小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第59話〜悪戦苦闘、警備隊の舞台公演〜















昴side

昴「・・(カキカキカキカキ・・)」

今日もいつものように政務に取り組んでいると・・。

朱・雛「失礼します」

朱里と雛里が執務室にやってきた。

朱「お時間よろしいですか?」

昴「ああ。構わないよ」

雛「ご主人様にご相談したいことがありまして・・」

昴「相談?」

朱「はい。街の人からの・・えっと・・陳情なんですが・・」

昴「陳情?」

雛「えと、陳情というと大げさなんですけど・・」

昴「?」

どういう事だ?

朱「警備隊の隊長である想華さんの事で、街の人から怖いという声がありまして・・」

昴「怖い・・」

朱「想華さんはすごく真面目にお仕事してくれてるんですけど・・」

昴「なるほど・・」

俺は益州平定後、警備隊を設立し、その隊長を想華に任せた。当初は何でも器用にこなせる雫に任せようと思ったんだが、雫はその万能さ故に色々と忙しいため、断念。同じく器用に何でもこなせる白蓮が上がった。白蓮自体親しみやすい人柄のため適任かなとも思ったんだが、街の治安を守らなきゃならない者の隊長が親しみやすいと最悪ナメられる恐れがある。そうなると治安が乱れる。そういった理由から真面目で貫禄もある想華に隊長を任せ、副隊長に白蓮、猪々子、斗詩を任命した。

雛「もちろん、想華さんは間違ったことをしてるわけでも、過剰なことをしてるわけでもないのですが・・」

昴「それ故にか・・」

人ってのはたとえそれが正しいことであっても押し付けられる反発したがる傾向がある。想華みたいに凛として、かつ絶対に逆らえない人間に押し付けられたら不満も出るだろう。俺は想華に警備隊として守らなければならないことを通達した。想華はそれを忠実に守ってくれているのだろう。忠実に・・。

昴「それで、その声は結構出てるのか?」

朱「そうですね、そんなに多いわけではないですが、いくつか出てますね」

昴「ふむ・・」

これはあまり放置出来ない問題だな。早々に解決しないと警備隊の崩壊しかねない。

雛「想華さんを責めることは出来ません」

昴「かといって、民の気持ちも分かる、か・・」

さてどうするかな。どっちの肩も持てないし、想華にもっと柔らかく民に接して・・多分無理だな。華琳の所に居たときは俺が隊長やってたからこの手の問題はなかったんだけど・・。それならいっそ、想華の怖いというイメージを払拭することが出来れば。何か・・・・!? そうだ、これなら・・。

昴「要するに、想華の怖いという印象を無くせれば良いわけだ」

朱「そうですけど・・」

雛「何か良い考えがありますか?」

昴「まあな。問題解決になるかどうかは分からないけど、1つ考えがある。早速準備に取り掛かるよ」

朱「分かりました。でしたらご主人様の業務は私達が行いますので、ご主人様はそちらに集中して下さい」

昴「助かるよ。なら2人にしばらく業務を任せる」

朱・雛「御意です♪」

さてと、早速準備を始めよう。割りと面白い事になりそうだ。



















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想「警備隊で演劇?」

昴「ああ。街の住民と警備隊の交流を図るために企画してみたんだ」

想「しかし我らには演劇の経験など・・」

昴「まあその辺は練習しながら慣れて行けば良い。衣装や舞台の設立は俺が中心になって行う。皆は舞台公演に集中してくれれば良いよ」

猪「でもあたいらに出来るかな?」

斗「うぅ。無理ですよ〜」

昴「演技指導に関してはこの2人にお願いした」

警備隊詰所の入り口から、

麗「わたくしにお任せ下さい! わたくしは幼い頃からこの手の娯楽は数多く見てきましたので!」

雫「わたくしも一度演劇をした経験がございますので、是非お任せ下さい♪ あっ、ちなみにわたくしも舞台に上がりますので皆様よろしくお願いしますわ♪」

昴「まっ、適材適所だと思ってな」

猪「そういや麗羽様って昔からそういうの好きだったよな」

昴「そういうことで・・・、とりあえず想華、君は主役な」

想「なっ!? 私がか!? 私にはそのような経験はないと・・」

昴「悪いな、台本は俺が書いたんだが、主役に1番適してるのは想華なんだ。悪いが頼むな」

想「ぐっ・・了解した・・」

想華は渋々了承した。

昴「想華の相手役は雫な。任せるぞ」

雫「はい! お任せ下さい♪」

昴「白蓮、猪々子、斗詩もちゃんと役があるからな。皆、通常業務をこなしながら練習することになるが、よろしく頼むな。 」

想「うむ。了承した。(私に出来るか・・)」

雫「はい♪」

白「応っ!(これを期に普通脱却だ!)」

猪「あいよ!(何か面白そうだ)」

斗「はい・・(うぅ、自信ないよ〜)」

次の日から猛特訓が始まった。





















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翌日、街の大きな屋奥を借りての稽古が始まった。俺が書いた台本は正史の現代の恋愛劇である。

主役は想華。ヒロイン役には雫である。いざ稽古が始まってみると、やはりというか、雫は自身が言うだけあって上手い。もはや女優顔負けだ。白蓮は・・何というかまあ、普通に上手い。何役か兼ねてもらったんだが、器用にこなしてくれてる。猪々子も以外に上手かった。

斗詩は緊張のせいでセリフが飛んだり、セリフを噛んだりしたが、稽古を重ねていく内にだんだんと慣れてきたようでそれも減っている。本番までにはどうにかなるだろう。問題は想華だ。台本はしっかり頭に入っているのだが・・。

雫「あなたは愛しの悠利なの?」

想「あ、ああ。わ、私は・・」

麗「やめ、ですわ! 想華さん、表情も動きも固いですわ。台詞も棒読み。お話になりませんわ!」

想「うぐっ、すまん・・」

このように、どうにもこんな感じになってしまう。何というか・・これは苦労しそうだな・・。

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


その後も稽古を重ねていき、どんどん仕上がっていく。着々と準備は進んでいく。が、しかし・・。

麗「はいやめですわ! 想華さん、もっと台詞に感情を込めて下さいな!」

想「ぐぐぐっ・・!」

想華は相変わらずである。やっぱりというか、簡単には行かないよな・・。

想「やはり私では無理だ! 今すぐにでも変えてくれ!」

麗「何を言ってますの!? これは昴様が想華さんに任せたいわば任務ですのよ? あなた、任務を放棄致しますの?」

想「いや、だがな・・」

麗「あなたなら出来ますわ! さあ、また初めから!」

想「だが、私には向いてないのは見て分かっただろ!? 私では無理だ! 出来ない!」

麗「なら逃げますの?」

想「っ!?」

麗「貴女は戦場で大軍や強敵を相手にしたとき、無理だの何だの言って逃げますの?」

想「うぐぐぐっ、くそぉ! やってやるわ!」

麗「その意気ですわ! ならば最初から行きましょう♪」

おーおー、最近外交官として活躍してるだけあって、人をのせたり気持ちを掴むの上手いな。

稽古は更なる熱を帯びて再開した。



















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※※※※


更に稽古は続き、ついに本番1週間前となった。

麗「はぁ、これはなかなか手強いですわね」

またもや想華のNGだ。

想「・・・」

「「「・・・」」」

場を沈黙が支配する。どうしても想華が上手くいかない。

想「・・くそっ!」

想華は悔しげに床を蹴る。

麗「如何なさいましょう、昴様?」

昴「・・・」

普通に、舞台公演だけを考えれば代役を立てるべきだろう。だがそれでは意味がない。そもそもこれは想華のために企画したものだから。とはいえ、このままではとてもじゃないが公演は出来ない。さてどうするか・・。

俺が解決策を考えていると・・。

想「くっ!」

想華が稽古場を飛び出していった。

昴「想華! ・・皆はそのまま続けてくれ」

俺は想華を追いかけた。



















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想華は街の外まで走り続け、近くの森の中で止まった。

想「・・・」

昴「想華」

想「・・・すまない」

昴「どうして謝るんだ?」

想「私はお前の期待を裏切った」

昴「想華・・」

想「自分が情けない。演劇1つまともにこなせない自分が・・」

昴「まだ裏切ってないだろ?」

想「えっ?」

昴「まだ裏切ってない。そもそもまだ終わってすらいないだろ。諦めるには早いんじゃないのか?」

想「昴・・。だがお前も見ていたなら分かるだろ。私には演技なんて出来ない!」

昴「はぁ・・らしくないな」

想「えっ?」

昴「らしくないよ。俺が初めて想華と言葉を交わした時、君はボロボロの身体に鞭を打って、勝ち目のない戦に行こうとした。月を助けるために諦めようとはしなかった」

想「・・・」

昴「あの時の君は何処に行った?ただ迷いなく月を助けようとした想華は何処に行ったんだ?」

想「・・・」

昴「主役に変更はない。代役を立てるつもりもない。想華を信じる」

俺はそれを告げると想華に背を向ける。

想「もし駄目だったらどうするのだ?」

昴「・・君は戦に出陣する際に負けた時の事を考えるのか?」

俺は想華の問いにこう返して城へと戻った。





















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想華side

昴が去ってからも私は1人ここでたたずんでいる。

想「・・諦めるな、か」

思えば私には心が折れそうになったことが何度かあったな。恋に初めて出会った時、あの圧倒的な強さを前に武人として心が折れそうになった。あの天井知らず恋の強さに・・。それでも私は挫けず、鍛練を重ね、恋に及ばずとも今の強さにまでなった。次は記憶に新しい水関での防衛戦。私の暴走で戦は負け、月様を危険に晒し、私は自ら命を絶とうとした。だが私は昴に諭され、生きる事を諦めなかった結果、月様と再会し、再び将としての居場所を手に入れた。

想「諦めなかったから今がある、か・・」

たとえ不得手な事であろうと諦めなければまた以前のように報われるのだろうか・・。私はしばらくその場で考え続けた。




















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昴side

あれから幾日か経った。仕事があるため、毎日稽古が出来るわけではない。自ずと時間は限られる。しかし最後の稽古の日、そこに想華の姿はなかった。仕方なく想華抜きで稽古を行った。結局想華は最後まで現れなかった。

そして本番当日・・・。



















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本番当日。街の広場に舞台を設置し、公演が行われる。宣伝もビラ配りも大々的に行ったので結構観覧者も多い。準備は万端なのだが・・。

麗「想華さんはまだ来ませんの!?」

白「まだ来てないな」

猪「最後の稽古も来なかったし」

斗「うぅ、どうしよう・・」

本番間近、未だに想華の姿はない。

雫「昴様、如何致しましょう・・」

昴「・・・」

想華がなかなか姿を見せないため、皆が不安がる。本番もう目前。だが俺は不思議と一抹の不安もなかった。

大丈夫・・。

俺は想華を信じているから。皆がそわそわとしていると。

想「すまない、遅くなった!」

想華が駆け込んで来た。

想「・・稽古に出なくてすまなかった。もし許されるなら私にもう一度・・」

麗「時間がありませんわ。早く準備なさい」

想「麗羽・・」

猪「待ちくたびれぜ」

想「猪々子・・。皆、良いのか?」

俺が想華の肩に手を置く。

昴「言ったろ、代役を立てる気はないって」

想「昴・・」

昴「時間がない。急いで準備を始めてくれ」

想「ああ! 任せろ!」

想華は急いで準備を始めた。



















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やがて公演が始まり、警備隊の舞台が始まった。

想華がゆっくり舞台の中央へと移動する。

想「我が名は悠利! 我が愛しの愛那、姿を見せてくれ!」

想華の最初のセリフを語る。

完璧だ。以前は棒読みで、表情も動きも固かったが、今ではセリフにしっかり感情が込められ、表情も柔らかい。その後も公演は進んでいく。途中、斗詩が緊張のあまりセリフが飛んだり、猪々子が殺陣で暴走仕掛けたり等のトラブルが出たが、雫がアドリブでカバーしたり、殺陣に関しては彼女らは大陸に名を轟かせる武人だけあり、本物さながら(っていうかマジ?)の演技だったため、観覧者からの歓声は凄かった。公演は進み、いよいよフィナーレ・・。

雫「悠利、もう私はあなたを一生離しません。ずっとあなたの傍にいます」

想「私もだ愛那。私は永久にお前を愛す。お前以外の誰も愛さない。ずっと一緒だ」

2人が見つめ合い、そして1つに重なる・・・。

そして公演は終わる。

パチパチパチパチパチパチパチパチ・・!!

観覧者からは拍手喝采で、その歓声は長い時間続いた。



















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舞台公演の翌日、俺は街と想華の様子を見に来た。正直、すぐには効果は表れないだろうと思ってた。他にもいくつか対策を用意をしていたのだが、結局それは不要となった。街に来てみると・・。

「「「悠利様〜♪」」」

想「あ、ああ・・」

想華が軽くを手を振る。

「「「きゃあぁぁぁ♪」」」

すると上がる黄色い声。想華はすっかり人気者になった。主に女性に。彼女達には想華が凛々しくクールな女性に見えるのだろう。もともと舞台公演をした理由は、想華に役者をやらせる事で街の人々に想華の普段とは違う一面を見てもらい、想華に親しみを感じてほしかったのと、想華が演じる事を覚えてくれれば街の人々とも上手く付き合えるようになるんじゃないかという打算もあった。半ば駄目元だったけど効果は抜群だった。まあ、舞台の設置やビラ等で、経費が足りなくて一部俺が自腹切ったから結構な出費だったけど、まあ、良かった。

想華の警邏が終わるのを見計らい、声をかけた。

昴「お疲れ、想華」

想「むっ? 昴か」

昴「すっかり人気者だな」

想「むぅ、いささか複雑だがな。あれでは警邏がやりづらくてかなわん」

とは言うものの満更でもなさそうだ。

想「少し付き合ってもらっても良いか?」

昴「ん? 構わないよ」

俺は前を歩く想華の後に続く。



















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やがて着いたのは以前に想華が飛び出して辿り着いた森だ。

想「あの後、私は暇を見つけてここで練習をしていた」

昴「なるほど。その結果があの舞台公演というわけか」

相当練習したんだろうな。

想華が俺に振り返り・・。

想「礼を言う。昴」

頭を下げた。

昴「何の事だ?」

想「お前のおかげで舞台公演を成功させることが出来た」

昴「別に俺は・・」

想「そもそも、この舞台公演は私の為だったのだろう?」

昴「・・・気付いていたのか?」

想「私が街の住民から恐れられているのは気付いていた。だが私は生憎人付き合いはあまり得意ではない。もしこのまま放置していれば警備隊はどうなっていたか・・」

昴「想華・・」

想「お前には感謝しても仕切れない。私を死の淵から救い、月様を救ってもらい、私に再び将としての居場所を与えてもらい、今回は私と民との溝を埋めてもらった。・・・本当にありがとう」

昴「当然だ。だって仲間だろ?」

想「・・・ありがとう」

想華は何度も礼を言った。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


やがて日が沈み、辺りはすっかり暗くなった。

想「・・(ブルッ)」

想華は身を震わせた。さすがに夜になると想華の格好では若干肌寒いだろう。俺は自分の外套を想華に掛けた。

想「・・ああ。すまない」

昴「夜風で身体を冷やすといけないからな」

想華は外套をキュッと身体に纏った。

昴「そろそろ戻るか」

想「そうだな」

俺達は城へと戻った。



















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城へ着くと、想華は纏っていた外套を俺に返した。

想「恩に着る。助かった」

昴「気にするな。それじゃ、また明日」

俺は外套を肩に下げて部屋に向かう。

想「昴」

昴「ん?」

俺は想華に振り返る。

想「お前が書いた台本・・」

昴「ああ。単純でありきたりな物語だが、悪くなかっただろ?」

主人公、城の兵士、悠利が王族の娘と恋に落ち、あらゆる障害や困難を乗り越えてやがて結ばれる、まあ良くある物語だ。

想「恋とは美しいものだな」

昴「そうだな」

想「しかし、悠利とは男だろ? 私が男役を演じる事になるとはな」

昴「悠利は凛々しくて強く。何があっても絶対に諦めない不屈の心の持ち主だ。正に想華そのものだろ?」

性別が違うだけで。

想「むぅ・・、そう言われると返す言葉がないな」

昴「だろ?」

想華は複雑な顔をした。

想「だがな、私はこうも思う」

想華が俺に近寄る。

想「凛々しく、何があっても諦めない不屈の心の持ち主が私と言うが、私はお前の傍に居るときは・・」

昴「っ!?」

チュッ・・。

想華は俺の唇に自身の唇を合わせた。ほんの数秒合わせると想華は身体を離した。

想「一途に悠利だけを想う愛那でありたいと思う。」

昴「そ、想華・・」

想「ふふっ、お前でもそういう顔をするのだな。良いものを見た。ではな」

想華はそのままこの場を離れていった。

俺はこの後通りかかった桃香に声を掛けられるまで呆然としていた。











続く

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