小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第48話〜益州攻略初戦、黄漢升の説得〜















益州と荊州の国境沿いにある諷陸に入城し、益州攻略の第一歩を果たした俺達。それからすぐに住民達のまとめ役の長老が謁見を申し出てきた。話を聞いてみると、益州の内部は暴政と内乱でボロボロで、これ以上、無能の劉璋に国を治めてほしくはないという。話を聞くと、益州の実状は事前に聞いていた情報よりかなり酷かった。住民達は何よりも大乱に巻き込まれることを恐れていた。住民達の願いは、有能な人間に太守になってもらい、安心して暮らしたい。長老は俺達に益州の新たな太守となって益州をまとめてほしいとのことだった。もはや民にすら無能扱いをされている実状だ。このままじゃ民はいつまでたっても安心して暮らすことはできない。そんな思いから俺達は出陣をする。

益州全土を平定するために・・・。

















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桃「ここから成都まで、いくつぐらいお城があるのかなぁ?」

朱「新しい本城である諷陵は、益州でも端の端にありますから、成都まではあと20個ぐらいお城を落とさないとたどり着けないです」

桃「20っ!? うへぇ〜・・多すぎだよぉ」

昴「益州は大陸の約4分の1ぐらいあるからな。けどまぁ、その全部を落とすことにはならないと思うぞ」

桃「そうなの?」

昴「劉璋があれほど無能なら、現体勢を快く思わない者だって多くいるだろうし、俺達が次々に城を落としていけば戦わずして落ちる城だって出てくるだろう」

桃「そうか! そうだよね!」

昴「つうか、未だに内乱続けている愚か者だ。そんな奴を命を賭けてまで守ろうとする奴は極めて少ないだろうな」

っていうかいるのか?

翠「それにしても、他人が家の中に入ってるのに、それを無視して内輪で揉めてるって。劉璋って馬鹿なのかな?」

ね「馬鹿は翠のことですなー。今のこの状況こそ、我ら軍師の策があったればこそですぞ」

翠「馬鹿で悪かったな。・・っつーか、それってどういうことだよ?」

雛「諷陵に入城したあと、すぐに劉璋さんに使者を出して諷陵入城の正当性を伝えておいたんです」

白「正当性〜? ・・ぶっちゃけ、どう考えても正当性なんて無いんじゃないか?」

朱「そこをどうにかするのが、軍師である私達の役目ですから」

鈴「口先三寸で丸め込んだってことなのだ」

昴「酷い言い方だが、騙される方が悪い」

信じることと疑わないことは別物だ。自領の城を明け渡すなんざもはやただの馬鹿だ。

愛「それ故に無能と言われているのでしょう」

星「極めつけは、その評価を下しているのが将では無く民だということだな」

ね「民あっての国であって、国あっての民では無いのですからのー」

朱「学も無く、戦う力を持たない人達が殿上人とも言える太守を無能扱いするという、この一事だけでも、劉璋さんに人を治める資格は無いかと」

恋「・・油断できない。・・兵は多い」

雛「恋さんの仰る通りですね。例え太守が無能でも、益州は人口多く、豊かな土地です。それを守る軍の数もかなり多く、油断は出来ないかと」

昴「数の差は否めない・・が、それでも俺達は勝たなきゃならない」

桃「そうだね。今も暴政に苦しんでる民のためにも、素早く成都を制圧しないとね」

昴「そのために成都への最短距離を突き進むわけだが・・当然兵は多いし配置されている武将は有能だろう」

愛「我らが向かっている城にも、有能な武将が詰めているということですか?」

昴「ああ。次に向かう城の城主は・・黄忠だっけ?」

朱「はい。そのとおりです」

黄忠・・俺の知ってる限りじゃ、文武に優れ、弓の名手・・ぐらいだな。

星「黄忠・・聞かん名だな。一体どんな人物だ?」

雛「将として有能であり、なおかつ慈愛に満ち、徳望厚い方ですね」

星「ふむ・・言うなれば良将というわけか」

昴「そういうことだな・・雛里、黄忠のいる城まではあとどのくらいだ?」

雛「あと1日ほどですかね。状況が状況ですから、すでに黄忠さんの放った斥候に、捕捉されていると考えるのが妥当かと」

白「ということは、夜襲を警戒しておかなくちゃいけないな」

昴「そうだな。そんじゃ、もう少し進んだら野営の準備を始めるか」

皆「了解!」

















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黄忠side

「黄忠様!劉備軍を確認しました。到達は明日になりそうです」

斥候に出した兵が報告にやってきた。

黄「そう。了解しました。・・ご苦労様」

「はっ・・」

黄「・・あら。どうかしたのかしら?」

「はっ。・・黄忠様は、まだ劉備と戦うことを迷っていらっしゃるのですか?」

黄「・・迷いが無いと言えば嘘になるでしょうね」

「そうですよね。・・すでに街の住民には、劉備を待ち望む声が上がっております」

黄「国の内情を理解しているからこそ、劉璋殿に見切りをつける民も出てくる。当然のことでしょうね」

「は。・・劉備は仁徳を兼ね備えた方だという噂です。もしそれが本当ならば・・」

黄「・・どちらにせよ、私達は民のためにも劉備を見定めなければなりません。皆の命を無駄にしないためにも私達は私達の役目を果たしましょう」

「はっ!」

黄「明日は決戦です。しっかりと睡眠を取り、明日に備えなさい」

「はっ。・・では、おやすみなさいませ」

黄「おやすみなさい」

兵が立ち去り私1人となる。

黄「劉備玄徳。噂通りの人物なら劉璋などよる益州を治めるに相応しい人物でしょう・・でも、劉備以上に気になるのが・・」

天の御遣い、御剣昴。

黄巾の乱、反董卓連合。いずれにも上がる名だわ。武と知、そして美と勇をも兼ね備えていると、この片田舎の益州にまで轟いている。戦乱を治めるために舞い降りた天の御遣いが何故戦乱を巻き起こすのか。それも見定めなければ・・。



















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昴side

翌日、出陣準備も整い、敵城へと進軍を開始した。

雛「現在、敵城からの出撃は確認されていません。黄忠さんは籠城を選んだ可能性が高いです」

桃「籠城? 援軍が来るアテがあるのかな?」

朱「アテは無いでしょうけど、黄忠さんの選択は理に適ったものですよ」

星「うむ、兵も将も揃っている我が軍の唯一の弱点は兵站だ。籠城し、我らの兵糧が尽きた頃に逆撃するつもりだろう」

愛「我らの弱点を的確に見抜いているということか。油断出来んな」

昴「・・・」

鈴「にゃ? お兄ちゃん、どうしたのだ?」

昴「・・なあ、戦をする前に一度黄忠と話をしてみてもいいか?」

愛「黄忠に舌戦を仕掛けるのですか?」

昴「舌戦というか・・黄忠を説得しようと思う」

星「・・主よ、いくらなんでもそれは無理なのでは? せめて一度力を示してからでなければ・・」

昴「籠城戦になれば双方に被害が出る。・・何より、1番に煽りを受けるのは民だ。朱里や雛里が策を仕掛けてるからさほど時間もかからないだろうが、それでも、な」

愛「ご主人様・・」

朱「どうなさるおつもりですか?」

昴「ん〜、とりあえず城の前に布陣したら前に出て、城壁に多分黄忠がいるだろうから説得してみるよ」

雛「危険ではないですか? 黄忠さんは弓の名手ですよ?」

昴「良将と呼ばれているならいきなり狙撃したりはしない・・よな?」

愛「いえ、尋ねられても」

昴「とにかく、なるべく被害は出したくない。任せてくれないか?」

皆が静まる・・。

桃「分かったよ。でもね、1つだけ条件があるよ」

昴「条件?」

桃「私も一緒に連れていって」

「「「「!?」」」」

愛「桃香様! いくらなんでもそれは危険過ぎます!」

桃「私だってご主人様と同じ代表だもん。黄忠さんに私の想いを聞いてもらいたい。それに、私が一緒ならご主人様だって無理はしないでしょ?」

愛「しかし・・」

昴「分かった。一緒に行こう、桃香」

愛「ご主人様!?」

昴「桃香の理想は桃香自身に語ってもらった方が黄忠に伝わるだろ。それに・・俺が桃香を守るから心配はいらない」

愛「・・分かりました。では私と星が護衛として共に・・」

昴「行くのは俺と桃香の2人だ」

愛「!? 駄目です! 向こうが攻撃を仕掛けてきたらどうするのですか!?」

昴「心配する気持ちは分かるが、これからこちらの理想を語り、説得しようとする人間が守られながら舌戦じゃ格好がつかないだろ? 万が一仕掛けてきても桃香1人なら守りきれる」

愛「・・分かりました。ですが、くれぐれも無茶はなさらないでくださいね」

昴「了解」

桃「分かったよ!」

さて、桃香の理想を黄忠に届けるか。


















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黄忠side

「黄忠様! 劉備軍が我が城の前に布陣を開始しました!」

黄「ご苦労様。引き続き警戒を怠らないように」

「了解!」

黄「ふぅ」

いよいよ始まるのね。劉備との戦が。

黄「あら?」

敵陣から2騎が前に出てきた。

1人は髪の長い可愛らし女の子。もう1人は黒い外套と長剣を携えた、あちらも女の子に見えるけど恐らくは男の子ね。

黄「一体何を・・!?」

こちらへ向かってくる途中、女の子は剣を。男の子は長剣と2本の剣と外套を地面に置き、こちらへ近付いてきた。



















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桃香side

私とご主人様は自陣を離れ、黄忠さんの説得のために城へ歩いていく。ご主人様の案で途中で武器を置いて丸腰であることを示し、策や罠を警戒させず、私達の話をちゃんと聞いてもらうための方法を取った。心臓の高鳴りが止まらない。

怖い。

もしかしたら矢で射かけられるかもしれない。そう思うとドキドキが止まらない。胸でギュッと拳を握る。

ポン・・。

桃「っ!?」

ご主人様が私の肩に手を置き、一度だけ頷いた。すると、ドキドキが収まった。そうだ。私にはご主人様がいるんだ。ご主人様が守ってくれる。だから私は私の務めを果たそう。私は城壁にいる黄忠さんに目を向けた。

桃「私は劉備、字は玄徳です! 黄忠さん、私の言葉を聞いて下さい!」

城壁にいる黄忠さんが私に目を向ける。

黄「・・・」

しばらく私の方を見つめると、城の中へと下がっていった。

そんな・・黄忠さんは私の聞いてくれないの? 少し待っていると、城門が開いた。開いた先には黄忠さんがいた。

黄「劉備さん。あなたの話を聞かせてもらうわ。けれどその前に、こちらもいくつか尋ねさせてもらってもいいかしら?」

桃「はい、もちろんです」

黄「まず、あなたは何故益州に侵攻してきたのかしら?」

桃「私達は益州の治める太守である劉璋さんの暴政に苦しむ民を救うためです」

黄「・・・」

桃「国の礎である民に暴政を敷き、自分は贅沢三昧でかつ内乱をするためにさらに民に暴政を強いるなんて間違っています! 国や民は王のためにあるんじゃない。国や民のために王というのは存在するはずです。それを分からない劉璋さんでは民はずっと苦しみ続けなればなりません。だから私達は益州を侵攻しました」

黄「・・話は分かりました。それでは、益州を制圧出来たとして、あなたはこの地を正しく治めることができますか? この地を他の脅威から守ることができますか?」

桃「必ず治めます。私1人では無理だけど、私にはたくさんの仲間がいます。とても信頼できる仲間が。皆で力を合わせて頑張ります!」

黄「では最後に・・あなたの求める世界、理想は何?」

桃「私の求める理想は皆が笑顔で暮らせる世の中にすることです」

黄「笑顔を求めるあなたがなぜ戦乱を巻き起こすような戦いを始めるの? 今あなたのしていることはその理想に反しているのでは?」

桃「・・・否定はできません。だけど、今の世の中は想いだけでは何も変えることはできません。力を持たない人達を救い、守るためには力が必要なんです。けど、力だけでも駄目。・・もちろん想いだけでも・・」

黄「・・・」

桃「私達は得た力を皆を守るために使う。理想を果たすために。ですから黄忠さん。私達に力を貸して下さい!」

私は私の想いを全て黄忠さんにぶつけ、黄忠さんの目を見つめた。黄忠さんはしばらく私の目を見つめた後、矢をつがえ、私に構えた。

黄「今の言葉に嘘はありませんね?」

桃「はい」

黄忠さんはしばらく私に弓を構え、やがて・・。

黄「ふぅ」

弓を下ろした。

黄「あなたの言葉、確かに聞かせてもらいました。もしあなたが力で民を支配する者であったり、理想を語るだけの愚か者だったらこの場であなたを射殺すつもりでしたが、あなたは劉璋と違い国と民の両方を曇り無き眼で見ることができるのですね」

桃「? えーっと・・?」

黄「民もあなた方を求めています。私自身もあなたの言葉に感服しました。黄漢升。あなた方にこの身をお預けしましょう」

桃「ホントにっ!?」

黄「ええ。誇りのために死ぬより、大義のために生きる道を選びます」

桃「良かった〜」

身体に力が抜け、その場に座り込んだ。

昴「お疲れ様、桃香。良く頑張ったな」

桃「ご主人様のおかげだよ! ご主人様が傍にいてくれたから頑張れたんだよ!」

昴「俺は何もしてないよ」

黄「あなたは?」

昴「あぁ悪い。俺は姓は御剣、名は昴だ」

黄「・・やはりあなたがあの天の御遣いでしたか」

昴「やはり?」

桃「あの?」

黄「あなたからは特別なモノを感じます。御剣昴。武と知と徳と美を兼ね備えた英傑であると」

昴「・・噂の1人歩きは恐ろしいな。俺はただ人より少し強くて頭が良いだけなんだが・・」

桃「ご主人様は噂通りの人だよ! すっごく強くて、頭が良くて、それに優しくてとてもかっこいいだから!」

昴「あ〜はは// ・・ま、何にせよ、劉備共々よろしく頼むよ。黄忠さん」

紫「紫苑とお呼び下さい」

昴「・・桃香はともかく、良いのか?」

紫「はい。天の御遣いと誉れ高いあなたなら是非に。それに・・うふふ」

むぅー、ご主人様に熱い視線送ってる。またご主人様は・・。

昴「? ・・分かった。よろしく頼む、紫苑」

紫「はい。ご主人様」

昴「・・ご主人様・・まぁ、いいか」

桃「それなら私のことは桃香って呼んでね♪」

紫「私も紫苑とお呼び下さい。よろしくお願い致します。桃香様」

桃「後、ご主人様は渡さないからね。(ボソッ)」

紫「恋と主従は別物ですよ。(ボソッ)」

う〜、協力なライバル出現だよ〜。でも、紫苑さんを説得することができて良かった。


















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紫苑side

不思議なモノだわ。私は当初、戦わずして降るつもりはなかった。桃香様が前に出てこられて、彼女の言葉を聞いた時、もう戦う気は失せていた。桃香様なら皆を導いてくれる。そう感じた。もう1人気になるのが。

紫「(チラッ)」

御剣昴様。彼の存在。桃香様は最初怯えていた。それがご主人様が近くに来ただけで桃香様から怯えがなくなった。そして桃香様に矢を向けた時、ご主人様はすぐに飛び出せる構えを取っていた。その時のご主人様の目はまるで子を守る親のような目だった。とても純粋でとても綺麗な。きっと桃香様の理想はご主人様の理想でもあるんだわ。ご主人様からいるから桃香様は理想を貫くことができる。ご主人様。彼を見ていると私の中の女が疼くわ。桃香様にはあのように言ったけど。本当に狙ってみてもいいかもしれないわね♪


益州平定の初戦にして一番重要な戦いは開戦を待たずに終結した。









続く

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