小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第50話〜蜀州都成都攻略戦、最後の砦〜















巴郡で桔梗と焔耶。厳顔と魏延を降し、巴郡を攻略した。これにより、各地の軍が次々と劉備軍に参加し、益州平定で残すところ、後成都のみとなった。俺達は桔梗の城に入城し、新たに加わった桔梗、焔耶を交え、軍議を始めた。

昴「益州平定まで残すところ後成都のみだ。州都成都の攻略だが・・」

翠「と言っても益州のほとんどがあたしらに降ったんだ。特に心配はないんじゃないか?」

鈴「鈴々達なら楽勝なのだ♪」

桔「いや、そうとも限らん」

紫「・・そうね」

焔「・・そうですね」

愛「何か問題があるのか?」

紫「ええ、成都にはまだ1人、警戒しなければならない方がいるわ」

桃「警戒しなきゃならない人?」

桔「親父殿じゃ」

焔「お爺様ですね」

桃「?」

紫「張任様。諸国ではあまり広まっていない名だけれど、益州では知らぬ者はいない方です」

星「お主らがそれほどまでに言うほどの人物なのか?」

桔「うむ。儂と紫苑もそうだが、焔耶も、この国の武官は皆、親父殿に手解きを受けておる。老齢なれどその武は未だ健在。儂も焔耶も一度も勝ったことがない。一騎討ちも兵を率いての模擬戦も」

愛「それほどか・・」

桔「皆親父殿を尊敬し慕っておった。・・ただ劉璋のくそ坊主に群がる文官どもは親父殿を疎ましく思っておっての、劉璋に働きかけ、親父殿を将から外し、益州の辺境の街に幽閉しおったんだが、桃香様達が儂らと戦をする少し前に将に復帰したという報告が入った。桃香様達の快進撃に恐れをなし、急きょ呼び寄せたのだろうが・・忌々しい話じゃ。半ば無理やり追い出しておいて、都合が悪くなったら呼び戻すなど・・」

桔梗はかなり苛立っている。それほどまでに慕っているのか。

紫「もし張任様が自由に部隊を指揮できる立場にあるなら、かなり厳しい戦になると思います」

愛「警戒し過ぎではないか? 如何に優れていようと所詮は1人であろう。私達には武に優れた将も知に優れた軍師もいるのだぞ?」

紫「それがそうでもないわ。確かに桃香様の周りにはたくさんの優秀な将が集まっているわ。だけど張任様は桃香達に唯一ないものを持っているわ」

愛「我らに持っていないもの?」

紫「ええ。それは・・」

昴「経験、だな?」

紫「・・そのとおりです。ご主人様」

昴「経験の差ってのは大きい。若き才を持つ英傑も、歴戦の将から見たら赤子も同然だ」

桔「お館様の言う通りじゃ。それに、この国が今の今まで成り立っていたのは親父殿がいたからこそじゃ」

昴「経験の差はでかいぜ? 絶対縮まることがないからな」

愛「・・でしたら、早々に私が討ち取りましょう。一騎討ちなら経験の差など・・」

紫「残念だけど、今の愛紗ちゃんでは無理だわ」

愛「むっ・・」

紫「単純な膂力や速さなら愛紗ちゃんの方が上だわ。でも一騎討ちをしたら愛紗ちゃんは負けると思うわ」

愛「・・(ギュッ!)」

愛紗は拳を強く握っている。なんとも悔しそうだな。まあ武人が戦わずして負けるとか言われれば仕方ないか。

昴「とりあえず話は分かった。警戒すべきはこの張任だけでいいのか?」

桔「うむ、残りは取るに足らん将ばかりじゃ」

昴「なら、俺達はその事を念頭に入れて進軍しよう。警戒すべき相手かもしれないが、だからといって臆する必要もない。今の俺達には力も勢いもある。愛紗の言う通り、1人では限界がある。個で勝てないなら集でぶつかればいい。益州攻略まで後少しだ。皆気合い入れて行くぞ!」

「「「「「了解!」」」」」


















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??side

場所は成都。

?「ふむ、風がでてきたのお」

この季節は老骨には堪えるのう。

「申し上げます! 劉備軍が巴郡より進軍を開始しました!」

?「きおったか」

時の勢いは劉備にある。さて、どうするかのう・・。

「あの、張任様」

張任「何じゃ」

「本当に劉備と戦うのですか?」

張任「不服か?」

「率直に、劉璋に仕える価値は本当にあるのでしょうか?」

張任「・・・」

「政治を顧みず、民を蔑ろにし、自身は贅沢三昧。挙げ句に張任様を都合の言いように利用して。私はこの国を治めるに劉璋は相応しくないかと・・」

もはや兵の心すら離れておるのか・・。

張任「ならば劉備に降るがよい。儂は止めも罰せもせぬ」

「張任様は何故劉璋などのために戦うのですか!?」

張任「儂は二君には仕えぬ。儂は劉焉様の願いのために戦うだけじゃ」

「ですが、劉璋は張任様を都合のいい道具としか見ておりません! 現に戦の陣立ても・・・くっ! せめて張任様が全ての指揮を取れれば・・」

次の戦。儂に任されたのは1部隊のみ。全軍の指揮を取るのは戦経験もろくにないひよっこ。

張任「ホッホッホッ、気軽て良いわい」

「笑い事ではありませんよ!」

張任「儂は劉備と戦い、死に花を咲かせよう。お主はどうする?」

「・・お供致します。張任様」

張任「・・負け戦じゃぞ?」

「劉備、劉璋など知りません。私は恩ある張任様のために戦います」

張任「・・すまぬのう。では、参ろうか」

「はっ!」

さて劉備よ、成都最後の砦である儂は簡単には抜けぬぞ? 心して掛かるがよい。



















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昴side

巴郡から進軍し早2日。俺達はついに成都へとたどり着いた。俺達は素早く部隊を展開し、臨戦体勢を取る。

朱「敵の動きは鈍重を通り越してますね」

昴「確かにな。だが・・」

雛「1部隊だけ、練度が段違いに高いです」

昴「あの部隊を率いているのが張任か」

桔「うむ。親父殿の隊じゃ」

昴「あの様子じゃ、率いているのはあの1部隊のみみたいだな」

桔「恐らく、親父殿の謀反を恐れて1部隊のみしか任せんかったのじゃろう。愚かな話じゃ」

昴「こちらとしてはありがたい事だ」

1部隊のみなら例え歴戦の将言えどやれる事は限られるからな。

桃「・・張任さんを説得する事はできないのかなぁ?」

紫「・・先ほどもおっしゃいましたが、説得は無理かと・・」

桃「でも、紫苑さんや桔梗さんがそこまで慕ってる人なら、話せば分かってもらえるんじゃ・・」

桔「無理じゃな。親父殿は益州では鷲鼻の張任と呼ばれておる方でな。一度口した言葉は例え殺されようと変えん。最後まで戦うじゃろう」

桃「でも・・」

俺は桃香の肩に手を置き、

昴「何にせよ、今は戦に集中にしよう、桃香」

桃「・・うん」

桃香は納得してないな。

昴「この戦の指揮は桃香がするんだ。迷いを持てばそこを突かれるぞ」

桃「うん・・・でも私で大丈夫かな? 相手の方が兵数も多いし・・」

昴「心配するな。敵の兵数はこちらより多いが、将の質は圧倒的にこちらが勝っている。その差は大きい。向こうは張任の1部隊のみで他は益州で内輪揉めしてただけの連中だ。敵じゃない」

桃「スゥー、ハァー・・」

桃香は一度大きく深呼吸をして・・。

桃「ありがとう。私、頑張るよ!」

昴「よし。桃香の手腕、見せてもらうよ」

桃「分かったよ♪ それじゃ、行ってくるね!」

桃香は前線へと向かった。

翠「良いのか? ご主人様が指揮を取らなくて?」

昴「桃香なら大丈夫だ。益州制圧の最後の戦いだ。ここいらで桃香の手腕を皆に示しておかないとな」

翠「なるほどな」

昴「俺達は桃香の指示にすぐに対応できるようにしておこう」

朱・雛「はいっ!」



















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愛紗side

愛「臆するな! かかれー!」

「「「応ー!」」」

戦が始まり、両軍が激突した。私の隊は最前線左翼。相対する隊は・・。

愛「張任隊・・」

敵の部隊で唯一警戒すべき相手。

愛「くっ・・」

紫『単純な膂力や速さなら愛紗ちゃんの方が上だわ。でも一騎討ちをしたら愛紗ちゃんは負けると思うわ』

紫苑は私にそう言った。私とて連合の折りに恋に敗れてから己を鍛えなおしたのだ。如何に紫苑や桔梗の師とはいえ、遅れなどとらん!

私を先頭に張任隊に斬り込んで行く。

?「ホッホッホッ、騒々しいのう」

愛「!? ・・貴様は?」

張任「この隊を率いておる張任じゃ」

愛「・・お前が張任か」

見た目は紫苑達の言う通り白髪混じりの老人。確かに老人とは思えない佇まいだが、そこまで警戒すべき相手なのか?

張任「お主、将じゃな。名を聞かせてもらおうか?」

愛「我が名は関羽! 字は雲長! 劉備軍が将の1人だ!」

張任「ほー、お主が関羽か、その名、片田舎の益州にも轟いておるぞ」

愛「ふん、張任。素っ首、貰いうける!」

青竜刀を構える。

張任「ふむ、よいじゃろう。関羽程の者が相手なら冥土へのよい土産話になりそうじゃ」

張任が剣を抜く。

張任「心して掛かられよ。この老いぼれは強いぞ?」

愛「行くぞ、張任ー!」

私と張任の一騎討ちが始まった。


















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桃香side

戦いが始まって幾ばくか過ぎた。

「趙雲隊、右翼を突破しました!」

「張飛隊、敵将を撃破!」

次々と朗報が舞い込んでくる。この調子、この調子で・・。そう願っていると、1人の伝令さんが私のところへ来た。

「申し上げます! 関羽隊が押されています!」

桃「っ!? 愛紗ちゃんの隊が!?」

愛紗ちゃんが戦ってる隊って、張任さんの隊だ!

桃「華雄隊を救援に向かわせて! 後ご主人様に伝令! 張任隊を包囲して張任さんを捕縛するように伝えて!」

「了解!」

伝令さんが想華さんとご主人様のところへ向かった。

桃「愛紗ちゃん・・」

お願い、無事でいて・・。




















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愛紗side

愛「はぁ・・はぁ・・くっ!」

張任「なんじゃ、もう疲れたのか? 最近の若い者はだらしないのう」

愛「まだだ!」

青竜刀を構え、張任に飛びかかる。

張任「若いの〜」

張任が剣を構える。

力は私の方が上! 奴の剣ごと弾き飛ばす!

愛「おぉぉぉー!」

ガキン! スッ・・。

愛「なっ!?」

張任が私の青竜刀を受け止めた刹那、後ろへと私の一撃を受け流した。受け止めると予想していたため、私の体勢は崩れる。

張任「ホッホッ、相手が必ず受けるとは限らぬぞ? ・・むん!」

ギィン!!!

愛「くっ!」

私は何とか張任の一撃を受け止める。

何故だ!? 私の方が力も速さも上なのに!?

張任「不思議かのぉ? 力も速さも劣っている儂にいいように扱われるのが」

愛「っ!?」

張任「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。お主は儂を知らん。それ以上に己を知らなすぎる」

愛「なん・だと・・」

張任「お主は儂よりも強い。じゃが勝てない。それはお主が無駄だらけだからじゃ」

愛「言わせておけば!」

張任「惜しいのう。後数年実戦で経験を積めば勝てようが、今のお主では何度戦おうと儂には勝てん」

愛「まだ勝負はこれから・・」

張任「良いのか? 儂ばかりにかまけておっても・・」

愛「何を・・はっ!?」

辺りを見渡すと私の部隊が次々に殲滅されている。

張任「たとえ、練度の高い兵も、将の指揮がなければこのとおりじゃ」

愛「それならば貴様とて同じなはずだ!」

張任「儂はお主と戦う前に副官に詳細の指示を出しておいた。お主は儂の陣に来てからは出さなかったようじゃがのう?」

愛「くっ・・そ・・」

張任「お主の落ち度で兵が逝く。お主の兵には同情するのう」

愛「まだだ! 今ここで貴様を討ち取れば、我が隊は立て直せる!」

私は再び張任へと飛び込む。

張任「ふむ、お主はまだ理解できんようじゃのう」

ゲシッ!

愛「っ!?」

張任が蹴り飛ばした石つぶてが私を襲う。

愛「小癪な真似を!」

ギン!!!

向かってくる石を青竜刀で弾く・・・が、一瞬。ほんの一瞬張任から目を切ったその時・・。

張任「・・終いじゃ」

張任が目の前に剣を構え、振り下ろした。

ザシュ!!!

愛「うぐっ!」

咄嗟に横へ飛び、剣を避けるが、避けきれず、左腕に傷を負う。

張任「見事。これを避けるとは、さすが関雲長じゃ。じゃが、その腕の傷、致命傷でこそないが、力が入るまい?」

愛「ぐっ!」

奴の言う通り、力が入らない。

張任「成長したお主を見てみたかったが、ここは戦場、悪く思うな。続きは冥土で見てやろう」

張任が剣を構えて歩みよる。

愛「まだだ!」

青竜刀を右腕で構える。

まだ、戦える!

張任が私と5歩程の距離で立ち止まった。

愛「?」

張任「ふむ、残念じゃがここまでのようじゃのう」

愛「それはどういう・・!?」

辺りを見渡すと自軍の兵が取り囲んでいた。その先頭には・・。

愛「朱里、雛里!」

朱「ここまでです。張任さんの隊の兵士も捕縛しました。ここで投降してください」

張任にそういい放つ朱里。

雛「すでに他の隊は全滅、残りは城へと逃げました。あなた方の負けです」

次に雛里が告げる。

張任「・・小童どもを質に取られては致し方ないのぉ。関羽殿、名残惜しいがここまでじゃな。この一騎討ちは引き分けじゃ」

張任が剣をしまう。

愛「くそっ!」

引き分けなものか! 私は、また負けた。また助けられてしまった!

張任は縄で縛られ、捕縛された。




















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桃香side

間一髪で愛紗ちゃんを助けられた。愛紗ちゃん、悔しそうだけどまた前みたいにならなきゃいいな。

張任「・・・」

今目の前にはさっきまで愛紗ちゃんと戦っていたおじいちゃんがいる。

桃「あなたが張任さんですね?」

張任「いかにも、お主の名は?」

桃「私は劉備、字は玄徳です」

張任「ほお、お主が劉備殿か。お主の評判は益州まで轟いておるよ」

桃「ありがとうございます」

この人が張任さん。紫苑さんや桔梗さんや焔耶ちゃんの師・・。

桃「・・張任さん。あなたの力を私達に貸してください」

張任「・・・」

桃「この国、この大陸から戦を無くし、皆が笑って暮らせる世を作るために協力してほしいんです!」

張任「それはできん」

桃「どうして!?」

張任「儂は二君には仕えぬ」

桃「劉璋さんは民を蔑ろにして内乱をしているような人なんですよ!? どうしてそんな人に仕えるんですか!?」

張任「それが儂の生き方じゃからのう」

桃「・・劉璋さんはあなたを見捨てたんですよ? 向こうは張任さん1人囮に城に逃げ込みました。それでもまだ仕えますか?」

張任「それが何じゃ? たとえ向こうがどうであろうと忠を尽くすのみじゃ」

桃「・・そんなの・・」

何で? どうしてあんな人のために・・。

桃「・・分かりました。それでは・・」

張任「逃がす、と言うなら止めておくのじゃ」

桃「!?」

張任「逃がせば儂はお主を狙う。情に駆られたなら無用じゃ」

桃「・・どうして」

昴「止めておけ、桃香」

桃「ご主人様?」

昴「それ以上は、張任殿への侮辱だ」

桃「・・・」

・・・分からないよ。

張任「お主は?」

昴「劉備軍の御剣昴だ」

張任「ほお、お主がかの有名な天の御遣いか」

昴「知っていただき光栄です」

張任さんがご主人様の目を見ている。

張任「ふむ。良い目じゃ。お主の噂に偽りはなさそうじゃ」

昴「どうも」

再び張任さんはご主人様の目を見つめ・・。

張任「・・・すまぬが、儂の最後の願いを聞き届けてはくれぬか?」

昴「なんでしょう?」

張任「ふむ、御剣昴殿。お主との―――」

















張任「―――一騎討ちを所望する」











続く

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