小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


第39話〜愛紗の慟哭、誓い〜















昴side

反董卓連合の戦いから帰還して数日、軍を解散させ、戦後処理も終わり、政務に取りかかっていたある日・・・。















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「愛紗の様子がおかしい?」

星「はい。連合から帰還した後、暇を見つけては鍛練に励んでいるのですが・・・些か過剰過ぎかと思いまして」

昴「そうなのか?」

星「はい。軍務や公務以外の時間のほとんどを自己の鍛練に注ぎ込んでおります。今までも積極的に鍛練を行っておりましたが、最近では寝食を忘れるほどです。このままでは軍務や公務に影響が出てくるのは時間の問題・・・いや、体を壊すのは時間の問題です」

昴「・・・そうか」

愛紗が・・。

星「私がいくら問うても大丈夫と、心配ないの一点張りで。理由を話してはくれません。・・理由はなんとなく察しは付くのですが、故に主に相談をと思いまして・・」

昴「・・分かった。俺から愛紗に尋ねてみよう」

星「ありがとうございます。それではお任せいたします」

昴「愛紗は大切な仲間だからな。任せろ」

星「・・では。自分は警邏に赴きます故、失礼いたします」

昴「分かった、またな」

星は警邏へと向かった。

昴「ふむ・・」

愛紗・・。虎牢関での事を気にしてるのか? 今愛紗は調練か。その後に尋ねてみるか・・。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


しばらく政務をこなし、時間を見計らって調練場を訪ねたが、愛紗の姿はすでになかった。兵に聞いてみると、調練が終了後何処かへ行ったという。

昴「さてと・・」

愛紗は一体何処に行ったのか・・・。その日は結局愛紗を見つけることは出来なかった。















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


翌日、政務を早々に終わらせて、愛紗の元へ急いだ。しかし・・。

昴「一足違いか・・」

愛紗はすでに何処かへ行った後だった。今日こそは見つけようと決めていたのでくまなく探した。すると城外の森で・・。

昴「見つけた」

ブォン! ブン! ビュン!

愛「はっ! ふっ! やあっ!」

そこには青竜刀を振り回す愛紗の姿があった。立ち振舞い、太刀筋は見事なものだが・・・いつものキレがない。それに表情は何処か鬼気迫るものがあり、何処か焦りがあった。顔には疲労の色が見られる。俺は暫し愛紗を見守り、愛紗が一息ついたところを見計らい、声を掛けた。

愛「ふう・・」

昴「お疲れ様」

愛「!? ・・ご主人様!?」

愛紗は夢中だったためか、声を掛けるまで俺の存在に気付かなかったようだ。

昴「ほれ」

俺は持っていた竹の水筒と湿らせた布を渡した。

愛「あ、ありがとうございます」

愛紗はそれを受け取り、喉を潤し、汗を拭った。

昴「ずいぶんと熱心に鍛練に励んでいるようだな」

愛「武人として当然のことです」

昴「そうか・・」

思いきって聞くか・・。

昴「星から聞いた」

愛「!?」

昴「最近過剰に鍛練をしているらしいな」

愛「そのようなことは・・」

昴「あるよ。疲労のせいでキレがない。それに目の下に隈も出来てる。俺から見ても過剰過ぎだと思うぞ」

愛「ご心配には及びません。私は丈夫ですのでこの程度ではどうにもなりません」

昴「・・・はぁ。どうしてそこまで鍛練に励むんだ?」

愛「武人が己を高めることに何か理由がいりますか?」

昴「それはそうだが・・」

頑なだな。これじゃ説得出来そうにないな・・・・仕方ない。とりあえずは・・。

昴「愛紗。愛紗には明日1日休養を命ずる。否は認めない」

愛「なっ!? ご主人様! 私は大丈夫ですのでそのような気遣いは・・」

昴「否は認めないと言っただろ。ついでに言うと愛紗を特別扱いするわけじゃないよ。連合から帰還して皆、ろくに休みを取ってない。だから休みを取らせる予定だったんだ。次の人は仕事の量や進行具合を見て決める。だから愛紗は気にせずゆっくり休め」

愛「・・・畏まりました」

昴「とりあえず今日はここまでにしておけ。がむしゃらに鍛練すればいいというものでもないんだから」

愛「・・・・御意・・」

愛紗は渋々ではあるが従ってくれた。

とりあえずこれでいい。1日休養を取らせればしばらくは大丈夫だろう。少しずつ事情を聞いて説得していこう。俺はそう考えた。

しかしその考えが甘かったことを明後日に思い知らされる。愛紗の心は俺の思っている以上に―――――
















―――思い詰めていた。
















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


翌日は愛紗の休んだ分の軍務や政務をこなしていたため、愛紗の様子を見に行けなかった。後で星に聞いたら、仕事をしている様子はなく。部屋も出ていないとのことで、俺はきっちり休養を取ったのだと判断した。
そしてさらに翌日、それは起こった。
















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


翌日、仕事を早々に終わらせて、愛紗と話をするために愛紗を探していた。しかし城の何処を探しても愛紗は見つからなかった。

昴「まさかな・・」

俺は以前に愛紗が鍛練をしていた場所に向かった。

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴「着いたな」

以前に愛紗が鍛練をしていた森だ。辺りを見渡しながら森を入っていく。すると・・。

ピチャ・・、ピチャ・・、ピチャ・・。

昴「雨か・・」

朝から雨雲が空を覆ってたからいつかは降ると思ったがついに降ってきたか・・・。

昴「本降りになる前に見つけよう」

俺は奥へ進んでいった。














・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


もうそろそろ以前に愛紗がいた場所なのだが、愛紗の声や、青竜刀を振るう音は聞こえてこない。
ここにはいないのか・・・・そんな考えも頭をよぎったが、とりあえず進んでいった。ようやく愛紗が鍛練していた場所に着いた。

昴「!?」

そこには倒れ、横たわっている愛紗の姿があった。

昴「愛紗!」

慌てて愛紗に駆け寄った。

昴「愛紗! しっかりしろ!」

愛「はぁ・・はぁ・・」

愛紗は憔悴しきっている。症状はもしかしなくても過労だ。挙げ句に熱もある。

昴「待ってろ! すぐに城まで連れていく!」

俺は愛紗を抱き上げ、城へと走った。


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


城へ戻ると早々に愛紗を部屋へ運び、眠らせた。途中、ぐったりしている愛紗を見つけ、桃香や鈴々といった将が泣き出しそうになった。

桃「ご主人様、愛紗ちゃんは・・」

昴「・・過労だ。おそらく、ほとんど睡眠も取っていなかったんだろう。今は眠ってるよ」

桃「大丈夫・・だよね?」

昴「ゆっくり体を休めればすぐに回復する。心配ない」

桃「そう、良かった・・」

桃香は胸を撫で下ろした。

昴「愛紗は俺が見とくから皆は仕事に戻ってくれ」

桃「私も愛紗ちゃんの看病する!」

鈴「鈴々もなのだ!」

昴「大勢で押し掛けたら愛紗だってゆっくり休めないだろ? お見舞いは明日以降にしてくれ」

鈴「う〜」

朱「鈴々ちゃん、ご主人様の言う通りです。愛紗さんをゆっくり休ませてあげましょう」

鈴「・・・わかったのだ」

雛「それではご主人様、お願いします」

桃「お願いね。ご主人様」

昴「ああ」

桃香達は愛紗の部屋を後にした。

星「主よ」

昴「・・すまない。星から忠告は受けていたのに」

星「いえ、それは私も同じです。まさか愛紗がここまで思い詰めていたとは・・私はてっきり反董卓連合の時の呂布に負けたことを気にしていたのかと思っていたのですが。もしかしたらそれだけではないのかもしれませぬ」

昴「・・そうかもしれない」

愛紗をこうまでさせる何かがあるのかもしれない。

星「それでは愛紗のことは改めて主にお任せ致します」

昴「・・わかった」

星は愛紗の部屋を後にする。途中こちらを振り返り・・。

星「愛紗の心を救えるのは主だと私は思います。愛紗の事、頼みます」

昴「ああ。任せろ」

星「では」

星は立ち去った。

昴「ふぅ」

俺は愛紗の額の布を濡らし、額に戻した。

昴「愛紗。愛紗の一体何がそこまでさせるんだ・・」

愛紗は頑ななところがあったが最近の愛紗は少し行き過ぎている。

昴「・・そうだ」

愛紗が寝てる内に何か作っておこう。お粥がいいな。

俺は厨房に向かった。
















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


愛紗side

愛「・・・ん」

私は・・そうか、私は眠ってしまって・・!? 何故私は自分の部屋に・・。誰かが私をここまで運んだのか・・・。

愛「こうしてはいられない」

時間が惜しい。少しでも多くの時間を鍛練に注ぎ込まなければ。

私は青竜刀を持ち、部屋を出た。















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

厨房でお粥を作り。愛紗の部屋に向かっている。

ザー!!!

外は雨が本格的に降っていた。やがて部屋の前に着いた。しかし何か違和感を感じた。

俺は部屋を出る前に扉は確か閉めたはずだ・・。誰か来ているのか?

部屋に入るとそこに愛紗の姿はなかった。

昴「!?」

愛紗。一体何処に・・・・!? 壁に立て掛けていた青竜刀がない。まさか!

昴「くそっ!」

俺はお粥を起き、外に飛び出した。















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


ブォン! ビュン! ブォン! ・・・!

昴「・・やはりか」

森へ来ると雨に濡れることも気にせず、一心不乱に青竜刀を振るう愛紗の姿があった。その姿は連合の折、華雄を討ち取った時の姿形もないほど弱々しい姿だった。俺は愛紗に近づき・・。

ギィン!!!

愛「っ!?」

村雨で青竜刀を受け止めた。青竜刀は愛紗の手からこぼれ落ちた。

昴「もうやめるんだ」

愛「ご、主人様。私は大丈・・」

昴「大丈夫なわけないだろ! 愛紗、お前は倒れたんだぞ!」

愛「大丈・・夫です。私はもっと強く・・強くならないと」

昴「焦る必要はないだろ。ゆっくり確実に強くなれば『それでは駄目なんです!』!? 愛紗?」

愛「強くならないと駄目なんです。早くご主人様や呂布以上に強くならなければ・・」

昴「どうしてそこまでして力を求める?」

愛「・・・」

昴「俺には話せないことか?」

愛「・・私には兄がいました。とても優しく、尊敬できる兄でした。ある時私のいた村は賊に襲われ、その時兄は私を庇って死にました。私がもっと強ければ兄を死なせることはなかった。私は自身の武を磨き、鈴々と出会い、桃香様の理想に賛同し、戦ってきました。虎牢関での呂布との戦い、私は討ち取るどころか全力を引き出すことも出来ませんでした。それどころかご主人様のお手を煩わして・・」

昴「・・・」

愛「ご主人様が倒れた時、私は自分の非力さが許せなかった。私は大切な人を二度と失わせないために力を身につけたというのに、いざというとき、私は何の役に立てなかった。ご主人様が倒れた時、私は怖かった。ご主人様は二度と目を覚まさないんじゃないかって。大事な時にご主人様を守れないのでは私に何の価値もない。非力な私にご主人様の傍にいる資格なんて・・」

昴「そんな悲しいこと言うな!」

愛「っ!?」

俺は愛紗を抱き締めた。そうせずにはいられなかった。

昴「価値? 資格? そんなもので愛紗を推し量ったりしない!」

愛「ご主人様・・」

昴「愛紗はお兄さんを守れなかったかもしれない。でも愛紗がいたから救われた人だっている。愛紗がいたから桃香は自分の理想を貫くことが出来た。愛紗がいたから勢力を築くことが出来た。愛紗は皆にとって必要で欠かせない人間なんだよ」

愛「ご主人様・・。でも私はこんなにも弱い・・」

昴「弱くないよ。自分の弱さを認められる人間がどうして弱いんだよ? 愛紗は強いよ。愛紗はもっと強くなれるよ」

愛「ご主人様・・。私はここに居てもいいんですか?」

昴「いろ。そんなに心配なら命じてやる。愛紗、ずっと俺の、俺達の傍にいろ」

愛「ご主人様・・! ありがとう・・ございます。私は・・」

愛紗はそこで意識を失った。

昴「愛紗! ・・っと、眠っただけか・・」

その顔はとても安らかだった。

昴「愛紗・・」

俺は愛紗を心を救えたかな・・。

考えるのは後だな。今は愛紗を部屋に寝かせないと。俺は城に戻った。

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


城に戻り、着替え等を月に任せて、自室に戻った。その道中・・。

星「主」

昴「星か」

星「愛紗の心を救えたようですな」

昴「だといいんだけど・・・結局、愛紗を追い詰めたのは俺だった。つくづく俺は王に向いてないな・・・俺も休むわ。またな」

星「御意」

俺は星の横を抜け、自室に入ろうとした時・・。

星「そんな主だから我らはついて行くことが出来るのですよ(ボソッ)」

昴「ん? 何か言ったか?」

星「いえ、何でもありません。それでは」

星は立ち去っていった。

昴「・・・まあいいや。寝よ」

俺は早々に眠りについた。

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


その後、愛紗は俺が持っていた丸薬と医者が処方した薬のおかげで2日後には回復し、さらに2日後には完全回復した。

愛「おはようございます。ご主人様」

昴「おはよう、愛紗。もう体は大丈夫か?」

愛「おかげさまで。ご迷惑をお掛け致しました。確かご主人様は本日政務でしたね。私もお手伝い致します」

昴「そんな気を使わなくても大丈夫だよ」

愛「いえ、私の方にもご主人様の認可が必要なものがありますので、一緒の方が都合が良いのです」

昴「そうか。なら頼む」

愛「それでは参りましょう」

俺は愛紗と一緒に自室に向かった。

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


愛紗side

愛「それでは参りましょう」

私はご主人様の部屋へ向かった。

ご主人様・・。御剣昴様・・。あの日あなたと出会えて良かった。あなたと共に戦うことが出来て・・・。

私はいつまでもあなたの傍にいます。
















ずっと・・・傍に・・・。













続く

-41-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える