着く、黙ってついてきてくれ」

楓「・・おう」

それから時間にして10分程歩くと目的地に着いた。そこはただの荒野でちらほら岩が転がってるだけの場所だ。

昴「着いたぞ」

楓「何だ? 何もねーじゃん。・・・ん? 誰かいるな、あれは・・大将ともう1人は・・・!?」

着いた先に待っていたのは雪蓮ともう1人は・・。

楓「甘寧!」

思春だった。

楓「・・どういうつもりだ」

昴「今説明する」

楓「まさか仲直りしろとかほざくんじゃねーだろうな」

楓が俺を睨み付ける。

昴「雪蓮、待たせたな」

雪「それほど待ってないわ。・・・楓、思春。あなた達の王として命ずるわ、この場で孫伯符と御剣昴立ち会いの元一騎討ちをしなさい。」

思「!?」

楓「!? ・・・正気か? 今まで散々禁じてたのによ」

雪「ええ、本気よ。否は認めない、これは命令よ」

楓「・・上等だ」

雪「思春もいいわね?」

思「・・御命令とあらば」

楓と思春が一定の距離を保ち、対峙する。俺と雪蓮も2人から少し離れた位置に下がる。

楓「・・・」

思「・・・」

両者が睨み合う。やがて楓が口を開く。

楓「手を抜いてみろ、そんときは、分かってるな?」

思「元よりそのつもりだ」

両者が武器を構える。雪蓮が2人の中心に立ち。

雪「それでは始めるわ。勝敗は両者気が済むまでやりなさい」

雪蓮が右手を上げ、

雪「始め!」

雪蓮の手が振り下ろされる。

楓「はぁ!」

思「ふっ!」

両者が合図同時に動き出す。

ガキン!!!

楓のトンファーと思春の剣が交錯する。

ギギギッ・・!

両者が鍔迫り合いを始める。先に動いたのは・・。

楓「おらっ!」

楓だった。鍔迫り合いの最中、思春に蹴りを狙う。思春は後ろに一歩下がり、蹴りを避けると一気に距離を詰め、手持ちの武器である鈴音を楓に振るう。

楓「はっ、甘ぇ!」

楓は右手のトンファーで受け止める。すぐさま体勢を整え、左手のトンファーを振るった。

思「ちっ!」

思春は大きく後ろに下がり仕切り直す。しかし楓はその間を与えない。

楓「おらおらおらぁ!」

思「ぐっ!」

ガキン! ガキン! ガキン!

楓は思春の懐に飛び込み、間髪入れず攻撃を繰り出す。思春は防ぐので手一杯でなかなか攻撃に移れない。

思「舐めるな!」

思春は楓の右手の一撃を左足の裏で止め、左足で受けたトンファーを足場にして楓に右足の一撃を振るう。

楓「何!? ぐぁ!」

咄嗟に左手のトンファーで防ぐが体勢を大きく崩してしまう。その隙に思春は後ろに下がり体勢を整えた。

雪「今のところ互角ね。昴はどうみる?」

昴「今は大きく均衡は崩れてないが、時間の問題だ」

雪「というと、どっちが先に均衡を崩すの?」

昴「それは・・」

楓「はぁぁ!」

思「ぐっ!」

昴「楓だ」

雪「どうしてそう思うの?」

昴「そうだな、両方とも武器は違えど軽装の身の軽さを利用して速さで戦う武人だが、2人の戦い方は大きく異なる。まず楓は持ち前の速さで相手の懐を奪い、連撃を加え、一気に仕留める。思春は巧みに動きまわり、当てて退いてを繰り返しながら相手を追い詰める」

別の言い方で分かりやすく言えば、ボクシングに当てはめると楓はインファイトボクサーで思春はアウトボクサーだ。

昴「楓はだんだん思春の動きを見切りつつある。動きが先読みされてるから思春は守勢にまわらざるを得ない。何より楓は俺との模擬戦の回数を重ねてるから慣れてしまえば主導権を奪われることはまずないだろう。場所が障害物や遮蔽物のある例えば森林なら思春の方に分があるが対等でまっとうな条件での一騎討ちなら・・」

ガギィン!!!

思「うっ!」

思春は鈴音を弾き飛ばされ、そのまま尻餅を付き、トンファーを顔に突き付けられる。

昴「楓が勝つ」

勝敗は決した。

雪「勝負あったはね」

止めに入る雪蓮を俺は手で制する。

雪「・・何をするの?」

昴「まだだ」

雪「決着はもうついたわ!」

昴「まだだ! ここで止めたら意味がない!」

雪「何を言ってるの!? このままじゃ・・!?」

ふと見ると楓がトンファーを狙いすましている。

雪「どきなさい! どかないなら力ずくで・・」

昴「信じろ!」

大きく手を広げ、雪蓮を行き先をふさぐ。

楓「ウオオォォォォ!!」

雪「楓! 思春!」

楓のとどめの一撃が放たれた。


















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※※※※


思春side

私は雪蓮様より街の外へ連れ出された。何の用事か見当がつかなかったが、御剣昴が公績を伴って来たことで理解することが出来た。なるほど、この場で仇討ちをさせるということか。

楓「手を抜いてみろ、そんときは分かってるな?」

手を抜くつもりなど毛頭なかった。一騎討ちで手抜きはこれ以上にない相手への侮辱だ。全力で相手をする。いざ一騎討ちが始まると最初こそ互角だが徐々にこちらの動きが読まれ始め、防戦一方になる。

思「くっ!」

苦し紛れの一撃も鈴音ごと身体も吹き飛ばされ、眼前にトンファーを突き付けられた。

負けか・・。

勝敗はついた。しかし公績はとめるつもりはないようだ。

とどめか。

当然だな。一騎討ちにおいて最後相手にとどめを刺すのはごく自然なことだ。もはや恐怖等はなかった。もともと自分の命をくれてやるなら公績にと決めていたからだ。公績にはその資格がある。

蓮華様にもっと尽くすことが出来なかったのが残念だ。

それも今更後の祭、私は目を瞑り、覚悟を決めた。

楓「ウオオォォォォ!!」

とどめの一撃が放たれる。

ドゴン!!!

歯を食いしばる・・が激痛はいつまで経っても襲ってこない。目を開けると自分の顔の僅か右にトンファーが突き刺さっていた。




















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※※※※


楓side

楓「なぁ、どこまで行くんだ?」

俺は旦那に連れられて街の外に来ている。こんなふうに旦那に誘われるのは初めてだ。しばらく歩くと前方に2人の人影が見えた。片方が大将である雪蓮で、もう1人は・・。

楓「甘寧!」

甘寧だった。

楓「・・どういうつもりだ」

もしこの場で仲直りしろとか、仲良くしろとかほざきやがったら・・、いかに大将や旦那でも許さねぇ。しかし大将が口にしたのは・・。

雪「楓、思春、あなた達の王として命ずるわ。この場で孫伯符と御剣昴立ち会いのもと、一騎討ちをしなさい。」

思いもよらない命令だった。何せ今まで大将は甘寧との模擬戦及び兵の調練の相手さえ禁止してたからだ。大将の目は本気だった。旦那も同様だ。・・・上等だ! 俺と甘寧が対峙する。

楓「手を抜いてみろ、そんときは分かってるな?」

思「元よりそのつもりだ。」

やっとだ、やっとこの時が来た! 親父、見てろよ!

一騎討ちが始まった。やはり甘寧は強かった。さすが親父を倒しただけはある。だけど・・戦ってるうちにだんだん甘寧の動きに慣れてきた。何より、昴の旦那に比べれば遥かに容易い。

楓「はぁ!」

思「ぐっ!」

ガギィン!!!

俺は甘寧とその武器を弾き飛ばした。俺は倒れた甘寧にトンファーを突きつける。

思「・・・」

甘寧は覚悟を決めている。

グッとトンファーに力を込める。

親父、俺は甘寧に勝ったよ。

親父との想い出が走馬灯のように頭をよぎる。とても厳しく、とても強かった親父。忠義に厚く、孫家に全身全霊をもって尽くした親父。そして・・・豪快で優しく、男手1つで俺を育ててくれた親父。今・・ここで、全てが終わる・・。

楓「ウオオォォォォ!!」

俺は渾身の一撃を繰り出した。

ドゴーン!!!

俺は甘寧の眼前僅か右にトンファーを打ち込んだ。甘寧は少し驚いた様子だ。俺はトンファーを引き抜き、甘寧から離れる。

思「何故外した?」

楓「今の孫家の状況を理解出来ないほど俺も馬鹿じゃねぇ。お前は今の孫家には欠かせない人材だ。それに、親父の雪辱は果たしたしな。もうこれ以上は意味がねぇ」

思「私はお前の父を殺したのだぞ?」

楓「俺もお前も、そして親父も将であり、そして武人だ。戦場に立つ以上死は必ずついてまわるもんだ。それは戦の理であって誰が悪いわけじゃねぇ」

思「だが!」

楓「親父が死の間際に俺に言った。決して甘寧を恨むなと。自分は武人として栄誉ある一騎討ちの果てに逝くことができる。戦場に生きる者としてこれ以上にない死に方だ。悔いはない。お前は自分との想い出ではなく、未来を見ながら生きろ。そう言った。それでも最初は納得出来なかったが、お前を見てて、孫家と、何より蓮華殿に仕えるお前が親父に重なって見えた。お前は真面目で少し不器用だけど決して悪い人間じゃない。俺にはそう見えた」

思「公績・・」

楓「ホントはもっと早く話したかったんだけどよ、話そうとする度に親父の想い出が甦って、なかなか言えなかった。だけど今回お互い全力でぶつかって、何か吹っ切れちまった」

俺は甘寧に手を差し出す。

楓「改めて、俺は姓は凌、名は統、字は公績。真名は楓だ。これからよろしくな!」

甘寧が俺の手を握りしめ。

思「私は姓は甘、名は寧、字は興覇。真名は思春だ。よろしく頼む」

思春はフッと笑い、握手に応じてくれた。

楓「なぁ思春」

思「何だ?」

楓「親父は強かったか?」

思「あぁ、私が勝てたのは揺れる船上という地の利を生かしたに過ぎぬ。今回のような条件であったなら負けたのは私であっただろう」

楓「そうか・・」

ありがとな、思春。

楓「また機会があったら模擬戦に付き合ってくれ。最も次も勝たせてもらうけどな」

思「二度も負けるつもりはない。次は勝たせてもらう」

俺達はようやく仲間になれた。

そこに大将が近づいてきた。

雪「2人供お疲れ様」

楓「よう、大将」

思「はっ」

雪「急に呼び出して悪かったわね。とりあえずもう城に戻って構わないわ」

思「はっ、それでは」

思春は城に戻った。旦那はいつの間にか姿が見えない。

楓「あれ? 旦那は?」

雪「昴なら決着がついた後にすぐに城に戻ったわ。自分は部外者だからって」

楓「旦那」

部外者だなんて、そんなことねぇのに。

楓「しかしな、思春と一騎討ちだなんてよ、もし俺が思春を殺したらどうしてたんだ?」

雪「それは私も思ったわ。だけどね、今回の一騎討ちは昴が言い出したことなのよ」

楓「旦那が?」

雪「実はね・・」


















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※※※※


雪蓮side

早朝、今日はどうやって冥琳と仕事から逃げようかなって考えていると・・。

昴「おはよう、雪蓮」

雪「おはよう、昴」

そこには昴がいた。

昴「1つ頼みがある。聞いてくれるか?」

雪「あら、何かしら? もしかして夜伽のお願いかしら?」

昴「違う」

そうおどけて見せても昴は反応を示さない。おかしいわね、いつもの昴なら軽くのってくれるのに。

昴「今日、出来る限り人気のないところで楓と思春の一騎討ちをさせてほしい」

雪「!? ・・・それは何故かしら?」

昴「2人のわだかまりを解消するためだ」

雪「・・・」

昴「・・・」

どうやら冗談や酔狂ではないみたいね。・・祭辺りに事情聞いたのね。

雪「悪いけど、いくらあなたのお願いでもこれは聞けないわ」

昴「何故だ?」

雪「話は聞いてるんでしょ? 楓が思春を目の前にしたらどうなるか分からないわ。だから私は楓と思春との模擬戦はおろか合同の調練でさえ禁じたの」

昴「しかしこのままでは」

雪「分かってるわ。だけどね。正直楓の気持ちは痛いほど分かるのよ。もちろん思春は信頼してるし我が孫家には決して欠かせない人材よ。だけど誰かを憎む気持ちは痛いほど分かるの。私も母様を失ったから」

昴「雪蓮・・」

雪「もちろんこのままじゃいけないことも分かってるわ。だけど今は駄目よ。孫家復興のため、今は楓も思春も失うわけにはいかないの。だからあなたの願いは聞けないわ」

そう昴の願いに応じることは出来ない。

昴「仇・・か。雪蓮、楓は多分思春のことを憎んではいないと思うぞ」

雪「何故そう思うの?」

昴「楓が思春を見る瞳に殺意、殺気等がこもってないからだ」

雪「父を殺されたのよ?」

昴「あぁ。だけど思春は卑劣な策をもって楓の父を殺したわけではない。武人と武人の一騎討ちの果ての結末だ。悲しさはあるんだろうが憎しみはないんじゃないかな? 戸惑ってはいるだろうけどな」

雪「だけど、それはあくまでもあなたの予想でしょ?そんな曖昧なもので部下の命は賭けられないわ。」

昴「頼む」

雪「・・万が一、2人に何か起きた時、私達の失う者は計りしれないわ。その時はどう責任をとるの?」

昴「もし2人に何かあったらその時は・・俺の頸をはねろ」

雪「!? ・・・本気?」

昴「あぁ」

雪「・・・」

昴「・・・」

本気みたいね。そこまで言うなら昴を、天の御遣いを信じてみようかしら。

雪「分かったわ。2人のことは私も気掛かりだったからいい機会だわ」

昴「悪いな」

雪「それで、具体的にはどうするの?」

昴「雪蓮は街の外に思春を連れて待っていてくれ。俺も入れ違いに楓を連れていく」

雪「分かったわ。それでは後で会いましょう」

昴「ああ」

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


楓side

楓「昴の旦那がそんなことを・・」

雪「昴も無茶を言ってくれるわ」

やれやれと言った感じだ。

楓「旦那は俺が思春を憎んでるわけじゃないと分かってたんだな」

雪「分かってた、というより昴はあなたを信じていたんでしょうね」

楓「旦那が・・・俺を?」

雪「そ♪ 楓はそんなことをしない優しい娘だってね♪」

楓「そ、そんなこと」

嬉しいな、他でもない昴の旦那に信頼してもらえることが。

トクン!

楓「!?」

何だ? 胸が・・。

雪「? ・・楓、どうかした?」

楓「い、いや何でもない」

何だろう、急に胸が熱い。もしかしてこれが恋ってやつなのか? こんな気持ち、初めてだ。でも・・すごく心地いい。

孫家の繁栄のため・・か。

大将は俺達に孫家の繁栄のために昴の旦那と子を成せと言った。俺はどうせ将来自分を好きになる相手なんざ生涯現れないと思ってから孫家の為ならそれでもいいと思ってた。昴の旦那は強いし賢いから。だけど今は・・本気で昴の子を産みたいと思ってる。孫家の為とか関係なく、1人の女として・・。でも昴の旦那はその気はないみたいなんだよな。

どうすれば旦那が俺を見てくれるか、大将か祭さんかシャオちゃんに今度相談してみよう。

この話をして3人からからかわれるのはまた別の話である。

かくして楓と思春の長年のわだかまりは解け、新たな絆が生まれることとなった。









続く

-21-
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