小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第38話〜洛陽潜入、董卓の心〜















昴「ん・・」

目が覚めると天幕の中だった。

昴「・・・あぁ、そういや氣を使い果たして倒れたんだっけな・・」

徐々に頭が覚醒し、現状を把握してきた。

昴「さてと・・」

詳しい状況を聞くため、起き上がろうとすると・・。

ファサ・・。

天幕の入り口が開いた。

桃「ご主人様?」

昴「・・おはよう、桃香」

桃「ご主人様ー!」

桃香が俺に抱きついた。

昴「と、桃香?」

桃「良かった・・良かったよぉ・・」

昴「・・心配かけたな」

桃香が俺に胸で涙を流している。桃香の頭を撫でていると・・。

愛「ご主人様!」

鈴「お兄ちゃん!」

朱「ご主人様!」

雛「ご主人様〜!」

星「主。」

ぞくぞく皆が天幕にやってきた。

昴「皆も心配かけたな」

愛「申し訳ございません。我らが不甲斐ないばっかりに・・」

昴「そう言うな。皆良くやってくれてるよ」

鈴「鈴々、もっと強くなるのだ!」

星「私もいつか主に肩を並べるまで精進いたします」

昴「期待してるぜ・・・ところで、俺はどのくらい眠ってた?」

朱「今日でちょうど2日程です」

昴「2日か・・」

ずいぶん眠りこけたな。氣の使い手の唯一の弱点。氣を使い果たすと体が極度の疲労困憊状態になって、長い時間眠りについてしまう。こればかりはどうにもならない。恋との一騎討ち。どんどん強くなる恋との戦いが楽しくい真っ向勝負で、それも全力で戦った。言うなれば蛇口の水を全開にして氣を垂れ流しながら戦ったようなものだから当然尽きるのも速い。もっとも、手持ちの札をもっと早く切るか、相手の虚を付き、もっと駆け引きをしながら戦うかすればこうはならなかったんだろうけど・・・そんな考え頭の片隅にもなかったな。

昴「それと、今の状況を詳しく教えてくれ」

朱「はい。虎牢関の戦は呂布さんと張遼さんの隊が関を飛び出し、袁術さんの軍に突撃した後、張遼さんの隊が曹操さんの軍に止められ、張遼さんとその隊は曹操さんに投降しました。呂布さんの隊は連合に囲まれながらも善戦していましたが、ご主人様に呂布さんを討たれたことにより士気が完全に低下し、残りの手勢で包囲を一点突破し、戦場を離脱しました。虎牢関は完全に連合が制圧しました。制圧作業が終わり、洛陽に向けての軍議が先ほど行われたのですが・・」

昴「? ・・・どうした?」

雛「洛陽への先陣は私達が切ることになってしまいました」

昴「あぁ、なるほど・・・大方、袁紹辺りに押し付けられたか」

桃「うぅ、ごめんなさい。私が不甲斐ないばっかりに・・」

昴「桃香のせいじゃないさ。多分俺が行っても同じだったろうよ」

桃「私には代わりに兵糧とか武器を出してもらうだけで精一杯でした」

昴「上出来上出来。後は進軍して状況見ながら考えよう」

桃「分かったよ」

朱「御意です」

昴「それじゃ、今まで通りに準備を始めようか」

起き上がろうとすると・・。

愛「ご主人様はまだ休んでいてください」

星「準備は我らが致しますので」

昴「もともと怪我はしてないし、丸2日寝てたからもう大丈夫だよ」

愛「我々だけでも大丈夫ですのでご主人様は体を休めていてください」

鈴「そーそー。後は鈴々達に任せるのだ!」

昴「・・・分かった。ならお言葉に甘えさせてもらうよ」

愛「それでは私達は行きますので、何かあればお呼びください」

昴「すまないな」

朱「それでは失礼します」

桃「無茶しちゃ駄目なんだからね」

昴「分かった分かった」

皆は天幕から出ていった。

昴「ふぅ・・」

休んでろと言われても、2日も寝てたからジッとしてる方が体に悪いな。とりあえず、外に出て、連合の陣でも散歩するかな。













・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


天幕を出たものの、

昴「何処行くかな・・」

連合って言っても味方ではあっても仲間ではないからな。あまり馴染みのない軍に行っても迷惑なだけだろう。

昴「とりあえず、雪蓮のところにでも行くか・・」

俺の策に乗ってもらった形だし。恋との一騎討ちの手柄をいただいた礼もしないとな。

昴「それにしても・・」

「・・(チラッ)」

「・・(ボソボソ)」

さっきから会う奴会う奴が俺の方を見てるな。別段殺気とか向けられてるわけじゃないから・・・いいか。雪蓮の陣は・・・こっちか?

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴「ここだな」

陣はほどなくして見つかった。

昴「そこの君、孫策殿に会いたいんだが」

「孫策様は今忙し・・御剣昴様!」

昴「おっ? 君は・・」

「自分は荊州の賊の掃討の際、孫策と昴様の率いていた先陣の隊にいた者です」

昴「なるほど、あの野戦のか。確か・・、俺達のすぐ後ろにいたよな?」

見覚えある顔だし。

「覚えていていただき、光栄です!」

昴「・・ところで、孫策は・・」

「はっ!? 長々と申し訳ありません! 今掛け合ってみます!」

兵士は猛ダッシュで雪蓮のいるであろう場所に向かった。数分と経たないうちに帰ってきた。

「ぜぇ・ぜぇ、お、お会いに・なるそうです・・オェ・・」

昴「わ、分かった。ゆっくり休んでくれ」

急ぎすぎだろ。

俺は雪蓮のもとに向かった。













※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴「よう、雪蓮」

雪「あ、昴ー!」

雪蓮が俺に駆け寄り、俺の腕を抱いた。

雪「倒れたって聞いたけど大丈夫? それと何か用事があるみたいなことも聞いたけど」

昴「少し疲れて倒れただけだ。用はさっきの戦でのことだ・・・それと雪蓮・・その、当たってるんだが・・」

雪「当ててるんだけど?」

昴「・・・」

確信犯かい!

昴「他の者目もあるし・・その、離れような?」

雪「いいじゃない♪ いずれは夫婦になるんだから・・・いたた! 冥琳、痛い痛い!」

冥「雪蓮、ここにいるのは孫家の者だけではないのだぞ? 少しは周りの目を気にしなさい」

雪「ぶぅー。いいじゃない・・。冥琳のケチ」

冥「まったく・・・それで、昴はどのような用向きでここに来たんだ?」

昴「何、雪蓮達が俺の策に乗ってくれたおかげで戦は早く終結したし、こっちは功もたてられた。だからその礼にと思ってな」

冥「それについてはお互い様だ。こちらも水関に続き、虎牢関も制圧できた。何より、袁術に被害を与えることが出来たのが大きい。こちらは当初の目的をほとんど果たせた。こちらが礼を言いたいぐらいだ」

昴「そう言ってもらえると助かるよ」

冥「・・ところで、呂布との一騎討ちの後倒れたと聞いたが、また無茶をしたのか?」

昴「違う違う。あの時と違って今回は氣を使いきって眠ってただけだ」

冥「そうか・・・軍師としては後々の脅威にはいなくなってほしいが、私個人としては、無事でいてくれてとても嬉しい」

昴「冥琳・・」

冥「あまり皆を悲しませるなよ」

昴「・・ああ、分かってるよ」

俺はどこでも心配かけてばっかだな。

雪「ぶぅー、何か冥琳が昴といい雰囲気出してる〜!」

冥「おほん// ・・ところで、今連合内ではお前の話題で持ちきりだぞ?」

昴「俺の?」

?「うむ、天下の飛将軍の呂布と壮絶な死闘を繰り広げ、勝利したのだからな」

昴「祭さん」

明「昴様! 凄かったです!」

昴「明命も」

祭「お主には毎度驚かされる。相変わらず底がしれんのう?」

昴「ふふっ、ありがとうございます」

祭「お主の評判はさらに天下に轟くであろう。が、それゆえ、警戒もされるであろう」

昴「・・・でしょうね」

祭「出る杭は打たれる。用心するのじゃぞ?」

昴「りょーかい」

祭「まあ、お主のことじゃから心配は無用か」

昴「忠告痛み入ります。そういや思春や他の皆は?」

雪「思春は偵察に出てるわ。穏は部隊の編成よ。蓮華と楓と亜莎はお使いで、シャオはお留守番よ」

昴「なるほど」

冥「楓は最後まで連合に参加すると聞かなかったがな」

昴「そうなのか?」

祭「お主に会いたくて最後まで参加すると聞かなかったのじゃが、思春と明命が兵の指揮及び偵察任務で欠かせんから必然と楓が蓮華様の護衛に付いたわけじゃ」

昴「よく楓を納得させましたね。どうやったんですか?」

祭「拳骨じゃ」

気の毒に。

昴「さてと、それじゃそろそろ戻ります。皆も心配しますし。雪蓮、冥琳、祭さん、明命、またな。思春や穏にもよろしく伝えてくれ」

雪「分かったわ。またね、昴♪」

冥「ではな」

祭「うむ、またな」

明「昴様! お元気で!」

俺は皆に手を振り、孫家の陣を後にした。














※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴「ん?」

自陣に向かって歩いていると、自陣の手前で見知った顔見かけた。

昴「よう。どうしたんだ? 春蘭、秋蘭、それに桂花」

春「あー! 貴様! 勝負しろ!」

春蘭が七星餓狼を抜く。

昴「おいおい・・」

秋「姉者、違うだろ」

春「はっ!? そうだった」

春蘭は七星餓狼を戻した。

何なんだ?

秋「お前が倒れたと聞いてな。今は一応は味方だから様子を見に来たわけだ」

今は、ね。

昴「このとおり、もう大丈夫だ」

桂「大丈夫、なのよね?」

おずおずと桂花が尋ねる。

昴「見ての通りだよ。」

桂「そう! 良かっ・・・!? ふん! そのまま死ねば良かったのに!」

心配したり喜んだり怒ったり忙しい奴だな。

昴「相変わらずツン娘だな」

桂「誰がツン娘よ!」

いやお前だ。言わないけどね。

秋「元気そうで安心したよ。では姉者、桂花、戻るぞ」

春「うむ。昴! いつか必ず貴様を倒すからな!」

昴「返り討ちにしてやるよ」

春「ふん!」

昴「桂花もまたな」

桂花の頭を撫でた。

桂「ん// ・・もう・・」

秋「ではまたな。」

昴「ああ」

春蘭と秋蘭と桂花は自陣に帰っていった。

昴「さてと、今度こそ戻るか」

俺はさっきまで休んでいた天幕に戻った。















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


天幕に戻り、作業は皆に任せ、もう一休み、しようと思ったんだけど・・。

昴「・・・」

愛「ご主人様! あれほど休んでいて下さいとおっしゃったではないですか!」

桃「そうだよ! 勝手に出歩いちゃ駄目でしょ!」

正座で説教を受けている。

昴「いや、でもジッとしてるのも体に悪いし・・」

桃「でもじゃないの!」

愛「でもではありません!」

昴「・・すみません」

朱「あの・・桃香様、愛紗さんもそのくらいで・・」

桃・愛「(ギロリ!)」

朱「はぅ!(ブルブル)」

朱里はすくみあがった。

星「桃香様も愛紗もその辺にしたらどうだ? 主も反省しているようだし、このままではかえって疲れがたまってしまうぞ?」

愛「うむ・・確かに・・」

桃「そうだね・・」

星「主も出立は明日ですので今日はもうお休みくだされ」

昴「ああ。分かってるよ」

星「それでは我らはお暇するとしよう」

愛「そうだな」

桃「分かったよ」

朱「それでは失礼します」

桃香達は天幕を後にした。

昴「ふぅ」

災難だったな。とりあえず休む前に武器の手入れをしとくか。













・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「よし、こんなところか」

手入れをも終わったし、今度こそ休む・・・。

ファサ・・。

昴「ん?」

天幕入り口を見ると桃香と愛紗が入ってきた。

愛「ご主人様、まだお休みになられていなかったのですか?」

昴「休む前に武器の手入れだけしておきたかったんでな。2人はどうしたんだ?」

桃「私達も作業が終わったから、ご主人様の監視に来たんだよ」

昴「監視?」

桃「ご主人様、目を放したらすぐにどっか行っちゃいそうだから・・」

愛「本日は私達がお側にいさせていただきます」

え〜。

桃「それじゃ、失礼しま〜す♪」

愛「失礼いたします。」

桃香と愛紗が俺の両サイドを固めた。

昴「・・えぇっと?」

愛「ご主人様はお気になさらずお休み下さい」

桃「ほらほら、ご主人様は気にしないで休んで♪」

昴「いや、なぁ・・」

休めと言われても、形上、俺の両腕を桃香と愛紗が枕代わりにして寝てる形なんだが・・。

桃「お休み、ご主人様♪」

愛「お休みなさいませ、ご主人様」

昴「はぁ・・」

当然の如くなかなか眠れなかった。だって可愛くてスタイル良くていいにおいがする2人が俺の腕を枕にして寝てるんだぜ!? 生殺しだよ。


















あ、ちなみに何にもなかったからな。















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


翌日、洛陽に向けて連合軍は進軍を始めた。

昴「あ゛〜」

ただいま寝不足気味です。

星「主よ如何なされた?」

昴「昨日は呂布との戦い以上の戦いがあってな」

辛くも勝利したが、代償はこの寝不足だ。

星「おや? 主がゆっくり休めるように桃香様と愛紗を主の元に行かせたのですが」

昴「・・・お前の仕業か」

星「ははっ、極上の女を傍らに眠るなど王たる特権ですぞ」

昴「お陰でこっちは寝不足だがな」

こんな他愛もない会話をしながら進軍をしている。












・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


虎牢関を出発してから2日ほどたった。

桃「ねえご主人様。何だかちょっとおかしいような気がするんだけど」

昴「確かにな」

桃「どうしてもうすぐ董卓さんの本拠地なのに部隊の影さえも見えないのかな?」

昴「うーん・・・もしかしたら董卓はもう戦う気はないのかもしれないな」

愛「どういうことです? 董卓は投降を考えているということですか?」

朱「水関と虎牢関を失ったとはいえ洛陽にいる董卓さんの兵力は連合軍とあまり変わりません。まだ投降を考えるのは時期尚早だと思います」

愛「斥候は放っているのか?」

雛「はい。まだ帰ってきていませんけど」

鈴「何にせよ今は前に進むしか無いのだ」

昴「鈴々の言う通りだ。警戒を怠らないように洛陽に向かおう」

桃「うん。雛里ちゃん。斥候の人達が帰ってきたらすぐに報告してね」

雛「御意です」













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※※※※


そのまま進軍をし、そして・・。

昴「結局何事もなく着いたな」

桃「どういうことなのかな? やっぱり何かの計略?」

昴「いや、董卓がまだ戦う気でいるのなら虎牢関からここまで何も動きもないのは妙だ。・・・見たところ、城門近くに兵の姿も気配もない。やはり董卓はもう戦う気はないんだろうな」

愛「董卓は一体何を考えているのでしょう?」

昴「投降、逃亡。もしくは・・」

自害。これは考えたくないがな。

昴「何にせよ、急いだほうが良さそうだ。少数で洛陽に潜入して董卓を探そう」

愛「了解です」

昴「兵数は可能な限り少数で頼む。あまり大勢で乗り込むと民に不安を与えてしまうからな。朱里、雛里は兵を選抜してくれ」

朱・雛「御意です!」

昴「桃香と星は待機しておいてくれ。愛紗と鈴々は洛陽に潜入だ。俺も洛陽に潜入する」

愛「ご主人様! 危険ですのでご主人様も待機しておいて下さい」

昴「駄目だ。董卓を発見できても董卓が保護に応じるとは限らない。説得なら桃香が適任だが、愛紗の言う通り危険があるかもしれない。俺なら万が一何かあってもどうにでもなる」

愛「しかし・・」

昴「頼む」

愛「・・・分かりました。ですが、決して無茶はなさらないでくださいね」

昴「分かってるよ。それじゃ、皆準備を始めてくれ」

皆「了解です!」

















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※※※※


洛陽への潜入は大した苦労もなく成功した。

昴「潜入は成功だな。・・・愛紗の隊は街の東に、鈴々の隊は街の西に、残りは俺についてきてくれ。一刻後、ここに集合な。それじゃ、行くぞ」

愛「了解です」

鈴「合点なのだ!」














・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「ふむ」

街に変わった様子はないな。強いて言うなら人通りが少ないか。

昴「・・・ん?」

正面に何やら少数の兵を発見した。何かを守っているな。あれは・・・誰だ? 董卓じゃないな。

「御遣い様、あれは?」

昴「何か気になるな。よし、君は関羽に、君は張飛のところにこの事を報告してきてくれ。残りは桃香に報告な」

「了解いたしました。御遣い様はお一人で大丈夫ですか?」

昴「俺の腕じゃ不安か?」

「滅相もありません! それではお気をつけて」

昴「そっちもな」

兵達が指示通り動いていく。

昴「俺は奴等のところに行くか」















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「待て。あんた達、何者だ?」

「何だお前は?」

昴「俺は・・・」

正直に話か? まあいいか。

昴「俺は連合軍の者だ。」

「連合軍の? ではお前は私を助けにきたのだな?」

どういうことだ? 見たところ兵は董卓軍の兵のようだが、助けるとは一体・・。

昴「あんたは?」

「私は―――」

こいつはどうやら十常侍の生き残りで、この戦のどさくさに紛れてお抱えの兵に脱出を計らせたらしい。

昴「・・・それで? 董卓は何処だ?」

「案内する。ついてこい。おい、案内しろ」

「はっ!」

偉そうに命令して(実際偉いか)兵達が動きだす。俺はその後に続く。


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


賈駆side

賈「月、早く!」

董「うん、ごめん・・」

連合軍がすぐ側まで来ている。早く逃げないと・・。

賈「連合を侮っていたわ。こうなったのはボクの責任。涼州に戻って再起を図る。それしかないわ」

董「う、うん・・」

賈「とにかく今は脱出を・・」

「いたぞー!」

賈「っ!? 見つかった!」

ボク達の周りを兵が囲む。その後ろには黒い外套を羽織った男?女?とあと1人は・・。

賈「!? お前は!」

こいつは十常侍の生き残り。月をハメた張本人!

「こいつが洛陽を牛耳り、圧政を強いている董卓だ」

賈「貴様!」

あいつはニヤニヤと気味悪い笑みを浮かべる。くそ、こいつのせいで月が!

?「ふーん。圧政をねぇ・・」

外套の奴が前に出てきた。

「こいつらが董卓と賈駆だ! 早く捕まえるのだ! なんなら殺しても構わん! 私を救えば褒美は思いのままだぞ?」

?「なるほど」

すると外套の奴が長剣を抜いた。

賈「くっ!」

ボクは月の前に立ち月を庇う。

賈「月はボクが守る!」

董「詠ちゃん!」

外套の奴は長剣を構え、そして・・。

グシュ!!!

突き刺した。















十常侍の男に・・。















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

グシュ!!!

「がはっ! き、きさ・ま、わ、たしを救って・・」

昴「救ってやるよ。罪の連鎖から、な」

「そん・・な・」

昴「真実を誰も知らないとでも思ったか? この争乱を引き起こした張本人さん?」

「ぐっ・・」

昴「もう十分だろ?さっさと表舞台から退場しろ」

「ぐっ・・ふっ!」

ドサッ!!!

十常侍の生き残りは絶命した。

辺りを見渡す。

「お、お前・・」

「ひぃ!」

後は十常侍お抱えの兵達だな。

昴「ふっ!」

グシュ! ザシュ!

「がはっ!」

「ぎゃは!」

残りの兵を斬りすてる。こいつらは真実を知った上で十常侍に付き従ったんだ。弁解の余地はないな。それに他の諸候に捕まって余計なこと喋られる方が面倒だ。俺は全て斬りすて、血振りをして村雨を鞘に納めた。そして、董卓と賈駆に向き直った。

賈「!?」

賈駆が董卓を背に庇い、警戒する。

昴「董卓。それに賈駆だね?」

賈「・・・」

董「・・・」

昴「俺は劉備軍の御剣昴だ。単刀直入に言う。俺は・・、いや、俺達劉備軍は君達を保護しに来た」

賈「何ですって!?」

董「!?」

昴「だから俺についてきてほしい」

そう2人に告げた。

賈「・・・」

董「・・・」

昴「信じられないか?」

賈「当たり前でしょ! いきなりそんなこと言われて信じられるわけないでしょ! 第一そんなことしてあなた達にどんな得があるって言うのよ!?」

もっともな質問だな。

昴「俺は全ての真実を知っている。都の実状、連合結成の経緯もな」

賈「!?」

昴「それに俺達は損得勘定だけで戦っているわけでも戦ってきたわけでもない。真実を知り、董卓を見捨てることはできない。だからここに来た。俺は君達を助けたい。だから俺達のところにきてほしい」

賈「本当・・なんでしょうね?」

昴「ああ。信じてほしい」

賈「・・・」

場が沈黙が支配される。賈駆は俺という人間を推し測っているのだろう。すると先ほどから黙っていた董卓が口を開いた。

董「・・御剣昴さん」

昴「何だ?」

董「詠ちゃんを助けてくれませんか?」

賈「月?」

賈駆を、か・・。

昴「君はどうするんだ?」

董「・・・」

昴「董卓はここにいる、と名乗り出るつもりか?」

董「・・・はい」

賈「月!? どうして!?」

董「私のせいでこの戦いは起きました。人もたくさん死んで、洛陽の民達にも不安を与え、迷惑をかけました。私はその責任を取ります。だから私は行けません」

賈「月は悪くないわ! 悪いのは十常侍と連合よ! 月は何も悪くないわ!」

董「ううん、詠ちゃん。私が至らなかったからこうなったの。悪いのは私・・」

賈「月・・」

董卓は死ぬことで全ての責任を果たすつもりなのだろう。でも・・・。

昴「そんなことしてなんになる・・」

董「えっ?」

昴「連合に名乗り出れば間違いないなく殺される。君はそれを望んでいるんだろうが、それをしてなんになる? 君が死ねば全て元に戻るのか? 死んだ人間が生き返るのか? 何も変わらない。何も変わらないんだよ。ただ君が死ぬだけだ」

董「・・・」

昴「そして君を想う1番の友が悲しむことになる」

董「・・でも、私は・・・」

俺は苦悶する董卓を抱きしめた。

董「っ!?」

賈「あんた! 何を!?」

昴「辛いよな」

董「えっ?」

昴「自分のせいで誰かが死ぬのは。誰かを傷付けるのは。でも君は誰のせいにするわけでもなく、全て抱え込み、賈駆にも弱音を吐かずに1人で苦しんできたんだろう? でももういいんだ。1人で苦しまなくて、1人で抱え込まなくて。良く頑張ったな。辛かったよな?」

俺は諭すように董卓に告げた。

董「つら・・かった。皆が、私のせいで・・私のせい・で苦しんで、死んでいって・・」

董卓は涙を流し、心の慟哭を俺にぶつけた。

董「でも私・・には、私にはこうするしか、こう償うしか・・ないんです。私のせいで死んでいった人達にできることは・・」

昴「それは違うよ。君がもし償いたいと言うなら絶対に死んじゃ駄目だ。死ぬというのは責任を取ることではなく、ただの逃げだ。逃げることなんだよ。だから董卓。君は生きるべきだ」

董「いき・・る?」

昴「そうだ。生きるんだ。そして償いの道を探そう」

董「私は、赦されるのでしょうか?」

昴「分からない。でも死んで逃げるより生きて、償いの道を探すことが赦しの道に繋がるんだと俺は思う」

董「赦しの・・道・・」

昴「なあ董卓。君のその背負ってるものを俺にも背負わせてくれないか?」

董「えっ?」

昴「君のその罪。俺も共に背負う。一緒に償いの道、赦しの道を探さないか?」

董「でも・・」

昴「1人で苦しむなって言っただろ? もう君は1人じゃないんだ。俺がいる。俺の仲間もいる。もちろん賈駆もな」

董「う・・うぅ・・。」

昴「いいよ、泣いて。ここには俺と賈駆しかいない。ずっと泣くことも出来なかったんだろ? 今は思い切り泣いていいよ」

董「うぅ・・うわぁぁぁぁぁん・・!」

董卓は泣いた。ずっと流すことが出来なかった涙を全て出し尽くすかのように・・。
















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


董「あ、ありがとうございます//」

昴「気にするな」

涙を流し尽くした董卓の目は真っ赤だった。

董「へぅ〜、お恥ずかしいです//」

昴「恥ずかしがることはないさ」

賈「ちょっと・・」

賈駆が俺を引っ張り、董卓から少し距離を取った。

賈「・・礼を言うわ。きっとボクじゃ月を説得できなかったと思うから・・」

昴「礼には及ばない。ただ俺がそうしたかっただけだ」

賈「それでも、ありがとう。私はあなたを信用するわ」

昴「そう言ってもらえると助かる」

董「詠ちゃん?」

賈「月!? 何でもないわ。ボク達はあなたの庇護下に入るわ。月もいいでしょ?」

董「うん。御剣昴さん。よろしくお願いします」

ポン・・。

俺は両の手を合わせ、

昴「話は纏まったから早速行動に移そう。とりあえずその格好じゃ目立つからこれに着替えてくれ」

俺はメイド服を取り出した。

賈「こ、これは!?」

董「へぅ〜//」

昴「ちょうどそこに物陰があるからそこで着替えてくれ」

賈「ちょっと! 何でこの服をボク達が! その前にどこからこの服出したのよ!?」

昴「気にしな〜い、気にしな〜い♪ さっ、早く早く♪」

賈「・・あんたやっぱり信用ならないわ」















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


数分後・・。

昴「うん。良く似合うな」

賈「何よこのヒラヒラの服は//」

昴「俺の特注」

賈「この!#」

董「でもこの服とっても可愛い」

昴「気に入ってくれて何よりだ」

賈「ボクは気に入ってない!」

昴「まあまあ・・この後だが、とりあえずもう名前は名乗れないな。偽名を名乗るか・・」

賈「ボク達はあなたに真名を預ける。そうすれば偽名を名乗ることはないでしょ?」

昴「構わないが、いいのか?」

賈「月のためだもの。構わないわ。月、良い?」

董「うん。大丈夫だよ」

昴「分かった。なら君達の真名を預かるよ」

月「董卓、字は仲穎。真名は月(ゆえ)です」

詠「ボクは賈駆、字は文和。真名は詠。ボクのことはどうでも良いから、とにかく月のことだけはちゃんと守ってあげてよ」

昴「心配しなくても両方守るよ。俺は姓は御剣、名は昴。字と真名はないから俺のことは昴でいい」

自己紹介が終わったその時・・。

愛「ご主人様!」

鈴「お兄ちゃん!」

昴「おっ? 来たか。心配ない、皆仲間だ」

愛「ご主人様、1人で行動なさらないでください。ところでこの2人は? 後この倒れている者は・・」

昴「この娘達は侍女で、この倒れているのが董卓だ。追い詰められ、錯乱してこの娘達を殺そうとしたからやむを得ず殺してしまったがな」

愛「・・・そういうことですか。分かりました。では連合にはそのように報告いたします」

昴「頼む」

さてと、これから・・・。

朱・雛「ご主人様、大変です!」

朱里と雛里、そして桃香と星がやってきた。

昴「どうした?」

桃「あのね、私達が突入した後、袁紹さん袁術さんが入場したんだけど、2人の軍が暴走始めて・・」

昴「馬鹿か奴等は・・。とりあえず兵と合流しよう。そうしなきゃ何も出来ない」

愛「御意。ではすぐに動きましょう」


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


「や、やめてください!」

「良いから寄越せ! 俺達を誰だと思ってるんだ!」

昴「ちっ!」

あれじゃもはや賊徒変わらないな。俺は袁紹の兵に近づき、襟首を掴んで投げ飛ばした。

「何しやがる!」

昴「こっちの台詞だ。民に乱暴、狼藉働いてんじゃねぇ」

「貴様〜・・!」

袁紹の兵が剣に手をかける。

「おい、こいつ、虎牢関で呂布を倒した奴だぞ・・」

「けっ、関係ねぇな。ビビんなよ。弱小勢力のこいつが俺達に逆らえるわけないんだ」

はぁ、総大将が馬鹿なら兵も同じだな。

「何だよ邪魔すんなよ。俺達に逆らうのか? 死にたくなきゃ・・」

ブシャ!!!

俺は村雨でこの馬鹿を斬った。死なない程度に。

「ぎゃあぁぁぁ!」

「お、お前! 自分が何をしたか分かって・・」

昴「何か言ったか?」

「ひぃ!」

軽く殺気をぶつけると袁紹の兵は腰を抜かした。すると、そこへ・・。

袁紹「私の兵に手をかけるなんて、あなた、覚悟は出来ているのでしょうね?」

昴「黙れ・・」

袁紹「!?」

昴「こいつは洛陽の民から略奪を行った。制止も聞かなかったからやむを得ず斬った。何か問題あるのか?」

袁紹「大有りですわ! 私の兵を斬るなど言語道断ですわ!」

昴「なら袁紹は略奪を容認するということだな? つまりあなたは洛陽へは救うためではなく略奪しに来た、と。ならば俺はあなたを逆賊と判断し、この場で誅する」

袁紹「何、ですって・・」

昴「当然だ。略奪を容認し、略奪を止めた俺を裁く言うならあなたは立派な逆賊だ。このことは集まる諸候にも通達する。果たして、逆賊の汚名を被るのを覚悟でどれだけの諸候があなたにつくかな? あなたも名門袁家の名を汚したくないなら。醜い行為はしないように徹底させるんだな」

袁紹「ぐっ・・、顔良さん、文醜さん! 今すぐこの兵を処刑なさい! そして略奪暴行の一切を行わないように徹底させなさい! 美羽さんにも同様に伝えなさい!」

顔「は、はい!」

文「了解!」

話は分かるみたいだな。これで向こうが引かなかったら面倒なことになったな。

昴「拙速なる判断に感謝するよ。さすが袁家だな」

紹「当然ですわね。おーっほっほっ!」

乗せやすいな。言うや否や袁紹の面々は立ち去った。

星「主よ」

昴「ん?」

星「お気持ちは分かりますがあのような行為は・・。万が一目をつけられるようなことがあったら・・」

昴「袁紹は見栄えや格好をとにかく気にするからああ脅しとけば大丈夫だよ」

星「ならば良いのですが・・。この後はどうしますか?」

昴「さっさと撤収・・って行きたいが、袁家の面々に荒らされたここを放置するのはなあ。他の諸候は袁家と同列に見られたくないから入城してこない。下手をすると今の俺達は袁家と同じに見られてる可能性があるからどうにかしておこう」

星「そうですな」

昴「桃香はこの街の長老のところに行ってしてほしい事を可能な限り聞いてあげてくれ」

桃「分かったよ」

昴「愛紗は桃香と一緒について行ってあげてくれ。残りは糧食の余剰分を使って炊き出しをしよう」

「「「「了解!」」」」

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


指示を出してすぐに炊き出しの準備を始め、洛陽の民に振る舞った。炊き出しの定番と言えば豚汁なので、豚汁を振る舞ってみたところ大好評だった。民に紛れて、鈴々や季衣や文醜もいたがな。炊き出し集まった民は結構な人数でかなりの人手不足になったけど、途中で孫家のメンバーが手伝いに来てくれたお陰で何とかなった。桃香の方も雨風を凌げる寝床をどうにかしてほしいと言われたらしいが、そこは天幕を使ってどうにかしたらしい。炊き出しも終了し、程なくして連合も解散となった。当初の目的だった董卓の保護と同時に劉備軍の名を上げることにも成功し、俺達は意気揚々と平原へと帰投した。その帰り道・・。
















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※※※※


月side

私と詠ちゃんはあの後ご主人様のお手伝いをし、その後荷台に乗って平原を目指しています。もう董卓は名乗れないけど、ご主人様の元で自分の出来ることを探そうと思います。詠ちゃんも一緒だから不安はありません。しばらく進んでいると・・。

昴「よっ、元気か2人共」

月「あ、ご主人様」

詠「あ、変態」

昴「手厳しいな詠は」

詠「当たり前でしょ! こんな服着せて!」

昴「しょうがないだろ?姿隠すための服あれしか持ってなかったんだから」

詠「何でこの服持ってんのよ!#」

昴「気にしたら負けだ」

詠「この変態!」

月「駄目だよ詠ちゃん、ご主人様にそんなこと言っちゃ。この服、可愛くて私は好きだよ?」

詠「月〜」

月「ふふっ」

詠ちゃん楽しそう。

詠「ところでアンタ何しに来たのよ?」

昴「ちょっと様子見にな。それと色々あって疲れたから休みに来た・・・ちょっと失礼」

月「へぅ!」

唐突にご主人様が私の膝に頭を乗せました。

詠「ちょっと! 月の膝を枕にするんじゃない!#」

昴「おやすみ・・・Zzz・・」

すごい、もう眠り着いちゃった。

詠「今息の根を止めてやるわ」

月「詠ちゃん、駄目だよ」

詠「月〜」

昴「すぅー・・・すぅー・・・」

月「ふふっ」

可愛い寝顔。それにとっても綺麗な顔と髪です。最初は女性かと思ったけど男性と聞いて驚きました。ご主人様は不思議です。傍にいるととても暖かくて、心が安らんでいって、とてもほっとします。それに・・・。

へぅ〜//

ご主人様のお顔を覗くと胸と顔がとても熱くなります。こんな事初めてです。・・・でも、これが何なのか分かる。このモヤモヤの正体。私はきっとご主人様に―――















一目惚れしちゃたんだ。














とても優しくて、こんな私を受け入れ、受け止めてくれたご主人様を・・。きっとご主人様の傍にいる女性は皆好きなんだと思う。桃香様や愛紗さん、鈴々ちゃんや星さんも。まだ気づいていないけど詠ちゃんも。皆ご主人様のことが・・・。今はこの気持ちを伝えることは出来ないけど、もし私の罪を償うことが出来たら。そしたらこの気持ちをご主人様に・・・。


















反董卓連合の争乱は終結した。









続く

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