第43話〜お冠のちびっこ軍師、信頼の形〜
先の袁術、呂布連合軍との戦から1週間がたった。戦後処理の方もようやく落ち着いてきたある日のこと・・。
昴「朱里、今日の俺の分の書簡だ。終わったから後で確認しといてくれ」
朱「わざわざお持ちいただいてすみません」
昴「何、気にするな」
そこへもう1人来訪者がやってきた。
雛「朱里ちゃ〜ん。頼まれてた報告書持ってきたよ・・・あ、ご主人様。お疲れ様です」
昴「よぉ、雛里もお疲れ様」
雛「お気遣いありがとうございます」
昴「他に何かやることあるか?」
朱「いえ、今日のご主人様の分はそれで最後です。ですのでゆっくりおやすみください」
昴「そうか、なら・・・・ん?」
ふと見ると、朱里と雛里の卓には大量の書簡やら竹簡やらが並んでいた。俺はそれを半分ほど手に取った。
朱「ご主人様?」
昴「これは俺がやるよ」
朱「ご主人様!? それは私達の分ですのでお任せください!」
雛「そうです! ご主人様は休まれてください!」
昴「俺なら平気だって。3人でやれば早く終わるだろ?」
朱「駄目です! 私達に任せてください!」
昴「俺なら素早くちょいちょいと終わらせられるから気にせず俺に任せて・・」
朱・雛「ご主人様!!!」
昴「おおっ!?」
朱里と雛里がズイッと詰め寄ってきた。
朱・雛「そんなに私達は頼りないですか!?」
昴「いや、そんなことは・・」
朱「あります! ご主人様はいつもいつも私達の仕事を自分でやっちゃうじゃないですか!」
昴「いやそれは・・」
雛「平原にいた時もそうでした!」
昴「いや、あの〜・・」
朱「ご主人様がそうまで自分でなさろうとするなら私達はもう知りません!」
昴「いや朱里、雛里・・」
朱・雛「ふん!」
あぁ、完全に怒らせちゃった。大変そうだから手伝おうしただけなんだけど・・。
その日から朱里と雛里が口を聞いてくれなくなった。
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昴「あ〜、朱里、こっちの仕事は終わったんだけど・・」
朱「・・(プイッ)」
昴「雛里、報告書だよ〜・・」
雛「・・つーん」
あぁ、つらい・・。
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あれからあらゆる手を変え品を変え、話かけたけど口を聞いてくれなかった。癒し系なごみ系の2人に無視されるのは想像以上に精神にくる。俺はとうとう耐えきれず・・・。
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星「突然訪ねてきたかと思えば、どうされました?」
昴「うん・・最近朱里と雛里が冷たいんだ・・」
星「おやおや・・」
昴「くるわ〜、あの2人に無視されると精神にくるわ〜」
星「最強と誉れ高い主が形無しですな」
昴「どうして怒ったんだろ?」
星「うむ。それでは怒らせてしまった時の状況を教えていただけますかな?」
昴「えぇと確か―――」
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
星「なるほど・・・・分かりました。簡単な話ですな」
昴「どういうことなんだ?」
星「主は何事も1人で出来てしまう。1人でしてしまう。ただそれだけのことです」
昴「どういうことだ?」
星「主よ。主は周りに頼らず、1人でこなしてしまう。臣下である我々から言わせてもらえば、頼ってもらえないのは辛いんですよ? かつての虎牢関での恋との敗戦。私も愛紗ほど思い詰めませんでしたが、主が恋を打ち倒した時、歓喜と同時に私も悔しくもあり、そして寂しかったのですよ?」
昴「寂しかった?」
星「私は主にとって必要な存在なのか。そう考えてしまうのですよ」
昴「・・あ」
星「決して主が悪いわけではありませぬが、我々に頼らず、1人で何でもこなしてしまう主を見ていると臣下としてはやるせない思いなのですよ」
・・・そうか。そうだったのか。俺はただ皆の負担を軽くしたい。その一心だったけど、その気遣いは皆にとっては重荷だったのか。そういや昔・・・。
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『姫様が突撃開始しました!』
昴『何だと! 姫様は何考えてやがる!』
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
?『おぉ、昴よ到着ご苦労、大義であった。』
昴『大義じゃねぇ! 大将自ら最前線で突撃なんて何考えてるんだ!』
?『知れたことを、我自ら突撃すれば士気も上がり、被害も少ないであろう?』
昴『言いたいことはわかるがそれは俺がやれば良いことだろ?』
?『我は強い! 何も案ずることはない!』
昴『強いとかそういうことじゃねぇ!』
?『さっきから過ぎたことをごちゃごちゃと、貴様は黙って・・』
昴『そんなに俺が信用出来ねぇか!?』
?『っ!?』
昴『お前は何で1人で無茶ばかりするんだ。もう少し俺を頼ってもいいだろ? 何があるか分からないんだ。俺をもう少し信頼してくれ』
?『分かっておる・・・そんなに怒らなくても良いではないか・・』
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ってなことがあったな・・。朱里や雛里もあの時の俺と同じ気持ちだったんだな。頼ってくれないもどかしさ・・、そして、寂しさ・・。
昴「・・・そうか。そうだよな。馬鹿だよな、俺」
星「主は賢すぎるのですよ。今後はもう少し我々に寄りかかってください。主の信頼を賜る。それこそ臣下冥利に尽きるというものです」
昴「分かった。これからもっとたくさん皆を頼らせてもらうよ」
星「是非ともお願い致します」
昴「早速2人に謝ってくるよ」
俺は2人の元に向かおうとすると・・。
星「主、お待ちを・・」
昴「ん、どうした?」
星の呼び掛けに振り返ると・・。
ギュッ・・。
昴「!? ・・・星?」
星が俺の胸に飛び込んだ。数秒ほど抱きつくと体を放した。
星「相談料は今のでよしとしましょう」
昴「こんなことで良ければいつでも。また何かあったら相談にのってもらってもいいか?」
星「構いませんが次の相談料は値上がりしていますよ?」
昴「そうなの?」
星「次は体を合わせるのではなく・・」
星は人差し指を自分の唇に当て・・。
星「唇を合わせていただきますのでご容赦を」
昴「恐れ多いな・・・今日は助かった。ありがとな。じゃ、また後で」
俺は朱里と雛里の元に向かった。
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あれから自室に戻り、侍女達に頼み、朱里と雛里を部屋に来てもらうようにお願いした。しばらく待っていると・・。
ガチャ・・。
部屋の戸が開かれた。
朱「な、何ですか?(プイッ)」
雛「わ、私達、忙しいんですよ(プイッ)」
あぁ、まだ怒ってる。俺はそんな2人に対して・・。
昴「ごめんなさい!」
土下座をした。徐州一、美しい土下座を。
朱・雛「はわわ(あわわ)、ご主人様!」
昴「ごめん! 俺、自分の事ばかりで2人の事何も考えてなかった。俺はただ皆の負担を軽くしたいと思っただけで2人を信用してないとかそんなことはないんだ。だからもう許してくれ!」
朱「そんな! 頭をお上げください!」
雛「上げてください〜!」
昴「2人が許してくれるまで上げない」
朱「そこまでしていただければじゅうぶんですから、だから上げてください!」
雛「もう許しますから〜!」
昴「ホントに?」
朱「ようやく気付いていただけたようなのでもう許します」
雛「もう怒ってません」
昴「ありがとう〜。朱里〜、雛里〜」
2人に抱きついた。
朱・雛「はわわ(あわわ)〜//」
良かった。これで駄目なら俺死んでたかも。
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
朱「ホントは私達、怒っていたわけではないんですよ?」
昴「そうなのか?」
雛「はい。怒っていたのはご主人様にそうさせてしまう自分自身にでして、ご主人様に対しては怒っていたというよりも・・寂しかったんです」
昴「雛里・・」
朱「ご主人様は自ら最善の策を提示して自ら前線に出て剣を振るうことも出来ます。政務も淡々と素早く的確にこなしてしまいます。そんなご主人様を見ていると・・・私達はいらないのかなって思ってしまうんです」
雛「ご主人様に当たってしまうのは筋違いなのですが、無力な自分がとても腹ただしいです。何も役に立てない自分自身が・・」
朱里・・雛里・・。
昴「馬鹿だなぁ」
俺は2人を抱き寄せた。
朱・雛「ご、ご主人様!?」
昴「俺は2人がいるから自信を持って策を出せる。2人がいるから前線に出れる。たとえ俺が間違っても2人が正してくれる。穴があったら2人が埋めてくれる。俺が前線に出たらかわりに桃香を支えてくれる・・・だから俺には2人が必要なんだ。だから・・俺に不満があったり愛想が尽きたんじゃなければ、これからも傍にいてくれないか?」
朱「もちろんです! ずっとお傍にいます!」
雛「嫌だと言われても離れません!」
2人が俺を強く抱きしめる。
昴「ありがとな。2人とも・・」
俺は2人の頭を撫でた。
朱・雛「えへへ〜//」
昴「2人にはいろいろ心配かけた。何かお詫びをさせてくれないか?」
朱「そんな! お詫びだなんて・・!」
雛「そんなことしていただくわけには・・」
昴「そうしないとこちらの気が済まない。是非ともお詫びをさせてもらいたい」
朱「ご主人様・・・それでは・・」
朱里が雛里の方を向く。
雛「うん。朱里ちゃん」
雛里が頷く。
朱・雛「私達のお願いを聞いてください!」
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昴「ホントにこんなことでいいのか?」
2人がお願いしたこと、それは・・。
朱・雛『今日、私達と一緒に寝てください!』
っていうお願いだった。
朱「はい。これがいいんです♪」
雛「ドキドキ・・」
2人はすでに寝間着を着てスタンバイしている。
昴「それじゃ、寝るか?」
朱・雛「はい!」
俺が寝台の真ん中に寝て、2人が俺の両サイドに寝る。しばらく話をしていると・・。
朱「スゥー・・スゥー・・」
雛「スゥー・・スゥー・・」
2人はすでに眠っていた。
昴「おっと、もう寝ちゃったか。」
もう夜も更けているからな。
昴「ふぁ・・。俺も寝るか」
最近忙しくてあまり寝てなかっだよな。
昴「おやすみ、朱里、雛里」
俺もすぐさま眠りに落ちた。
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翌朝・・。
チュッ・・。
昴「・・・ん・・」
何かが頬に触れ、目を覚ました。
朱「はわわ//」
雛「あわわ//」
昴「朱里? 雛里?」
・・・・あぁ、そういえば、一緒に寝たんだっけな・・。
昴「おはよう。朱里、雛里」
朱「お、おはようごさいましゅ// はぅ」
雛「おはようごさいましゅ// あぅ」
噛んだ。可愛いなぁ〜。
昴「起きてたなら起こしてくれれば良かったのに・・」
朱「い、いえ、とても気持ち良さそうに眠っていたので・・」
雛「起こしてしまって申し訳ありません」
昴「気にするな。起きるにはちょうどいい時間だ」
朱「あの、ご主人様・・」
昴「ん?」
雛「私達は色々と支度があるのでここで失礼致します」
昴「そうか」
朱「それでは後程」
昴「ああ。また後でな」
朱里と雛里が俺の部屋を後にした。
昴「さてと・・」
俺も支度するかな。
俺は着替えを始めた。
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朱里・雛里side
朱「口付けしちゃったね//」
雛「しちゃったね//」
昴より先に2人とも目が覚め、寝顔を見つめていたら2人とも気が付くと頬に口付けをしていた。
朱「寝顔も綺麗だったね」
雛「そうだね」
朱「ご主人様とても優しいね」
雛「うん。とても優しい」
朱「あの日、水鏡先生の所で出会ったのはきっと運命だったんだよ」
雛「うん。あの日、出会うことができて良かった」
朱「頑張ってご主人様を支えようね」
雛「うん・・・後、ご主人様がいつか私達に振り向いてもらえるようにもっとお勉強しよう?」
朱「うん!そうだね! なら早速本屋でお勉強になる書物を買いに行こう」
雛「うん!」
2人は改めて御剣昴との出会いに感謝し、更なる忠誠を誓うのだった。
続く