小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第63話〜無謀なる業、蘇る親愛〜















昴side

桔「・・お館様。本当によろしいのか?」

昴「構わない、やってくれ」

桔「うむ・・、それでは・・」

桔梗が豪天砲を構える。俺と桔梗の距離はおよそ10メートルほど。

桔「はぁ!」

ドォン! ドォン!

豪天砲から鉄杭が放たれる。

昴「ふっ」

俺は鉄杭を紙一重で避ける。

桔「次、行きますぞ!」

ドォン! ドォン! ドォン!

立て続けに豪天砲から鉄杭が放たれる。

昴「くっ!」

1発目を避け、2発目を村雨で弾く。3発目も同じく村雨で弾こうと試みたが・・。

ドカッ!!!

昴「がはっ!」

3発目は弾ききれず、腹に直撃する。俺の身体は後方に吹っ飛んだ。

桔「お館様!」

桔梗が慌てて駆け寄ったが、俺はそれを手で制し・・。

昴「だ、大丈夫だ。もう一度、もう一度頼む」

桔「やはり無理です、お館様! お身体を痛めるだけです!」

昴「多少無理を通してでも、やらなくちゃならないんだ」

桔「ですが、この距離で目隠しをしたまま豪天砲を避け続けるなど無理です!」

そう、俺は今目隠しをして豪天砲の鉄杭を避ける、もしくは弾く荒行を行っている。これは五感や第六感を鍛え上げるためだ。別にわざわざ豪天砲を使う必要ないのでは? と思われるが、ある程度危険でなければ鍛えられないので桔梗の力を借りたわけだ。

当初桔梗は当然の如く猛反対をしたが、頭を下げ倒し、何とか了承してくれた。だが、さすがに豪天砲をまともにくらえば身体に穴が空いて死んでしまうので、鉄杭の先を丸く加工した物を打ち出してもらっている。これで死ぬことはない。が、死ぬほど痛い。

昴「何か掴めそうなんだ。もう少し付き合ってくれ」

桔「何故そこまでして強さを求むのです? 今のお館様とて天下に並ぶことなき力をお持ちでしょう?」

昴「・・これから先、戦に勝利し、俺達の理想を叶える為にはもっと力が必要なんだ」

そう、力が・・。

昴「だから頼む。俺の気が済むまで付き合ってくれ」

桔「ふぅむ、賛成は出来かねますが・・、分かりました。では・・」

再び桔梗が豪天砲を構える。

桔「行くぞ!」

ドォン! ドォン! ドォン!

豪天砲が火を吹いた。

昴「ふっ」

1発目、2発目は上体を動かして避ける。

ガキン!!!

3発目は村雨で弾き飛ばした。

ドォン! ドォン! ドォン!

さらに豪天砲が放たれる。

昴「くっ!」

4発目を紙一重で避ける。甲高い音が耳元を襲う。5発目も同じく避ける。

昴「ぐくっ!」

鉄杭が俺の肩を掠める。最後、6発目、村雨で迎撃を試みるが、

ゴスッ!!!

昴「ぐっ!」

弾ききれず、今度は肩に直撃した。

昴「また失敗か・・。桔梗、もう一度だ」

桔「・・・分かりました」

桔梗は豪天砲に鉄杭を装填し、再度こちらへ砲門を向けた。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


その後もこの荒行を繰り返し行い、時に全弾避けきり、弾き飛ばしたり、直撃したりを繰り返した。回を増す毎に確実に直撃は減ってきている。確実に成果は出ているが神経を磨り減らしながらの荒行なので当然疲労も溜まり、そして・・。

昴「ゴホッ!」

鉄杭が俺の腹に直撃し、俺は後方にふっ飛んだ。

桔「お館―――」

桔梗が何かを叫んでいたが、俺は途中で意識を手放した。



















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※※※※


昴「・・・ん?」

気が付くと俺は横になっていた。そうか豪天砲が直撃して気を失ったのか。

桔「目が覚めましたかな?」

昴「ん、桔梗か・・ぐっ!」

体を起こそうとしたら俺の体に激痛が襲った。

桔「急に体を起こしてはなりませぬ。寝ていてくだされ」

俺は再び寝かされた。

昴「・・・あ」

ふと見ると、俺は桔梗の膝に頭を乗せている事に気付いた。いわゆる膝枕だ。

桔「どうか致しましたかな?」

昴「いや、何でもない」

桔「そうですか」

俺はそのまま桔梗の膝に頭を乗せた。

桔「こんなに体を痛め付けて、もっとご自愛なさいませ」

昴「〜〜っ!」

桔梗が湿らせた布を俺の体に当てた。声も出ない激痛が俺を襲った。

桔「安全処理をした豪天砲とはいえ、あれだけ直撃したのですからな。冷やさねば腫れ上がってしまいますぞ?」

昴「す、すまない・・」

桔梗が丹念に体を拭いてくれた。俺は激痛に耐えながら歯を食い縛った。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「・・ん」

しばらくそのまましていると今度は睡魔が俺を襲った。

桔「良ければ儂の膝でお休みくだされ」

昴「でもそれじゃ桔梗が・・」

桔「なに、お館様の寝顔を拝見するのもなかなか乙なものです。儂の事は気にせずにお眠りくだされ」

昴「そうか・・」

俺は言われるがまま睡魔に身を任し、そして眠りに落ちた。





















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※※※※


桔梗side

桔「眠りにつかれたか」

お館様は目を瞑るとすぐに眠りにつかれてしまった。

桔「ホントに無理をなさる」

自身に課せられた政務は的確にこなし、鍛練ではボロボロになるまで体を痛め付けて。

桔「皆がやきもきするのも理解出来る」

心配事は尽きぬであろうな。だが、こんなお館様であるからあれだけの将兵が一同に集まり、そして慕っているのだろう。お館様はご謙遜なさるが、儂もお館様の器量あってのこの国だと思う。この方に力の限り尽くしたいと思う。それに・・。

桔「押し殺していた儂の中の女が疼かされる」

女ならば皆お館様の魅力に惹き付けられてしまうであろう。だが、それも悪くない。

桔「今は儂だけに許された特権を堪能するとしよう」

儂はお館様の髪を撫で、お館様の寝顔を眺め続けた。




















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※※※※


昴side

あれから2週間ほどが経った。俺はその間にも何回かあの鍛練を続けた。相変わらず体は痛め付けられるが、確実に鍛練の成果は出ており、被弾の数は減ってきている。今日は劉備軍の主要な将が集まっての定例会議を行っている。

昴「次に雛里、頼む」

雛「はい。新田開墾の件ですが・・」

次々に報告があがっていく。特に問題もなく報告は続けられる。

昴「うん。分かった。引き続き頼むな。次は桔梗、頼む」

桔「・・・」

ん、どうしたんだ?

昴「桔梗?」

桔「・・・」

紫「桔梗、あなたの番よ」

桔「おっ!? いやすまぬ」

昴「桔梗、体調が優れないなら・・」

桔「はっはっはっ、心配召されるな。少々考え事していただけですので」

昴「そうか。ならいいんだけど・・」

桔「うむ! では儂からの報告だが・・」

桔梗からの報告が始まる。














・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


昴「?」

その後も定例会議が続いたがやはり桔梗の様子が少しおかしい。時折ボーっとしていたり、話を聞き逃していたり、普段の桔梗からは考えられない事ばかりだ。理由を本人に尋ねてもおそらく大丈夫としか言わないだろう。

やがて全員の報告が終了した。

昴「これで全員終わったな。なら今日の定例会議はここまでとする。解散」

定例会議は終了した。




















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※※※※


定例会議終了後、各々が任された部署に向かう中、俺は紫苑に声をかけた。

昴「紫苑。少しいいか?」

紫「ええ、構いません」

昴「今日の桔梗、何処か様子がおかしく見えたんだが」

紫「・・ご主人様にもそう感じられましたか」

昴「何か知っているか?」

紫「・・おそらくですが、察しはつきます」

昴「それは何なんだ?」

紫「それは―――」



















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※※※※


その日の夜、俺は城の外の森を歩いていた。しばらく歩いていると・・。

♪〜♪

森の奥から笛の音が響いてきた。笛に誘われるがまま歩いていった。やがて木々が開けた場所にたどり着き、そこには・・。

桔「♪〜♪」

流麗な笛を奏でる桔梗の姿があった。その音の調べはとても美しく、とても儚いものだった。やがて笛の音が止み、俺は桔梗の元に向かった。

昴「綺麗な笛の音だ。思わず聞き惚れたよ」

桔「むっ、お館様? 何故このような場所に?」

昴「森に散歩に来たら笛の音に誘われてね」

桔「ご冗談を」

昴「散歩は嘘だが笛の音に誘われたのは本当だ。ここに桔梗がいるんじゃないかと思って来たんだ」

桔「何故儂がここにいると?」

昴「紫苑に話を聞いてね。だからここに来た。あの人が眠る場所・・・・冽翁殿の墓に」



















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※※※※


紫「ちょうど今くらいの季節の事です。あの方、冽翁様と出会ったのは」

昴「・・冽翁殿と・・」

紫「私や焔耶ちゃんにとって冽翁様は武人として将としての心得を教え込んでいただいた師なのですが、桔梗にとってはそれだけではありません」

昴「桔梗にとっては?」

紫「はい。桔梗にとって冽翁様は師であると同時に父でもあるのです」

昴「!?」

父?

紫「と言っても本当の父というわけではありません。桔梗の本当のお父様と冽翁様は昔から親交があり、桔梗が今の鈴々ちゃんの歳の頃にお父様を亡くし、その後冽翁様の元に預けられる形になりました。桔梗とはその時に出会いました」

昴「・・・そうか」

なら俺は桔梗の・・。

紫「ですが、桔梗はご主人様を恨んではいませんわ。冽翁様は病に臥すより武人として死ぬことを選んだのですから。その心は桔梗が1番理解してます」

昴「なら桔梗は何で・・」

紫「それは私の口からは・・」

昴「分かった。後は直接聞いてみるよ」


















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※※※※


桔「そうですか。紫苑に聞きましたか」

昴「聞いたのは俺だ。紫苑を責めないでくれ」

桔「何、儂は口止めをしていたわけでもありませぬ。責めたりはしませぬよ」

昴「そう言ってもらえると助かる」

俺は冽翁殿の墓の前に立ち、持参した酒を墓石にかけ、手を合わせた。

昴「・・・」

桔「・・感謝致します、お館様。親父殿も喜んでいるでしょう」

昴「そうか。なら、良いんだがな」

俺は墓の傍の大きな石に腰掛けた。

昴「・・・」

桔「・・・」

しばらく場を沈黙が支配した。

昴「桔梗。桔梗は俺を・・」

桔「断っておきますが、儂はお館様を恨んではおりませぬ」

昴「・・・」

桔「お館様には感謝の言葉しかありませぬ。親父殿を武人として逝かせていただいたのですから」

昴「・・そうか」

そう言ってもらえると俺は救われる。

昴「・・・」

桔「・・・」

再びその場を沈黙が支配する。

桔「・・儂は親父殿に何か返せたであろうか」

昴「桔梗?」

桔「儂は親父殿の不肖の弟子として、何も返す事が出来なかった。それだけが唯一の心残りであった。こんなことなら・・いやはや、後悔先に立たずとはこの事ですな」

桔梗は自嘲気味に笑った。

昴「返せなかった事はないさ」

桔「お館様?」

昴「桔梗は冽翁殿の教えを今も守っている。得た力を自分の信じた道を切り開く為に使えという教えを・・。師にとって、自身が伝えた教えを守ってくれる事が1番の恩返しだ。桔梗の信じる道を、冽翁殿の最後の願いを守る事がきっと恩返しに繋がると俺は思う」

桔「そうですな。・・ふふっ、それにしても」

昴「?」

桔「先ほどのお館様の言。まるで親父殿にようでしたぞ?」

昴「そうなのか?」

桔「うむ。同じ事を言われましたからな」

昴「ふーん、そうなのか」

冽翁殿とは一度でもいいから教えを乞いたかったな。

桔「お館様。今一度我が笛を聞いてはくださらぬか?」

昴「ああ。是非聞かせてくれ」

桔「では・・」

桔梗が笛を奏で始めた。その音はとても美しく、心を打つ音だった。


















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※※※※


それから数日後、再びあの荒行に挑戦している。

桔「では行きますぞ!」

昴「来い!」

桔梗が豪天砲を構え、

桔「はぁっ!」

ドォン! ドォン! ドォン!

豪天砲が火を吹いた。

昴「ふっ」

俺は放たれた3発全て避ける。

桔「次、行きますぞ!」

ドォン! ドォン! ドォン!

さらに豪天砲から鉄杭が放たれる。

昴「はっ!」

ガキン! ガキン! ガキン!

村雨で鉄杭を弾く。

桔「お見事。ならばこれならばどうです!」

ドォン!!!

追い討ちをかけるように豪天砲から鉄杭が放たれた。

俺は村雨を鞘に納め・・。

昴「はぁっ!」

キィン!!!

抜刀術で鉄杭を斬り裂いた。

昴「ふぅ」

俺は目隠しを外した。

桔「さすがお館様ですな! まさか豪天砲の砲弾を無傷でやり過ごすとは。もはや言葉もありませぬ」

昴「少し動きが大きかったけどな」

砲弾の数がさらに多かったら直撃しただろうな。

桔「しかし、進歩なされたのは喜ばしい事ですが、少々寂しくありますな」

昴「寂しい?」

桔「お館様の寝顔を拝見出来なくなるのは少々寂しいですな」

昴「はははっ」

さすがにあれは恥ずかしいし、直撃は痛いから勘弁してほしいな。

昴「今日はここまでにしよう」

桔「うむ、そうですな」

俺は放たれた鉄杭を回収し、帰り支度をする。

桔「お館様」

昴「ん?」

桔「・・いえ、何でもありませぬ。それでは参りましょう」

そう言うと桔梗が俺の腕を取る。

昴「桔梗?」

桔「どうか致しましたか?」

昴「ん〜、いや・・何でもない」

胸が当たってるけど、言っても無駄なんだろうな。

桔「ふふっ、では参りましょう」

俺達はそのまま城へと帰還した。











続く

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