小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第72話〜蜀呉同盟、思い描く理想〜















昴side

昴「動いたか・・」

つい先程、北方に大勢力の華琳率いる曹魏が大軍を擁し、東方の国境線を突破した。対する雪蓮率いる孫呉も、迅速に対応し、全土にに総動員令を発し、徹底抗戦の構えを取る。遂に大陸の情勢を定める大戦が始まった。曹魏、孫呉の戦。ここでどう対応するかで今後の運命が決まる。俺はすぐさま蜀の重臣を集め、軍議を始めた。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴「曹操が動いた。これによって曹魏、孫呉の全面戦争に入った」

桃「いよいよ戦い火蓋が切って落とされたんだね」

昴「放った密偵の情報によると、攻め入った曹魏の兵力は100万以上だ」

蒲「ひゃ、100万!? なにそのデタラメな多さ・・」

愛「対する孫呉の兵力は?」

朱「約40万という噂です」

星「総動員してそれか。圧倒的な差だな」

雛「はい。両勢力の兵数は大きく、その差はまさに圧倒的です」

桔「ふむ、それならば今は曹魏の動きより、孫呉の動きが気になるな」

鈴「徹底抗戦って言ってるけど、どこまで持つのか分からないのだ」

翠「鈴々の言う通りだな。いくら孫呉の王が英雄と呼ばれている人物だったとしても、兵数の差っていうのは絶対的なものだ」

焔「敵よりも多くの兵を集める。兵法の基本だな。そういう意味でも曹魏は兵法に沿い、孫呉は兵法に沿えていない」

紫「その差を覆すには、何かしらの奇策を用いるか・・」

朱「または兵を増やすか、ですね」

桃「兵を増やすって、そんなこと出来ないでしょ? 今の段階で総動員を掛けてるんだし」

雛「自国の兵だけが兵という訳ではありません。・・それに孫呉には美周郎さんがいらっしゃいますから」

昴「だな。今の孫呉では曹操は止められない。孫呉が破れれば次は・・」

翠「あたし達ってことか」

朱「そう考えるのが妥当ですね。美周郎さんほどの人物がそこを見逃しているはずがありません」

雛「対して、私達もその状況を見抜いていますから。・・導き出される答えは1つかと。」

昴「孫呉と蜀の同盟だな」

孫呉だけでも、俺達蜀だけでも、今の曹操を止めるのはほぼ不可能。故に同盟を組むしかない。各個撃破されたら元も個もない。

雛「今、ここで決断しなければ、私達は座して死を待つしかなくなるでしょう」

愛「それほどまでに大陸の状況は急を要しているということか・・」

星「さもありなん。反董卓連合より続いていた諸候の割拠も、曹操、孫策、そして我らの三陣営に収束した。・・後は誰が最後まで立っているかを決定するだけだからな」

いずれは1つの勢力が大陸を統一し、乱世が終わる。それはどこの歴史でも同じだ。1つの大陸に大きな国が3つは多すぎるからだ。

皆が思案している中、桃香が唐突に切り出した。

桃「ねぇ、皆」

皆が桃香の方を向く。

桃「甘いって言われるのは分かってる。こんなこと言ったらご主人様は怒るかもしれない。・・相手を討ち滅ぼすんじゃなくて、皆が手を取り合って暮らす事は出来ないのかな?」

愛「桃香様・・」

桃「私は諦めたくないの。皆、目指す所は同じなのに、互いに滅ぼし合うなんて事はしたくないよ。たとえ僅かでもその道を歩ける可能性があるなら、私はその可能性に賭けてみたいの」

鈴「桃香お姉ちゃん・・」

「「「「・・・」」」」

皆が一様に黙り込む。だが皆が同じ事を考えているだろう。それは無理だと。そして甘いと。口には出さないが皆思いは同じだろう。

昴「道は・・・ある」

「「「「!?」」」」

今度は皆が驚愕な表情を浮かべ、俺を見た。

昴「天下三分」

皆が俺の発した単語に疑問の反応する。朱里と雛里だけは違った反応をしている。やっぱり2人は同じ考えにたどり着いていたか。

昴「どういう事か説明すると、今この大陸に勢力を残しているのは曹操、孫策、そして俺達だ。この中で領土的野心を持ってるのは曹操だけだ」

翠「ちょっと待てよ。孫策だって南下して大陸南部を領土に組み入れてるだろ? それってやっぱり天下に野心があるからじゃないのか?」

朱「逆ですね。孫策さんは北方の穀倉地帯に行きたかった。でも曹操さんが居るから行けない。・・だから南部に進出するしか方法が無かった。南方にも小規模とは言え、穀倉地帯はありますし、何より海沿いの土地を手に入れることで、貿易による収入が大幅に増えます。国を維持するためには、国民の口を賄い、衣食住を整えなくてはいくないのです」

愛「必然にかられて南部に進出したというのか?」

朱「はい。ですから覇道を進むために侵攻している・・という訳では無いと思うんです」

桔「しかし孫策は江東の小覇王と呼ばれる英雄だろう? 天下統一の志が無いとは思えんが」

昴「当初はそのつもりだったんだろうが、今は曹魏があまりに勢力を伸ばし過ぎてもはや太刀打ち出来ないと半ば悟っているんだと思う。だから今は自国を保全するために南方に進出して人材、兵力、兵糧と軍資金を確保して他者に負けない国作りをしている・・って所だろう」

朱「ご主人様のおっしゃる通りかと。南方を手に入れた後の孫策さんは、北方の曹操さんにつっかかるでもなく、私達に戦を仕掛けるでもなく、ただ時を過ごしていただけでしたから・・」

蒲「・・でも、それがどうして桃香様の理想の話に繋がるの?」

昴「つまりな、天下統一の野心が無いなら、平穏を願う桃香の言葉に同調してくれるだろう。・・孫策も桃香と一緒で、もともと天下統一はあくまでも孫家とそこに住む民をを守り、維持するための手段としていただけだからな」

星「どうしてそう言い切れるのです?」

昴「俺も一時とはいえ、孫策と轡を並べて戦い、共に同じ時を過ごしたからな。何となくだけど、分かるんだ」

星「そうですか・・」

昴「話を戻すぞ、俺の言う天下三分とは、それぞれがそれぞれの天下、俺達蜀という天下、孫策の呉という天下、曹操の魏という天下のみで満足してもらう。これが俺の・・いや、桃香の理想を元に考えた天下三分だ。もっとも、朱里や雛里も同じ事を考えてたみたいだがな」

俺は朱里と雛里にウインクをした。

朱「はわわ! さすがご主人様です」

雛「あわわ! お見それしました」

桃「・・そんな考え方があったんだ・・」

星「ふむ、漢王朝時代や黄巾の乱の時と違い、今残っている勢力は好んで悪政を敷くような国家では無い。つまり三勢力の間で争いが無くなれば、天下も乱れんということか」

昴「桃香の理想を可能な限り実現近付ける為には俺はこの方法が1番現実的だと思う」

現実的だ・・・しかし・・。

昴「天下三分の計。これを実行するに当たって、大きな問題点が2つある。1つは、曹操の勢力はあまりにも強大すぎる事だ。均衡を保つ為に、まずは孫呉と共闘して曹操の勢力を削ぎ落とす必要がある」

愛「なるほど、そのための蜀呉同盟、というわけですか」

昴「ああ。同盟を組む時期は今をおいてないだろう」

雪蓮達が自力で国を守っている時ではこの話を受け入れてはくれないだろうからな。危機に瀕して今ならそれも可能だ。

昴「桃香」

桃「うん。現実と理想を天秤にかけて、これが1番の方法だと思ってる。だから私はご主人様の意見に賛成だよ」

昴「ありがとう、桃香。それじゃ皆、この天下三分の計を今後の基本方針にしていく。皆いいな?」

皆が俺の問いに同時に頷く。

鈴「お兄ちゃん、もう1つの問題って何なのだ?」

昴「・・それについては今は考えなくていい。とりあえず天下三分の計を実行するに当たっての曹操をどうにかするのが先だ」

桔「・・で、お館様。我らはどうする?」

昴「出陣準備をしておいてくれ。・・俺は今から孫策の所に向かう」

桃「ご、ご主人様がっ!? 駄目だよそんなの!」

愛「そうです! 危険過ぎます!」

昴「誰かが孫策の所に入って天下三分の計を説明する必要がある。この計の発案者は俺だから俺が直接行った方が早いだろう」

桃「なら私が!」

昴「駄目だ。桃香はこの国の代表だろ? 呉との同盟が成立した後、桃香にはこの軍を率いてもらわないと」

翠「ならあたしが行こうか?」

昴「悪いが、翠には桃香の補佐をしてもらいたいんだ」

鈴「じゃあ鈴々が行くのだ!」

昴「うーん、鈴々じゃ孫策の弁舌に歯が立たないだろうから遠慮してくれ」

愛「・・私は絶対についていきますから。却下されてもついていきますよ」

昴「いや、愛紗こそ桃香の補佐を・・」

愛「星に任せておけば大丈夫でしょう」

星「ふっ、まぁやってやろう」

昴「いや、でもなぁ・・」

愛「ついていきます。あなたに・・」

昴「・・分かった。愛紗、一緒に行こう」

恋「・・恋もついてく」

昴「頼む」

朱「軍師として、私もついていきます。すぐに出立の準備をしますね」

桔「朱里よ、出立の準備は6名分で頼むぞ」

朱「えっ?」

桔「小童達だけでは心許ない。経験豊富な儂がついていきましょう」

昴「・・そうだな。桔梗、頼む」

桔「応っ! すまんが紫苑、留守番を頼む」

紫「ふふっ、はいはい」

桔「頼むぞ。・・焔耶。お前もついてこい」

焔「はっ! お供致します」

つれていく将はこんなところか・・。

そう考えていると・・。

美「・・のう、昴・・」

昴「ん? どうした、美羽」

美「・・妾もつれていってはくれぬか?」

昴「・・何故だ?」

美「孫策に、謝りたいのじゃ」

昴「・・殺されるかもしれないぞ?」

美「・・覚悟の上じゃ」

昴「・・・」

星「主よ、私は反対です」

昴「星・・」

星「美羽の安否もそうですが、美羽をつれていっては蜀呉同盟締結に影を射しかねません」

もっともだな・・。だが。

昴「美羽、一緒に行こうか」

星「主よ、正気か?」

昴「美羽がこちらの陣営にいることは孫策には周知の事だ。もし孫策がいまだに遺恨をもっているなら、どのみち美羽の首を要求してくるだろう」

星「・・そうですか。でしたら私からは何も」

七「お嬢様が行くのでしたら私も・・」

美「すまぬが七乃は残っていてほしいのじゃ。七乃に頼らないで妾だけで行きたいのじゃ。だから七乃は残るのじゃ」

七「・・分かりました。お嬢様がそういうのでしたら・・」

七乃も本音はついていきたいのだろうが、美羽の強い決意を尊重し、引いたようだ。

昴「なら、つれていく将はこれで以上だな。これより孫策の下に向かうぞ。皆は俺達の吉報が届き次第出陣出来るように準備をしておいてくれ」

桃「・・分かったよ。ご主人様、絶対に無事に帰ってきてね」

昴「あぁ、当然だ。・・では行くぞ!」

俺達は蜀呉同盟の締結の為の準備をし、孫策の下へ向かった。

















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※※※※


雪蓮side

明「孫策様! 曹魏の軍勢が江陵にまで進出してきました! 現在、甘寧、凌統、黄蓋のお三方が防戦の指揮を執っておりますが、兵数の差があるため、このままでは突破は時間の問題かと!」

雪「呂蒙! 兵2万と共に江陵に進出し、甘寧、凌統、黄蓋を助けに向かえ!」

亜「は、はい!」

雪「周泰は引き続き、遊撃部隊を率いて行動。威力偵察を行え」

明「御意!」

亜莎と明命が私の指示を受け、すぐさま行動に移した。

雪「やるわね、曹操の奴も・・」

冥「英雄と呼ばれている人物だ。これぐらいは当然の事だろう」

雪「そうでしょうね。けど・・いかんせん、兵力に差が有りすぎるわ。反撃のしようがない」

蓮「江陵を突破されれば、江夏、盧江、推南を通り、曹魏の軍勢が呉に到達されてしまいます」

雪「それぐらい分かっているわ。・・少し落ち着きなさい、蓮華」

蓮「私は落ち着いています。焦った所で曹魏との兵力差は埋まりません。現状でどうやって曹魏を防ぐか・・」

蓮華は自身の頭を働かせて必死に策を巡らせている。

へぇー、以前の蓮華なら確実に取り乱していたのに・・成長したわね。

雪「・・駄目だわ。私じゃ曹魏を防ぐ策っていうのが今イチ浮かばないわ」

冥「こと戦術だけで言えば、今の状況を覆すことは不可能に近い。・・しかし戦いを戦術面でのみ語るなど愚の骨頂というやつだ」

雪「何か案でもあるの?」

冥「ああ。巨大な曹魏勢力に、呉一国で対抗する必要などない」

雪「・・あ、なるほどねー」

蓮「・・・!? まさか」

冥「そう、他国を巻き込めば良いということだ」

蓮「他国というと蜀ね」

冥「そうです。そして劉備も、いや諸葛亮や鳳統、そしてあやつも、恐らく私と同じ事を考えているでしょう」

雪「私達呉が曹魏に屈したら、次は次は自分達の番だもんね」

冥「蜀と同盟を結び、呉蜀で曹魏にあたるのです」

雪「そうしなくちゃ、呉に未来は無さそうね」

冥「曹魏の膨張があまりにも早すぎた以上、それしかないでしょう」

雪「・・あのおチビちゃんがここまでやり手だったとわね。計算違いも良いところよ」

冥「愚痴を言っても始まらないぞ、雪蓮。今はどうやって同盟を締結させるか。その方策を・・」

すると突然1人の兵がやってきた。

「申し上げます!」

蓮「何だ!」

「ただいま、蜀よりのご使者が到着されました! 孫策様との面会を申し出ております!」

雪「あらら、向こうも必死なのかな?」

冥「機を見るに敏、という奴だろうな」

雪「この策、向こうからしてみれば、施すなら今しかないからね」

冥「そういう事だ。・・で、どうする」

雪「んー、使者に会ってから決めるかな。あちらの本気具合も知りたいし」

冥「本気でなければ並び立つことは出来ん、か。よし。使者をここへお通ししろ」

「はっ!」

兵が伝令を受け、掛けていった。

雪「さて、誰が来るかしら」

冥「・・分かりきった事だろう」

雪「と言うと?」

冥「この手の交渉事をあやつが他人任せにするとは思えん」

雪「あ、やっぱり♪」

当然そうよね。私の勘もそう告げてるし♪

暫し待っていると蜀からの使者がやってきた。そしてその姿はあった。私が待ちわびた人物がそこに・・。

昴「よう。久しぶりだな」


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

俺達は孫呉勢力の本陣がある紫桑に行き、到着すると、朱里だけをつれて陣を訪れ、早々に雪蓮への取り次ぎをした。しばらく待つと孫呉の兵が帰ってきて、案内してくれた。そして・・。

昴「よう、久しぶりだな」

そこには連合以来の雪蓮と冥琳、客将の時以来の蓮華の姿があった。

雪「昴!」

雪蓮が俺へと駆け寄り、抱きついてきた。

昴「連合以来だな、雪蓮」

雪「ええ、ホントに。久しぶりね」

俺は冥琳と蓮華に視線を移し・・。

昴「冥琳も蓮華も、久しぶりだな」

冥「ああ、全くだな」

蓮「元気そうで何よりだわ」

俺は雪蓮から体を離し・・。

昴「早速だが、ここにやってきた要件だが・・・説明は必要か?」

冥「・・要件は察するに同盟の申し込み、というところか?」

昴「・・悪いな。この際腹の探り合いはなしにしよう。今は一刻も争う」

冥「・・それもそうだな。同盟の提案、で構わないな?」

朱「そうです。曹魏に対抗するための唯一の手段、蜀呉同盟を組むために来ました」

冥「ん? お前は?」

朱「諸葛孔明。劉備様とご主人様の軍師です」

雪「あなたがあの諸葛孔明? 稀代の軍師とかはわわ軍師とか言われてる」

朱「はわわ。はわわじゃないですもん」

落ち込む朱里。

冥「驚いたな。あの諸葛孔明がこのような少女だったとはな」

昴「見た目は愛くるしい女の子だけど、正真正銘、諸葛孔明だ」

雪「そうなんだ。こんな小さな子が、あの名軍師諸葛孔明とはねぇ〜」

朱「はぅ・・」

あらら、恥ずかしがっちゃった。朱里、俺の背中に隠れたら話が出来ないぞ。

俺は朱里を前に押し出す。

朱「えと、曹操さんの勢いを阻止するには、蜀と呉が同盟を組み、共同戦線を張らなければならないと思うんですけど、どうでしょう?」

冥「うむ、こちらも同じ事を考えていた。・・やはり孔明も昴もそこまで見通していたのだな」

朱「現状を考えれば、その答えにしか行き着きませんから・・」

雪「蜀と呉、二国で同盟を組んで曹操に当たる。・・確かにそれしか方法が無いわね。・・・良いわ。あなた達と同盟を組むわ」

昴「英断、感謝するよ」

冥「それで、曹魏の勢力を削いだ後はどうする?」

昴「天下三分。これだけ言えば理解出来るだろ?」

冥「天下三分。ふむ・・。そういう事か」

雪「えっ? えっ? どういう事?」

冥「曹操、劉備、そして孫策。均衡を保ち、天下を三つに分けるという事だ」

雪「――あ!・・なるほど! そんな考え方があったんだ!」

蓮「天下三分・・・あっ! なるほど・・」

雪蓮と蓮華も理解してくれたみたいだな。

昴「俺達の王の理想を最大限果たす為に考えた策だ。戦いの連鎖を絶って平和へとするための、な」

雪「あなた達は天下を諦めたの?」

昴「もともと、天下統一は手段であって目的じゃない。黄巾の乱の時と違って今は雪蓮や曹操と為政者しかいない今なら、むざむざ血を大量に流す天下統一を目指す事はない。雪蓮も同じだと思ってるんだが?」

雪「私の心を読んだつもり?」

昴「伊達に一緒にいたわけじゃないさ」

雪「ふーん・・」

雪蓮は俺の顔を覗き込み・・。

雪「良いわ。あなた達の考えたに賛成するわ。天下三分。それが出来るならそれに越した事は無いわ」

昴「ありがとう。なら早速だが、曹操の軍勢は今江陵だったな、俺達が敵の後方部隊を撹乱する。雪蓮達はその隙をついて江陵の部隊に合流してすぐに退却してくれ」

蓮「江陵を捨てろと言うのか? それでは曹操軍に橋頭堡として利用されてしまうぞ?」

昴「確かにそれは痛いがやむを得ない。各個撃破されたら押し込まれるだけだからな。今は曹魏で決戦するために兵力を結集させなきゃならない」

冥「そうだな、了解した」

昴「俺達は作戦が成功したら一度本国に引き揚げてから再度合流する。その時間稼ぎの為の撹乱行動が必要なんだが・・」

冥「それは我らが引き受けよう。・・それで合流地点はどうする?」

昴「任せるぜ」

冥「それならば大軍が合流できる夏口としよう」

昴「分かった」

雪「なら最後に・・確認しておきたいことがあるわ」

昴「何だ?」

雪「それはね、あなた達を信用しても良いかどうかよ」

・・もっともな意見だ。

昴「俺達には裏切る気もなければその利もない。いくら口上を重ねても所詮は戯れ言だ。行動で示すだけだが?」

雪「互いの将兵達の力を結集しなきゃならない今、余計な疑念は晴らさなきゃならないと思わない?」

昴「そうは言うがそんな方法あるのか?」

雪蓮のあの顔、疑ってるんじゃなくて何か企んでる顔だな。

雪「簡単よ。私と昴が夫婦になって子を成せば解決よ♪」

昴「なっ!?」

朱「はわわー//」

冥「・・・」

蓮「姉様! いったい何を考えているのですか!」

皆が様々な反応している。

?「そうよ、いったい何考えているのよ!」

ん? この声・・。

昴「シャオか! 久しぶりだな」

小「やっほ〜、昴♪ じゃなくてお姉ちゃん! お姉ちゃんは孫呉の王なんだからそんなの駄目に決まってるでしょ!」

蓮「小蓮の言う通りです!」

小「昴に嫁いで子を成すのはシャオの仕事でしょ!」

蓮「小蓮の言う通り・・って違うでしょ!」

孫三姉妹が何やら揉め始めた。

やれやれ・・。

冥「ま、いつもの事だ。気にしないでくれ」

昴「分かってるよ。・・同盟以外でもう1つ要件がある。少し待っていてくれないか?」

俺は一度自陣に戻った。





















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


雪「もう1つの要件って何なの?」

昴「・・すぐ済む・・・来てくれ!」

俺が一声掛けると、フードを深く被った小柄の子供が歩いてきた。

冥「?」

フードの子供が俺の傍まで歩み寄り、そしてフードを外した。

美「・・・」

雪・冥・蓮・小「!?」

それぞれが驚愕の顔を浮かべる。

蓮「袁術! 貴様良くもぬけぬけと我が陣に!」

蓮華が腰の剣に手を翳し、斬りかかろうとしたところ、雪蓮がそれを手で制した。

蓮「姉様?」

雪蓮の顔には先ほどの笑顔は消えていた。

雪「・・・昴の軍に居ることは聞いていたけど・・・袁術、いったい何の用でここに来たの?」

美「・・孫策」

美羽は雪蓮に歩み寄り、そして・・。

雪「っ!?」

冥・蓮・小「っ!?」

美「すまなかったのじゃ」

美羽は地に膝を付け、大きく頭を下げた。

雪「・・何のつもり?」

美「妾はお主の母、孫文台の地を我が物顔で居座り、そしてお主達をぞんざいに扱ってしまった。本当にすまなかったのじゃ」

「「「・・・」」」

皆が言葉を失っている。それもそのはずだ、孫家からすれば今の美羽のこの姿は考えられない事だからだ。

雪「・・顔を上げなさい」

美「・・・」

美羽はおそるおそる顔を上げる。

雪「・・・」

美「・・・」

雪蓮が美羽を睨み付け、美羽は震えながらも雪蓮から目を反らさず見つめている。

雪「袁術。あなたは母様の治めていた土地を我が物顔で居座って、好き放題して、その上私達には無理難題吹っ掛けて、約束反故にして・・」

雪蓮は腰の南海覇王を抜き、美羽の眼前に突きつけた。

雪「何度くびり殺そうかと思ったかしら」

なおも雪蓮は美羽を睨み付ける。

美「・・・」

美羽は一切目を反らさず雪蓮を見つめ続ける。

雪「・・・でも、あなたは朝廷からの命令で母様の地を治めただけだし、別にあなたが母様を殺した訳じゃない。まぁ、コキ使われたり、約束を何度も反故にされたのは腹立ったけど。今はこうしてその地も取り戻した。・・・良いわ。あなたの謝罪、受け入れてあげる。皆も良い?」

雪蓮は表情を戻して皆に問いかける。

冥「雪蓮が決めた事なら私は構わないぞ」

小「シャオも別に構わないよ」

蓮「・・姉様がそう言うなら・・」

蓮華は渋々だが皆謝罪を受け取ってくれたようだ。良かったな、美羽。

雪「・・ふぅ、でも昴、もし私達が同盟締結の条件に袁術の首を要求したらどうするつもりだったの?」

昴「・・その時は仕方ない、同盟の為だ・・」

美羽は大きく項垂れる。

昴「俺の腕一本で手打ちにしてもらうつもりだったよ」

「「「「!?」」」」

雪「本気なの?」

昴「美羽もう俺の・・家族みたいなものだ。俺の腕一本で家族を守れるなら安いものだろ?」

「「「「・・・」」」」

皆が呆然としている。

雪「・・まったく、こんなお人好しの傍にいたら、袁術も良い子になっちゃうわよね。・・・袁術、昴に礼を言うことね」

美「グスッ・・うむ・・・ありがとう・・なのじゃ・・昴・・」

美羽は涙で顔を濡らしながら何度も俺に礼を言った。

昴「さて、要件はこれで全てだ。俺達はこれより準備に移させてもらうよ」

俺が朱里をつれ、戻ろうとすると・・。

冥「待ってくれ」

昴「どうした?」

冥「頼みがある。小蓮様を連れていってくれないか?」

小「?」

昴「シャオを?」

雪「どういう事?」

冥「先ほどの雪蓮の提案ではないが、こちらからの信頼の証として連れていってほしい」

昴「・・人質みたいで気が乗らないな」

冥「まあ、それは表向きだ。小蓮様もいずれは孫家の姫君として公務に携わる事になるだろう。その勉強だが、私が教えるよりお前の傍にいたほうがよっぽど身に付くだろう」

話は分かったが・・。

昴「・・・」

どうしても気が乗らない。

美「なら妾がここに残る。そうすれば対等であろう?」

昴「美羽・・良いのか?」

美「妾は構わぬぞ」

雪「あら、袁術ちゃんが残ってくれるの? 大歓迎よ♪ 私がいじm・・じゃなかった、いじめてあげるから♪」

美「・・昴・・、やっぱり止めようかの・・」

雪蓮・・。美羽が震えてるじゃないか・・。

昴「雪蓮は構わないのか?」

雪「私はシャオが良いなら構わないわよ」

俺はシャオに視線を移す。

小「行く行く〜♪」

随分乗り気だな。人質みたいなものなのに。

昴「分かった、責任を持ってシャオを預かるよ」

小「よっろしく〜!」

シャオは俺に飛び付いた。俺は慌ててキャッチする。

昴「ととっ、それじゃあ俺達はすぐに行動に移す。頼むぜ」

雪「任せて。昴達も、頑張って」

昴「応。・・それじゃ、朱里、シャオ、行くぞ」

朱「御意です♪」

小「はーい!」

俺達は自陣に戻った。

かくして蜀呉同盟は成り、曹魏との決戦、及び天下三分の第一歩が成ったのであった。











続く

-74-
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