小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第21話〜密林の捕縛戦、お猫様から始まる想い〜















昴side

今日は部隊訓練やるということで、祭さんから一緒に来るよう言われたので祭さんと穏の後について歩いている。後ろには20人前後の精鋭部隊がついてきている。ちなみに何の訓練かは聞かされていない。祭さんにいくら聞いても『現地で話す』としか言わないし。やがて森の中に入り、ある程度奥に行ったところで、祭さんと穏が足を止めた。

穏「このあたりですね」

祭「そうだな。皆のもの! これより訓練を開始する! 心してかかれ!」

祭さんの声で兵士達は一斉に辺りを窺い始めた。兵士達に緊張が走っている。それにしても・・・。

昴「なぁ、いい加減、何をするのか教えてくれよ」

祭「うむ、今日は、対工作員の訓練だ」

昴「工作員っていうと他国の諜報活動や破壊工作をする人間のことか?」

穏「そうです。工作員は明命ちゃんで、すでに前もってこの辺りに隠れているんです〜」

祭「その明命を、儂、穏、お主とそれぞれの3小隊で見つけて捕らえる、という訓練だ」

なるほど。

昴「それでこの森と後ろの兵士達を連れて来たわけか。・・・んで明命がさっきから付かず離れずの距離を保っているのはその為か」

祭「!? ・・・お主、明命に気づいておったのか!?」

昴「ん〜、まぁ、微かだけど森に入ってから気配がしたから」

穏「それで明命ちゃんはどこにいますか〜?」

昴「それなら・・」

ドサッ!!!

昴「一瞬傍まで来て、兵を1人気絶させて離れていった」

祭「っ!?」

穏「っ!?」

後ろの兵が倒れている。・・ん? よく見ると顔に・・・何か書いてあるな。どれどれ・・。

『一番にやられました。えへ』

昴「・・う〜ん」

祭「明命に捕まるとこのように顔中に落書きをされる。しかもこの墨は特製でしばらくは洗って取れない代物だ」

それはきついな、捕まって落書きされたら街中をその顔で歩くはめになる。・・・嫌だな。

昴「ま、とにかく明命を捕まえりゃいいんだな」

穏「そうです〜」

祭「しかし、このまま我が身を守ることを考えても意味がない」

穏「それでは小隊単位で動きますか?」

祭「そうだな。当初の予定通り、3小隊分かれて動くぞ」

穏「では、しばらく策敵したらこの地点に戻ってきましょう。もちろん明命ちゃんを捕まえることができればそれで終わりとなりますし」

祭「よし、それでいこう。それでは穏はあちら、儂は向こうを受け持つ。お主はそちらを頼む。」

昴「・・わかった。でも俺は1人でいい」

祭「!? ・・明命侮っておると危険じゃぞ?」

昴「大丈夫大丈夫。それじゃ、また後で」

祭「お、おい!」

俺は森の奥に進んだ。

















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しばらく1人で明命をやり過ごしながら森をうろうろしていると、たまに悲鳴や呻き声が聞こえてきた。どうやらあらかたやられちまったようだな。所々に兵達が倒れている。そして顔にはやはり落書きが。

『注意力散漫』

『先走っちゃいました。』

昴「酷いな」

さらには・・。

『卑怯もの』

『人間失格』

昴「何をしたんだこいつら」

こいつらはまだいい。酷いのは。

『何か嫌』

これは1番嫌だな。何か嫌って何か嫌(笑)

『長男のくせに』

いいじゃん別に、長男でもいいじゃん。

『肉まん』

・・・もはや書くこと無くなったんだろうな。再び周囲を探索していると・・。

昴「!? ・・・穏、祭さん・・」

そこには変わり果てた2人の姿が。その顔にはやはり・・。

昴「むごいな・・」

穏の顔には『存在価値は巨乳のみと』祭さんには『乳に栄養行きすぎ』と書かれていた。私情からの悪意がこめられた落書きだった。

昴「穏、祭さん、仇は取る。だから今は・・」

安らかに眠ってくれ。俺はそっと2人の瞳を閉じた。

(注)死んでいません。

昴「さてと、そろそろマジになるとしますか」

俺は周囲の探知を始めた。
















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明命side

訓練が始まってからだいぶ経ちました。兵達を始め、祭様、穏様も捕らえ、後は昴様だけです。のらりくらり逃げていましたが私を捕まえる素振りも見せなかったので後回しにしましたがもう終わりです。昴様の強さはよくご存知ですが、この森の中なら負けません。

見つけました!

昴様は木々の間を特に周囲を警戒することなく歩いている。

ご自分を過信なさっているのか、それとも私を侮っているのか、どちらにしろ迂濶ですよ!

昴様は大木の影に隠れましたがもう遅いです。

明「それでは参ります。お覚悟を」

昴「おう、頑張れよ」

明「はいです。これから捕まえますので見ててくださ・・い」

私の後ろにはいつの間にか昴様がいた。

昴「よっ」

明「!? そんな、確かにあの大木の影に!?」

そんな!? 私が見過ごした?

昴「ボーッとしてていいのか?」

!? ・・しまった!

明「くっ!」

一度距離を取ります。この森は私の庭のようなものです。一度体勢を整えます。ある程度森の中を進み、茂みに姿を隠す。

明「それにしても、いつの間に私の背後に回ったのでしょう?」

昴「君が俺から僅かに視線を外した時さ」

明「あんな一瞬のことで、すごいです」

昴「すごいだろ」

明「ですが私も負けませ・・ん・・!?」

私の背後には、

昴「よう」

そんな、何で!?

明「それなら!」

私は木の太い枝に掴まり、木々の上を渡り歩いて距離を取る。

明「これならいかに昴様でも・・」

後ろを確認するがついてきていません。振り切った! 一瞬安堵して正面に視線を戻すと進行方向の枝の上には昴様が。

昴「これはこれは、お久しぶりです」←○リーザの声。

明「何で!?」

昴様は規格外です! ですが捕まるとわけにはいきません! 昴様に捕まる前に他の枝に!すぐさま他の枝に飛び移ったが・・。

バキッ!!!

明「はっ!?」

枝が私の体重に耐えられず、折れてしまった。

明「しまったです!?」

飛び移った先はかなり高い。予期せぬ事態のため、体勢も悪い。このままでは頭から落下してしまう。咄嗟に頭を守り、目を閉じて落下の衝撃に備える。しかし衝撃はいつまで待っても襲ってこない。おそるおそる目を開けると・・。

昴「ふぅー、間一髪だ」

私は昴様に抱きかかえられていた。

















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昴side

俺は明命を捕まえるため、先回りし、明命を待ち受ける。先回りされた明命は焦って傍の木に飛び移ったが・・。

バキッ!!!

枝が明命の体重に耐えきれずに折れてしまった。

昴「!? ・・まずい!」

明命は想定外のことで対応出来ていない。このままでは頭から落ちてしまう。この高さから頭から落下したら最悪死ぬ。

昴「間に合えー!」

枝を蹴り、明命を追いかける。間一髪、明命に追いつき、抱きかかえ、木の幹を蹴りながら地面に着地をする。危ねぇ危ねぇ。明命がおそるおそる目を開ける。

昴「ふぅー、間一髪だ」

明「えっ? 助かった?」

昴「油断大敵だぞ? 明命」

明「ごめんなさいです。・・・ですが・・」

昴「ん?」

明「その気になれば昴様はいつでも私を捕まえられたのですね」

昴「えーっと・・」

ぶっちゃければそのとおりだ。あまり早く捕まえたら訓練にならないし何より明命の面目を潰すことになる。

明「いえ、いいんです。私が未熟なだけですから」

あちゃあ、明命落ち込んじゃったな。

明「ところでですね」

昴「どうした?」

明「あの・・そろそろ下ろしていただけないかと・・」

俺はさっきからお姫様抱っこのままだ。明命は恥ずかしそうだ。だけど・・。

昴「そういや、俺達が捕まったら顔に落書きされるんだよな」

明「そ、そうですけど」

昴「なら明命は俺に捕まったんだし、明命も罰を受けなきゃ駄目だよな?」

明「そ、それは」

昴「とりあえず明命はこのまま俺と城に戻ろうな?」

明「えぇ〜! そんなの恥ずかしいです! ご勘弁を!」

昴「ダ・メ♪」

明「うぅ〜、酷いです〜」

かくして訓練は終わり、城に戻った。途中街で祭さん達は笑われ、明命は終始恥ずかしそうだった。

















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翌日、仕事が一区切りし街へ繰り出していた。

昴「何か面白いことないかな〜」

誰かを誘おうと思ったけど皆忙しそうだった。仕方なく1人で街に来ていた。

昴「とりあえずあの店でも・・・ん?」

表通りから離れたところで、何やらしゃがみこんでいる人影を見つけた。あれは・・明命だな。何をやってるんだ? その傍らには猫が1匹。猫はどうやら日向ぼっこをしながらボーッとしているようだ。

明「お猫様お猫様。日向ぼっこ中ですか? 気持ちよさそうですね」

どうやら明命は猫にアタックをしているようだな。

明「今日はいいお天気ですし、日向ぼっこには最適ですねー」

何やら話しかけているようだ。

明「ところで・・そのモフモフの毛、気持ち良さそうですねー」

猫は特に反応はない。

明「よろしければモフモフさせてもらっていいですか?」

猫は無反応。

明「お願いしますー。えっと、ほら、ちゃんとお礼の品も用意してありますよ」

明命はそう言うと懐から一握りの煮干しを取り出した。猫はどうやら反応を示したようだ。その声は何やらめんどくそうだ。

明「えへへ、ありがとうございますー。・・それでは失礼しますね」

明命はその声を了承ととり、日向ぼっこ中の猫をゆっくり手を伸ばし、そっと抱き上げた。

明「えへへ〜、それでは失礼しますね」

モフモフモフモフ。

明「はぅわ〜・・・モフモフ気持ちいいです〜」

モフモフモフモフモフモフ・・。

明「あぅぁぅ〜。たまりません〜〜。」

明命はモフモフを続けている。おぉ〜、明命も猫も可愛いなぁ〜。

明「モフモフ気持ちいいです〜。最高です〜」

モフモフモフモフモフモフ。

明命気持ち良さそうだな。だけどあんなにモフモフしたら猫は・・・。

猫「・・うなぁ!」

明「あいたっ!」

あらら、案の定指を引っ掻かれちゃったな。

思わず猫を手放し、その隙に猫は立ち去ってしまった。

明「あぅぅ〜」

明命は、その猫を物欲しそうな、申し訳なさそうな表情で見送るしかなった。俺はそこまで見届けて、明命に近づいた。

昴「よう、手は大丈夫か?」

明「はぅわ!? どうして昴様が。・・ひょっとして、見ておられたのですか?」

昴「いや、俺は『お猫様お猫様。』辺りからしか見てないぞ?」

明「あぅぅ、ほとんど全部です〜」

顔真っ赤になっちゃったな。・・あぁ、そうだった。

昴「手、見せてみな。・・血が出てるな」

明「あ、こ、このくらい・・」

右手の人差し指から血が出ていた。とりあえず内功で・・・いやその前に消毒しなきゃ駄目だな。とりあえず俺は明命の手をとり、人差し指をそのまま俺の口に運んだ。

クチュ、チャポン。

明「っ!?」

軽く傷口を吸い上げる。

昴「とりあえず後は・・」

そういや右のポケットに・・・あった。バンソーコーを取りだし、傷口に貼り付けた。

昴「これでよし。これは貼る薬だから城に戻るまで貼ったままにしとけばすぐに治る」

明「・・//」

昴「ま、一応城に戻ったら軟膏を塗っておけ。動物の爪は汚れてることが多いからな」

明「は、はい。ありがとうございます//」

明命は何やらうつむいてしまった。

昴「ん? どうした?」

明「い、いえ・・その・・・失礼します!」

明命は脱兎の如くの勢いで走り去ってしまった。

昴「明命の奴、一体何が・・・ああ」

女の子の指をくわえるなんざ、いくら治療のためとはいえ・・よく考えなくても分かるよな〜。後でちゃんと謝らないとな。


















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明命side

明「あぅあぅ、びっくりしてしまいました」

昴様が突然あのようなことを・・。
昴様がくわえた指に目を落とす。

明「昴様・・」

戦では無双の如く強さと孫史の如く知略を持つ昴様。以前の訓練でいとも簡単に私を捕らえてしまう昴様。何より私以上の美しい髪とお顔を持つ昴様。

明「・・私は一体どうしたら良いのでしょう?」

あの方はこの大陸に轟く天の御遣い。私ごときが好きになってもいいのでしょうか? 雪蓮様や蓮華様の方が相応しいのでは・・。

明「私なんかが・・」

素敵な事のはずなのに、今はそれが辛い。

明「昴様・・」

明命はただ1人の愛しき人を想い、静かに涙を流した。









続く

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