第40話〜州牧就任、来訪者〜
昴side
反董卓連合の戦い終結から1ヶ月が経ったある日。俺達の元に使者が現れた。使者曰く、前の董卓討伐の功績を讃え、桃香を徐州の州牧に就任せよとのことだ。州牧と言えば太守みたいなものだからかなりの出世だ。
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桃「私、太守なんだ・・」
昴「大出世だな」
相から州牧だもんな。
桃「でも・・。ここを離れるのは少し寂しいな」
雛「折角、頑張って内政したのにね」
星「全くだな。馴染みの酒屋やラーメン屋が出来たというのに」
雫「良い服屋を見つけましたのに」
愛「そうは言うが、これは大きな前進となる。すぐに徐州に移りましょう」
昴「そうだな。名残惜しいが、準備をしよう。ここで学んだことは次に活かそうな」
桃「うん。じゃあ皆、早速お引っ越し準備しましょ♪」
鈴「ねぇねぇ、徐州ってどんなところー?」
雛「徐州は、東は黄海に連なり、西は中原と隣接する、と古くから五省に通ずる地として知られているところですね」
朱「高祖劉邦の故郷でもあります。桃香様にとっては、ある意味お里帰りに近いかもしれませんね」
桃「中山靖王劉勝の末裔だもんね、私♪ ・・ウソかホントか分からないけど」
昴「えー」
随分と曖昧な。
桃「だって、昔のことなんて知らないし。唯一、それっぽいって言ったら、私が持っている剣だけだもん」
星「靖王伝家。桃香様の持つ剣の名でしたな」
桃「うん。だけどね、この剣を持ってれば誰でも中山靖王劉勝の末裔って名乗れるんだから、あまり意味は無いと思う」
昴「何を成すか。大切なのはその一点だ」
桃「うん。ということで〜。この街のことは後任の人にお任せしよう。・・名残惜しいけどね」
愛「色々ありましたからね」
俺はそれほど馴染み深いわけではないが、桃香達にとっては黄巾の乱で功をたてて、治安を維持したり、内政したり。色々あった街だから思うところあるよな。
星「うむ、我らはここでの経験を徐州で生かそうではないか」
昴「そうだな。それじゃ、準備を始めるか」
朱「そうですね。じゃあ私と雛里ちゃんは、事務書類などの輸送準備をしますね」
愛「我らは兵の移動準備をしようか」
星「了解だ。主と桃香様は家財などをまとめておいてくだされ」
昴「分かった」
雫「わたくしもお手伝い致しますわ」
桃「りょーかーい♪ じゃみんな! お引っ越し作業、かっいし〜〜♪」
桃香の掛け声を合図にそれぞれ動き出した。さて、早く終わらせて皆を手伝おう。
全ての準備が整うと、俺達は徐州へと向かった。
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徐州に到着し、荷下ろしの作業が終わると、早速徐州の生産高や産業の状況等の纏め作業を行った。これがまた大変な作業で、何せ平原とは規模が違うから時間が掛かること掛かること。徐州に到着して1ヶ月後にようやく全ての状況把握が終わった。
昴「ふぅ〜、ようやく終わったな」
朱「ようやく終わりましたね・・ご主人様もお忙しい中お手伝いしていただき、ありがとうございます」
昴「気にするな。あれは量が多すぎるからな。朱里もご苦労様。よく頑張ったな」
ナデナデ〜。
朱「はふぅ〜、ありがとうございます//」
桃「あ〜ずるい〜! 私も頑張ったんだよ〜」
昴「そうだな。桃香もよく頑張ったな」
ナデナデ〜。
桃「えへへ〜//」
愛「こほん! 和むのは後にして、報告を先にして頂けると助かるのですが」
星「愛紗。ヤキモチも度が過ぎると嫌われるぞ?」
愛「だ、誰がヤキモチを焼いている! 私は別に、そんなつもりで言ったわけでは・・・嫌ったりしませんよね、ご主人様」
昴「当たり前だろ」
ナデナデ〜。
愛「// ご主人様・・。」
星「と、あちこちで桃色な空気が流れているが、今は朱里の報告を聞こうではないか」
桃「だねー。じゃあ朱里ちゃん。報告をお願い」
朱「はい!」
朱里から徐州の生産力や産業商業の状況、交通面の報告が行われた。
朱「・・以上のことから力を蓄えるには良い土地かと思われます」
桃「おおー。平原から比べると、何だかすごーく豊かなところだねぇ」
雛「しかし、それだけ治政が難しいと言っても過言では無いと思います」
昴「それに、豊かだからこそ狙ってくる諸候もいるだろう」
愛「となれば、速急に軍備の拡張を行わなくてはなりませんね」
星「だが拙速な徴兵は民が不満を抱くもととなる。上手く舵を取らんと、すぐに沈没することになるだろう」
昴「ま、そうだな。朱里と雛里はどう考える?」
朱「概ね、愛紗さんや星さんと同じ意見ですね」
雛「内政をして国力を充実させつつ、軍備の増強を図るしか無いかと」
鈴「でもその2つを同時にするって、すっごく難しそうなのだ」
朱「それはそうです。背反する2つの命題を達成させなければいけませんから」
雛「軍備とは即ち兵。兵というのは基本的には非生産階級ですから。兵を充実させれば、生産力が落ちるのは当然です」
朱「その両者の天秤を平らに保つからこそ、富国強兵の理想かと」
昴「難しいがやらなくちゃならない」
雫「この時代を生き抜くためにはやらなくてはなりませんわ」
星「うむ、皆で力を合わせれば、理想を実現させることができる。私達はそう信じて、ここに居るのだから」
昴「星の言う通りだ。大変かもしれないがやろう」
桃「おー!」
昴「それじゃ、朱里と桃香と雫と俺は内政を。雛里と愛紗と星と鈴々は軍備の方を頼む。数日・・そうだな、5日毎に確認しあって、微調整をしていこう。皆いいか?」
朱「御意です」
昴「それじゃ、それを基本方針に―――」
行こう。そう続けようとしたそのとき。1人の兵がやってきた。
「申し上げます!」
愛「何だ!」
「ただいま城門にこ、公孫賛様が!」
星「伯珪殿が? ふむ。州牧就任の祝いにでも来てくれたのか」
「いえ、それが多数の兵を引き連れ、劉備様に保護を求めていらっしゃるのです!」
桃「ほ、保護!?」
鈴「何かあったってことかなー?」
昴「・・とりあえず公孫賛から直接話を聞こう。ここに通してくれないか?」
「はっ!」
桃「白蓮ちゃん、どうしちゃったんだろ?」
星「本国で何かあった。そういうことでしょうな」
保護ってことから考えられるのは謀反か侵略によって国を追われた、だが、あの公孫賛に限って謀反は考えられないな。ならば侵略。公孫賛の近隣の諸候で考えられるのは・・袁紹か?
昴「とにかく、話は公孫賛に聞こう。それで全て分かる」
推察をしたって答えは出ない。それに直接公孫賛に聞けば分かることだ。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
やがて、兵士に先導された公孫賛がやってきた。
桃「白蓮ちゃん!?」
白と金で飾られた鎧のところどころに傷や返り血がついており、その姿はぼろぼろだった。
公「ううっ、桃香・・すまん。いきなり転がり込んできて・・」
桃「そんなこと良いってば! それより一体何があったのか教えて?」
公「麗羽が・・袁紹の奴が奇襲を掛けてきて、遼東の城を全て落とされたんだ」
愛「何っ!?」
星「袁紹が攻めてきた?」
昴「・・・」
やはり袁紹か・・。
公「ああ。反董卓連合の後、私は本国に戻って内政に取りかかっていたんだ。だけどある日、宣戦布告の使者が来ると同時に、国境の城が次々落とされてしまって」
鈴「反撃したのかー?」
公「したさ! だけど気が付いた頃には領土の大半を制圧されていて、反撃するにも兵力が足りず・・」
星「落ちのびてきたという訳ですな」
公「恥ずかしながら、そういうことだよ」
昴「・・なるほど。何せよ、公孫賛が無事で良かったよ」
公「御剣・・」
昴「公孫賛、大変だったな。気が済むまでこの国に滞在してくれ」
桃「そうそう。私達に今があるのも、白蓮ちゃんが私達のことを応援してくれたからなんだし。今度は私達が恩を返す番だよ♪」
公「・・すまん」
桃「気にしない気にしない。困った時はお互い様なんだから♪」
朱「しかし、北方に袁紹の国が出来た以上、これからは諸候同士の争いが激化するでしょうね」
昴「だろうな。今の袁紹に背後を脅かすものが居なくなった。次に考えられるのは・・」
星「西進か南下か・・というわけですな?」
朱「そうです。董卓さんとの戦いが終わったのにも関わらず、袁紹さんは望んでいた大きな物、この場合は帝のおられる洛陽であったり、それに近しいもののことですが、それを手に入れることが出来なかった」
雛「ならば自力で手に入れるしかない。そういったところだと思います」
雫「公孫賛さんの土地を奪い、後顧の憂いを断った、というところですわね」
愛「袁紹の南には曹操が居るし、西には剽悍で名高い涼州がある。攻めるなら北方と考えるのは、さして飛躍ではありませんね」
公「甘かった。麗羽がそんなことするはずないって思ってたんだが・・」
星「確かにそうですな。乱世の兆しが見えていたのだから、太守としておおいに用心すべきでした」
桃「星ちゃん!」
公「いや、良いんだ。星の言うことは尤もだよ。私が甘かった」
昴「そう、甘い・・でも俺はそういう人は好きだぜ。星も、だろ?」
星「はい。主のおっしゃる通りです」
公「星・・御剣・・」
星「今はとにかく、白珪殿の今後のことを考えましょう。白珪殿。今後、どうする? 袁紹に奪われた領土を奪い返すために行動するのか?」
公「いや、麗羽の軍勢はすでに私の手に負えるものじゃ無くなってる。もう私では太刀打ち出来ないんだ」
愛「なら、どうなされるのです?」
公「・・御剣達さえ良ければ、私をお前達の下に置いて欲しい」
鈴「それって、つまり鈴々達の仲間になるっことー?」
公「仲間?いや、私は御剣達に臣下の礼を・・」
桃「そんなの要らないよ! 私達は白蓮ちゃんを仲間として迎えたいの♪ 駄目かな?」
公「それで良いのか?」
昴「構わないさ。俺は臣下だの主従という目で皆を見てないし、それは桃香も同様だ。便宜上は主従ってことになってるけどな。だから公孫賛。俺達の仲間として来てくれないか?」
公「・・変なんだな、2人とも」
昴「ま、俺は桃香にあてられただけだけどな」
桃「あー、ご主人様ひどいー!」
星「我らはもっと主らしくしていただきたいのだが、主達はそういうのがお嫌いなようでな」
鈴「でも鈴々は今みたいなのが好きなのだ!」
桃「だよねだよね? それじゃ、気にしなくても問題なーし♪」
昴「桃香らしい考えだな」
公「・・ふ、ふふふふっ、はははははっ! なんか、良いな、こういうの。久しぶりに笑えた気がするよ」
昴「それは何よりだ」
公「そんな2人だから皆集まったんだろうな。私も・・その仲間に入れてもらっても良いか?」
桃「当然だよ♪ 白蓮ちゃんは私にとって、とっても大切なお友達だもん♪」
昴「これからよろしくな、公孫賛」
白「ありがとう、桃香、御剣・・そうだ御剣、私の事は白蓮と呼んでくれ」
昴「分かった。俺の事は昴と呼んでくれ。改めて、よろしくな白蓮」
俺は白蓮に手を差し出す。
白「ああ。よろしく頼む、昴」
白蓮は俺の手を握った。
桃「でもでも、本当に白蓮ちゃんが無事でいてくれて良かったよ」
白「私としても生き長らえるつもりはなかった。支城を次々に落とされ、最後、死を覚悟して騎馬隊を率いて袁紹本隊に突撃を仕掛けた。良いところまで斬り込めたんだが、文醜と顔良の2人に止められて。さすがに私も2人を相手には戦えなくて。もう駄目だ! そう思った時、まさかの人物に救われてな」
愛「まさかの人物?」
?「ふむ、それは私のことだ」
愛「お、お前は!?」
星「華雄!?」
鈴「にゃにゃー! 華雄なのだ!」
愛「馬鹿な、私は確かにお前を討ち取って・・」
華雄「うむ、私も死んだと思ったが、死の淵にいるところをそこの・・」
俺の方を向き・・。
華雄「御剣昴に助けられてな」
愛「ご主人様が?」
昴「死なすには惜しかったからな」
白「華雄に助けられ、何とか落ちのびられたというわけだ」
華雄「多勢に無勢を見かねてな。何より・・・袁紹は気に食わん」
愛「華雄・・」
華雄「勝手にあがりこんですまないな。どうしても確認したいことがあってな」
星「確認したいこと?」
華雄「董卓様のことだ」
愛「!?」
雄「御剣昴。私は貴様に董卓様を委ねた。だが董卓様は死んだと世間では噂されている」
華雄は俺に戦斧を向ける。
華雄「董卓様はどうなった? 返答次第では貴様を・・」
愛「ご主人様・・」
昴「・・ああ。愛紗。月をここに」
愛「よろしいのですか?」
昴「そういう約束だからな。頼む」
愛「・・分かりました」
愛紗が玉座を出ていった。
華雄「どういうことだ?」
昴「少し待っててくれ」
数分ほど待っていると、月が玉座にやってきた。
月「お呼びでしょうか?」
華雄「!? ・・董卓様!」
月「華雄さん! ご無事で何よりです!」
華雄「勿体なきお言葉です!」
2人が再開を喜びあった。
華雄「・・・」
月「華雄さん?」
華雄が言葉を止め、おもむろに膝を地に付けた。
華雄「申し訳ございませんでした!」
頭を下げた。
月「華雄さん!?」
華雄「私は董卓様の臣にあるまじき行為をしました。董卓様と己の矜持を天秤にかけ、私は己の矜持を選んでしまいました。今日まで生き長らえてきましたが、董卓様の無事を確認でき、もはや後悔はありませぬ。董卓様、我が首をお斬りください」
月「華雄さん・・」
月は華雄の元へ近づき、そして、抱きしめた。
華雄「董卓様!?」
月「華雄さん・・今日まで生きていてくれて私は嬉しいです。私は華雄さんのような臣を得ることが出来て、私は幸せです」
華雄「董卓様・・。勿体なき・・お言葉です・・」
月「私の最後のお願いを聞いていただけますか?」
華雄「はっ! 何なりと!」
月「ご主人様、御剣昴様と桃香様の為にその武を奮っていただけませんか?」
華雄「御剣昴と劉備の?」
月「はい。私はお二方の元で新しい道を探しています。華雄さん。あなたの力をお二方の理想を叶えるため、その力を奮ってほしいのです。駄目、でしょうか?」
華雄「・・率直に言いますと、劉備のことは分かりません。ですが・・」
華雄は俺の方を向き・・。
華雄「御剣昴。この者は信用に足る人物と言えます。董卓様の願いならば喜んでお仕え致します」
月「ありがとうございます! あの、ご主人様、桃香様、こちらで勝手に決めてしまったんですがよろしいでしょうか?」
昴「俺は大歓迎だよ。桃香はどうだ?」
桃「私も大歓迎だよ♪ 皆もいいよね?」
愛「華雄の力は私が良く知っています。水関では勝ちましたが今の華雄に勝つのは容易ではないでしょう。私もご主人様と桃香様と同じ意見です」
星「華雄ほどの良将ならば大歓迎です」
鈴「鈴々も大歓迎なのだ!」
朱・雛「私達も大歓迎です」
雫「わたくしも昴様の決めたことなら喜んで」
月「ありがとうございます! では華雄さん。これから改めてよろしくお願いします・・それと私のことは月と呼んでください」
華雄「以前にもおっしゃいましたが私には真名がありません。ですから私だけ預かるわけには・・」
月「それでも構いません。是非、華雄さんに」
華雄「しかし・・」
昴「真名が無いことを気にしてるならいっそのこと月に決めてもらったらどうだ?」
華雄「董卓様に?」
昴「この国の真名の風習に反するかもしれないが、月ならば構わないだろ?」
華雄「・・うむ、そうだな。では董卓様、お願い致します」
月「分かりました。では・・・想華(そうふぁ)というのはいかがでしょう?」
昴「意味は?」
月「華雄さんの私への忠義、想いは、華のように美しい。それで想華です」
想「想華・・美しき真名です。今より私は名は華雄、真名は想華と名乗ります!」
月「気に入っていただけたようで何よりです。それでは私の真名を受け取ってください」
想「はっ! 月様の真名、お預かり致します!」
月「これからよろしくお願いしますね」
想「はい!」
華雄は想華という真名を得て、劉備軍へと参加した。
白蓮こと公孫賛。華雄こと想華が御剣昴と劉備の新たな仲間として加わったのだった。
続く