小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第29話〜最後の宴、そして旅立ち〜















戦に完勝し、孫家の面々は城へと帰還した。現在、城の庭に孫家の将が集められた。

雪「皆、お疲れ様。此度の戦、あなたたちの活躍で完勝を果たすことができたわ。今日はゆっくり体を休めてちょうだい」

「「「「御意」」」」

雪「それと・・」

雪蓮がこちらを向き・・。

雪「荊州に蔓延った黄巾党の残党は駆逐された今、あなたとの契約は終わるわけだけど、昴、あなたこれからどうするの?」

皆の視線が俺に集まる。

昴「・・準備が出来次第、ここを出発しようと思ってる」

「「「「!?」」」」

皆が驚愕する。

雪「そう・・・。出発はいつ?」

昴「準備を含めて明後日だな」

祭「急じゃな」

楓「そんな・・」

思「・・・」

雪「なら盛大に祝勝会と一緒に送別会をしなきゃね♪」

昴「そんな気を使わなくても・・」

雪「私達はあなたにずいぶん助けられたわ。そのお礼をしたいのよ。だからこれくらいはさせなさい」

そう言われたら断られないな。

昴「わかった。楽しみにさせてもらうよ」

雪「話は決まったわね。ならこれで解散するわ。皆、早々に片付けを終えなさい」

「「「「了解!」」」」

各々が作業に動きだした。

昴「俺も手伝おう」

皆の後に続いた。


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


帰還したその日は片付けを早々に終わらせ、眠りについた。翌日、早朝に起床し、残された仕事を終わらせ、業務の引き継ぎ作業も夕方に終わらすことができた。そしてその夜・・。

雪「それでは、荊州の賊の掃討と昴の旅の無事を祝って・・」

「「「「乾杯ーー!」」」」

皆が天に器を掲げ、宴は始まった。卓には様々な料理と酒が並んでいる。場所は庭先で、あえて椅子は置かず、いわゆる立食パーティーである。以前に何気なく雪蓮に話したことがあるので、それを参考にしたのだろう。俺が酒と料理をつついていると・・。

明「す、昴様! これ、よろしければどうぞ!」

明命が料理を持って俺のところにやってきた。

昴「これは、明命が?」

明「はい! 是非、召し上がってください!」


昴「それなら遠慮なく」

俺は一口料理をいただく。

昴「これは、美味い!」

明「本当ですか!?」

昴「本当に美味しいよ。どことなく味は祭さんの料理に似てるけどもしかして・・」

明「はいっ! 私の料理の師匠は祭様なんですっ!」

昴「へぇー、どおりで・・、うん、美味い。明命はきっといいお嫁さんになれるよ」

明「はぅわ!? お、お嫁さんですか!?」

昴「ああ。料理は美味しいし、相手に尽くしてくれるしその上可愛いしな。明命の夫になる人は幸せ者だな」

明「あぅぁぅ//」

ハハッ、顔が真っ赤だな。

明「・・あ、あの!」

昴「ん?」

明「もし、もし私が昴様のお嫁さんでしたら、その、どうですか?」

昴「それはもう毎日可愛がって愛でまくっちゃうだろうな♪」

明「・・!? //・・あ、お、お猫様です!」

明命が突如茂みへと走りだした。

昴「慌ただしい娘だな」

明命の姿を目で追っていると・・。

祭「あまり年頃の生娘をからかってくれるな」

昴「祭さん」

祭「ほれ、儂からじゃ」

祭さんからはなかなか上物そうなお酒と・・。

昴「青椒肉絲だ、いただきます!」

すぐさま青椒肉絲を食した。

祭「これこれ、慌てて食べなくても料理はなくならぬぞ?」

昴「だってこれ美味しいし!」

祭「まったく・・ほれ、口が汚れておるぞ?」

祭さんが手拭いで俺の口を拭ってくれた。

昴「あ、すみません」

祭「まったく、子供じゃあるまいし・・・・儂の夫になれば毎日食べられるぞ?」

昴「魅力的な提案ですが、俺には待っている人がいますから」

祭「そうか・・・残念じゃ」

俺は祭さんの料理を全て平らげた。

昴「ふう、ご馳走様!」

祭「お粗末様じゃ。・・・儂の料理が食べたければいつでもまた来い。ご馳走してやる」

昴「ありがとう、祭さん」

祭「皿は儂が片しとく、お前は他の者ところに行ってやれ」

昴「分かりました。では失礼します」

俺は祭さんのところを離れ、場所を変えた。

昴「よう、亜莎」

亜「す、昴様!?」

昴「隣いいか?」

亜「ど、どうぞ!」

亜莎の卓にある料理をいただいた。

亜「こ、此度の戦、お疲れ様でした!」

昴「お疲れ様。亜莎もよく頑張ったな」

亜「いえ、私なんか・・策を提示され、自ら実行し、成功に導いた昴様に比べたら・・」

昴「そんなことはない、亜莎はちゃんと冥琳の補佐をしてたじゃないか」

亜「私なんて・・先日の戦で昴様や冥琳様を拝見させていただいて、私との大きすぎる差を痛感させられました。私に雪蓮様や蓮華様の軍師が務まるとは思えません。せっかく昴様に推挙していただいたのに・・」

昴「・・・」

亜「私、怖いんです。いつか自分のたてた策のせいで皆を死なせてしまうのではないかと。だから私に軍師なんて・・」

亜莎の瞳からは一筋の涙が流れ出した。

昴「駄目だよ亜莎」

亜「はい。私は駄目な軍師です」

昴「いや、そうじゃなくて。亜莎、俺や冥琳が初めから今のように軍師を務められてたと思うのか?」

亜「そ、それは・・」

昴「俺も冥琳も努力をしたからこその今がある。もし及ばないと感じたならもっと努力すればいい」

亜「・・・」

昴「俺は亜莎に冥琳を助けてほしいと言った。けどな、素質も素養も何もない人間を軍師に推挙するほど俺は浅はかではないぞ?」

亜「昴様・・」

昴「自信を持て。軍師はな自身の策を疑わず、例えハッタリであっても迷いや不安を顔に出しちゃ駄目だ。仮に被害が出ても自分がいなければもっと被害が出ていたんだと、堂々とするんだ。亜莎だって不安な顔をして策を出されたら安心してこなせないだろ?」

亜「グスッ・・はい」

亜莎は瞳から流れた涙を袖口で拭った。そんな亜莎を俺は優しく亜莎を抱きしめた。

亜「・・っ//」

昴「俺を信じろ。例え自分自身を信じられなくても、亜莎が信じる俺を信じてくれ。そして自分が信じられるくらいまでいっぱい努力するんだ。いいね?」

亜「は、はい!」

昴「せっかくの祝いの宴だ。ほら笑って笑って!」

亜「ふふっ、そうですね」

やっと笑ってくれたな。

亜「私、もっともっと頑張ります! 皆さんのために。そして・・・私を推挙していただいた昴様のために・・(ボソッ)」

昴「ん? 最後よく聞こえなかったな?」

亜「い、いえ// 何でもありません!」

昴「?、そうか・・」

何でもないならいいけど・・。

と、その時後ろから・・。

穏「昴さ〜ん」

昴「おっ、穏?」

突然涙目の穏が後ろから抱きしめられた。

穏「グスッ、昴さんがいなくなったら、グスッ、私、本が読めなくなってしまいます〜」

そうなのだ。穏は本を読むと暴走モード(俺が命名)に突入してしまい、しばらく手がつけられなくなってしまう。そのため、近くに俺がいないと止められる者がいないため、基本的に俺が傍にいないときは読書を禁止させられている。これでも当初に比べて、多少はマシになったが・・。

穏「グスッ、私、どうしたら〜・・」

昴「ま、我慢しろよ」

穏「そんな〜。(T_T)」

だって不意を付かれたら俺でもアウトだから他の者には無理だろうしな〜。今の穏は兵法書や経済各書の入門書的な本なら大丈夫だが、孫子や孟徳新書等といった内容が濃く、深い本になると多少、暴走モードまでの時間が延びたものの、まだ全然駄目である。

穏「でも・・でも、そんなことより・・」

昴「ん?」

穏「昴さんがいなくなってしまうことが1番悲しいです〜」

昴「穏・・」

穏「私のこと、忘れないでくださいねぇ〜」

昴「ああ。忘れないよ」

いろんな意味で忘れないと思うが。

穏「絶対に絶対ですよ〜?」

昴「絶対に絶対だ」

穏「ん〜・・♪ 昴さん」

昴「ん?」

穏のほうへ振り向くと・・。

チュッ。

昴「っ!?」

そっと触れるだけの口付けを交わされた。

穏「これで忘れませんよね?」

昴「あ、ああ//」

穏「ふふっ、それでは失礼しますね〜♪ 亜莎ちゃんも行きましょうね〜?」

亜「は、はい!」

穏は嬉しそうな顔しながら去っていった。亜莎もそれに続く。

昴「まったく・・・// ん?あれは・・」

ふと庭の片隅を見ると・・。

昴「あれは蓮華に・・・思春か?」

何やら大きな木の傍であれは、揉めてるのか?

蓮「思春、いつまでもそんなところに隠れてないで、あなたも宴に参加なさい」

思「い、いえ、私は・・」

昴「蓮華、どうしたんだ?」

蓮「昴? ほら思春。いつまでもそんなところにいないで・・」

思「れ、蓮華様、ご勘弁を・・わっ!」

蓮華に引っ張られ、木の影から飛び出す。

昴「おお・・」

木の影から飛び出した思春は以前に贈った、赤のワンピースを着ていた。(帽子はなし。)

昴「気に入ってくれたみたいだな」

思「// か、勘違いするな! これは最後だから、その、義理だ! 義理で着ているだけだ!」

昴「そうなのか?」

蓮「ふふっ。思春はその服、とても気に入っているのよ」

思「れ、蓮華様! そのようなこと!」

蓮「あら? 私はあなたが部屋でその服に袖を通しているのを何度か見かけたのだけれど?」

思「れ、蓮華様! そ、それは!」

昴「まあ何にせよ、また着てくれて嬉しいよ」

思「ふ、ふん//」

思春は照れながらそっぽを向いた。

蓮「ほら思春。あなたもこちらに来なさい」

思「か、畏まりました」

思春は蓮華に続き、料理が並ぶ卓へと向かった。再び、料理を楽しんでいると・・。

小「あ〜! 昴こんなところにいた〜!」

シャオが俺達のいる卓にやってきて、俺の腕を取った。

小「ぶ〜、昴はシャオの夫なんだから、傍にいなくちゃ駄目でしょ〜!」

いつの間に夫に・・。

小「にひっ♪ シャオが食べさせてあげる。・・・ん・・」

シャオが料理を口にくわえてそのまま俺に顔引き寄せる。

小「ん〜」

ゴン!!!

そんなシャオを蓮華1つ拳骨を落とす。

蓮「小蓮! お前も孫家の姫なのだからあまりはしたない真似をするな!」

小「いったぁ〜い! もう、何するのよ!」

蓮「何するのよ、ではない!」

小「料理を食べさせてあげるのは妻の務めでしょ!」

蓮「誰が妻だ!」

蓮華がシャオにお説教をしている。
うーん、微笑ましい姉妹喧嘩・・・なのかな?
そんな2人を思春が仲裁に入る。

思「蓮華様、小蓮様、その辺に・・」

小「あ〜! 思春が可愛い服着てる!」

どうやらやぶ蛇だったみたいだ。

思「こ、これは・・」

小「その服、昴が贈ったんでしょ? ずる〜い! シャオにも何か買ってよ!」

蓮「我が儘を言うな小蓮!」

小「む〜!」

再び2人が姉妹喧嘩を始める。

昴「蓮華とシャオは相変わらずだな」

思「そうだな」

そんな2人を俺と思春が遠巻きに見守る。

思「お二方、特に蓮華様は変わられた。以前の蓮華様は孫家の姫という重圧に縛られていた。貴様が来てからはご自身のお心に余裕が持てるようになった。礼を言う」

昴「何、俺はきっかけを与えただけだ」

依然として蓮華とシャオは姉妹喧嘩を繰り広げている。

昴「そろそろ止めてやるか」

思「そうだな。・・・っ!?」

ふと一歩踏み出した時、慣れない服を着ていたため、思春が裾を踏み、躓いた。

昴「おっと、大丈夫か?」

躓いた思春を抱き止める。

思「・・・っ//」

眼前には思春の顔があった。思春が目線を逸らし・・。

思「・・き、気が向いたら戻ってこい。貴様なら蓮華様を、孫家を導けるだろうからな」

昴「ありがとう。思春、たまにでいいから街のあの子供達と遊んであげてくれ」

思「ふふっ、貴様に頼まれるまでもない」

良かった。これで心残りが1つ消えた。

思「・・・」

昴「・・思春?」

思春がジッと俺を見つめ、やがて目を閉じた。そして自身の顔を俺にそっと近づけたその刹那・・。

蓮「こ、こほん!」

小「・・思春?」

思「・・っ//」

慌てて俺から離れる。

思「こ、これは・・・その・・」

思春は顔を真っ赤にしながらしどろもどろとしている。

小「思春! 昴はシャオの夫なんだから手を出しちゃ駄目なんだからね!」

思「っ// ・・・し、失礼致します!」

思春が顔を真っ赤にしながらものすごい速さで駆け出した。
思春、そんなに急いだらまた裾を踏むぞ。

小「こら〜! 待ちなさい!」

シャオもそれに続く。

蓮「まさかあの思春がね」

昴「蓮華」

蓮「以前の思春なら考えられないわね。これもきっと昴に出会ったことで変わったのね」

昴「そうなのか?」

蓮「そして私も・・・。昴、私はあなたに出会うまで雪蓮姉様になることばかり考えてたわ。それが私の務め、ひいてはそれが孫家のためだと。でも、それは違っていた。私は私以外になりえない。それを昴が教えてくれた。私はこれから私自身の道を歩き、雪蓮姉様と同じ高見を目指すわ」

昴「ああ。それでいい」

蓮「あなたも驚くぐらいの高見を登ってみせるわ」

昴「楽しみにしてるぜ」

蓮「ありがとう。・・・ところで雪蓮姉様はどこに行ったのかしら?」

昴「雪蓮なら、ほれ」

俺が親指で俺の後方を指差した

昴「あそこの卓で祭さんと飲み比べしてるぞ。」

蓮「まったく! 孫家の家長ともあろう者が・・、姉様! 皆の前ですよ!」

蓮華は雪蓮を諌めに向かった。
すごい飲みっぷりだな。するとそこへ・・。

冥「楽しんでいるか?」

昴「ああ、冥琳。もちろん楽しませてもらってるぞ」

冥「そうか、ならばいい」

昴「雪蓮、止めなくていいのか?」

冥「何、今日くらい構わないさ。・・・それより、貴様がいなくなっては戦場で雪蓮の手綱を握れる者がいなくなってしまうな」

昴「雪蓮はすぐに最前線に出たがるからな」

冥「それに、雪蓮がサボった分の仕事をこなす者もいなくなる」

やっぱり雪蓮の分も上乗せされてたんだな。

昴「ま、戦場はともかく、仕事に関しては亜莎がいるだろ?」

冥「そうだな。・・・そんなことより・・私は軍師としてではなく、私個人として昴を引き留めたいと考えている」

昴「冥琳・・」

冥「ふっ、今のは独り言だ。どうやら私も酔っているらしい」

昴「ありがとな」

冥「礼など不要だ。そんなことより、まだ話をしていない者もいるのだろ? そっちに行ってやれ」

昴「ああ。分かった」

俺は冥琳の言葉に従い、まだ話しをしていない楓を探した。しかしどの卓にも楓はおらず、暫し探していると、卓から離れた場所で楓を見つけた。

昴「楓、ここにいたか」

楓「うお! 旦那か」

昴「隣、いいか?」

楓「構わねぇよ」

楓の横に腰かける。

楓「・・・」

昴「・・・」

楓「・・・なあ」

昴「ん?」

楓「行くのか?」

昴「・・ああ」

楓「ここに残ろうとは思わないのか?」

昴「悪いな。俺には俺を待ってくれている仲間がいる。だから行かなくちゃいけない」

楓「そうか・・」

楓は項垂れた。

楓「だったら・・・だったら俺も・・・ん!?」

俺は楓の口に人差し指を当てた。

昴「そっから先を言葉にしたら君は一生後悔することになる。君の居場所はここだろ?」

楓「・・・そうかよ。・・・なら!」

楓が俺の頬に口づけを交わした。

昴「か、楓・・」

楓「// こ、これぐらいは許せよな! そ、それじゃあな!」

楓が颯爽とこの場を離れた。するとすぐさま・・。

雪「まさかあの楓がね〜」

入れ違いに雪蓮がやってきた。

雪「どう? 一杯?」

雪蓮が酒を前にかざした。

昴「いただくよ」

俺は雪蓮から器をもらい、酒を注いでもらった。

雪「楓はね。昔から武一辺倒でね、それ以外に何も関心を持たなかったのよ? 今では私やシャオなんかにおしゃれについて聞いてくるのよ? 変わったわ」

昴「そうか・・」

雪「皆変わったわ。蓮華もシャオも、思春も祭も穏も、あの冥琳も。・・・そして私も・・」

昴「・・・」

雪「・・・」

俺は酒を煽った。

雪「ねえ、昴。あなたここに残る気はない? あなたがいれば母様の悲願を果たせると思うの」

昴「・・・悪いな。俺には帰らなくちゃならない場所がある」

雪「そう・・」

昴「それに俺なんかいなくたって雪蓮の母君の悲願を果たせると思うぞ?」

雪「・・分かったわ。これ以上は聞かないわ。でもね・・」

昴「!?」

雪蓮が俺の顔を引き寄せ、おもむろに口づけを交わした。

雪「ん・・」

クチュン・・、チョロ・・。

昴「っ!?」

その口づけは情熱的で、強引に舌を絡めてきた。

雪「ぷはっ!」

しばらく口づけを交わすと雪蓮は顔を離した。俺と雪蓮の口からは一筋の光る糸が伝った。

昴「っ〜//」

雪「王としては諦めても、女としては諦めるつもりはないからね♪」

昴「あ・・う・・//」

雪「ふふっ、後でね♪」

雪蓮は再び祭さんのもとへ向かっていった。

昴「ったく、雪蓮の奴//」

俺はしばらく口づけの余韻に浸った。ほどなくして宴はお開きになった。各々が部屋に戻り、そして夜が開けた。
















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴「世話になったな」

雪「こっちも随分助けられたわ」

祭「昴よ。また尋ねてこいよ」

昴「はい。機会があれば」

穏「昴さ〜ん、お達者で〜」

昴「穏も元気でな」

蓮「昴、あなたの言葉、忘れないわ」

昴「君の成長、楽しみにしてるよ」

思「次会うときまでに貴様より強くなってみせる」

昴「また手合せしような、思春」

小「次会ったら式を挙げるんだからね! 忘れないでね!」

昴「・・約束は出来ないけどまた会おうな」

明「昴様。私のこと忘れないでくださいね」

昴「忘れないよ。今度は可愛い猫でも連れてくるよ」

亜「昴様、旅のご無事をお祈りします。私は、昴様の名を穢さない軍師になってみせます」

昴「君にならなれるさ。頑張れよ」

楓「旦那、今度会うときまでに、武も知もそれと女も、もっともっと磨くからな!」

昴「次会う時を楽しみに待ってるよ」

冥「昴」

昴「ん?」

冥「餞別だ」

渡されたのはお金だった。

冥「お前が働いた分の給金だ。それと・・。情報によると、義勇軍の劉備という者が黄巾党の争乱の際の活躍が認められ、今は平原の相に任命されたらしい」

昴「何から何まですまないな」

冥「気にする程のことではない」

昴「あ〜そうだ!」

俺は手持ちの鞄から、丸薬が入った袋を取りだし・・。

昴「これを渡しとく。これを眠る前に一粒服用すれば眠った時間の3倍の効果の睡眠時間得られる丸薬だ。冥琳のことだから無理をするなと言っても聞かないだろうからな。無くなったら調合の材料の書いた紙も一緒に入れておいた。割りと手に入る材料だから集めるのは簡単だ」

冥「すまないな」

冥琳は丸薬の袋を受け取った。

雪「昴、必ずまた会いましょう!」

昴「ああ、必ずな」

さて、そろそろ出発するか。

昴「それじゃそろそろ行くな。皆! またな!」

俺は大きく手を振り、皆の姿が見えなくなるまで振り続けた。俺の、孫家での日常が終わりを告げた。

昴「さてと・・」

黄巾党の首魁である張角はもういない。残党である目ぼしい黄巾の将もあらかた荊州で討ち取られた。他の残党はそのうち諸候に鎮圧されるだろう。これで全て解決・・・とは行かないだろうな。今回の争乱で漢王朝の支配力の低下が白日の下に晒されたからな。黄巾の乱は言わば始まりに過ぎない。しばらくは平穏が続くだろうが、それもほんの僅かな時間だろう。もし次に何か起こるとすれば・・。

昴「都、洛陽辺りか・・」

桃香と合流する前に都を見ておくか。

俺は都洛陽を目指し、進み始めた。

1つの物語が終わり、新たな物語が始まった。











続く

-30-
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