小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第74話〜赤壁の戦い前編、絡み合う策謀〜















孫呉との同盟締結後、曹魏の輜重隊を撃破。そして補給路の撹乱を敢行し、曹魏の進軍速度を落とす事に成功した。雪蓮の方でも同様に補給路を遮断していったようだ。

昴「・・とはいえ」

さすがは華琳とその軍勢だな。あれだけ補給路を潰したのに江陵を突破しやがった。まぁ、華琳には猛将知将と勢揃いしているからむしろこのくらいは当然か・・。

その後、曹魏の軍勢は暫し江陵に留まった後に軍港に多数の船を用意し、準備が整うと川上にて陣を構えたようだ。場所は・・。

















赤壁・・・・。


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


蜀呉同盟成立から約半月、江陵で曹魏の輜重隊を撃破とした後、一度本国に戻り、準備が整うと、夏口へと向かい、孫呉の軍と合流した。

昴「曹操は長江の赤壁に陣を構えたか」

陸路の補給路は俺達と孫呉であらかた潰したとはいえ、あまりに早い決断だ。

朱「そう決断するように私達が仕向けましたので」

昴「へぇ・・」

雛「孫策さんと同盟を結んだとはいえ、陸戦では兵数で劣る私達が不利です。曹操さんの軍は船での戦は不慣れなはずですから」

まぁ、華琳の軍の中には長江を初めて見る兵も中にはいるだろうな。

そんなことを考えていると雪蓮達孫呉の将が集まってきた。

雪「待たせたわね」

昴「久しぶり」

雪「あら、少し前に会ったばかりじゃない」

昴「それもそうだな」

雪「ところで、シャオは元気?」

昴「元気だよ。あっという間に馴染んじまった」

雪「そう、迷惑かけてない?」

昴「特にはな、ただ夜に俺の寝所に潜り込むのは勘弁してほしいがな」

雪「あら、そのまま子でも成してくれればより一層同盟の絆が深まるのに♪」

昴「勘弁してくれ・・。美羽はどうしてる?」

雪「元気よ♪ ギュッて抱きしめるとブルブルってなるのが可愛くて♪」

それ怯えてるんじゃないのか?

雪「ホント、出会い方が違えば、良かったのにね・・」

昴「まぁ、元気そうなら良いさ」

俺達は雑談をしながら軽く挨拶をかわす。話を済ますと桃香を紹介した。

桃「はじめまして、孫策さん! 私の名前は劉備、字は玄徳って言います! よろしくお願いしますね♪」

雪「・・あなたが劉備・・」

雪蓮が桃香をまじまじと見つめる。

桃「? ・・どうかしましたか?」

雪「・・あなたが昴が選んだ劉備・・なるほど。いい眼をしてるわね」

桃「孫策さん?」

雪「ふふっ、気にしないで、私は孫策。字は伯符。よろしくね、劉備」

桃「はいっ♪」

昴「晴れて正式に同盟成立ってことだな」

桃「そうだね♪」

昴「挨拶も済んだことだし、軍議に移ろうか」

雪「そうね」

冥「現在、曹魏の軍勢は長江の赤壁近くに陣を構えている」

朱「はい」

冥「我らと蜀が同盟を組んだとは言え、兵数では我らが劣る。その差を覆すには・・」

雛「はい。策が必要です」

冥「もっともだ。・・孔明。お前に策は?」

朱「・・1つあります。周瑜さんは?」

冥「私も1つある」

朱「そうですか。・・なら。その策をいっせーのーでーで見せ合いっこしませんか?」

冥「うむ。良いだろう」

冥琳は頷くと、筆を取り、掌に筆を走らせる。朱里も同じように筆を走らせる。

朱「いっせーのーでー」

朱里と冥琳が掌を見せ合う。

冥「うむ」

朱「はわわ、一緒ですね♪」

冥「ふっ・・やはり同じことを考えていたか」

朱「はい♪ これしか方法は無いかと」

2人が目と目を合わせ、微笑み合う。

ここからじゃ良く見えないが、書いてあるのはおそらく・・。

桃「なになに? 一体どんな方法なの!?」

桃香がその策に興味を示した。

朱「これですよ♪」

桃「これって・・んーと・・ひ・・んぐっ!」

俺は桃香の口を塞ぐ。

昴「誰が見てるか分からないんだから口に出しちゃ駄目だって」

桃「んぐっ・・・ごめんなさい」

昴「戦のキモになる策だからな」

と、チラッと2人の掌を覗くとやはり書いてあったのは・・。

火・・。

昴「ふっ、やはりか・・」

雪「なるほど。それしかないわね」

冥「ああ。相手は巨大だ。その巨大な軍勢に痛撃を与えるにはこれしか無い」

桃「でも・・一体どうやって?」

朱「私達はこの策をより効果的に演出するための策をすでに仕掛けています。後はこれをいかに実行するかですが・・」

冥「それは私に一案がある。・・雪蓮」

雪「何?」

冥「この戦いが終わるまで・・何も言わず、私を信じていてほしい」

雪「良いわよ」

雪蓮は冥琳の言葉に即答した。

冥「・・もう少し悩んでも良いんじゃない?」

雪「何か考えついたんでしょ?なら全部任すわよ」

冥「・・ありがとう」

冥琳は雪蓮の問いに微笑む。

昴「それじゃ、曹魏の軍が待つ赤壁近くまで陣を進めよう。・・けどその前に・・」

俺は瞬時に朝陽と夕暮を抜き・・。

ドン! ドン! ドン! ドン!

俺は氣弾を左方向に2発、前方に1発、後方に1発放ち、鞘に納める。それと同時にバタンと何かが倒れる音がした。

桃「ご、ご主人様!?」

昴「ん? 少々、ねずみを、な」

ちっ・・まだいたか・・。

俺が再度構えようとすると・・。

思「無用だ」

思春がねずみを追った。

桃「・・・」

昴「ま、あまり間諜にうろうろされても困るからな・・。さて、改めて・・陣を進めよう」

雪「ええ、向こうで会いましょう」

俺達は自陣へ戻り、大移動を開始した。



















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※※※※


陣を移動する道中・・。

桃「ねえ、朱里ちゃん」

朱「何でしょう?」

桃「朱里ちゃんが仕掛けた策って何なの?」

朱「えと・・」

朱里が辺りをキョロキョロと窺う。

昴「このぐらいの声が届く範囲に怪しい気配はないよ」

朱「!? ・・そうですか」

朱里が桃香の傍に寄る。

朱「これは雛里ちゃんの考えた策なんですが、先ほど掌に書いたあの策をより効果的にするものです」

桃「効果的に?」

朱「はい。まず私達が船での戦を選んだ理由は陸での野戦では兵数で劣る私達では不利です」

桃「うん。さっきもそう言ってたよね?」

朱「はい。南船北馬という言葉をご存知ですか?」

桃「南船北馬?」

雛「簡単に言いますと、陸続きの北方の方々は馬の扱いに長け、逆に大きな川や海がある南方の方々は船の扱いに長けている。ということです」

と、雛里が捕捉する。

朱「曹操さん達は船での戦には不慣れなはずです。それは私達も同様なのですが、孫呉の方々は違います」

桃「そうだね」

朱「兵によっては大きく揺れる船上では力を発揮出来ないでしょう」

桃「揺れる船にいると気分が悪くなるみたいだしね〜」

朱「ですから私達は曹操さんのところに桃香様と孫策さんが長江流域の赤壁に集結しているという報を流し、私達がそこで決戦を望んでいることを曹操さんに示しました」

桃「えっ? でもそうしたら私達の本拠地の成都と孫策さん達の本拠地の建業が留守を狙われたら大変なんじゃ・・」

朱「・・狙われたら私達の勝ち目は限りなく0ですね」

桃「えー!? 大丈夫なの!?」

朱「通常ならば危険なんですが、こと曹操に限っては大丈夫なはずです」

桃「えーっと?」

桃香は分かっていないようだ。

昴「つまりな、曹操があれだけの軍事力、勢力、経済力を誇った要因の1つが曹操の覇王たる風評だ」

桃「覇王たる風評・・」

昴「曹操は奸雄だのなんだの言う奴はいるが、その本質は覇王。誇り高い王。自分に向けられた挑戦状を無視するなんて真似は出来ない」

桃「なるほど」

雛「ご主人様のおっしゃる通りです。・・それで雛里ちゃんが考案した策なんですが・・」

朱里が桃香にその策の説明を始めた。


















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※※※※


時は遡り、蜀が呉との同盟を結んだという報が届いた直後の魏軍。


華琳side

華「そう・・。蜀と呉が・・」

やはり動いたわね。

秋「はい。これにより、敵の兵力はかなりの数になりました」

華「そうね」

桂「そして、蜀呉の連合軍は長江流域、赤壁近くに兵を集結させ、そこでの決戦を望んでいるようです」

華「そう。ならば私達も直ちに赤壁に軍を集結させましょう」

すると稟こと郭嘉がその決定に異を唱えた。

稟「お待ち下さい華琳様! 赤壁などに向かわず、成都と建業を制圧すれば、この戦いは我らの勝利となります。覇業を為しえるためにも、必要の無い損害は回避するべきです!」

華「稟。私は誰?」

稟「・・は?」

華「私の名は何だと聞いている」

稟「曹・・孟徳様に在らせられます」

華「そこまで分かっているのなら、この私が何を考え、何を求めているかは分かっているわね?」

稟「しかし華琳様・・」

華「くどい! 我が名は曹孟徳。天道の下、堂々と天下への道のりを歩くことこそ、我が覇業! 王の居ない敵本城を急襲して天下を取ったところで、それは天下を盗ったことにしかならん。稟、貴様はこの私に、天下を盗んだ愚か者として名を残せと言うのか!」

稟「違います・・そうは言っておりません!」

華「ならば小賢しい献策などするな。私は赤壁で堂々と決戦を行い、その勝利と共に天下を得る」

そう、私は堂々と決戦を行い、勝つわ。

そこに風こと程が意見を述べた。

風「しかし華琳様。稟ちゃんの言葉もまた真実。・・劉備と孫策が結盟したことで、我が軍の賽の目に、敗北の目が出来てしまった。乾坤一擲の勝負は、やるべきではないというのが、軍師としての意見ですけど?」

華「そうね。確かに風の言う通りかもしれない」

茉「私も・・稟さんの意見に・・賛成です・・」

茉里こと司馬懿が意見を出す。

茉「赤壁集結の報を・・わざわざ流したことから・・何かしらの策が・・あるのでしょう。そして向こうには・・塞に細工をほどこし・・敗北の目を出すことの出来る人が・・向こうにはいます」

華「・・昴ね」

そう言うと、茉里は頷く。

茉「センセは私以上の知・・、春蘭様以上の武の持ち主・・。そして、華琳様以上の覇王です・・」

その言葉に春蘭が激昂する。

春「貴様! 華琳様が昴に劣ると言うのか!」

春蘭が茉里に掴み掛かろうとする。が、茉里をそれを異にも返さない。

華「やめなさい春蘭。それで?」

茉「故に・・華琳様が、事実上の挑戦状を断れないことも・・重々承知しています・・。成都と・・・建業を制圧に向かえば・・いかにセンセ居ようとも・・勝利は華琳様に・・。後の歴史など・・所詮は華琳様亡き後のこと・・」

言ってくれるわね。

華「茉里」

茉「はい・・」

華「それでも私が赤壁で決戦を臨むと言ったら?」

茉「・・私は華琳様の軍師・・。華琳様の決定に従い・・我が知をもって・・支えるまでです」

なるほど、決定に異はあれど、決定したことには最大限の力をもって臨む、と。

華「茉里。あなた言うことも分かるわ。確かに昴は恐ろしい。その能力もそうだけど、何より恐ろしいのは・・」

私が皆を見渡す。

華「この中のほとんどが昴という人間に触れているわけだけど。昴と出会わずしてあなた達は今の領域にたどり着けたかしら?」

私が皆に問う。

凪「私は・・、師匠と出会わなければ今の領域には到底たどり着けなかったと思います」

霞「ウチもそうやな」

茉「私も・・」

桂「・・悔しながら」

春「・・・」

皆が肯定する。一部は何も言わないが、否定する者はいなかった。

華「昴の本当に恐ろしいところは、その者を導き、限りなく成長させてしまうところ。それはこの私にもない力よ」

私はその才を限りなく生かすことは出来ても伸ばすことは出来ない。

華「茉里の言う通り、昴は私以上に優れているわ。・・だからと言って、永遠に昴から逃げるのかしら?」

「「「「・・・」」」」

華「たとえ、稟の言う献策に従っても、昴という希望を残すことになる。私達はずっと昴の影に怯えて日々を過ごすのかしら?」

「「「「・・・」」」」

華「私達の真の勝利は正々堂々と挑み、そして勝ち、昴と、そして蜀と呉を打ち破り、従えることが真の私達の勝利よ。だから、たとえ敗北の目を作ろうと、策を放たれようと、私達はこの挑戦状を受け、赤壁にて奴らを迎え撃つわ。良いわね」

私が皆に問う。

春「はっ! 我らは皆、華琳様に従い、華琳様のために戦う。ただそれだけです!」

春蘭が唱える。

秋「ふっ、姉者言う通りだな」

桂「本当ね。私達は覇王である華琳様に従い、華琳様が指し示す道を照らす」

秋「たとえ炎の中であれ、我らは進んで見せましょう。我が身全てはあなたのものなのですから」

秋蘭と桂花が続く。

凪「私事ですが、弟子はいつか師を超えるものです。そしてそれこそが師に向ける恩義」

凪が賛同する。

茉「私も・・いつまでもセンセの生徒じゃない」

先ほどは異を唱えていた茉里も賛同した。

華「ありがとう。私の愛する者達よ・・」

私は良き臣下に恵まれたわ。

華「・・では曹孟徳が命ずる! 我が軍はこれより赤壁に向かい、蜀呉の連合軍を叩く!」

「「「「御意!」」」」

劉備、孫策。そして昴・・。来るなら来なさい。私達は正々堂々あなた達を打ち破り、我が覇道を成し遂げるわ。

私達は赤壁にて移動を開始した。




















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※※※※


茉里side

華琳様の檄により、私達は出陣しました。長江に陣を構えた私達ですが、いざ陣を構えると、船酔いする人達が続出し、とてもではないですが、戦える状態ではありませんでした。どうにか対策考えていると、沙和さんが、この辺りに住む猟師さん達は船を安定させるために船同士を鎖で縛り付けるという。実際、長江にはそう言った猟師さんの船が良く見られた。それを聞き、華琳様はただちに鎖を集めさせ、船同士を鎖で連結させました。すると、見事に船は安定し、船酔いする人は大幅に減りました。後は蜀呉の連合軍を待ち受けるだけなのですが・・。

茉「・・・」

引っ掛かる・・。何かが・・。嫌な気分がします。それは船酔いでは決してなく、何か、すでに私達が計略の沼にどっぷり浸かってるように嫌な気分に・・。

真「なんや、茉里やないの。どないしてん?」

茉「真桜・・さん」

沙「船が揺れなくて、これなら楽チンなのー♪」

沙和さんが大きく伸びをした。

凪「どうかしたのか?」

凪さんが心配そうな顔で私の顔を覗きこみました。

茉「船同士を・・鎖で連結させることに・・少々・・」

真「? ・・何か問題あるんか?」

沙「そうだよー。実際連結して揺れは収まったし、気分も良くなったのー」

茉「揺れは・・確かに収まりました。・・けど・・これでは・・身動きが取れません・・。火計を仕掛けられれば・・」

凪「しかし、火計を仕掛けるにも風向きは西北。私達の陣の奥から出火するか、伏兵を仕向けなければ、火計は成らないと、他の軍師達もおっしゃっていたぞ?」

茉「・・はい」

確かに、そう・・。でも嫌な予感は拭えない。それに、やはり引っ掛かる。

茉「凪さん、沙和さん、真桜さん・・。1つ・・頼みごとをお願いしても・・良いですか?」

凪「?」

沙「何なのー?」

真「何や?」

私は、3人にあることをお願いする。

凪「・・分かった、それを調べれば良いんだな?」

茉「はい・・。華琳様の許可は・・私が取ります・・。ですので、お願いします」

沙「分かったなのー」

真「任せとき!」

3人は動き出した。

茉「・・・」

危険の芽はあらかじめ摘んでおかなければ。もし、私の思った通りなら・・。



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

長江の赤壁近くにまで陣を進めた。そして再び、蜀と呉による軍議が行われた。

昴「これからのことだが・・」

冥「ああ。開戦までは暫し時間があるが・・」

朱「はい。悠長に構えている余裕もありません。後はどうやって策を仕上げるか、ですが・・」

雛「例の策を実行するにしても、最大の効果を求めるには今の状況は素直すぎますね・・」

ね「ふむぅ〜、この状況を更に混乱させないと、策を実行しても美味しくありませんなー」

昴「ふむ・・」

確かに足りないな、あと一手ほしいところなんだよな・・。

皆が頭を悩ませて考えていると・・。

?「・・なんじゃ。また軍議か。下手な軍議、休むに似たりじゃな」

刺々しい言葉に振り向くと、そこには祭さん姿があった。

冥「黙れ黄蓋。たかが前線の一指揮官が、偉そうな口を叩くな」

祭「・・ほお。公謹よ。儂に喧嘩を売っているらしいな?」

冥「口の利き方に気を付けろ、下郎。私は呉の大都督。貴様は我が命を犬コロのように待って居れば良い」

祭「犬コロじゃと!? 我ら前線の将が命を的にして戦っていたからこそ、呉は強国としてのし上がったのじゃぞ! それを犬コロとは・・! 公謹! 貴様、文官の分際で我らを馬鹿にするなど傲慢にもほどがあるぞ!」

冥「黙れ! 呉の手足でしか無い貴様らが、呉の頭脳である私に反論するな! 己の身分を弁えろ!」

冥琳と祭さんは激しく言い争いを始めた。

昴「・・・」

祭「身分じゃと・・。汗に塗れ、血を流し、呉の繁栄のために命を賭けてきた我ら部将を、犬コロ扱いすることが、貴様の言う身分の違いか! 我らが殿の囲い者が、主の寵愛を笠に着て、よくぞ言うた!」

祭さんはまだまだ続ける。

祭「頭脳よりも肉体を駆使して王に取り入った、薄汚い売女風情が! 誇り高き我ら武官を愚弄するなど百年早いわ!」

冥「なにぃ!?」

祭「失せろ、売女! 貴様なんぞ、呉には要らん!」

冥「言うに事買い手私を売女呼ばわりか! もう良い! 黄蓋! 貴様の役を剥ぐ! 一兵卒として戦場で死ね!」

祭「儂を一兵卒に落とすじゃと!」

冥「上官に対する侮辱、命令不服従、主を冒涜する発言・・役を剥ぐには充分な理由だ。失せろ、黄蓋。自分の天幕に戻り、謹慎していろ。・・この戦いが終わった後、貴様には正式な罰を通達する」

祭「勝手にせい!」

祭さんは足音を荒くして自分の天幕へと歩いていった。

冥「誰かある!」

明「は、はいっ!」

冥「黄蓋の部隊を解散させろ。兵は他の将に預けるように手配しておけ」

明「し、しかし・・」

冥「・・やれ!」

明「は、はいっ!」

明命は冥琳の声に驚きながら足早に走っていった。

昴「・・はぁ・・。くだらない。これじゃあ軍議にならないな。皆、戻るぞ」

俺は踵を返し、その場を離れる。

桃「ご、ご主人様!?」

愛「ご主人様! これは放置していい問題ではないはずです!」

星「そうですぞ。この事が戦況に響いたら目も当てられません。」

昴「見ての通りの内輪揉めだろ? 俺は口出しする気もなければそれに構っている暇もない。良いから皆、戻るぞ」

「「「「・・・」」」」

蜀の将の大半は不服そうな顔をしながら俺の指示に従い、自陣に戻っていく。

昴「俺達は自陣に戻って休養させてもらう。それで良いよな?」

俺は冥琳の目を見つめ、尋ねた。

冥「・・ああ。そうしてくれ」

冥琳もそんな俺の目を見つめ、答えた。

昴「・・・了解」

俺はそれを聞いて自陣へと戻った。



















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※※※※


星「主よ、理由をお聞かせ願いますかな?」

翠「そうだぜ。何で何も言わずに帰って来ちゃったんだよ?」

焔「あれでは私らが舐められてしまいます」

昴「んー、ま、思うところがあってな・・・うん、皆、傍に寄ってくれ・・」

ここは陣地の中央だから聞かれる心配もないだろう。

昴「周瑜と黄蓋の喧嘩。恐らく本気ではないだろう」

星「本気じゃない? ならば演技だとでも?」

昴「だろうな」

翠「でも、何のために?」

昴「この戦でのトドメのためだろう。・・朱里と雛里の意見はどうだ?」

俺は2人に意見を求める。

さっきから2人供黙っっているが察しはついているのだろう。

朱「私も同じ考えです。軍議の席上であのような発言をしたのは、その喧嘩・・つまり周瑜さんと黄蓋さんの不仲を大々的に喧伝するためだと思います」

白「喧伝? なんでそんなことする必要があるんだ? 将の不仲なんて、弱点にしかならんだろ?」

雛「普通の場合ならそうなんですけど。・・そこが周瑜さんの考えた策かと」

翠「策ねぇ。・・何だよ、その策っての」

雛「あわわ、そこまでは分かりませんけど・・」

おおよその察しは付く。大胆な策を思い付いたものだな。

昴「とりあえず皆。この先何が起こっても動揺しないように、な」

桃「うん、分かったよ♪」

昴「・・そういや、桃香は何も言わなかったけど分かってたのか?」

桃「ううん。ご主人様が何も言わなかったから大丈夫なのかなって」

なるほど、だからか・・。

昴「とにかく、俺達は決戦に備えるぞ。動きがあるなら夜だ。皆すぐに対応出来るようにしといてくれ」

「「「「了解!」」」」

さて、俺も休むかな。




















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


そして日も暮れ、辺りはすっかり暗くなった。天幕の中で横になっていると、外が慌ただしくなってきた。

昴「始まったか・・」

俺は自身の得物を持って天幕の外に出た。
















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


外に出ると、将や兵達がてんやわんやとなっていた。

昴「何があったんだ?」

俺は陣の中央に居た桃香へと尋ねた。

桃「えっとね、何か孫策さんの陣で何かあったらしいんだけど・・」

まだ情報が入ってきていないのか。

少し待っていると・・。

?「し、失礼します!」

ん、この声。

昴「明命か」

明「昴様! 先ほどはご挨拶出来ず・・」

昴「なに、気にするな・・それで?」

明「はい。実は祭様が・・」

明命はそこで言葉を止める。

昴「脱走、寝返ったか?」

明「・・(コクッ)」

明命はただ頷く。

昴「やはりか・・。それで、そっちの追撃部隊の指揮は誰が取るんだ?」

明「はい、穏様です。私と亜莎がその補佐を・・」

なるほどね。

昴「冥琳は穏に何か伝言をしたか?」

明「伝言、ですか?」

昴「そうだな、例えば、『全部分かっているんだろう?』とか?」

明「はぅぁ! 何故お分かりに!?」

やはりか・・。

昴「話は分かった。こちらもそちらに合わせて動く」

明「分かりました!」

明命は自陣へと戻っていった。

昴「始まったな」

大戦の序章が・・。

















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


追撃部隊を向かわせたが、結局追いきれず、祭さんの部隊は曹魏の陣に駆け込んでしまったため、追撃を切り上げた。祭さんは曹魏へと降った。



















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※※※※


華琳side

黄蓋が降った。理由は誇りを穢されたから、と。私は投降を認め、黄蓋を最前線に配置した。

華「ふふっ。まさか本当にね・・」

時は遡る・・。



















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※※※※


私達が長江の赤壁に陣を構築し、蜀呉の連合軍を待ち受けていると、茉里が私の天幕へとやってきた。

茉「お話が・・あります」

華「あら? 何かしら?」

茉「唐突では・・ありますが、私達は今・・敵の罠の中にあります・・」

華「・・どういうこと?」

茉「まず、我が軍の船の鎖・・ですが。この辺りに住む猟師さんの風習・・ということですが・・この辺りにその風習はありません」

華「何ですって?」

茉「はい・・」

華「なら、昼間猟師が鎖で繋げていたのは・・」

茉「あれは敵方の仕込み・・です。凪さんに調べていただきましたところ、・・そのようにするように金銭で・・頼まれたのだと・・」

華「相手は一体何のために鎖で繋ぎ止めようとしたのかしら?」

実際、鎖のおかげで船が安定し、揺れは確実に減ったわ。

茉「我が軍を・・火計にて・・一網打尽にするためです・・」

華「待ちなさい。火計を仕掛けるにしても相手は向かい風で対峙するのよ? 火計はむしろ自らの首を・・」

茉「変わるんです」

華「えっ?」

茉「この辺は・・今の季節になると・・吹くんです。・・東南の風が・・」

華「!?」

東南の風・・それは私達に風が向かってくるということ・・。

茉「船の上で生まれ育つはずの・・長江の民が鎖を付ける必要が・・ありません。そして、あまりに鎖が都合良く手に入ったことに・・違和感がありましたので・・」

華「なるほどね。・・それで、あなたはこれをただ見過ごしている訳ではないのでしょう?」

茉「はい・・。真桜さんに・・鎖を強度をそのままに・・いざというとき・・すぐに外れるように・・細工してもらっています」

華「一度罠に乗ってみせるのね」

茉「はい」

華「話は分かったわ。良く気付いたわね、茉里」

茉「それが軍師の務め・・ですので・・。あともう1つ・・。敵は後もう一手仕掛けて・・きます」

華「もう一手?」

茉「火計を仕掛けるには・・後一手・・足りません。何かはまだ分かりませんが・・必ず・・仕掛けてきます」

華「分かったわ。後のことはあなたに任せるわ。何かあったら私に報告しなさい」

茉「・・(コクッ)」


















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


全て、茉里の読み通りになったわね。最後の一手。呉の宿将黄蓋が投降してきたことがそうなのね。

華「それにしても・・」

茉里の知は本当にすごいわね。軍略ならば我が軍において右に出る者はいないでしょう。

私の将は皆優秀で、そして可愛い。でも茉里だけは少し違ったことを考えるわ。可愛いくて優秀であると同時に・・。

恐ろしい・・。

彼女は優秀過ぎるわ。もし彼女が一物の野心でも持ったら・・。

近い内に理由を付けて処罰するべきね。

















と、並みの王なら考えるでしょうね。

危険? 恐ろしい? 構わないわ。彼女を使いこなしてこそ覇王。私の器の見せ所だわ。

華「ふふっ、昴。あなたの連れてきた茉里。彼女は我が軍にとって欠かせない人材になったわ」

昴。あなたがどう出るか、楽しみにさせてもらうわ。

赤壁の戦いの開戦近づき、両軍の間に策謀の嵐が吹き荒れる。











続く

-76-
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