小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第68話〜芽生え、大人への成長〜















昴「ふぅ」

今日もいつものように政務をこなす。今日はわりと少なめだったので早く終わらす事が出来た。

鍛練でもするか・・。

そう決めて廊下を歩いていると・・。

愛「ご主人様」

昴「ん? 愛紗か、どうした?」

愛「いえ、少々・・。ご主人様、もう政務は終えられたのですか?」

昴「ああ。ばっちりな。皆が頑張ってくれてるから仕事もすぐに片付くから助かるよ」

愛「もったいないお言葉です。これも臣下として当然の務めです」

昴「ま、とにかくありがとな。ところで、何か探していたみたいだが、どうかしたのか?」

愛「はい・・、実は、鈴々を探しているのですが、お見かけしませんでしたか?」

昴「鈴々か? 今日は見てないな」

愛「そうですか・・。てっきりご主人様のところかと思ったのですが・・」

昴「鈴々なら今日は徴兵した新兵の訓練に行ってるんじゃないのか?」

今日の鈴々の予定はそうだったはずだ。

愛「その新兵の訓練のはずの鈴々がいつまで待っても現れないのですよ」

あらら。

昴「まったく、仕方ないな〜」

愛「これでは新兵達に将が舐められてしまいます。将が舐められれば戦を軽んじます。そうなれば命を落とすのは兵達です」

昴「確かにな」

愛「一軍を預かる将としての心構えが備わっていれば、決して犯さぬ過ちであるはずです!」

昴「まあまあ、落ち着けよ愛紗。鈴々だって悪気はないはずだから」

愛「ご主人様は鈴々に甘すぎます! 一度鈴々に灸を据えていただかなければ・・」

昴「分かったって」

俺は愛紗を手で制する。

愛「むぅ・・。私は鈴々を探しに行きますので、もし鈴々を見かけましたらしっかりお伝え下さい」

昴「分かった。ちゃんと伝えとくよ」

愛「それでは」

愛紗は俺の横を抜け、歩いていった。

昴「さてと・・」

鈴々の奴、愛紗に見つかったら大目玉だな。

昴「先に見つけてやるか」

俺は鈴々を探しに城を歩き回ることにした。


















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※※※※


昴「・・・」

とりあえず当初に行く予定だった庭に来たんだが。

昴「いた」

程なくして鈴々を見つけた。見つけたんだが・・。

鈴「くぅ、すぅ・・・すーー」

眠っていた。気持ち良さそうに。これだけなら微笑ましい絵なんだが・・。

鈴「くーーー」

鈴々は木の枝に跨がって眠っていた。

昴「しかしまぁ、よくこんな所で寝られるな」

どんだけ器用なんだ。ま、とにかく起こしてやるか。

昴「おーい。鈴々ー」

鈴「だぁめー、なのだー・・皆鈴々の! がぶ、もぐもぐ・・」

カスミ食ってる。っていうか夢でも食い意地あるんだな。

昴「おーい、鈴々!」

少し強めに呼び掛ける。

鈴「んにゃ・・何なのだ・・」

鈴々がうっすらと目を開けた。起き上がろうとしたその時・・。

バキッ!!!

鈴「にゃ?」

突如、鈴々が跨がっていた木の枝が折れ、鈴々が木から落下した。

昴「まずい!」

あの体勢じゃ頭から落ちちまう。しかも鈴々は寝ぼけ半分で状況が把握を出来てないから受け身を取る体勢も取れていない。

昴「間に合え!」

俺は一気に縮地で駆け、そして跳躍した。

ズサササー!

俺は横っ飛びでギリギリの所で鈴々を受け止めた。

ふぅ、何とか間に合っ・・あっ。

俺は自分の今の状況に気付いた。鈴々をキャッチした時、鈴々の唇が俺の唇に触れていた。

鈴「!?」

鈴々もようやく今の状況に気付き、そっと俺から顔を離した。

鈴「にゃ・・」

昴「?」

鈴「にゃぁぁぁーー//」

鈴々は奇声をあげながら何処へと走り去ってしまった。

昴「あぁ、行っちまった。あの分なら怪我の心配はないだろうけど・・」

鈴々だって女の子だもんな。いくら事故とはいえ、男とキスなんかしたらびっくりするし、落ち込むよな。

昴「後で謝っとかないとな」

・・・あ、そういや新兵の訓練の事言うの忘れた。



















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※※※※


鈴々side

鈴「はぁはぁはぁ・・」

お兄ちゃんから逃げてしまったのだ。

鈴「お胸がドキドキするのだ・・」

さっきからお胸がうるさいのだ。それに顔も熱い。

鈴「お兄ちゃんと・・・チュー、しちゃたのだ」

お兄ちゃんは大好き。一緒に遊んでくれるし、頭ナデナデしてくれる。父様と母様と同じくらい大好き・・・でも・・。

鈴「父様や母様の大好きとは違う感じがするのだ」

何だか分からないけど、そんな気がするのだ。

鈴「・・にゃ//」

お兄ちゃんの事を考えれば考えるお胸のドキドキが強くなるのだ!

しばらくボーッとしていると・・。

愛「鈴々!」

突如、凛とした怒声が鳴り響いた。

愛「お前は今日新兵達の訓練だろ! 何処で油を打っていたのだ!」

鈴「愛紗・・」

愛「お前はもっと将としての自覚をだな・・」

愛紗が怒っている。でも鈴々の耳には入らない。

愛「鈴々、聞いているのか!」

鈴「・・ごめんなさい、なのだ・・」

愛「む、分かれば良い。ならば早く行くぞ、新兵達が待っているのだからな」

愛紗が鈴々の手を引っ張って歩き出す。

鈴「お兄ちゃん・・。」

鈴々はそっと自分の唇に触れた。



















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※※※※


鈴「・・・」

あれから鈴々は変なのだ。

お兄ちゃんといっぱい遊びたい。お兄ちゃんにいっぱいナデナデしてもらいたい。お兄ちゃんに会いたい。

でも、お兄ちゃんを前にするとお胸がドキドキして何故か何も喋れずに逃げ出してしまうのだ。

鈴「鈴々、病気なのかな?」

お胸はずっとドキドキするし、顔や体も熱い。それに、お兄ちゃんの顔ばかり浮かぶ。

鈴「・・お兄ちゃんなら分かるかな? 鈴々が何の病気なのか」

お兄ちゃんは物知りだからきっと知ってるのだ。そうだ、お兄ちゃんなら分かるはずなのだ! でも・・。

鈴「ううん。鈴々は勇気があるから大丈夫なのだ!」

今行くのだ! お兄ちゃん!
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


むぅ・・・、お兄ちゃん、何処にもいないのだ。お兄ちゃんの部屋、執務室、庭、何処にもいないのだ。

鈴「お兄ちゃん、何処行ったのかなー」

城にいないなら街かなー?

街へと向かった。

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


鈴「お兄ちゃんを探すのだ!」

きっとお兄ちゃんは街にいるのだ!

鈴「・・・・・見つけたのだ!」

あの後ろ姿はお兄ちゃんだ!

鈴「お兄ちゃ・・・・えっ・・」

お兄ちゃんの横には桃香お姉ちゃん姿があった。とても楽しそうに腕を取って寄り添ってる。

ズキッ・・。

鈴「っ!」

今度はお胸が痛い・・。

駄目なのだ・・。お兄ちゃんと仲良くしちゃ嫌なのだ・・。

鈴「っ!」

気が付いたら走ってた。お兄ちゃんと桃香お姉ちゃんを見てたらとてもお胸がどんどん痛くなるから。



















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※※※※


鈴「はぁ、はぁ、はぁ・・。」

鈴々は城まで走った。とにかくがむしゃらに。ただがむしゃらに走り続け、気が付いたら城の庭にいた。いつもお兄ちゃんと鍛練したり、遊んだりする庭に。

鈴「・・・ひぐっ・・ぐすっ・・」

涙が溢れる。いくら拭ってもどんどん溢れてくる。

鈴「ぐすっ・・うぅ・・お兄・ちゃん・・」

璃「鈴々お姉ちゃん?」

振り返ると璃々がいた。

紫「璃々。あまり走り回ったら・・・鈴々ちゃん!? どうしたの!?」

鈴「璃、々、し、おん・・」

紫「鈴々ちゃん、どうしたの? 何処か痛いの?」

鈴「ちがう・・のだ」

紫「なら誰かに悪口でも言われたの?」

鈴「それもちがう・・のだ」

紫「だったらどうしたの? 私で良かったら話してみて」

璃「鈴々お姉ちゃん、大丈夫?」

鈴「・・・」

紫苑に鈴々が見たことを全部話した。

紫「なるほどね。つまり、鈴々ちゃんはご主人様が桃香様に取られたと思ったから泣いていたのね」

鈴「・・・ちがうのだ」

紫「えっ?」

鈴「鈴々ね。お兄ちゃんと楽しそうにしている桃香お姉ちゃんを見て・・・桃香お姉ちゃんががいなければって、そう思ったのだ。あの時、桃香お姉ちゃんの事、すごく嫌な風に思ったの。桃香お姉ちゃんは何も悪くないのに。鈴々は自分が許せなくって。それで・・」

紫「そうだったの・・・」

鈴「もうお兄ちゃんと桃香お姉ちゃんに合わす顔がないのだ」

こんな鈴々じゃきっと嫌われちゃうのだ。

紫「鈴々ちゃん」

鈴「にゃ!?」

紫苑がそっと鈴々を抱きしめた。

紫「そんな風に考えなくて良いのよ」

鈴「紫苑・・」

紫「大好きな人には自分だけを見てほしい。これは女として当然の事よ」

鈴「そうなのか?」

紫「そうよ。鈴々ちゃんのその気持ちはね、女の子から大人の女になった証なの。戸惑うかもしれないけど、決して恐れる事はないわ」

鈴「・・そう・・なのか」

この気持ちが大人の女。

鈴「鈴々はどうしたら良いのかな? お兄ちゃんとどうしたら良いのか分からないのだ」

紫「難しく考える事はないわ。鈴々ちゃんの想いの丈をご主人様にぶつけるだけで良いのよ」

鈴「鈴々の、想いの丈を・・」

お兄ちゃんに大好きだって伝える・・。

紫「そうだわ!」

鈴「?」

紫「私に良い考えがあるわ」


















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※※※※


昴side

昴「遅いな」

俺は今日も仕事が早く終わり、何をしようか悩んでいると、紫苑に呼び止められ、城門で待っているように言われた。何故と訪ねても理由は教えてもらえず、絶対に待つように強く言われたので俺は待っているわけなのだが、かれこれ1時間何の音沙汰もない。

昴「何だって言うんだ?」

疑問を持ちつつもそのまま待ち続けていると・・。

?「お待たせなのだ!」

ん、この声・・。

昴「何だ、呼び出したのは鈴々・・・っ!?」

呼ばれた声に振り返るとそこには鈴々がいた。しかし、鈴々はいつもの服ではなく、胸にリボンをあしらったちょっとしたドレスのような可愛らしい洋服だ。

鈴「お兄ちゃん。どう? 鈴々可愛い?」

昴「ああ。とても可愛いよ。まるでお姫様みたいだ」

鈴「ホント!? えへへ〜」

鈴々はとても嬉しそうに笑った。

鈴「ねえねえお兄ちゃん」

昴「ん?」

鈴「一緒に街に行こ!」

昴「・・分かった。せっかくおめかしたんだ。一緒に街に行こう」

鈴「うん!」

俺は鈴々の手を繋ぎ、街に向かった。

















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※※※※


街に行くと、街中はとても賑わっていた。

昴「そういえば、今日は祭の日だったな」

鈴「お兄ちゃんお兄ちゃん! 鈴々、あの肉まん食べたい!」

鈴々が屋台の一角を差す。

昴「鈴々は色気より食い気だな。良いよ。好きなものを好きなだけ食べて良いよ」

鈴「やったー!」

鈴々は屋台へと向かっていった。

その後も点心や焼き肉やその他諸々、俺達は食べ歩きをした。財布は軽くなったけど鈴々の笑顔を見たらそんなことどうでもよくなった。

街の中央の広場に行くと何やら音楽が聞こえてきた。どうやら櫓を中心に踊りをしているようだ。

鈴「お兄ちゃん、一緒に踊ろ!」

昴「ああ。せっかくだしな」

俺は鈴々に手を差し出し、

昴「お手をお取り下さい、お姫様」

キザっぽく鈴々をエスコートする。

鈴「お姫様・・にゃはは〜//」

鈴々はまんざらでもないようだ。

俺達は櫓を囲う一段に加わった。鈴々は俺の手を取ってくるくる回ったり、抱きついてきたり、何ともお姫様らしくなかったが、とても楽しそうだった。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


その後、曲が止まるまで踊り続け、そのあともまた屋台をつついていると、夜もかなり更けていた。

鈴「鈴々お腹一杯になっちゃった。すごく楽しかったよ」

昴「そうか、良かったな」

鈴「ん//」

俺は鈴々の頭を撫でる。

昴「そろそろ帰ろうか」

鈴「ん。お月さんも、そろそろおねむだもんね。寝かしつけてあげないと明日、お寝坊しちゃう」

昴「ははっ、そうだな」

天を見上げると、晴天の中にとても綺麗な満月が覗いていた。

俺達は手を繋ぎながら城へと歩いている。俺は鈴々にこの前の事を詫びる事にした。

昴「・・鈴々、ごめんな」

鈴「にゃ? 何の事?」

昴「ほら、前に城の庭で鈴々にほら、・・口付けしちゃっただろ?」

鈴「・・・何で謝るのだ?」

昴「何でって・・・ん!?」

チュッ・・。

事故とはいえ女の子にキスしちゃったから・・・と、続けようとしたら時、鈴々が飛び上がり、俺にキスをした。

鈴「・・謝らないでほしいのだ。鈴々は嫌じゃなかったよ?」

昴「鈴々・・」

鈴「あの時は恥ずかしくて逃げちゃったけど、今度は逃げなかったのだ」

えへへ〜と鈴々は笑う。

鈴「お兄ちゃんは鈴々の事好き?」

昴「もちろん好きだよ」

鈴「それは女の子として好き?」

昴「それは・・」

鈴「鈴々は父様や母様の好きじゃなくて、お兄ちゃんの事、男の人として大好きなのだ」

昴「鈴々・・」

鈴「・・・お兄ちゃんは鈴々の事、子供のようにしか見てないよね?」

昴「・・・」

正直、鈴々の事、妹や娘のように見ている。

昴「鈴々、俺は・・」

鈴「ううん、良いのだ」

鈴々は俺の言葉の途中に言葉を割り込ました。

鈴「鈴々は子供だからしょうがないのだ。でもね、いつか桃香お姉ちゃんや愛紗のような大人の女になってお兄ちゃんに女として見てもらえるように頑張るのだ! だから、待っててね」

鈴々は再度俺にキスをした。

その時の鈴々は、俺の目にはいつもより、少し・・・大人びて見えた。











続く

-70-
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