小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第51話〜宿将との一騎討ち、益州平定〜















昴side

張任「ふむ、御剣昴殿。お主との一騎討ちを所望する」

昴「!?」

俺との一騎討ち?

愛「ふざけるな! そんなもの認められるわけが・・っ!?」

俺が愛紗を手で制する。

昴「理由を聞かせてもらってもよろしいですか?」

張任「ホッホッホッ、長生きをすると冥土へ行くのに手土産が欲しくなるんじゃよ。武人として誉れ高い武人と戦わずして逝くのは心残りじゃ」

昴「・・なるほど」

歳を取ろうと根っこは武人。というわけか。

昴「良いだろう。その願い、聞こう」

愛「!? ご主人様! お止め下さい! そのような事をする必要はありません!」

昴「蜀の国の宿将たっての希望だ。受けさせてもらうよ」

愛「ご主人様!」

昴「それに、さっきは一騎討ちに水を差した形だからな。その詫びも兼ねて、な?」

愛「うぐっ、ですが・・」

昴「戦ってみたいんだよ。愛紗をいとも容易くあしらった張任殿と」

愛「・・もし、万が一の事があったら・・」

星「愛紗よ。主は言い出したら聞かぬのはもうわかっているだろ?」

愛「星・・」

星「万一の時は我らが止めに入ればよい」

愛「・・分かった」

昴「話は決まった。張任殿。準備をしてください」

張任「礼を言うぞ。御剣昴殿」


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「それでは始めましょう」

張任「うむ」

俺と張任殿が対峙する。

昴「星。合図を頼む」

星「分かりました。それでは・・」

星が手を上げる。

俺が村雨に手を置き、張任殿が構える。

星「始め!」

一騎討ちが始まった。

昴「・・・」

張任「・・・」

お互いにじわりじわりと距離を詰める。

さてどうするか。抜刀術の疾風で先制したいが、これは以前に刃相手に痛い目を見た一手だ。張任殿は刃とはまた違った意味で不気味だ。

張任「・・・」

張任殿も動かない。このまま睨み合っいてもしょうがない、か。ならば。

ドォン!!!

一気に距離を詰める。

仕掛けて隙を探るのみ!

昴「はぁ!」

ギィン!!!

俺の一撃を張任殿は受け止める。

昴「まだまだ!」

ギン! ギン! ギン!

立て続けに斬撃を繰り出す。張任殿は無駄なく斬撃をいなす。

ギィィィィン!!!

昴「っ!?」

最後の斬撃を流し、張任殿が一気に懐に飛び込んできた。

張任「むん!」

昴「ちぃ!」

ギン! ギン! ギン!

張任殿が懐に張り付き、斬撃を繰り出す。

さすが百戦錬磨。村雨の特性にすぐに気付いたか。村雨はその長さ故に懐に飛び込まれると手詰まりになる。

張任「はぁ!」

張任殿の斬撃が俺の首を襲う。

ブォン!!!

張任「むっ。」

俺は上体を後ろに反らし、斬撃を避けると、村雨を手放し、朝陽と夕暮を引き抜いて斬りつける。

ブン! ブン!

張任殿はすぐさま後ろへ下がり、これを避ける。

張任「ほお、面白い一手じゃ」

昴「これを避けますか。やりますね」

朝陽と夕暮を構える。張任殿は少し距離を取って構える。

村雨の時は刀が届くギリギリで間合いを取り、今は距離を取ったか。実にやりにくいな。村雨は距離があれば必殺の一撃を決められる。逆に朝陽と夕暮は刃渡りが短いから距離を詰めないと攻撃が届かない。・・愛紗が苦戦するわけだ。俺も含め、今まで出会った将達は力で押し、速さでかき回す。力と速さが勝る者が優位進められる戦いだった。いわば剛の戦い。だが張任殿は違う。剛の技を見切り、相反する力で受け流し、相殺する。いかなる技を無効にする戦い。いわば柔の戦い。柔に対し剛は相性が悪い。

昴「・・・」

張任「・・・」

柔を制するには同じく柔で対するか・・圧倒的剛で叩き潰すか・・。

張任「決まったかのぉ?」

昴「ええ。」

俺は・・。

昴「はぁ!」

剛をもって戦う!

ガギン!!!

朝陽をぶつける。

昴「ふっ!」

さらに連撃を加える。

ガギン! ガギン! ギィン!

張任「ふぅむ・・!」

張任殿は俺の連撃をさばく。

ギィン!!!

夕暮を剣で止める。もう一方の朝陽で斬りつける。

張任「ふん!」

バキッ!!!

昴「ぐっ!」

張任殿が俺の右手の手首に拳を打ち込む。

張任「止まったのぉ」

斬撃が俺を襲う。

昴「甘い!」

体を半身にして夕暮を手放し、左手の拳で剣の腹を叩いて軌道を反らし、斬撃を避け、大きく距離を取る。

昴「ふぅ」

張任「ホッホッホッ! さすが御遣い殿。規格外じゃのう」

昴「いやいや、張任殿にも驚かされますよ」

洞察力と判断力と決断力がすごい。これが経験から成せる事か。だが、あくまでも俺は剛の力で行くだけだ!

張任「(来るのぉ)」

地に刺さる村雨を抜き・・。

ドォン!!!

引き続き剛の力で行く!

昴「おぉぉぉー!」

ガギン!!!

大きく降りかぶり、力の入った一撃をぶつける。

張任「ぐぅ・・!」

昴「まだまだ!」

ガギン! ギィン! ギン!

なおも連撃をぶつける。

こんな大振りじゃ防がれるのはわかってる。だが、張任殿の技量じゃ避け続けるのは困難。防御とてそのうち限界が来るだろう。俺は捌き損ねた隙を狙い打つのみ!

昴「はっ!」

ギィン!!!

張任「ぐっ!」

張任殿の剣を持つ両腕が上へ跳ね上がる。

ここだ!!!

昴「ふっ!」

ギン!!!

張任殿はすぐさま剣を戻し、返し、斬撃を防ぐ。

おしい。もう一度!

ギィン!!!

今度は左へ剣を持つ両腕が弾かれる。

これで!

ギン!!!

またもやすぐさま剣を戻し、斬撃を防ぐ。

しぶといな。だが当たるまで繰り返すのみ! 

そのあとも数合同じようなやり取りを繰り返したが張任殿は俺の斬撃を防ぎ続ける。

こちらのペースだ。これを繰り返し・・・ていいのか? 張任殿は本当に防戦一方なのか? さっきからやけにあっさり、剣を弾かれて隙を作っている。偶然かそれとも・・。

昴「はぁ!」

再度力ののった斬撃を繰り出す。

スッ・・。

昴「!?」

張任殿は両腕の力を抜いた。

ガキン!!!

張任殿の剣が飛ぶ。

張任「むん!」

張任殿が蹴りを繰り出す。

問題ない、防げ・・っ!?

張任殿の蹴り足。その先端には刃が付いていた。仕込みの具足。暗器か! 腕でのガードでは腕事もっていかれる! ならば!

ドン!!!

咄嗟に村雨の鞘を抜き、張任殿の足首を狙い打つ。

張任「なんと!?」

初めて驚愕の顔を浮かべた。

そのまま一回転しながら真後ろに飛び、体勢を整える。

張任「ふむ」

張任殿は足首を地にグリグリとやり、具合を確かめる。足一本もっていきたかったが、あの分じゃ効果無しか。

昴「まさか暗器とはな」

張任「以前この国に立ち寄っていた発明家に仕込んでもらっておってのぉ。・・・卑怯者と罵るか?」

昴「まさか。相手の虚を付くのが戦の常道だ。この程度は駆け引きの範疇だ。・・しかし、老いてもなおその武。衰え知らずですね」

張任「衰える? 愚問じゃ。儂の武は老いごときでは曇らん。常に今が全盛期じゃ」

昴「ハハハッ、なるほど」

歳を取れば練れる駆け引きが増えるというが、駆け引き1つでここまでできるのか・・。さっきも俺の斬撃が当たる瞬間、その力に反発せずに流し、俺の斬撃の威力を吸収していた。言うのは簡単だが、やるとなれば困難だ。完全無比な洞察力が必要だからな。

張任「強いのぉ」

昴「?」

張任「お主は強い。儂とお主の差は歴然じゃ。じゃが、こうして対等に戦える。その差はどうあっても縮まらん。じゃが埋めることはできる。戦と同じ。策1つで差は埋まるのじゃ」

昴「・・勉強になります」

俺は弾き飛ばした剣を張任殿の前に放り投げる。

張任「気前がいいのぉ」

張任殿が剣を拾う。

昴「丸腰のあなたを討っても意味がない。仮に暗器を持っていてもそれでは俺に通用しない。それに・・」

村雨を構える。

昴「もう小細工も誤魔化しも通用しない」

縮地で背後を取る。

張任「!?」

ガキン!!!

張任「うぐっ!」

昴「続きますよ?」

縮地で動き回りながら斬撃を繰り出す。

ギン! ギン! ギン! ギン!

張任「ぐぐぐっ!」

ギン! ギン! ザシュ! ギン! ザシュ!

必死に防ぐも徐々に傷を増やしていく。

昴「ふっ!」

張任「ぬっ!」

斬撃を浴びせる。

ピタッ!

張任「!?」

剣に当たる直前で村雨を止める。

昴「囮だ」

ザシュ!!!

張任「くっ!」

背後に回り、斬りつける。

昴「あなたの策も、手の内が明らかになればおそるるに足らん」

手の内が分からない内はうかつ飛び込むことができなかった。明らかになれば遠慮なく飛び込める。

張任「・・・」

村雨を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。

昴「これで終わりだ」

このままじわじわ削れば確実に勝つだろう。だけどそんな勝ち方は俺は望まない。

ドォン!!!

縮地で俺の射程範囲に入る。

昴「ふっ!」

鞘から村雨を引き抜き、斬撃を繰り出す。張任殿の体勢では避けることはできない。

終わりだ・・。

張任「・・青いのぉ」

張任殿が剣を構える。

無駄だ。剣ごともっていけ・・っ!?

張任殿は左腕に剣を添えた。

グシュ!!!

張任殿の左腕が飛ぶ。

左腕を犠牲にして俺の斬撃を止めたのか!

村雨は張任殿の腕のみを飛ばし、振り抜かれた。

最後の最後でぬかった! 双龍も無理だ!

張任「ふん!」

張任殿が斬撃を繰り出した。

昴「くっ!」

俺は勢いのままぐるりと一回転し、再度斬撃を繰り出す。

昴「おぉぉぉぉー!」

俺と張任殿の斬撃が交差する。
















ザシュ!!!
















両者動きを止める。

















張任「・・・・・見事」















ブシュ!!!














張任殿の胸から鮮血が飛び散る。

張任「ぐっ!」

張任殿が倒れた。

昴「ふぅ・・」

俺の方が先に当たった、のか・・。

一騎討ちは終わった。


















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「張任殿・・」

張任「ゴホッ! 最後の小細工も、通用せんかったかのぉ」

昴「・・紙一重でしたよ」

ほんの僅かに俺が速かった。

桔「親父殿・・」

焔「お爺様・・」

紫「冽翁様・・」

桔梗て焔耶と紫苑が詰め寄る。

張任「ホッホッ。ひさしいのぉ。ひよっこ・・ども」

桔「親父殿、儂らは・・」

張任「そんな顔をするな。得た力を自分の信じる道を切り開くために使えと言うたであろう」

桔「・・・」

桃「・・どうして」

昴「桃香・・」

桃「どうしてここまでする必要があるんですか?」

張任「言うたであろう。そういう生き方しか儂は出来ぬからじゃ」

桃「・・ご主人様、治療を・・」

俺は首を横に振る。

桃「どうして!?」

昴「・・傷は治せる、だけど・・」

張任「気付いて、おったか」

昴「・・張任殿の身体は病魔で蝕まれている。もう手の施しようがないくらいに」

桃「そんな・・」

末期だ。仮にこの場に華佗が居たとしても・・・。

昴「だから最後の一撃が鈍ったのでしょう?」

最後の一撃。タイミングはどう考えても相討ちだった。

昴「勝った気がしませんよ」

張任「紛れもなく・・お主の・・勝ち・じゃ・・ゴホッ!」

口を血を吐き出す。

張任「病魔すら・・念頭に入れて・・戦うのが・・武人・・じゃ・・」

昴「張任殿・・。」

張任「劉備殿・・儂は最後・・まで己を・・貫けた・・・。悔いはない」

桃「・・・」

昴「張任殿・・」

冽「冽翁・・じゃ」

昴「?」

冽「儂の・真名は・・冽翁・・じゃ。最後に儂の真名を・・預かって・・もらえんか? 御剣昴殿。劉備殿」

昴「・・分かりました。冽翁殿。あなたの真名。確かに預かりました」

桃「私もお預かりします。冽翁さん」

冽「すまぬ・・の・・。ゴホッ! ゴホッ!」

大量の血液を吐き出す。

桔「親父殿!」

焔「お爺様!」

冽「もし・・また・・・人・・として・・転生賜るなら・・お主達に・・仕えて・・みたいのぉ。御剣昴・・殿のような・・気高き・・王に・・劉備・・殿のような、優しき・・王・・に・・」

昴「ははっ、機会があれば、是非ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」

冽「ホッホッ、言い・・よるわい」

冽翁殿の体から力が抜けていく。

冽「我が・・人生。最後・・まで、よき・・もの・・で・・あっ・・た・・・」

桃「・・・」

冽「この・・国を、・・頼み・・ま・・す・・ぞ・・」

冽翁殿の体から力が抜けた。もはや脈動も鼓動もない。

桔「親父殿・・!」

焔「お爺様・・!」

紫「冽翁様・・」

桔梗と紫苑は目を伏せ。焔耶の瞳からは涙が溢れている。

昴「・・冽翁殿。俺はあなたという武人がいたことを忘れません。決して・・」

冽翁殿に手を合わせ、黙祷を捧げた。

桃「・・分からないよ。どうしてこんなことする必要があったの?」

昴「病魔に臥せ、残りの余生を過ごすより、武人として散る道を選んだ。それだけだ」

桃「でも! それでも私は長く生きていてほしかった! 死ぬことが本望なんて、間違ってるよ・・」

桃香の瞳から涙が溢れる。

桔「・・桃香様。親父殿のお顔をご覧くだされ」

桃「?」

桔「とても穏やかなお顔じゃ。死に逝く者のお顔には見えませんじゃろう?」

桃「・・・」

桔「親父殿は満足して逝かれた。後悔などは決してなかった思われます。それに・・」

桃「?」

桔「お館様と桃香様に仕えてみたい。儂の知る親父殿は決してそのような言葉を言わない方だった。最後の最後、お館様と桃香様が変えたのじゃ。親父殿の信念を」

桃「・・冽翁さんは幸せだったのかな?」

紫「ええ・・。冽翁様は救われたと思います。桃香様と、ご主人様のおかげで」

桃「・・・」

昴「冽翁殿を丁重に弔ってあげてくれ」

「はっ!」

兵が担架に冽翁殿を乗せ、碧の張旗を冽翁殿に掛け、運んで行く。

昴「・・桃香。戦はまだ終わってない。行くぞ」

桃香は袖で涙を拭い・・。

桃「うん!」

強く頷いた。




















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


その後成都への攻城戦が始まった。堅牢城だが、冽翁殿を失った劉璋軍はもはや軍の統制も取れず、朱里と雛里の策もあり、攻城戦を開始してほどなくして城門は開かれ、愛紗の隊を先頭に突入し、玉座を占拠した。

戦は終結し、益州は俺達劉備軍が平定した・・・。











続く

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