小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第57話〜偵察任務、歌姫達との再会〜















??side

「てめえ、何処見て歩いてやがる!」

?「アンタがよそ見してたんでしょ!」

もう最悪! せっかく気分転換しに街に来たのに!

?「もう、痛いじゃない! 早くその汚い手を離しなさいよ!」

「さっきからこっちが甘い顔をすれば付け上がりやがって! もう許さねぇ!」

男が拳を振り上げる。

「調子に乗るんじゃねぇ!」

?「っ!?」

男が拳を振り下ろした。私は目を瞑り、突然の事に体を震わせる。・・・いつまで経っても痛みも衝撃もこない。おそるおそる目を開けると・・。

?「あ・・」

1人の女性が男の拳を止めていた。

?「女の子に手をあげるなんて、男の風上にも置けないわね」

「何だてめえ」

?「名乗る名などない。目障りよ。早々に消えなさい」

「馬鹿にしやがって! ならてめえから痛めつけてやるよ!」

男が私を助けてくれた女性に拳を振り下ろした。

?「危ない!」

とっさに叫んだけど女性は難なくその拳を取ると地に投げつけた。

ドシーン!!!

「ぐはぁ!」

すぐさま女性は男の腕を捻りあげ、取り出した懐剣を首筋に当てる。

?「死ぬか消えるか。・・選びなさい」

「ひっ! 勘弁してくれ!」

男が命乞いをすると女性はその手を離した。男はすぐさま逃げ出した。

「お、覚えてろ!」

そんな捨て台詞を残して去っていった。

?「あんな捨て台詞、言う人いるのね。貴女、何処か怪我は・・・あら? 貴女は確か数え役満☆姉妹の・・」

あ、私の事に気付いた。

張宝「うん、私は地和よ。それより、助けてありがとう! 助かったわ!」

?「気にしないで。見ていられなかったから」

張宝「お姉さん、何かお礼させて!」

?「ごめんなさい。折角だけど、急いでるから」

張宝「そうか〜、残念。なら名前だけでも教えてよ!」

?「名前・・」

お姉さんが少し困った顔をした。聞いちゃまずかったかな?

貂?「・・・うん。私は都の踊り子、貂蝉よ」

張宝「貂蝉さんですか」

ふーん。貂蝉さんか。

貂?「私はそろそろ行くわね。人も集まってしまったようだしね」

辺りを見渡すと人だかりが出来始めていた。何人かは私に気付いたみたい。

張宝「うん。分かった。・・そうだ! 私、この街で舞台があるから見に来てよ」

貂?「ええ。是非行かせてもらうわ」

張宝「約束よ。それじゃ、またね、貂蝉さん!」

私は人だかりから逃げるために貂蝉さんに背を向ける。

貂?「またね・・・・・張宝ちゃん」

張宝「!?」

慌てて振り返る。しかし、人だかりせいで貂蝉さんの姿は見えなくなっていた。

今、あの人、ちぃの名前を・・。誰? ちぃ達の本当の名前を知ってるのは曹操さんの一部の将だけのはず。でも・・あの人は見たことない。それじゃ黄巾党の? でも黄巾党であの人は見たことない。どうしよう。どちらにしてもちぃ達の正体がバレたら大変よ!

張宝「急いで姉さん達に知らせなきゃ!」

私は急いで姉さん達の元に戻った。



















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※※※※


貂蝉?side

貂?「やってしまった」

とっさに張宝ちゃんと呼んでしまった。

貂?「確実に怪しまれたな」

絡まれている女の子がいたから助けに入ったらまさか張宝ちゃんとは・・・あ、もう何人か気付いていると思うけど、俺は御剣昴だ。現在俺は涼州のとある街に来ている。涼州と言えば以前に翠の母君である馬騰が涼州連合の長として治めていた地であり、今は華琳が治めている地だ。そんな敵国の地に何故俺がいるのかと言うと・・・。


















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※※※※


昴「涼州に何人かの将が?」

朱「はい。斥候からそのように報告が来ています」

朱里が放った斥候から涼州に何人かの将と兵が向かっているとの報告が来た。

昴「それで、将は誰が向かったかは分かるか?」

朱「確認出来ているのは張遼将軍と楽進将軍、干禁将軍と李典将軍ですね」

昴「なるほど」

涼州に一体何をするつもりだ。・・・そういや、涼州はまだ馬騰の影響力が根強く残っているから治安維持に問題が出ていたな。っという事は・・・なるほど。

朱「ご主人様?」

昴「ん? いやなに、涼州に新たに密偵を送ろうかなって」

朱「そうですね。でしたら私が優秀な密偵を厳選しますので」

昴「今回は迅速かつ的確な情報が欲しい。将を1人同行させよう」

朱「御意です。ですがそうなると涼州に向かってもらう将は限られますね」

昴「まあな」

この任務に求められるのは冷静な判断力と分析力、さらにそれなりの武力を持ち合わせた者。となると必然的に・・。

朱「雫さんですね」

昴「ああ」

俺達の軍で1番の万能である雫が適任だ。

昴「なら俺は雫にこの事を伝えてくる。朱里は密偵の厳選と物資の準備を頼む。今日中に出発させよう」

朱「分かりました。では私はすぐに準備をしますね♪」

昴「任せる。それじゃ、あとで」

朱「はい」

朱里は準備に向かった。さて、俺は雫の所に行くか。



















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雫「偵察任務ですか?」

昴「ああ。涼州に魏軍の将が何人か向かっているらしいからな。何の目的で向かっているか確かめる必要がある」

雫「かしこまりました。ご命令とあらば喜んでこの任務を受けさせていただきますわ」

昴「頼む。・・・あ、それと、偵察には俺も同行するから」

雫「・・・今一度宜しいでしょうか?」

昴「偵察には俺も同行する」

雫「却下ですわ」

昴「やっぱ駄目?」

雫「当然ですわ! 王自ら偵察に出向くなんて聞いたことがありませんわ!」

昴「頼む! どうしても行きたいんだ! 気になる事があるし、何より確かめたい事があるんだ」

雫「・・この事は皆は知ってますの?」

昴「・・いや。話したら桃香や愛紗辺りは確実に反対するだろうし」

雫「・・桃香さんや愛紗でなくても反対致しますわ」

昴「頼むよ。俺はヘマはしないし危険な事もするつもりはない。万が一、俺なら逃げるのもわけない」

雫「・・・はぁ。分かりましたわ」

昴「おっ、良いのか?」

雫「駄目と言ってもついてくるのは分かっていますから。こっそりついて来られる方が困りますわ」

・・・俺のこと良く分かってるな。

昴「恩に着る」

雫「その代わり、わたくしの条件にも従ってもらいますわ」

昴「ああ。分かった」

よし、これで堂々と涼州に行ける!

雫「では、条件の1つとして、昴様には変装をしてもらいますわ」

昴「変装か。ま、当然だな」

俺の顔は魏勢でも有名だからな。

雫「それではこちらをお召し下さいませ」

雫が衣装を取り出す。

昴「・・・何故これを?」

渡されたのは一着のチャイナ服(春蘭や秋蘭が着てるような服)。

雫「幸いにもわたくしと昴様の背丈はほとんど変わりませんからきっと寸法も合いますわ」

昴「いや、俺男・・」

雫「早くお召し下さい。お化粧を致しますので」

昴「えぇ〜・・」

そこまでするのか・・。

雫「さあ、脱ぎ脱ぎしましょう♪ 次にはお化粧が待っていますわ♪」

昴「嘘だ!?」

トホホ。ついていくためとはいえ、大変な事になった。グスン。



















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※※※※


とまあ経緯はこんな感じだ。街に着いてからは雫と別行動(撒いてきた)を取り、反射的に張宝を助けてしまった挙げ句本名を口にしてしまい、慌てて逃げてきた具合だ。

昴「よりによってとっさに出た名前があの筋肉達磨とはな」

名乗らないのも不自然だと思って偽名を名乗ったが、貂蝉って・・。まあ今はそれより・・。

昴「これから警戒はされるだろうな」

張3姉妹は黄巾の乱で死亡したことになってる。生きてる事を知ってるのは魏勢の一部の将兵と俺だけだ。これからは慎重に動かないと。まあ声を変えて喋ってたから俺だとは思わないだろうけど。ちなみに俺は声帯を氣で強化することで好きな声で喋る事ができる。ただ声帯はそんなに強くないから声を変えて喋り過ぎると後程大変なことになるのが難点だが。・・まあ何にせよこれで確信した。涼州に一部の将兵が来た理由は張3姉妹に涼州の街で公演を行わせて治安の維持と華琳への忠誠を誓わせるために来たんだな。凪達や張遼はその護衛といった所か。

昴「とりあえずこれで目的が果たせるな」

涼州に来た理由。それは・・。

数え役満☆姉妹の公演を見ること。

華琳の元から旅立つ前に約束したものの、立場上見に行けなかったので、これを機会に約束を果たそうと考えたわけだ。

昴「ひとまず3人の所へ行くか」

俺は張3姉妹を探しに移動開始した。




















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張3姉妹side

凪「分かった。それでは警備隊を率いてその人物を探しに行こう。真桜は私と共に。沙和は3人の警護を頼む」

真「分かったで」

沙「任せろなの!」

凪「では行くぞ」

真・沙「了解や(なの)!」

凪、真桜、沙和の3人が張3姉妹の居る建物から出ていく。

張宝「あ〜あ、それにしても誰だったのかなあの人」

張角「魏にそんな人はいないって言ってたしね」

張梁「黄巾党にもそんな出で立ちの人は覚えがないわ」

張宝「だよね〜。でもとても綺麗な人だったな〜」

張角「すごく美人で綺麗な人だったんだよね? 確か名前は・・何だっけ? お姉ちゃんド忘れしちゃった」

張宝「ちゃんと覚えておいてよ。貂蝉さんよ、貂蝉さん。はぁ、もう一度会いたいな〜」

想いを馳せる張宝。すると背後から・・。

貂?「呼んだかしら?」

角・宝・梁「!?」

張3姉妹はすぐさま声の方向に振り返る。

宝「あ〜! あなたはさっき・・ん!?」

貂蝉? はすかさず張宝の口を人差し指で塞ぐ。

貂?「騒がないで。今大きな声を上げられると困るから」

貂蝉? は3姉妹に目配せをする。3人は張宝から手練れだという話を聞いているため、素直に従う。

張梁「あなたが貂蝉?」

貂?「そうよ」

張梁「何故私達の本当の名前を知っているの?」

貂?「何故って、当然よ。黄巾党最後の戦い。逃げ出すあなた達を捕らえたのだから」

張宝「嘘よ! あの時あなたはいなかったわ!」

貂?「良く思い出しなさい。いたわよ。覚えているはず。あの時、あなた達を捕らえに来た者中に黒い長髪に長剣を携え、黒い外套を羽織った者がいたことを・・」

張角「黒い長髪・・」

張宝「長剣・・」

張梁「黒い外套・・まさか・・」

角・宝・梁「昴(さん)!?」

昴「思い出してくれたみたいだな」

元の声で張3姉妹に話しかけた。




















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昴side

張3姉妹を探しに行くと早々に見つけることができた。見張りに沙和の姿が見えたが難なく忍び込めた。

角・宝・梁「昴(さん)!?」

昴「思い出してくれたみたいだな。」

俺は元の声に戻して喋った。とりあえず落ち着いて話そうとしたその時・・。

沙「どうかしたのー?」

沙和か? まずいな・・。

張角「な、何でもないよ〜?」

張宝「うん! 何でもないよ!」

張梁「何でもないから」

沙「そうなのー?」

入って来られると面倒だな・・。声帯に氣を集中させて・・。

昴「何でもない。沙和はそのまま警護を続けてくれ」←凪の声

沙「あれ〜凪ちゃんなのー? いつ戻ったのー?」

昴「忘れ物があってな。沙和。私が戻って来たのにも気付かないとは気が抜けているのではないか?」

沙「ご、ごめんなさいなのー!」

昴「すぐに行くからそのまま警護を頼む」

沙「分かったなのー!」

・・沙和は持ち場に戻ったみたいだな。

昴「ふう。これでよし」

張角「すっご〜い、凪さんの声そっくりー」

張宝「どうなってるの?」

昴「まあちょっとした、特技だ」

または宴会芸だな。

張梁「ところで、昴さんはどうしてここにいるんですか?」

昴「約束を果たすためさ」

張梁「約束、ですか?」

昴「ほら、いつか歌を聞きに行くって約束しただろ?」

張宝「あ、ちぃとの約束・・」

昴「さすがに立場があるからなかなか行けなかったけどな」

張角「うそ・・。わざわざそのためにここまで・・」

昴「他にも理由はあるが、これも目的の1つだ」

張角「わざわざ歌を聞きに来てくれて私嬉しい♪」

張角が俺の腕に抱きつく。

張宝「ちぃも嬉しい♪」

張宝が逆の腕に抱きつく。

張梁「わ、私も嬉しい・・」

張梁が俺の胸に抱きつく。

昴「ははっ、ありがとう」

3人に照れながら礼を言う。すると張角がおずおずと・・。

張角「ところで〜、昴はどうして女装してるの?」

昴「ん〜、まあ俺って結構顔が知られてるから変装してみたんだが、やっぱりおかしいよな?」

角・宝・梁「・・・」

昴「何か言ってくれよ」

張角「(私より美人だよ。)」

張宝「(ちぃより綺麗・・)」

張梁「(自信無くしそう)」

昴「・・まあいいか。確か3人の舞台は明日だったよな?」

張宝「ええ。そうよ♪」

昴「必ず行くよ。張宝」

張宝「もぅ、今はその名前でちぃを呼んじゃ駄目なんだよ?」

昴「そういやそうだな。なら・・」

地「ちぃの事は地和って呼んで♪」

昴「ああ。分かった、地和」

天「なら私も、天和って呼んでね♪」

人「私も人和でお願いします」

昴「天和に人和も、分かったよ。それじゃ、俺はこの辺でな」

天「うん、また明日ね♪」

地「必ず来てね!」

人「お待ちしています」

俺は裏口からこっそり抜け出した。



















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※※※※


街に戻り、店が建ち並ぶ通りを歩いている。

昴「さてと、明日までどうしよう・・・げっ!」

目の前には、

雫「す〜ば〜る〜さ〜ま〜。何をしていらっしゃいますの!?」

昴「ちょっと辺りの散策を、な」

雫「単独行動は控えてくださいと言いましたでしょう!」

昴「悪かったって」

雫「もう! 今日はここまでにして、宿に戻りますわよ!」

雫が俺の腕を取って歩き出す。俺も雫も背丈があるからすごく注目を集めていた。雫は案外斥候に出すには目立ち過ぎるかな?

実際は2人の容姿に皆が魅了されているだけだったらしい。

















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※※※※


宿にて・・。

雫「では、中央の広場で舞台公演が行われると?」

昴「ああ。数え役満☆姉妹が舞台を行い、それで治安維持の架け橋と魏国への忠誠心を高めさせるんだろう」

雫「なるほど、曹操もなかなか手の込んだ手段を取りますわね。・・それで、わたくし達はこれからどう致しましょうか?」

昴「とりあえず、明日、その舞台公演を見に行ってみるか」

雫「・・隙を見て数え役満姉妹を暗殺致しますか?」

昴「・・やめておいた方がいいだろう。俺達はあくまでも斥候だ。警備は厳重だからわざわざ危険を侵す必要はないだろ。・・それに、仮に成功しても、数え役満姉妹はあくまでも曹操に雇われたに過ぎない。そんな彼女達を暗殺したら桃香の名は地に堕ちる事になっちまう」

雫「それもそうですわね」

昴「なら動くのは明日だ」

雫「了解ですわ」

昴「なら俺は外で食事でもしてくるよ」

雫「ですから、あまり目立つような行動は・・」

昴「雫。斥候は目立つのは論外だが、目立たなすぎるのもまた怪しまれる。あまり部屋に籠ってると不審がられるぞ?」

雫「はあ。そういう事にしておきますわ。くれぐれもご用心を」

昴「分かってるよ」

俺は宿を出た。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「さてと・・ここにするか」

俺は一軒の店へと立ち寄った。注文をしてしばし待つと料理が運ばれ、食事を楽しんでいると・・。

?「隣、ええか?」

昴「ええ、どうぞ・・っ!?」

この声、この気配・・。

張遼「おおきに。おっちゃん! 酒頼むわ!」

張遼・・。

昴「・・・」

張遼「・・(グイッ)」

張遼はただ注文した酒を飲んでいる。

張遼「んくっ、んくっ・・ぷはぁ! ・・・あんた、貂蝉か?」

昴「・・ええ」

張遼「警備隊達が騒いどったわ。都の踊り子なんやって?」

昴「そうね」

張遼「そうなんか・・。ウチな以前は都の将やってん。あんたの名前も影も、見たことも聞いたこともあらへん」

昴「・・・」

張遼「何しに来たんや・・・昴」

昴「・・どうして俺だと分かった?」

俺は声を元に戻して尋ねた。

張遼「分かるわ。長坂橋で昴に完敗してから昴の事ばかり考えとったんや。それこそ恋人を想うかのようにな」

昴「容姿を変えてたのに良く分かったな」

張遼「分かるわ。姿形を変えても、身のこなしとその目は同じやったからな」

なるほど。

昴「・・・捕らえるか?」

張遼「・・せえへんよ。どうせ捕まえられんやろうしな」

昴「恩に着るよ」

張遼「あんたは敵や。・・でもな、あの長坂橋からあんたはウチにとって憧れや。あんたが見せた神速をどうにかものにしようと鍛練したけど、理想には全く届かん。ホンマ、ウチの神速も地に堕ちてもうたわ」

張遼は自嘲気味に笑い、酒を一口飲んだ。

昴「まあ、強さは簡単には手に入らないさ。速さもな」

張遼「せやな」

昴「でもな、速さは手に入れることは出来なくても、速くなることは出来る」

張遼「? ・・どういう事や?」

昴「そうだな、例えば・・」

俺は張遼に向き直る。

張遼「?」

昴「・・(チラッ)」

俺は張遼の目を凝視し、一瞬横へ視線を反らす。

張遼「ん?」

張遼が俺の視線に釣られる。その瞬間に張遼に近づき、俺の両手で頬を触り、顔を張遼の眼前にまで近づけた。

張遼「// な、なんや!」

張遼は顔を赤らめて驚く。

昴「今、張遼には俺がどう見えた?」

張遼「そ、そんなん、ウチが目を反らした隙に昴が目の前に・・」

昴「張遼の目には、気が付いたら俺が消えたように見えただろう?」

張遼「そりゃそうやけど・・」

昴「実際速く動いているわけではない。でも相手が速いと感じたなら、それは速くなったのと同じ意味を持つ」

張遼「あ・・」

昴「速く見せる技術はいくらでもある。今みたいな視線誘導もその1つだ。人間には反射的にどうしても反応してしまうものがあるからな。後は、そうだな、わざと遅く動いてみる、とかな」

張遼「・・どういう事や?」

昴「俺達は一騎討ちの際、相手の力量を計り、力や速さを体で覚え、そこから勝機を掴む」

張遼「せやな」

昴「けど、渾身の一撃が自分が推し量っていた速さより速い一撃が来たらどう感じる?」

張遼「・・めちゃめちゃ速く感じるやろな」

昴「そうだろ? これも速く見せる技術だ」

張遼「なるほどな」

昴「そういう速さもある。求める速さの方向性を変えてみたらどうだ?」

張遼「せやな・・・おおきに。参考になったわ。・・けど、ええんか? ウチはあんたの敵やで?」

昴「見逃す礼とでも思ってくれ。さっきから俺を捕らえようとする素振りも兵を呼ぶ素振りも見せてないしな」

俺がそういうと張遼は何かを考えるような素振りをすると・・。

張遼「・・あかんわ。それではお釣が出てまうな。せや!」

昴「?」

霞「これからウチの事は霞と呼び。これで差し引き無しや」

昴「分かった。礼を言うよ霞。・・なら、俺はここらで失礼するよ」

霞「ほなな。・・外の奴にもよろしく言うといてや」

気づいていたか。

昴「それじゃ、またな」

俺は食事を終えて、店を後にした。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「雫、せめて殺気は隠そうな」

雫「申し訳ございません。しかしあの方、張遼ですわね?」

昴「ああ。けど気にする必要はない。こっちが下手な真似しなければ何もしてこないだろ」

雫「・・ならば良いのですが・・。昴様、もう戻りましょう」

昴「そうだな」

俺達は宿に戻り、一夜を明かした。


















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※※※※


翌日、

天「みんな大好きーー!」

「てんほーちゃーーーーん!」

地「皆の妹ぉーっ?」

「ちーほーちゃーーーーん!」

人「とっても可愛い」

「れんほーちゃーーーーん!」

張3姉妹、数え役満☆姉妹の舞台が始まり、会場は大熱狂の渦に包まれた。

昴「すごいなこれは・・」

この大いに盛り上がる観客もそうだが、張3姉妹もすごい。
まずは天和の舞台をいっぱいに使った天真爛漫なパフォーマンスと透き通った歌声は心に染み渡ってくるものがある。
地和は狙ったポーズで観客を興奮させ、甘い声で男達を魅了していく。
人和は2人の暴走を押さえつつ、しっかり目立つ移動して自分をアピールしている。
3人とも、自分の個性を引き出しながらも互いに高めあって1つの歌をなっている。

昴「なるほど、華琳が差し向ける事のだけはあるな」

涼州もこれで完全に魏の領土なるだろう。
3人はこの後も踊りを加えた歌を披露し、終始会場は大盛り上がりだった。

天「皆、ありがとうー!」

「おぉーっ!」

これで舞台も終わりか。

地「でも、まだ終わらないよー!」

この場を立ち去ろうとすると舞台上の地和が突然観客に声を掛ける。

ん? まだ何かあるのか?

今一度舞台に視線を移す。

人「今日は皆に紹介したい人がいます!」

紹介? メンバーでも増やしたのかな?

すると、舞台上の3人が俺に視線を向ける。

まさか・・。

3人が舞台から降りて俺の方に向かってくる。

俺は嫌な予感がプンプンしたので逃げだした。だが・・。

パシッ!

昴「げ!?」

霞に腕を掴まれ、それを阻まれる。霞の顔にはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。

昴「うそ〜」

やがて張3姉妹に捕まり、舞台上に上げられる。

天「紹介するのはー!」

人「都の踊り子」

地「貂蝉さんでーす!」

「おぉーっ!」

観客は大いに盛り上がった。

何かすげえ盛り上がってるよ。雫は顔面蒼白なのが見える。真桜と沙和は戸惑っているのが見える。凪は何やら思案している。

っていうか舞台に上げられて俺どうすりゃいいんだ?

天「貂蝉さん。せっかくですから」

地「何か1つお願いします!」

・・マジか。しょうがないな。

昴「分かりました。今日の催しものは歌ですので、皆さんに歌をお届けします」

俺は一度目を瞑る。しばらくすると大盛況の観客が静まりかえる。それを確認し、歌い始める。曲は・・。
















彼方の面影・・。















この歌はいなくなってしまった愛する人へ捧げる歌・・・。そしてつたえたい事を伝えることが出来なくなった事を嘆く歌・・・。
正直この場に似つかわしくない歌だが俺はこの曲を歌った。そして歌い上げた。
静まりかえったままの会場。俺は目を瞑り、胸の前で両手を組んだ。

昴「皆さんには愛する人はいますか? 今は乱世。人が当たり前にいなくなってしまう時代です。もし愛する人が傍にいるのなら、心に浮かぶその言葉を伝えてあげてください。もし、もう伝える相手がもうすでにいないなら、その人の事を思い出してあげてください。たまにでいいですから思い出してあげてください。その人はあなたの心で今も生き続けているから・・」

俺は会場に視線を移し・・。

昴「この世界から戦が無くなり、皆が笑って暮らせる日が1日でも早く訪れますように・・」

俺はそれを告げ、舞台を降りる。

パチパチパチパチパチパチパチパチ・・。

会場は拍手の渦に包まれた。



















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※※※※


その後、張3姉妹にこっそり別れを告げ、涼州を立ち去った。地和は良いところ持ってかれたーって喚いてたけど。

その帰り道・・。

雫「昴様」

昴「ん?」

雫「涼州に何故一部の将が集まっていたか、昴様は分かっていましたわね」

昴「正直、半信半疑だったけどな」

雫「まったく・・・あの歌、昴様にも伝えられなかった言葉と相手がいますの?」

昴「・・・さあな」

雫「・・・そうですか」

雫が俺に詰め寄り、俺の腕を抱きしめる。

昴「雫?」

雫「・・お慕いしておりますわ。昴様」

昴「雫、突然何を・・」

雫「わたくしも、後悔したくないだけですわ」

昴「・・雫、俺は・・」

雫「今は何も仰らないでください。ただこのままでいさせてくださいませ」

昴「・・分かった」

その後、しばらくそのまま歩いた。数日後、成都へと帰還した俺に待っていたのは桃香と愛紗による地獄の大説教。気が遠くなるほどの説教を受けたのだった。










続く

-59-
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真・恋姫†無双 ~乙女繚乱☆三国志演義~
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