小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第65話〜自由と苦労と普通と、それぞれの悩み〜















昴「今日はご苦労様、皆」

猪「いやぁ。あんな仕事なら大歓迎だよ。いつでも声かけてくれよ、アニキ」

斗「もう、文ちゃんった」

白「ま、今日ばかりは猪々子を咎めるわけにもいかんな」

昴「そうだな。おかげで黄巾の残党を捕まえる事が出来たからな」

俺達は、黄巾の残党が近くの空き城を占拠したという情報を掴み、先ほどそれを制圧しに向かった。猪々子、斗詩、白蓮の活躍により、1人残らず捕まえる事が出来たのだ。当初はもう少し時間がかかると予想されていたが、夜に城へ帰還する事が出来た。

昴「だけど猪々子は相手がただの賊とはいえ、少し油断が過ぎるぞ?」

猪「心配しなくても斗詩がいるから平気だよ」

斗「もう。私がいなかったらどうするつもりなの? 文ちゃんったら」

猪「そんときはアニキがいるさ」

昴「あのなあ・・」

こんな冗談を言いながら歩いていると・・。

昴「ん?」

ふと1つの部屋から灯りが差している。部屋を覗いて見ると・・。

麗「・・(カキカキカキカキ・・)」

麗羽が書を読みながら何かを書き写している。おそらく、兵法書を書き写し、覚えているのだろう。

斗「麗羽様、今日もやってる」

昴「そうなのか?」

斗「はい。麗羽様はあの日から空いてる時間があればほとんど鍛練やいろんな書を読んで覚えているんです」

昴「そうなのか」

あの日。それは麗羽が俺に臣下の礼をした日の事だろう。

昴「・・邪魔をしても悪いから俺の部屋に来るか? お茶ぐらいは出すよ」

斗「そうですね」

猪「賛成〜!」

昴「白蓮も来いよ」

白「私まで良いのか?」

昴「ああ」

白「なら私も呼ばれるとするよ」

俺達は俺の部屋に向かった。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


部屋に着くと、俺は備え付けのお茶と器を用意して3人に出した。

猪「どうも、アニキ」

斗「ありがとうございます。ご主人様」

白「すまないな」

俺達は茶をいただく。

斗「・・それにしても、本当に麗羽様、変わったね」

猪「そうだよな」

白「全くだな」

昴「良いことだろ?」

猪「そうなんだけど・・」

白「以前の麗羽からは考えられない姿だな」

昴「麗羽もまた成長したって事だろ? 猪々子や斗詩にしたら気苦労がなくなって良かったじゃないか」

猪「うーん、そうなんだけど・・」

ん?何か歯切れが悪いな。

昴「何か問題あるのか?」

猪「問題はないんだけど・・、何か物足りないんだよな」

昴「どういう事だ?」

猪「確かに以前の麗羽様にはさんざん苦労かけられたりしてたけど、でも今思えばそれはそれで楽しかったなって思う時があるんだよ」

斗「あっ、それ何となく分かる気がする」

斗詩がそれに同意する。

白「私は麗羽のお目付け役がなくなって清々してるけどな」

白蓮はげんなりした顔で言う。

斗「本当に、麗羽様は変わっちゃったな・・」

斗詩は何やら思い詰めた顔で呟いた。

昴「斗詩、何か悩んでいるのか?」

斗「えっ!? どうしてですか?」

昴「そんな顔してたよ」

斗「・・・」

昴「俺達で良かったら相談してくれよ」

斗「ありがとうございます。別に悩みって程の事でもないんですよ。ただ・・」

昴「ただ?」

斗「麗羽様も、美羽様も、そして皆も。どんどん変わって、成長してるのに、私だけそのままなのではって思うんです」

昴「ふむ」

斗「麗羽様、どんどん成長していきます。誇りを捨てて、がむしゃらに自分を高めようとしています。そんな姿を見ていると、私だけ取り残されている感覚に陥るんです」

昴「・・・」

斗「そう考えると私は怖くなります」

なるほどね。

昴「そう考えているだけで、斗詩は前に進んでいるさ」

斗「えっ?」

昴「斗詩だって今変わろうとしている。ただ少し方向を見失っているだけで」

斗「そうでしょうか?」

昴「斗詩は今前に進んでいる。それでも不安にかられるのは前に進んでいる自覚がないからだ。何故自覚がないかは目的地がないからだ」

斗「目的地がない?」

昴「ああ。目的地がないのにただ前に進んだって本人には進んでいる自覚なんて得られない。自覚がなければ心は立ち止まっているのと同じだから不安になる」

斗「なるほど」

昴「自分が何のために前に進むか。何に向かって歩みを進めるか。それが分かれば斗詩の悩みは解決すると思うし、斗詩はいろんな意味でもっと強くなれるよ」

斗「・・・私に見つけられるかな・・・えっ//」

俺は弱音を吐く斗詩の手を包み込み、

昴「見つかるよ。見つからないなら俺も手伝うからさ」

斗「あ、ありがとうございます。私、何か胸のつかえが取れました」

昴「そうか、なら良かった」

俺は斗詩の手から自分の手を離した。

昴「猪々子は何か悩みは無いのか?」

猪「あたい? うーん・・・あると言えばあるんだよなー」

へぇー、意外だな。猪々子は悩みとか無縁だと思ったが。

猪「麗羽様が真面目になってから退屈で退屈でしょうがないんだよ」

・・そういう事ね。

昴「退屈を埋める種なんてそんじょそこらに埋まってると思うけどな」

猪「探してってけどなかなか見つかんないだよ」

昴「なら猪々子だって武人なんだから武を極めてみればどうだ?」

猪「・・どうせ極めても恋や愛紗には絶対勝てないしなぁ」

昴「ま、興味ってのは探すものだ。探してみれば何か見つかるかもな」

猪「ぶぅーぶぅー。あたいだけ何か投げやりだな」

昴「他に言い様がないしな。他に何か無いのか?」

猪「うーん・・あ、そうだ! ある、あるぜ!」

昴「何だ?」

猪「斗詩に好かれる方法!」

昴「・・・もう猪々子には悩みはなさそうだな」

猪「アニキー! 切実な悩みなんだぜ?」

昴「知らん。俺に聞かれてもどうしようもないし」

実際どうしようない。

昴「猪々子の話はこれで終わり。白蓮は何かあるか?」

白「・・・」

白蓮はかなり悲痛な面持ちになった。

白「・・実は以前から悩んでる事があるんだ」

白蓮がかなり深刻そうに言う。これは相当な悩みなのだろう。

昴「何を悩んでるんだ?」

白「それは・・」

昴「それは?」
















白「何で私はこんなにも普通なんだ!?」

















昴・猪・斗「・・・」

俺達は言葉を失った。

猪「まあ白蓮様って武は普通だよな」

白「うっ!」

猪「知力も普通だし」

白「うっ!」

猪「見た目も普通で個性がないよなー」

白「・・がくっ」

白蓮が卓に突っ伏した。

斗「ちょっと文ちゃん!」

白「良いんだ。私はどうせ普通だ。突出したものはないし、雫と違って万能ではなく器用貧乏だし・・」

あ〜あ、これは深刻だな。

昴「本当に何も無いのか?」

白「無いよ。探しても何も見つからなかった」

昴「そうか、もしそれが本当なら・・・それはもはや個性じゃないか?」

白「えっ?」

昴「何も無い人間なんてそうはいないぜ? 人は何かしら何かあるものだ。もし何も無いならそれは個性と言っていいと思うぞ」

白「そう・・なのか?」

昴「なあ白蓮。何でそんなに普通が嫌なんだ?」

白「えっ? だって普通は地味だし、目立たないし・・」

昴「俺は思う。世の中で1番幸せなのは普通だって」

白「どうしてだ?」

昴「普通に産まれて普通に育って普通に死ぬ。これは幸せな事だと思わないか?」

白「・・・」

昴「権力を得て、城を得て、官位を得る。これも幸せかもしれないが、大きなものを得ると人はそれ相応に苦労もする。常に何かと戦わなければならないからな。俺は自分の歩んだ道に後悔はしてないけど、戦の無い国で普通に産まれて普通に死んでいく者を見て、僅かだけど羨ましさを感じる時がある。異常な世界で生きる者は得てしてそういった者を羨むんだ」

白「そう、なのかな?」

昴「そうさ。普通じゃないが故に過酷な人生を歩む奴だっているんだ。皆だって乱世という普通じゃない国に産まれていろんな苦労しただろ?」

斗「そう言われてみるとそうですね」

昴「結局普通が1番だと思うよ、俺は」

白「・・言いたい事は分かるが、あまりに無個性なのも悩みだぞ。目立たないし、いざって時役立たずだし」

昴「役立たずって事はないだろ。白蓮は無能ではなく有能なんだから」

白「うーん、でもなぁ・・」

白蓮は釈然としない様子だ。

昴「俺はな。白蓮はこの国での役割は人間で言う所の心臓だと思ってる」

白「心臓?」

昴「表からは見えず。決して目立たないが、絶対に無くてはならない物だ。それが無くては人は生きられない」

白「・・・」

昴「白蓮。人には役割がある。俺や桃香のように皆の頂点に立ち、皆を導く者。愛紗や鈴々や星のように皆の先頭に立ち、道を切り開く者。朱里や雛里のように策を提示し、知略をもって国を支える者。いろいろな役割がある。俺の思う白蓮の役割は、それらの者を影から支える者、だと思う」

白「影から・・」

昴「決して目立たないが絶対にいなくてはならない存在だ。この世に光と影があるように、役割にも光と影がある。いや、なくてはならない。派手なものばかりが必ずしも重要とは限らない。目立たず地味なものほど意外にも重要だったりするんだ。まあ人は派手なものに目がいきやすいけどな」

白「昴・・」

昴「あまり自分を悲観するな。俺は白蓮の事もしっかり見ているよ」

白「昴・・。ありがとう。気が楽になったよ」

昴「そうか、なら良かったよ」

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


その後も4人でお茶をしながら話をする。

白「時間も時間だからそろそろお暇しようか」

斗「そうですね。麗羽様もそろそろ休まれてるだろうし」

猪「えぇー、もっと話しようぜ」

斗「文ちゃん、あまりご主人様迷惑かけちゃ駄目だよ。・・それではご主人様、失礼します。今日は本当にありがとうございます」

昴「礼を言われる事じゃないさ」

白「そんな事はないさ、昴、今日はありがとう。またな」

昴「ああ」

3人は部屋を出ていった。



















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※※※※


猪々子・斗詩・白蓮side

猪「いや〜、楽しかったな」

斗「もう、文ちゃんったら」

3人が城の廊下を歩いている。

白「・・それにしても、昴はすごいな」

斗「・・そうですね」

白「あいつがいると、自分がどこまでも強くなれる気がする」

斗「皆、ご主人様が大好きな理由が良く分かります。あんなご主人様だからこれだけの人が集まって、皆がご主人様の元で力を奮えるんですね」

白「そうだな。・・・私達ももっと頑張ろう。皆に負けないように」

斗「はい!」

猪「おうよ!」

3人は新たに誓いを立てるのであった。











続く

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