小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


第49話〜巴郡攻略戦、井の中の蛙〜















昴side

桃香の説得により、戦闘を行うことなく紫苑を引き入れることに成功し、紫苑の居城へと入城した。

昴「桃香のおかげで双方に被害を出さずに終わることができたな」

朱「現在、兵の皆さんには食事をとってもらっています。もうすぐ補充兵の方も到着するかと」

昴「徐州から今に至るまでほとんど休み無しで来たからここいらで大休止を取ったほうが良さそうだな」

雛「はい。正しいご判断かと」

愛「ですが、のんびりしていては、成都への道を塞がれてしまうのでは・・」

昴「それもそうなんだが・・疲労を抱えたまま進軍したらそれこそ大怪我の元だ。1日だけ兵達に休んでもらって、その間に次の戦の作戦を練ろう」

桃「そうしようー♪ ・・それで、次の戦いってどこになるの?」

白「成都までの道のりを考えると、巴郡、江陽、巴東県辺りになるかな?」

朱「その3つの進路が妥当でしょうね。でも紫苑さんのご意見も聞いてみたいです」

桃「あ、そっか。・・聞いても良い?」

紫「何なりと」

愛「先ほど白蓮殿があげた3つの進路。その内、どの進路が与しやすいのだ?」

紫「そうね。与しやすさだけで言うのならば、江陽と巴東の2つかしら」

星「その言い方だと、巴郡には強敵が居るということだな」

紫「ええ。でも、桃香様にお勧めするのは、巴郡かしらね」

昴「なるほどね」

桃「? ・・巴郡に強敵に居るならそこは避けた方が良いんじゃないの?」

昴「強敵だからこそだ。攻略することが出来れば他の城は戦わずして落ちるだろう」

桃「あ、なるほど!」

昴「紫苑の口振りからして、説得することも可能・・と考えて良いのか?」

紫「ご主人様の言う通りです。巴郡城主厳顔と、その部下魏延。2人とも懇意にしていた間柄ですから。説得の仕方によっては分かってくれると思います」

愛「説得で済むのならば、確かに江陽や巴東を征くよりも早いかもしれんな」

紫「いいえ。城を落とす速さで言うならば、江陽や巴東の方が早いでしょう。しかし、厳顔と魏延の2人を説得出来たならば、成都へ向かう道々にあるお城は、ことごとく桃香様の物になるでしょう」

星「それほど人望厚き人物なのか」

紫「はい。ただ1つ問題が・・」

桃「問題? どんな?」

紫「実力、人望申し分ない2人ですが、そんな2人だからこそ頑固なところもありまして。素直に応じるかどうか分からないのです。恐らく、一戦して力を示せ、ということになるでしょう」

愛「そこで我らの力を見せれば、説得に応じるという訳か・・」

鈴「偏屈な奴なのだ」

翠「自分に自信のある奴は得てしてそういうもんさ」

白「でもまぁ、そういう、自分なりの判断基準を持っている奴の方が信用出来るけどな」

昴「・・その厳顔と魏延。聞く限りかなり頑固そうだけど、戦で勝利すれば説得出来るのか?」

紫「厳顔の方は大丈夫だと思いますが、魏延の方が・・」

昴「問題あるのか?」

紫「魏延は更に頑固者で、己の武こそ最強と思い込んでいる節がありまして。例え戦で勝利しても説得に応じるかどうか・・」

昴「ふーん・・」

要するに自信家の身の程知らずか・・。

昴「・・ならその魏延、俺が相手するよ」

星「主がですか?」

愛「わざわざご主人様が出ずとも我らで十分ですよ?」

昴「まあ愛紗や星達なら難なく降せる相手だろうが、そういう身の程知らずは俺直々に調k・・相手して自信の根っこをへし折ってやるよ」

「「「「・・・」」」」

昴「ん? 皆どうした?」

皆「いえ、何も・・」

・・・まぁいいか。

昴「とにかく心配はいらない。・・それじゃ、明後日の出陣の準備をしよう。朱里と雛里は場内の物資の確認を頼むな」

朱・雛「はい♪」

桃「それじゃ皆、明後日の出陣に向けて英気を養おう♪ ご主人様も、紫苑さんが仲間になったからってあんまり変なことばかりしちゃ駄目だよ♪」

昴「残念。ま、ほどほどに、な?」

紫「あらあら・・」

愛「ご主人様! 今は成都攻略の大切な時期ですのでそのような・・」

昴「愛紗、冗談だよ」

紫「あら、私はよろしかったのですが・・」

愛「・・紫苑よ、あまりご主人様を誘惑しないでいただきたい」

紫「うふふ・・主の要請には身を捧げるのが良き臣下の務めでしょう?」

昴「あはは、なら今日は夜に付き合ってもらおうかな?」

紫「・・ご主人様のご要望なら何なりと・・」

昴「・・なら、頼むな」

その夜、紫苑に夜明けで付き合ってもらった・・。
















酒に・・・。















当たり前だろ!

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


厳顔side

夜。1人城壁にて夜風に当たっておると焔耶。魏延が血相を変え、儂を尋ねてきおった。

魏「厳顔様! 黄忠の守る城が劉備軍に落とされたとの連絡が、つい先ほど入りました」

厳「なにっ! いつだ?」

魏「斥候の話では、本日の昼頃にはすでに城門が開かれていたようです」

厳「半日保たずか。紫苑ほどの者が守る城を、こうも易々と落とすとはな」

魏「劉備軍の評判は、伊達では無いということでしょうか・・」

厳「それもあるだろうが・・。焔耶。城が落ちた時の様子を聞いておるか?」

魏「いえ。まだ詳しい報告は受けてません」

厳「迂濶じゃの。良いわ。斥候に出向いた兵士をここへ呼べ。直接聞くことにしよう」

魏「はっ! ではすぐに」

焔耶がその兵士の元へと向かった。

紫苑ほどの者が半日で城を明け渡す、か。何を考えておるのじゃ、あの未亡人殿は。降伏したのか・・? 確か紫苑は現体制には否定的じゃったな。それについては儂も同意見ではあったが。

厳「うーむ、読めんな。状況が・・」

すぐに焔耶が兵士を連れ、戻ってきおった。

魏「桔梗様、兵士を連れてきました」

厳「ご苦労。城が落ちた時の状況を、もそっと詳細に報告せい」

「はっ。それが・・」

厳「? ・・どうした、申してみよ」

「それが・・劉備軍が黄忠将軍の城の前に布陣した後、劉備軍から2人が出て城前へと進み、何かを問いかけると黄忠将軍は城の外へと1人出られまして、何やら話をした後、黄忠将軍が劉備軍を先導する形で入城し・・」

厳「・・もうよい。報告ご苦労。少し休んでおれ」

「はっ!」

厳「うーむ・・」

紫苑は1度も戦闘を行わずに劉備に降ったか・・。

魏「一体、どうなったというのでしょうか?」

厳「・・分からぬか? 恐らく劉備軍から出た2人の内1人は劉備じゃろう」

魏「・・総大将自ら前に、ですか?」

厳「うむ、そして紫苑はその劉備の説得により降ったのじゃろう」

魏「むぅ。黄忠将軍ともあろう者が、早まったことをする・・」

厳「・・紫苑は優しげに見えて、なかなか骨のある女。そう易々と降伏はせん。察するに劉備はそれほどの人物なのだろうな」

魏「劉備の噂はこの巴郡にまで聞こえていますからね。我らの住民達が騒ぎ出さないように、注意しておかないと・・」

厳「注意なぞせんでも良い。劉璋のボウズに比べ、劉備が優れていることなんぞ、誰でも分かるわい」

魏「は、はぁ。では桔梗様も黄忠将軍同様、劉備に降伏するのですか?」

厳「民が幸せを求めるのを止めることは出来んからな。住民達が劉備を歓迎するのならば、それは致し方無いことじゃ・・じゃが、くくっ、儂らいくさ人にはそんなこと関係無い。まずは一戦。儂らの歓迎を受けてもらわんとな」

魏「ですよね! やっぱり桔梗様はそうで無くては。刃も交えず降伏するなど、誰がしてやるかってんです!」

厳「うむ。紫苑が認めた人物だと言うならば、この目でしかと確かめてやろう。・・焔耶。戦の準備、怠るなよ」

魏「了解です!」

焔耶は城へと降りていった。

厳「くくっ、劉備か。どれほどの器か、楽しみじゃ。・・それにあともう1人・・」

天の御遣い、御剣昴。巷の噂はどれも奴を誉め称えるものばかりじゃ。

厳「全てを兼ね備えた存在、か。どれほどの者か確かめてやるわい」

久しぶりに楽しい戦ができそうじゃ。


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

2日後、出陣準備が整い、厳顔が守る巴郡へと出発した。

昴「昨日は久々に楽しめたな」

紫「ふふっ、ご主人様、とても強く、たくましかったわ。私もつい熱くなってしまいました//」

昴「また付き合ってくれるか?」

紫「はい、是非とも!」

翠「ごごごごご主人様! 何ハレンチなこと言ってるんだよ//」

愛「そうです! 紫苑もあまりご主人様を誘惑するのは止してくれないか!? ご主人様も今は状況が状況ですから・・」

昴「いや、また酒を酌み交わそうってことなんだが・・」

愛・翠「えっ!?」

昴「何を想像したんだ? この非常時にハレンチな(笑)」

愛・翠「っ//」

紫「うふふ。・・しかしご主人様はお酒がお強いのですね。いくら飲んでも一向に酔われませんでしたから」

昴「ん〜、まあもともと強かったのもあるが、至るところでいろんな酒を飲んだからな」

紫「ご主人様に御奉仕させてもらおうと思っていたのですが、一向に隙を見せてくれませんでしたので、こちらが先に酔いが回ってしまいましたわ」

昴「酔った紫苑も色っぽかったよ」

紫「まあ、お恥ずかしい//」

昴「ははっ・・イタタタッ!」

桃香に頬をつねられた。

桃「むぅぅぅ。」

昴「何怒ってんだよ?」

桃「ふん、知らないもん!」

そっぽを向かれた。

昴「何だかな〜・・ん?」

良く見ると皆そっぽを向いていた。

昴「あれ〜・・?」

何で皆怒ってるんだよ・・。

昴「なあ、愛紗?」

愛「・・(プイッ)」

昴「朱里、雛里・・」

朱・雛「・・(つーん)」

はぁ・・・。しばらくしたら皆機嫌を直してくれた。しばらく行軍していると・・。

「申し上げます! 前方に敵軍を発見! その数、約8万前後! 旗印には厳と魏の文字!」

愛「ご苦労。下がって休め」

「はっ!」

愛「敵は城を出て、野戦で決着をつけようと言うのか」

星「解せんな。籠城を捨てて野戦を挑むとは・・。敵は何を考えている・・」

翠「籠城していれば味方の援軍だって来るのになぁ。あ、逆に考えれば、援軍が来ないってことかな」

雛「その可能性もありますが、可能性を判断するための情報が不足しています。もうちょっと情報を集めないと」

桃「あの、紫苑さん・・聞いてもいいですか?」

おずおずと桃香が紫苑に訪ねる。

紫「ええ、構いません」

桃「でも、もし言いたくなければ・・」

紫「お気遣いありがとうございます。ですが、私はすでに身も心もご主人様のものですからご心配には及びません」

「「「「・・・」」」」

ジトーとした視線が俺に突き刺さる。

昴「紫苑・・話が脱線しそうだから今は勘弁してくれ」

はぁ・・全く・・。

朱「では、紫苑さんが知っている限りの情報を教えて貰っても良いですか?」

紫「ええ。・・厳顔と魏延。2人は共に心から戦を楽しむ、生粋の武人。それに元々、劉璋を頂点とする現政権を口やかましく批判していましたから。援軍を要請したところで、今の成都が対応するはずはないでしょう」

つくづく劉璋は無能だな。巴郡を抜かれれば成都までは目と鼻の先だってのに。

紫「それ以前に、恐らくあの2人は成都に援軍など要請してもいないでしょうけどね」

蒲「うわー。体育会系〜。戦うことが楽しいって人達なんだね〜」

紫「そうね。あの2人は根っからのいくさ人。酒と喧嘩と大戦をこよなく愛する武人よ。」

想「ふむ、とても気持ちの良い2人なのだな。野戦を挑む潔さ。私とは気が合いそうだ」

ね「しかしそれで野戦を挑むと? ・・何とも迷惑な人達ですなー」

昴「そう悪い判断でもないがな」

白「そうか? いくら援軍が来ないからって野戦を選ぶのは戦術的には下策じゃないか?」

昴「通常ならな。だが、籠城をしていて城内に混乱が起きたら戦うことも出来なくなる。それに・・多分だけど向こうは戦術とかどうとかそういうことは考えてないと思うぞ」

恋「恋も昴と同じ考え・・。誇り。ただそれだけ」

昴「まあ何にせよ、向こうが籠城ではなく野戦を挑んできたことはこちらにとってはありがたい。現戦力で籠城戦はきついからな。この一戦で俺達の強さを示し、厳顔と魏延を降伏させる。今はそれだけだ」

星「ふむ。事態は見えた。勝つ。それだけですな」

雛「そのようですね。では部隊を配置したあと、進軍を再開しましょう」

桃「了解♪ それじゃ先鋒は紫苑さん、鈴々ちゃん、翠ちゃんにお願いするね。その3人の補佐は雛里ちゃん、白蓮ちゃん、たんぽぽちゃんがお願い」

雛「はいっ」

白「了解」

蒲「はーい♪」

桃「愛紗ちゃんと星ちゃんは左右についてね」

愛「はっ!」

星「うむ」

桃「恋ちゃんと想華さんと雫さんは予備隊として本隊で待機。朱里ちゃんねねちゃんも同じく、私の傍に居てね」

朱「はいっ♪」

ね「了解ですぞー」

恋「・・(コクッ)」

想「承知した」

雫「承りましたわ」

桃「・・配置はこれで大丈夫かな、ご主人様?」

昴「適材適所だ。問題ない。・・それじゃ俺は先鋒の補佐に行くよ」

愛「・・やはり行かれるのですか?」

昴「当然。身の程知らずの相手をするからな。・・心配するな。あくまでも先鋒の補佐だ。最前線には出ないよ」

愛「・・分かりました。無理はなさらないでください」

昴「ああ。分かってるよ。・・・それじゃ、皆朱里達の指示に従って部隊を編成してくれ。皆、行くぞ!」

皆「御意!」


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


部隊を編成し、進軍すると敵が見えてきた。

雛「敵軍捕捉! 皆さん、作戦通り部隊を展開してくださーい!」

愛「よし! 鈴々達は部隊を展開させろ!」

鈴「分かっているのだ!皆行くのだ!」

翠「へへっ、張り切りすぎてヘマすんなよ!」

鈴「翠に言われたく無いのだ。ねー、紫苑、お兄ちゃん」

紫「ふふっ。2人とも気を付けなさいね」

昴「油断するなよ」

翠「とーぜん! たんぽぽ、行くぞ!」

蒲「ほーい!」

白「よし、私も久しぶりに派手に暴れさせてもらおうかな。白馬の勇士達よ! 張飛隊、馬超隊に負けるなよ!」

「応っ!」

雛「私と紫苑さんは先鋒中央で相手の出方を待ちましょう。説得の方をお願いします」

紫「了解ですわ、可愛い軍師殿」

愛「関羽隊、趙雲隊は左右より敵を迎撃する! 攻撃ばかりに気を取られるなよ!」

星「押せば退き、退かば押す! 柔軟な動きこそ我らの真骨頂とおもえ!」

「応っ!」

朱「本隊は先鋒の後ろで魚鱗の陣を布いてください! 戦況によってはそのまま前に出ますからねー!」

桃「了解♪」

昴「俺は翠とたんぽぽの補佐に向かう。桃香。本隊は任せた」

桃「任せて♪ じゃあご主人様!」

昴「全軍構え! 攻撃開始だ!」

「「「「おぉぉぉーー!!!」」」」

戦は開戦された。


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


両軍がぶつかり、戦場と化した巴郡に怒号、叫び、悲鳴が入り交じった声と剣と剣がぶつかり合う音が激しく鳴り響く。

翠「どっしゃおらーー!」

蒲「いっくよー!」

翠とたんぽぽの騎馬隊が敵陣に斬り込み、敵を討ちながら縦横無尽に駆け回り、敵陣を撹乱していく。鈴々の隊が厳顔の部隊に突撃し、次々に敵を討ち取る。そして間髪入れず、愛紗と星の隊が左右から挟撃をして敵陣を斬り崩していく。白蓮と紫苑の隊が各隊を援護をし、想華と雫の隊が遊撃に回る。各々が与えられた役割を果たし、当初の数的不利を瞬く間に跳ね返していく。やはり将の差は大きい。数も質も、こちらに圧倒的に分がある。魏延の隊は翠とたんぽぽの騎馬隊に撹乱され、みるみる統制を失っていく。厳顔の隊も鈴々の隊を止められず、こちらも押し込まれていく。それでも厳顔、魏延両隊は奮戦をしていたが、遂に堪えきれず、ついに崩れ始めた。

昴「今こそ好機だ! 一気に敵陣に押し込むぞ!」

「「「応っ!」」」

自軍の兵が敵陣に突撃していく。

昴「さて、俺も魏延を探しに行くかな・・」
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


さて、敵陣に来たが、魏延はどこだ? しまったな、紫苑に特徴ぐらい聞いておけば良かったな。辺りを探していると・・。

ドォーン!!!

「ぐふっ!」

轟音と共に1人の自軍の兵士が吹き飛ぶ。

魏「ふん! 貴様ら雑兵如きでは、この魏延の足元に及ばん」

・・あれが魏延か。見つけた。

魏「誰か私の相手になる奴はおらんのか!」

おうおう、いかにも身の程知らずな人間だな。それじゃ、その自信を根っこからへし折ってやるか。

昴「その雑兵を討ち取っただけの割りに随分と威勢が良いな」

魏「む? ・・何だ貴様は?」

昴「劉備軍の御剣昴だ」

魏「御剣? ・・・ああ、貴様が天の御遣いなどと呼ばれている者か」

昴「知っていただいて光栄だ」

魏「ふん。・・・・・何だ、噂を聞いてどんな者かと思ったが・・・たいしたことはなさそうだな」

・・・初見で相手の力量を量れない程度か・・。

昴「相手になってやる。来な、蛙ちゃん?」

魏「蛙?」

昴「井の中の蛙。お前に大海を教えてやるよ」

魏「ほざけー!」

魏延が真っ直ぐ俺に突っ込み、得物である金棒を振り下ろした。俺は左足を退き、半身になって魏延の一撃を避ける。

ドォォォォン!!!

魏延の一撃により、地面に穴があく。

ふーん、威力はまあまあだな。

魏「次は外さんぞ」

昴「俺が避けたんだよ」

自分が外したみたいに言うな。

魏「うおぉぉーー!」

再度魏延が俺に飛び込む。

ブォン! ブォン! ブン!

次々と俺に攻撃を繰り出す。

魏「どうした! 先ほどから避けてばかりだが、手も足も出ないのか!?」

昴「そういうのは一撃でも当ててから言えよ小娘」

魏「ほざくな!」

ブォン! ブォン! ブォン!

なおも魏延は攻撃を繰り出す。単調過ぎる攻撃。話しにならないな。

昴「どうしたどうした? そんなんじゃ何年たっても俺を捉えられないぞ?」

魏「ちょこまかと避けることしか出来ない奴がほざくな! 一撃、一撃でも捉えたら貴様の終わりだ!」

あっそう。だったら・・。

俺は足を止めた。

魏「止まったな? これで終わりだー!」

魏延が俺に渾身の一撃を繰り出す。俺は右手に氣を集中させ・・。

ドン!!!

魏「なっ!?」

俺は魏延の一撃を受け止めた。

昴「例え当たってもこの程度だ」

俺は金棒を払った。

昴「次はこちらから行くぞ」

俺は村雨を抜いた。

昴「先に言っておく。避けろよ? 受けようとか思うな。死にたくなければな・・」

村雨の切っ先を上に上げ、村雨に氣を込める。

昴「飛龍・・衝撃・・」

村雨を魏延に振り下ろした。

















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


魏延side

昴「先に言っておく。避けろよ? 受けようとか思うな。死にたくなければな・・」

奴は長剣を抜き、切っ先を空へと上げた。

死にたくなければだと? ふん! 貴様にどんな一撃を繰り出せるというのだ! 下らん、その一撃ごと貴様を吹き飛ばしてくれる!

私は自身の武器である鈍砕骨を構える。

昴「飛龍・・衝撃・・」

奴が長剣を振り下ろした。私は鈍砕骨をぶつけようとした。

ドクン!

魏「っ!?」

これを受けたらまずい! 

何故か分からないが直感的にそれを悟った。私は攻撃を止め、後ろへ下がり、奴の一撃を紙一重で避ける。

よし、かわした!

奴が放った一撃が地面へと吸い込まれると・・!

ドゴォォォォォォォォン!!!

魏「うわー!」

繰り出された一撃の衝撃により、私は後方に弾き飛ばされた。

魏「うっ・・・はっ、これは!?」

目を開け奴に振り返ると愕然とした。奴が繰り出した一撃により、その周辺は大穴があいていた。私の一撃とは比較にならない大穴が。

もし・・この一撃を受けていたら・・。私は死んでいた。それも跡形も残らず・・。

奴がこちらへ歩みよる。

くっ、立たねば!

私は足に力を込め、立ち上がる。

ギン!

魏「っ!?」

突如私の体に強烈な殺気が襲った。奴が、御剣昴が私に強烈な殺気をぶつけてきた。

魏「あ・・あ・・」

私はその殺気により力が抜け、立っていられなくなった。私は・・・なんて奴を相手にしていたのだ。奴は・・私の敵う相手ではなかった・・。

昴「ようやく力の差に気付いたか」

魏「・・あ・・」

気が付くと御剣昴が眼前にいた。

昴「ちなみに言っておくと、今の一撃、当てることも出来たしもっと強い一撃を放つことも出来た」

魏「くっ!」

実力が・・格が違いすぎる・・。

奴がスッと右手を近づける。

私は、死ぬのか・・。

私が覚悟を決め、目を瞑ると・・。

ピシン!

魏「あう!」

私のおでこに軽い衝撃が走った。目を開けると先ほどの殺気はなく、ただ目の前に立っていた。

昴「1つ聞く。お前は何のためにその力をつけたんだ?」

魏「何の・・ために?」

昴「ただ戦いたいからか? それとも他者に己の力を誇示したいからか?」

魏「それは・・」

戦に喜びを感じ。それ故に力をつけていた。私の武を天下に知らしめる為でもあった。

魏「・・・」

昴「図星か・・・もったいないな」

魏「もったいない?」

昴「お前のその力。正しく使えば多くの人間を救うために使うことが出来るのに」

魏「多くの人間を救う・・」

何故こいつはそんなことを・・。

昴「魏延」

魏「・・何だ?」

昴「強くなりたいか?」

強く? そんなこと・・。

魏「ああ。なりたい」

昴「そうか・・」

奴がフゥッと一息する。

昴「さっきの一撃で劉璋に仕える魏延は死んだ。ここにいるのはただの魏延だ」

魏「? ・・貴様は何を言っている?」

昴「これから先どうするかはお前の自由だ。劉璋の配下に戻るも、野に降るも、降伏するもな。だがもし俺達と共に歩む道を選ぶなら。俺がお前を強くしてやる。そして強くなったお前の力を正しく使うための道を俺が指し示してやるよ」

魏「・・・」

昴「まあ、良く考えるんだな・・・さてと。鈴々は今頃厳顔と対峙しているころか・・。たんぽぽはいるか!?」

奴が叫ぶと。

蒲「ここにいるぞ♪」

何やら小さな娘が現れた。

昴「俺は鈴々達の様子を見てくる。魏延を護送してくれないか?」

蒲「うん、分かったー♪」

昴「それじゃ、頼む。またな。」

それだけ言うと奴は桔梗様の陣に歩いていった。

魏「・・・」

蒲「ほら、たいした怪我してないんでしょ? 早く立ちなさいよ!」

魏「・・おい」

蒲「何よ?」

魏「奴は・・一体何者なんだ?」

蒲「はあ!? あんた聞いてなかったの? 彼の名前は御剣昴。あの人は天の御遣いで、たんぽぽ達のご主人様だよ♪」

魏「天の・・御遣い・・」

噂は誇張でも何でもなく、その通りだった。あの方こそ。あの方こそが・・。

魏「私が求めていた主だ」

蒲「何? あんたどうしたのよ?」

魏「ああ・・御剣昴様♪」

私はあなた様に身も心もお捧げ致します♪

蒲「ご主人様ったらこんな脳筋にまで・・」

私は先ほどまでいた昴様のお顔を頭に浮かべた。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

厳顔の陣にたどり着くと、完全に勝敗は決しており、戦闘はほとんど行われていなかった。

昴「鈴々は・・・おっ、いた」

厳顔と対峙しているが、その周りに殺気はない。どうやらこっちも終わったみたいだな。良く見ると、そこには桃香と紫宛もいた。

昴「こっちも終わったみたいだな。」

桃「あ、ご主人様♪」

桃香が俺に駆け寄る。

桃「うん、終わったよ♪ 鈴々ちゃんのおかげで厳顔さんが降参してくれたよ♪」

昴「そうか。良くやったな、鈴々」

鈴々頭を撫でた。

鈴「にゃはは〜//」

厳「ぬっ・・お主は?」

紫「桔梗。こちらの方が私の主。御剣昴様よ」

厳「ほお。お主がかの有名な天の御遣いか。・・なるほどのう。お主ならば頷けるのう」

昴「どうも。・・それで、話はどこまで進んでいたんだ?」

桃「あぁそうだ! それで厳顔さん。もう反董卓連合に参加した諸候の半数がすでにもう領地が無いんです。袁紹さんに袁術ちゃん、白蓮ちゃん・・公孫賛ちゃんに西涼の馬騰さん・・」

厳「なにっ!? 袁紹と言えば、確か三公を輩した名門ではないか。その袁紹が滅亡したというのか?」

桃「滅亡じゃないです。だって袁紹さんは私達のところに居るもの」

厳「どういうことだ?」

紫「曹操に敗れさった袁紹さんが、劉備様の領地をウロウロしている時に保護されていたそうよ」

厳「袁術は?」

桃「恋ちゃん・・呂布ちゃんと連合を組んで攻めてきたんだけど、皆で撃退して、今は呂布ちゃんと一緒に私達の仲間になってくれたよ」

厳「呂布、天下の飛将軍にあの袁術までもが劉備陣営に与しているのか・・」

紫「呂布や袁術だけではなく、董卓、袁紹、公孫賛。皆、自分の領土を失ったあと、劉備様の下に集い、その理想を手助けしているわ」

厳「ふぅむ」

昴「今この大陸の勢力も残り少ない。北方の曹操に東方の孫策。あとは・・」

厳「益州の田舎に籠り、安穏としている劉璋のボウズか。しかし奴では国を守れんだろうな」

紫「だからこそ、私は益州の未来を・・そして大陸の未来を劉備様に賭けたの。あなたはどうする?」

厳「決まっとる。曹操孫策など、儂は知らん。だが刃を交えた劉備殿の心底は分かっておる。知らぬ覇者より見知った王者を選ぶ方が、助け甲斐あるというものだ」

桃「あ、じゃあ・・」

厳「うむ。我が魂と我が剣。共に劉備殿に捧げよう」

桃「ありがとう! 厳顔さん!」

厳「ああ。我が名は厳顔。真名は桔梗。よろしく頼みますぞ、主殿」

桃「うん! 私の真名は桃香っていうの。よろしくね、桔梗さん♪」

昴「俺は御剣昴。・・俺も真名で呼んでも良いのか?」

桔「当然だ。桃香殿と御剣殿の2人が、我が主ということになろう。よろしく頼むぞ、お館様。」

昴「こちらこそよろしく頼む。桔梗さん」

桔「さんなど不要だ。桔梗で構いませぬ」

昴「分かった。よろしく頼む。桔梗」

桔「うむ!」

桃「・・あ! そういえばご主人様は魏延って人のところに行ったんじゃなかったの?」

昴「そっちはもう片付いた。後のことはたんぽぽに任せてきたんだが・・」

蒲「呼んだ?」

昴「ああ、たんぽぽか。ちょうど良かった。魏延はどうしてる?」

蒲「あいつならたんぽぽの天幕で大人しくしてるけど・・連れてくる?」

昴「頼む。厳顔が降伏したこともちゃんと伝えといてな」

蒲「ほーい。じゃあ連れてくるねー!」

桔「魏延を降すとは、やはりお館様はお強いですな」

昴「まあ魏延は驕りが過ぎていたからな」

桃「さすがご主人様♪ ところで桔梗さん。魏延さんは仲間になってくれるかなぁ?」

桔「分からん。頑固な娘だからな。・・お館様。もし魏延が降るのを拒否したとき・・」

昴「心配するな。どうこうするつもりないよ」

桔「・・安堵した」

桔梗が俺の問いにホッと息を吐く。すると何やら大きな足音が近づいてきた。

?「お館様ーーー!」

振り向くと魏延がもうスピードで近づいてきた。そして俺の目の前で止まった。

魏「魏文長! ただいま馳せ参じました!」

昴「は、早いな、魏延」

焔「焔耶とお呼び下さい! お館様!」

昴「真名を呼んでも良いのか?」

焔「是非お呼び下さい!」

昴「そうか。では焔耶。君のこれからのことだが・・」

焔「私の身も心もすでにお館様の物です! 私はお館様について行きます!」

昴「そ、そうか。ではよろしく頼むな」

焔「はっ! よろしくお願い致します! お館様!」

桔「むぅ。あの焔耶をこうまで籠絡してしまうとはのう・・」

昴「何かとんでもないことになったけど・・ま、いっか」

桃「私の名前は劉備。真名は桃香。桃香って呼んでくださいね」

焔「はっ//(この方も美しい)」

桃「ええっと?」

焔「はっ!? ・・失礼致しました! 私のことも焔耶とお呼び下さい!」

桃「うん! よろしくね♪」

焔「はい!」

その後なにかとはしゃぎすぎて焔耶は桔梗に拳骨を貰った。

巴郡は落ち、厳顔と魏延が仲間になった。その後、朱里と雛里が厳顔と魏延の2人が劉備軍に参加したことを流布したことにより、各地の軍が次々に参戦し、劉備軍はさらにその規模を大きくした。

後残っているのは益州州都成都のみとなった・・。











続く

-51-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える