小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第71話〜変わりゆく君、変わりゆく自分〜















俺がこの外史に来て結構な月日が経った。振り返って見るといろんな事があったな。まず最初に星と出会い、すぐに風と稟と出会い、一緒に賊と戦った。その後すぐに桃香と愛紗と鈴々に出会い、桃香の思い描く理想を聞き、彼女達に力を貸すことに決めた。桃香達と別行動を取って旅を続けた時に朱里と雛里と茉里に出会い、後は華琳達と出会い、雪蓮達と出会い、その後は連合、華琳達の侵攻に益州の平定、後は五胡に南蛮にと大慌てでいろんな事が起きていった。

昴「早いものだな」

本当に早い。振り返るとこうもあっという間だ。後は・・。

昴「皆も変わった」

初めて会った時と今とでは皆違う。皆強くなった。心も、身体も。

翠「おらー!」

星「ふっ!」

今庭で星と翠が模擬戦をしている。

星「はっはっはっ、この程度か?」

翠「まだまだこれからに決まってんだろ!」

2人の槍が激突する。

翠・・。

初めて会った時は私怨に捕らわれていた。自身の母君を失った事による私怨に。

でも今は自分で答えを見つけ、新たな道を歩み出している。

昴「後で水でも差し入れしよう」

視線を変えると、そこには・・。

愛「はぁーっ!」

鈴「にゃにゃー!」

恋「ふっ!」

愛紗と鈴々が恋と模擬戦をしている。

昴「へぇー」

愛紗と鈴々は恋とまったくの互角に戦っている。恋は完全に本気モードだ。以前は星も含めた3人がかりでも対抗出来なかったのだが、今は2人で本気の恋と互角に戦っている。鈴々は自身の潜在能力を徐々に開花させていっている。鈴々はまだ幼ないが故にその実力はかなり不安定だ。本人は本気のつもりでも実際は実力の6割程しか出なかったり、気持ちが乗れば実力以上の力が出たりもする。つまり実力にムラがあるというわけだ。最近は常時実力を出せるようになってきた。元々鈴々の潜在能力は恋と比べても遜色ない。開花されればいずれ恋相手に互角に戦えるようになるだろう。

次に愛紗だが、以前の愛紗は自身の矜持が強すぎる一面があった。戦闘になるとそれが仇となり、視野が狭くなり、時にかなり熱くなりすぎ小事と大事の区別がつかなくなったりもする。それ故に益州の平定時、冽翁殿相手にそこを突かれ、敗北した。それから愛紗は自分を見つめ直し、さらに鍛練を重ね、新しい強さと自分を手に入れた。今では立派に蜀の大将軍を務めている。

昴「強くなったな」

2人を見ているとそれを強く感じられた。


















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※※※※


場所を移し・・。

麗「ここはどういう意味ですの?」

詠「ん? ここはね・・」

ふと一室を覗くと、麗羽が詠に孫子について教えを乞うていた。麗羽は今はとにかく自身を高めるために知は軍師に、武は武官から教示を受けていた。

月「あの、お茶が入りました」

麗「月さん。いつもありがとうございますわ。もうすぐ一段落着きますからそこに置いておいてください」

月「はい」

詠「まったく、何でボクがこんなこと・・」

憎まれ口を叩く詠。まあ詠からすれば麗羽は月を陥れた張本人だ。当然いい感情は持っていなかった。だが、以前に月の正体が董卓だと知った麗羽が2人に深く頭を下げたらしい。気が済むならいくらでも罵ろうと暴力を振るおうと、殺めようとも構わないとまで言って。しかし月は麗羽を笑って許したらしい。そして正式に真名まで預けたという。詠も月が許したため、渋々許したみたいだ。今では詠は麗羽の先生にかって出る程にまでなった。麗羽は矜持から何までかなぐり捨て、とにかく自分を高めるために常時努力を欠かしていない。その成果は確実に出ており、今では文官の仕事も正確にこなし、武も今や並の兵では敵わないまでになっていた。

俺は邪魔をするのもあれなので、気付かれないようにその場を後にした。


















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水を持って庭に戻ると人はさらに増えていた。

美「やぁーっ!」

猪「ほらほら美羽様、もっと踏み込まないと」

美羽が猪々子と模擬戦をしていた。

斗「文ちゃん、怪我させたら駄目だよ」

七「お嬢様〜、頑張ってください〜♪」

七乃が傍らで応援し、斗詩が見守っていた。

美羽も麗羽と同じく、武と知を学んでいる。主に俺が教えているのだが、俺が忙しい時は他の人に任せている。美羽もなかなか成長している。正直、もうそろそろ仕事を任しても大丈夫だろうとも思っている。武は、鍛練の成果が出ている。並の兵相手にも遅れを取らない程に。美羽には考えた末に細剣、分かりやすく言うとレイピアを持たせた。小回りが効く美羽にはそれが1番合っていたからだ。鍛冶屋に製作してもらい、美羽に持たせてみたら見事にハマり、瞬く間に成長していった。この分ならいずれ、将としても活躍出来るかもしれないな。

別の場所では先程まで星と模擬戦をしていた翠が今度はたんぽぽと模擬戦をしていた。

蒲「えーい!」

翠「おっ? なかなかやるようになったじゃないか」

蒲「まだまだ、もっと強くなるんだから!」

たんぽぽが翠相手に奮闘する。

一方では・・。

焔「はぁーっ!」

想「ふむ、意気込みは買うが少々迂濶だ。もう少し落ち着くんだ」

焔「はい!」

想華と焔耶が模擬戦をしている。想華は焔耶を見て、かつての自分を、焔耶は想華を見て、自分の成長した先にいると感じ、互いに共感し、焔耶は想華から教えを乞うている。互いに波長が合うため、スポンジの如く焔耶は想華から吸収し、想華も焔耶から何かを得てるいるようだ。きっと2人もまだまだ強くなるだろう。

今あげた以外のものももちろん確実に自分を高めていっている。

本当に皆強くなった。そしてこれからもどんどん強くなっていくだろう。

?「皆頑張ってるね」

俺が庭を眺めていると、そこに現れたのは・・。

昴「桃香。・・あぁ。そうだな」

桃「皆必死になって頑張ってる。私も見習わないといけないね」

昴「ははっ、そうだな」

桃「うぅ〜、私も頑張らないと・・」

涙目の桃香。まだ仕事を残しているのだろう。

皆成長し、強くなっている。だけど、1番成長しているのはやはり・・。

桃「?」

桃香だろうな。初めて桃香に会った時、この娘に乱世の王は務まらないだろうと思った。桃香は甘過ぎる。理想だけを見て現実を見ない。そんな娘だった。おまけに覚悟も自覚もない。大徳を持つだけに余計に始末が悪い。正直、桃香に時間を与え、改めて問いただした時、その答えに満足しなかったら俺は桃香に力を貸さなかっただろう。改めて出した桃香の答えは俺に取っても驚愕だった。桃香の答えはかつて俺が追いかけ、そして諦めた答えだったからだ。だから俺は桃香に力を貸すことに決めた。桃香に俺が手を貸せばきっとその理想が叶うと思ったから。そしてそれは正しかったと思っている。桃香は今では理想と現実、天と地、上と下をしっかり見たうえで理想を追い求めている。かつて桃香と違い、甘えを捨てだ。桃香とならきっと俺達の理想を・・。

桃「―――様」

昴「ん?」

桃「ご主人様! 大丈夫? 体の調子でも悪いの?」

どうやら俺は桃香の顔を見ながら考え事をしていたみたいだ。

昴「何、心配ない。少しボーッとしてただけだ」

桃「ホント?」

ピトッ。

桃香が俺の額に手を当てる。桃香のひんやりした体温が俺に伝わる。

桃「ん〜、熱はないみたいだけど・・」

昴「大丈夫だって」

桃「でもでも、無理したら駄目なんだよ? ご主人様は私達のご主人様なんだから♪」

昴「分かってるって。桃香は心配性だな」

桃「だって、ご主人様は無理ばかりするんだもん」

桃香は拗ねながら言う。

まぁ、そう言われると返す言葉はないな。

俺は庭で鍛練中にの皆に声をかけ、水の差し入れをした。



















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次の日・・。

昴「・・仕事が片付いてしまった」

ここ最近ではあり得ない事だ。時刻はまだ正午前だ。

昴「さて、どうしようかな」

とりあえず外に行くか。

俺は身支度を整え、自室を出た。

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


城の廊下を歩いていると前方から・・。

桃「あっ、ご主人様!」

昴「よう、桃香」

桃「ご主人様も仕事終わったんだ」

昴「も、って事は桃香も終わったのか?」

桃「うん! 珍しく今日はお仕事が少なかったからね」

昴「そうか。それなら俺と一緒に街にでも行かないか?」

桃「行く行く! すぐに行こ!」

桃香は俺の腕を抱き、歩き始めた。

昴「まったく、急がなくても街は逃げないぞ」

俺は桃香に引っ張られながら街に向かった。


















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※※※※


桃「ご主人様ー! 早く早くー!」

桃香が離れた所から大きく手を振る。

昴「今行くよ」

横に並ぶと、桃香は再び俺の腕を抱いた。

桃「えへへ〜♪」

昴「楽しそうだな」

桃「だって、ご主人様と2人でお出掛けするのって、久しぶりなんだもん♪」

そういえば、桃香と2人で出掛けたのっていつ以来だろうか。

昴「ま、今日は時間はたっぷりある。2人でゆっくり過ごそう」

桃「うん♪」

俺達は成都の街を巡った。



















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桃「ご主人様、あれ一緒に食べよ」
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


桃「ねぇ、この服似合うかな?」















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


桃「あっ! これ可愛い♪」

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


俺達は1日中街の中を歩き回った。一緒に並んで評判のお菓子を食べたり、服を見に行ったり。露店商の品物を見て回ったり。とにかく2人で楽しんだ。ひとしきり街を巡った後は森に散歩へと向かった。他愛のない話をしながら森を散歩していると、あっという間に日が暮れていった。

桃「・・日が暮れるのって、早いね。あっという間」

昴「楽しい時間はあっという間に過ぎるもんだよ」

あっという間だ。楽しい時間程、過ぎるのは早い。

昴「すぐに忙しくなるぞ。もうすぐ始まるからな。この大陸の情勢を決める大戦が」

乱世も終盤へと向かっている。もうすぐ大きな動乱起こるだろう。

桃「もうすぐ大きな戦が始まる。いっぱい人が死んじゃう。それでも戦わなくちゃならないんだよね」

昴「ああ。悲しい事だが、それを避ける事は出来ない」

桃香、華琳、雪蓮。この大陸はこの3人の王がそれぞれ大きな勢力を持っている。そして3人がそれぞれこの大陸に違う絵を思い描いている。故に戦は避けられない。

桃「その戦に勝てれば、この乱世も終わるんだよね?」

昴「分からない。少なくとも終焉には向かうだろう」

桃「戦なんて、早くなくなったらいいのにね」

昴「そうだな」

乱世が続く限り、戦は終わらない。

桃「ねぇ、ご主人様」

昴「ん?」

桃「皆で頑張って戦いを終わらせて、この大陸が平和になったら、皆で一緒に平和な国で暮らそうね」

昴「・・・」

そうだな・・。この一言を言ってあげられれば桃香は安心しただろう。

昴「・・気が早いな。まずは乱世を終わらせてからだろ?」

桃「そうだね。まずはこの大陸を平和にしなくちゃね」

俺は言えなかった。乱世を終わらせ、刃との決着をつけた時、俺はこの外史から・・。

昴「・・・」

俺は様々な外史を回ってきた。居心地のいい外史もあった。気の合う奴もいた。でも、俺は自分の役割と受け入れる事が出来た。これからもそのつもりだった。だけど、この気持ちは何だ? 俺は・・。

桃「ご主人様?」

桃香が俺の顔を覗く。その時言葉では言い表せない痛みが俺の胸を襲った。とてもつもない悲しみと一緒に。

桃「ご主人様?」

桃香は心配そうな顔で俺を呼ぶ。

俺は桃香を・・。

桃「!?」
















抱きしめた。















そうか。俺は離れたくないんだ。桃香や皆がいるこの外史から。俺にとってこの外史は、大切な人達がたくさんいる外史なんだ。

桃「ご、ご主人様//」

俺は桃香の顔を見つめ、そして・・。

桃「んぅ!」

















口付けを交わした。
















桃「ん//」

俺は桃香を強く抱きしめ、なおも唇を貪る。桃香は最初は驚き、身体を硬直させたが、すぐに俺の口付けを受け入れた。時間にして数分程口付けをした後、俺は桃香から顔を離した。

桃「ほぅ//」

桃香は顔を蒸気させている。

昴「・・ごめん」

桃「どうして謝るの?」

昴「俺は桃香の気持ちを無視して口付けを・・」

桃「嬉しかったよ?」

昴「えっ?」

桃「嬉しかった。だって大好きなご主人様から口付けをしてくれたんだもん」

昴「桃香・・」

桃「今の私と、私達があるのはご主人様のおかげだよ。ご主人様がいなかったら、私はきっと夢や理想ばかり見て、現実に目を背けてたと思う。ご主人様のおかげで、ほんの少し、ほんの少しだけど、私は強くなれた。だからね、ご主人様、ありがとう・・。そして大好きです」

昴「ん・・」

今度は桃香から口付けをした。俺を抱きしめ、背伸びをしながら俺に・・。

そうだ。そうだよな。別れの事なんて、考える必要なんてないよな。今は考えないで良い。別れを惜しむより、今、桃香や皆と一緒にいるこの一瞬を大切にしよう・・・。



















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※※※※


桃香side

長い長い口付けをした後、日もすっかり落ちていたので私達は城へと帰る事にした。あんまり遅いと愛紗ちゃんがきっと心配しちゃうから。

桃「・・・」

昴「・・・」

私達は手を繋ぎながら言葉を交わす事なく歩いている。話したい事はたくさんあるのに、口付けをした気恥ずかしさから顔を見ることが出来ない。

昴「・・・」

ご主人様が口付けをしてくれた時、ご主人様の瞳はとても悲しそうだった。今にも泣き出しそうなくらいに。

ご主人様・・。

いつか私達に話してね。ご主人様の胸の内にある悲しみを・・・。











続く

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