小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第61話〜軍師としての自分、メイドとしての自分〜















昴side

五胡を退けることに成功した俺達だが、五胡の恐ろしさを改めて痛感させられた。今の俺達は華琳や雪蓮の事もあるため、あまり五胡ばかりに集中は出来ない。とりあえず対応策として、益州西方に鎮守府を築き、そこに兵と将何人かを常駐させる事にした。戦力を分散させる事になるが、やむを得ないだろう。俺達は成都へ帰還し、更なる国の発展と戦力増強を図るために政務へと勤しんだ。









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昴「ふむ・・」

移住希望者に関する対応策か。俺達の国も今や大国。これまでとは規模も事情も違ってくる。ただ来るもの拒まずというわけにはいかない。そんなことを続ければ直に国庫は空になる。かといって受け入れを拒否すれば人心はあっさり離れる。

昴「・・・そうだな」

流民の一部は警備隊及び兵士として受け入れるか。徴兵はどのみち必要だからな。後は森を拓いて新しい田畑を開墾・・・いや、いっそ、屯田兵としてその両方を担ってもらった方がいいな。そうしよう。これだけで全ては抱え込めるわけじゃないが、案の1つとしては良さそうだ。後はどうするか・・。

詠「・・入るわ」

昴「ん、詠か? どうぞ」

詠が執務室にやってきた。

詠「・・・」

詠は無言でお茶を淹れて俺に渡す。そうだ、詠に相談してみるか。

昴「なあ詠」

詠「・・何よ」

昴「ちょっと詠に意見を聞きたいんだ」

詠「・・何でボクに」

昴「いやな、俺だけじゃどうにも処理できなくてな。。朱里も雛里もいないから相談も出来ないし」

朱里と雛里は今日は調練の視察に出ていて不在である。

詠「・・朱里と雛里がいないから・・」

詠は何か呟いたが俺には良く聞こえなかった。

昴「人口の増加についてのことなんだが・・」

詠「悪いけどボクには思い付かないわ」

昴「何でも構わないから何かないか?」

詠「あいにくだけど、ボクは忙しいの。失礼するわ」

昴「ん〜、そうか。忙しい所悪かったな」

詠は急須を片付け、執務室を出ていく。詠は扉の前で・・。

詠「どうせアテになんかしてないくせに(ボソッ)」

昴「ん? 何か言ったか?」

詠「・・何でもないわ」

詠はそのまま部屋を後にする。

昴「詠?」

どうしたんだ?何か様子がおかしかった気がしたけど・・・気のせいか。俺は目の前の案件に意識を戻した。

もっと早く気付いてあげるべきだったと思う。詠と俺との亀裂が少しずつ広がっていたのを・・。




















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※※※※


それから2日後、

昴「・・フゥー」

俺は政務の合間に鍛練をしている。今やっているのは氣の鍛練だ。俺は城の庭の中心で座禅を組み、氣を身体に纏わせる。

昴「・・・」

こんなところか・・。

俺は身体に纏った氣を解除する。

昴「ふぅ・・」

俺が一息付くと・・。

月「お疲れ様です。」

昴「ん? ・・あ、月か」

集中し過ぎて全く気が付かなかった。

月「どうぞ」

月が水と湿った布を差し出す。

昴「ありがとう、月」

俺は水と湿った布を受け取り、水を一気に飲み干す。

昴「んぐっ、んぐっ・・・ぷはぁ! く〜! 生き返るなぁ!」

俺は布で顔を拭く。氣を使用した関係でとにかく身体が疲弊していたため、冷たい水が身体中に染み渡っていく。

月「すごい集中力ですね。私何度も声をお掛けしたんですけど・・」

昴「あー、そうだったんだ。悪かったな」

氣の展開はとにかく集中力が命だから没頭し過ぎると周りの声や気配に全く気が付かなくなる。

月「いえ、取り立てて用事があったわけではないですので・・。ご熱心なんですね」

昴「まあな」

少しでも強くならないといけないからな。

月「お身体に気を付けてくださいね。政務だって大変なんですから」

昴「もちろん。分かってるよ」

身体を壊したら本末転倒だ。

昴「心配してくれてありがとうな、月」

月の頭を撫でる。

月「へぅ〜//」

月は頬を赤らめた。

昴「さてと、鍛練はこの辺にして政務に戻るかな。これ、ありがとう」

月に水筒と布を渡す。

月「あっ//」

渡す時に俺の手に月の手が触れる。その時・・。

詠「・・・」

前方に詠の姿があった。今俺の手を月が握っている。
これは詠に『ボクの月に手を出すな!』とか言われるんだろうなって身構えていると・・。

スッ・・。

詠が俺達の横を無言で抜けていった。

昴「?」

月「詠ちゃん?」

・・・様子がおかしい。いつもの詠なら一言何か言っていくのに。

月「詠ちゃん、どうしたんだろう・・」

月の目からも詠の様子がおかしく見えたみたいだ。何があったんだ? 詠の様子がおかしくなり始めたのはいつからだ? 五胡との戦の前まではいつも通りだったと思う。ならその後か? ・・・・分からないな。単に機嫌が悪かったのか・・。後でそれとなく聞いてみるか。俺はひとまず詠の事は横に置き、政務に戻った。




















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※※※※


星「わざわざ主にご足労いただき申し訳ありませぬ」

昴「構わないよ」

翌日、俺は調練の視察に出ていた。星の部隊だけあって規律もしっかりしていて、練度も高く、星はまるで自分の手足の如く兵を操っていた。

星「兵達も、主が直々の視察に大いにはりきっていました故、いつも以上に動いておりました。全く、いつもあれぐらいやってくれればありがたいのですが」

昴「そう言ってやるなよ。見事だったぜ」

星「そうは仰られますが・・・ん?」

?「それは無理だ」

?「無理じゃない!」

星と共に歩いていると執務室の方から何やら声が聞こえてきた。

昴「この声は、愛紗と詠か?」

2人の声が廊下に響いてきた。執務室に入ってみると・・。

愛「無理に決まってる!」

詠「無理って決めつけてるだけじゃない!」

見る限り愛紗と詠が言い争い、て言うか論争しているのか。

詠「だから、前曲と後曲、右翼と左翼を連動させなければ軍の力が分散するのっ! それぐらい兵法をやっていれば分かるはずでしょ!」

愛「それは分かっている! だが全ての兵に騎馬をあてがうなど、どだい無理な話だ!」

2人の論争はますますヒートアップしていく。

やれやれ・・。

昴「2人供、一旦落ち着こうぜ、声が廊下にまで響いてるぞ?」

愛「あっ、ご主人様・・」

詠「!?」

昴「一体何の話をしてるんだ?」

愛「はい、実はですね―――」















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


愛「―――というわけです」

昴「なるほど」

軍の統率及び連携をより良いものにするために騎馬を全ての兵士にあてがえるようにせよという詠の意見に、それは無理だという愛紗の意見がぶつかり合っているわけか。話を聞く限り、詠の言う通り、騎馬を全兵士にあてがえれば連携の速さはかなりのものになる。兵法にも兵は神速を尊ぶなんて言葉があるからな。叶うならどうにか詠の理想通りにしたいが・・。

昴「詠の言いたい事も分かるが、さすがに全兵士に騎馬をあてがうのは今は無理だ。軍資金にも限りはあるし、厩舎や馬の管理の事もある」

愛「やはりご主人様も同じ意見でしたか」

詠「・・・」

昴「だがいずれは詠の理想通り・・」

詠「・・もういい」

昴「ん?」

詠「もういいわ! どうせあんたはボクの意見を聞く気はないんでしょ!?」

昴「誰もそうは言ってないだろ? 俺は現実と折り合いをつけて述べてるだけだ」

詠「何が現実よ! 現実ばかり見て理想を叶えようとしない! 無理だ無理だばかり言って最初から何もしようともしない! あんたがその程度のへぼ君主だとは思わなかったわ!」

愛「貴様! ご主人様に何て口の聞き方をしている!」

詠「もう良いわよ!」

詠が部屋を出ようとする。

昴「詠、ちょっと待て。俺は・・。」

俺は部屋を出ようとする詠の肩を掴み、それを押し止める。

詠「触らないで!」

バチン!

昴「!?」

肩を掴んだ手を詠に叩かれる。

詠「どうせあんたは・・、あんたは・・ボクの事なんて何の信頼もしてないんでしょ!?」

昴「詠・・」

詠「もういいわよ・・。信頼されなきゃ・・・信頼されない軍師なんて価値なんて何も無いのよ!」

詠はそう言い放つと部屋を出ていった。

昴「詠・・」

俺はただ見送る事しか出来なかった。部屋から出る瞬間、詠の瞳から涙がつたっていたから。




















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※※※※


詠side

詠「何よあいつ・・」

あいつはボクの事なんて何の信頼もしていない。五胡との戦でボクはそれを知った。あいつはボクに一言も告げずに本隊を動かして、星を別動隊として後方に待機させていた。そんなの・・。

詠「ボクが失敗することを想定してたみたいじゃない」

万が一に備えるのは将として当然の事。だけど、理解は出来ても納得は出来ない。あいつが軍師としてボクを信頼していないなら・・・。

詠「ボクはここには居られない」

軍師は君主からの信頼を得られなければ価値なんてない。ボクは元来軍師だ。メイドじゃない。それだけの為にここに居たくない。あいつは月を救ってくれた恩人だけど・・。ボクは・・・。



















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


翌朝、ボクは前夜に用意していた荷物を持ち、日が昇りきる前に城を出た。誰にも見られたくなかったから。

詠「月・・」

月にも黙って出てきた。絶対に月は反対するだろうし、ボクが本気だって知ったら月はきっとついてくるだろうから。月に危険な目に合わせたくないし、何より月はあいつの事大好きだから、引き離すような真似はしたくない。

詠「さよなら、月・・」

ボクは成都を出ていった。


















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昴side

翌朝、いつも通り早朝に起き、鍛練を行うとすると・・。

月「ご、ご主人様〜!」

月が血相を変えて俺の元に駆け寄ってきた。

昴「どうした、月?」

月「大変です! 詠ちゃんが、詠ちゃんが何処にも居ないんです!」

昴「詠が?」

月「朝詠ちゃんのお部屋に行ったら詠ちゃんがいなくて、お城の中を探したんですけど何処にも見当たらないんです」

昴「詠・・」

ここ最近様子がおかしかったけど、その事で・・。

昴「分かった。手分けして探そう」

月「はい!」

俺達は城内を駆け出した。















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「何処にもいないな」

城内を隅々まで探したけど詠の姿はなかった。

昴「城にいないなら外か・・」

俺は街へと飛び出した。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


街へとやってきたが、まだ早朝の為、店は何処もまだ閉まっており、人の姿もほとんどない。街をくまなく探していると、前方に朝の散歩をしているおじいさんを見つけた。

昴「すまない、少し尋ねたいのだが・・」

俺は詠の特徴を細かく説明し、尋ねた。

「ホッホッ、あのいつも可愛らしい服を着た方ですな? お見かけしましたよ? 何やら急ぎ足で向こうへ歩いて行きましたが・・」

昴「分かった。ありがとう」

俺は礼を言い、おじいさんが教えてくれた方角へ向かった。

こんな早朝に開いている店はない。急ぎ足で人目を気にして歩いていた事を考えると、詠は・・。

昴「すれ違ったまま、原因も分からないままお別れなんてごめんだぞ!」

俺は城外へと急いだ。




















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詠side

早朝、出来る限り誰にも見つからないように城外に出て、その後、誰かが追ってきても見つからないように森の中を歩いている。この辺りの地理や地図は頭にあったから問題ないって思ってたけど・・。

詠「ここ何処なのよ!?」

木々を避けながら進んでいたらいつの間にか方向感覚が狂い、同じ所を行ったり来たりしている。

詠「もう! 何処に向かえばいいのよ・・」

ボクが愚痴を溢しながら歩いていると・・。

?「お困りのようだな。」

詠「っ!? 誰!?」

?「私だ」

木の後ろから出てきたのは・・。

詠「星!? どうして・・」

星「いやなに、早朝に鍛練をと思っていたら何やらお主がこそこそ歩いていたのでな。こっそり後をつけてきたのだ」

詠「そう・・」

誰にも見つからないように気を配ったつもりだったけど・・。

詠「それで、ボクを連れ戻すの?」

星「・・お主が主を見限ったというなら私は引き止めるつもりはない。・・だが1つ聞きたい。何が原因なんだ? その原因は先の五胡との戦だと私は睨んでいるが・・」

詠「あんたには分からないわ・・」

星「ほう、と言うと?」

詠「あいつは、昴はボクを信頼していない。先の戦だって、ボクに内緒で本隊を動かしたりあんたを別動隊に置いたりして・・。それが結果的にボク達を勝利に導いたのは分かってる。分かってるけど・・。こんなのボクへの侮辱以外の何ものでもない。口先だけ信頼するとか言って・・」

星「なるほど、そういうことであったか・・」

詠「そうよ、だからボクは・・」

星「甘ったれるな!」

詠「っ!?」

星「どんな理由かと思って聞いてみれば実にくだらない。聞くだけ無駄であったな」

詠「あんたに、あんたにボクの何が分かるのよ! 信頼を裏切られたボクの気持ちがあんたには分からないわ!」

星「多くの将兵の命を預かる立場の総大将として、事前に手を打っておくのは当然の事であろう。それを教えなかったのは単に兵達に安心感を与えず、緊張感を無くさない為の処置だったのだろう」

詠「でも、だからってボクにまで隠すことはないわ! 事前に教えてくれてても・・」

星「もしお主が知っていれば、その事を前提に策を練り、陣を構成していただろう? それでは兵達に気付かれる恐れがあった。だから主はお主にも黙っていたのだろう」

詠「っ!?」

そうかも、しれないけど・・。

星「あともう1つ、主はお主の事を信頼していないと言ったが、それを本気で言っているのならば、お主は今まで主の何を見ていたのだ?」

詠「何を・・」

星「あの主が。誰よりも優しく、心配性の主が。曹操に攻められ、城を失い、その事を全て自らの責任とし、たった1人で全ての将兵、そして民を守る為に大軍を足止めに向かってしまうようなお人好しの主が。信頼をしていない軍師なんかに将兵の命を預けると思うか?」

詠「っ!?」

星「もしそうだと答えるならお主に主を語る資格はない。主の元を離れたければ好きにすればいい」

詠「・・ボクは」

星「もう一度良く考えるのだな。主の事、そして自分の事を」

詠「・・・」

星「良く考えて結果、主を認めたのであればまた戻ってくればいい。そうでないなら去れ。お主程の軍師なら曹操も孫策も受け入れるだろう」

星は踵を返し・・。

星「言いたい事はそれだけだ。ではな」

そう言い残し、去っていった。

詠「・・何よ、言いたい事だけ言って・・」

ボクはしばらくその場でたたずんでいた。














・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


ボクはしばらくその場で考えこんでいると、いつの間にか大きく時間が過ぎ去っていった。帰るにしろ別の地に移るしろ早く行動しなければ日が暮れてしまう。どうしようか迷っていると・・。

ガサッ!!!

詠「っ!? 誰!?」

近くの茂みから大きな音がした。風とかそんなんじゃない。明らかに誰かが音を鳴らしている。

詠「誰! もしかして星なの!?」

音のした方向に声を掛けると、しばらく沈黙した後・・。

「グォォー!」

詠「く、熊!?」

とても大きな熊が茂みからやってきた。

ど、どうしよう。あんな大きな熊・・。

後ずさりをしていると熊がこちらへ近づいてきた。

「グルルル・・」

詠「くっ・・」

少しずつ後ずさりをしているとやがて大きな木に道を塞がれてしまった。

詠「!? ・・嫌、助けて、月・・」

熊は少しずつこちらへ近づいてくる。

詠「助けて・・」

熊は二足で立ち上がり、鋭い爪でボクを振り下ろす。

詠「助けてよ、昴!」

身を震わせ、両目を閉じる。

ガチン!!!

覚悟を決めて激痛に備えるが、いつまで経っても激痛は来ない。おそるおそる両目を開けると・・。

詠「あっ・・」

そこには熊の爪を受け止めた昴の姿があった。

「グルルル、グォォー!」

熊が再度昴に爪を振るう。

詠「昴!」

ボクは咄嗟に叫んでいた。

昴はまったく動かず、ただ一言・・。

昴「消えろ・・」

ただ一言、低い声で熊に呟いた。

「グォ!? ・・・グルルル・・」

熊は昴に爪を振り下ろす直前に動きを止め、やがてのしのしと逃げていった。

詠「助かった」

思わず声を漏らすと、昴がボクの方へ振り返った。

昴「詠・・」

詠「な、何よ・・」

昴「探したよ」

詠「・・ボクは別に頼んでない」

昴「聞かせてほしい。何が原因なんだ?何故出ていこうと考えたんだ?」

昴が星と同じ事をボクに聞いてくる。

詠「あんたが・・、あんたがボクを信頼を裏切ったからでしょ!?」

昴「!? そんなことはない! 俺は詠の事・・」

詠「信頼している? 嘘よ! だったら何で前の戦で星の別動隊の事、本隊を勝手に動かした事を黙っていたの!?」

昴「・・それは・・」

詠「どうせボクがしくじると思っていたからそうしたんでしょ!? こんなのボクへの侮辱以外の何でもないわ!」

昴「違う! 俺はそんなつもりは・・」

詠「信じられないわ! ボクの軍師としての誇りを踏みにじって、あんたなんか、あんたなんか! ・・・・・・・・・・・・・違う・・」

昴「えっ?」

詠「あんたは何も悪くない」

昴「・・詠?」

詠「あんたは何も悪くない。あんたは当然の事をしただけ。悪いのは全部ボクだ。過信して、相手を侮ったボク自身・・」

昴「・・・」

詠「・・許せなかった」

昴「え?」

詠「許せなかった! 昴の信頼に答えられなかったボク自身が! そして・・・怖かった」

ボクの両目から涙が溢れる。

詠「怖かった・・。ボクは・・月みたいにメイドが務められわけじゃない! もし、軍師としても昴の役に立たなかったら・・。怖かった。昴に・・お前なんかいらないって言われるのが怖かったのよ・・」

涙を拭っても拭ってもどんどん溢れてくる。

詠「ごめんなさい・・ごめんなさい・・」

ボクは昴に謝り続けた。

昴「・・馬鹿だなぁ」

昴はそんなボクを抱きしめた。

詠「えっ?」

昴「詠がいらないなんて、そんな事あるわけないだろ?」

昴はボクを抱き締めて、ボクの頭を撫でた。

昴「先の戦。詠がいたから俺達は大した被害も出ずに戦に勝利出来たんだ。裏をかかれたことに関しても、あんなの誰であっても予見出来なかったよ。それは朱里や雛里。他国の優秀な軍師。もちろん俺だって」

詠「昴・・。」

昴「それにな、俺は軍師としての詠でなくなっても、メイドとしての詠でなくなっても、例え、ただの詠でも、俺は詠の事を捨てたりはしない」

詠「!? ホントに?」

昴「ああ。詠が俺や、俺達の国や、皆に愛想が尽きたわけでないのなら、ずっと俺達の所にいてくれ」

詠「昴・・!」

またボクの瞳から涙が溢れた。

昴「誰1人欠けちゃ駄目なんだ。だから詠。俺達の所に帰って来てくれ」

詠「・・・ありがとう・・。ありがとう・・」

ボクは昴の胸に顔を押し付け、ありがとうと言い続けた。



















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※※※※


昴side

詠はその後、俺達の所へ帰ってきた。

その日の夜、俺は城に戻ったのだが、勝手に城を抜け出した為、桃香や愛紗にものすごく怒られたが、詠や星がとりなしてくれたため、すぐに解放された。翌日、早朝に起きて政務に勤しんでいるのだが・・。

昴「はぁ、1日仕事サボれば仕事貯まるよな」

月から事情を聞いた朱里と雛里がある程度俺の分をやってくれていたとはいえ、当然、俺自身が判断を下さないといけない案件は残っているわけで。

昴「ちゃっちゃと終わらせるか・・」














・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「・・(カキカキカキカキ・・)」

無言で政務を続ける。

昴「・・・ふぅ」

ようやく一段落ついた。

昴「・・(グゥ〜)」

腹減ったな。

時刻はちょうど昼飯時だ。

昴「何か食いに行くか」

俺が席を立とうとすると・・。

詠「は、入るわよ」

詠が俺の部屋に入ってきた。

詠「食事を持ってきたわ」

昴「詠が?」

いつもは月が持ってくるから思わず尋ねた。

詠「何よ、悪い?」

昴「いや、構わないけど・・」

詠が卓に次々と料理を並べる。

昴「・・・」

俺は少し違和感を覚えた。いつもの月が作ってくれる料理と比べ、少し具の形が悪かったりしているからだ。ふと詠の手を覗くと、その手には傷痕があった。

昴「なあ、この料理は詠が作ったのか?」

詠「そ、そうよ、悪い? 嫌なら食べなくて良いわよ」

昴「そうは言ってないだろ? いただくよ」

俺は手を合わせ、料理に手を付ける。

昴「モグモグ・・おっ、美味いな」

詠「ほ、ホントに?」

昴「ああ。火加減も柔かさ程よくて美味しいよ」

形は少し悪いけど。俺は別の料理もいただいたがどれも美味しかった。やがて全て食べ終わり。

昴「ごちそうさま」

詠「・・お粗末様」

詠は食べ終えた食器を纏め、お茶を淹れ、渡してくれた。

昴「ありがとう」

礼を言い。お茶をいただいた。

詠「政務、大変なの?」

昴「そうでもないよ。今日中には終わるよ」

詠「そう・・。ならボクは・・ってアンタ、ご飯粒が付いてるわよ?」

昴「ん? 何処だ?」

俺は口元に手を当てる。

詠「違うわよ、もう少し左よ」

昴「えっ? 何処だよ」

俺はご飯粒を取ろうとするがなかなか見つからない。

詠「だから・・ああもうしょうがないわね!」

詠が俺に近づき・・・。














チュッ。














昴「えっ!?」

詠が俺に口付けをした。

詠「// あ、アンタは仮にも主なんだから、口元にご飯粒を付けっぱなしじゃ格好が付かないでしょ! ・・ならボクは忙しいから行くわ」

詠は食器をまとめたおぼんを持って出ていく。扉の手前で・・。

詠「・・昨日、アンタが軍師としてのボクでなくなっても、メイドとしてのボクでなくなっても、例えただのボクになっても見捨てないって言ってくれてすごく嬉しかった。でもボクはその言葉に甘えるつもりはない。軍師としてのボクをもっと磨いてあんたを支えてあげる。メイドとしてのボクをもっと磨いてあんたに尽くしてあげる。そして、女としてのボクをもっと磨いてあんたを貫いてやるんだから」

昴「詠・・」

詠「ふ、ふん/ /それだけよ!」

詠はそう言い残し、部屋を後にした。

昴と詠の間に出来た亀裂は新たに生まれた絆と愛で埋まったのだった。










続く

-63-
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