小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第75話〜赤壁の戦い中編、窮地と一手〜















昴side

昴「動き出したな」

雪「そうねー。まさか黄蓋が魏に奔っちゃうなんて思わなかったわー」

昴「本当にな。・・・で?」

雪「でって?」

桃「これからどうするんですか? 呉の宿将と言われる黄蓋さんが魏に行っちゃった以上、こっちの作戦とかも曹操さんにバレちゃってるだろうし・・」

雪「・・って劉備が心配そうにしてるけど? これからどうするつもりなの?」

冥「どうするとは?」

雪「祭が裏切る訳ないでしょ? ということはこれは何かの策。その策、そろそろ示しても良いんじゃないかしら?」

冥「・・気付いていたのね。いつから?」

雪「初めからに決まってるでしょ。馬鹿にしてたら怒っちゃうわよ?」

冥「ふむ・・さすが、と言うべきか。やはり戦の天才なのだな、雪蓮は」

雪「あら。気付いてたの、私だけじゃないみたいだけどね」

冥「ああ。昴と、孔明も気付いていたのだな」

昴「まあな。・・それにしても、あれ、打ち合わせ無しだったんだろう? 良くやるよ」

冥「そのくらい、我らなら容易い」

昴「確かに・・。とりあえず話を戻そう」

冥「ああ。・・祭殿は今、曹魏の前線に配置されているらしい」

雪「あら。・・あのおチビちゃん、さすがの器量ね。あからさまにおかしな降伏をした人間をそのまま前線に配置するなんて」

冥「そうしなければならん事情があるのさ」

昴「覇王の評判、か・・」

冥「そうだ。覇王であるか故に、曹操は常に天下に大度を示さなければならん」

雛「それが曹操さんを覇王たらしめている無形の力。・・風評というやつですね」

昴「そうだな。それは曹操の良い所であり、欠点でもある」

冥「私も昴と同じ意見だ。・・そしてここから、我らの反撃が始まる」

穏「・・ってことですよ、亜莎ちゃん♪」

亜「はっ。あの・・まさか黄蓋様の降伏が謀りだったとは・・」

穏「安心しましたか〜?」

亜「はいっ!」

雪「じゃ、皆が安心したところで、そろそろ反撃といきましょうか」

昴「ああ。俺達は船戦に慣れてないからあまりに近付き過ぎると気取られる。孫呉の軍の奇襲後、時間差で奇襲を掛けよう」

雪「分かったわ。狙うは曹操の頸1つ。・・良いわね。ワクワクしてくるわ」

昴「俺達も動くぞ。皆準備にかかってくれ」

「「「「了解!」」」」

蜀と孫呉の両軍が動き出した。





















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祭side

時は夜更け・・。

祭「さぁて。・・そろそろ頃合いか。・・誰かある!」

「はっ!」

祭「手筈通り、火を放つ。・・乗ってきた船の半分にも火を掛けるぞ」

「了解です!」

祭「今宵、黒天に月は輝き、涼風は火を煽る。・・良い月夜じゃな」

「はい。この風があれば、火はより一層激しく燃えることでしょう」

祭「後は風向きか。・・・むっ?」

突如風向きが変わった。

「!? ・・黄蓋様! 風向きが変わり、東南の風が吹き始めました!」

祭「うむ! 天は我ら呉に味方してくれたな! すぐに火を放つぞ!」

「はっ! ・・我らの勝利を願って!」

祭「応よ! では皆の衆、火を放て!」

「はっ!」

儂と兵達は弓矢の絃を目一杯引き絞り、矢を放った。



















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昴side

朱「むむむー・・えいっ!」

昴「どうした?」

雛「この作戦のキモは風向きなんで、朱里ちゃんは天の神様にお祈りをして東南の風を吹かそうとしてるんです」

昴「ほぉ・・」

朱「むむむー・・えいっ! ・・はわわっ! ご主人様、東南の風が吹きました!」

昴「おー、すげぇすげぇ」

風向き変わったよ。

雛「やった! 東南の風、吹いてるよ、朱里ちゃん!」

朱「うん! お祈りが効いたんだね、きっと!」

雛「だね♪」

朱里と雛里は手を取り合って喜んでいる。

さてと、舞台は整ってきたな・・。



















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華琳side

霞「華琳!」

華「黄蓋が火を放ったわね?」

霞「茉里っちの予想通りの動きをしおったで。いま風と桂花が真桜達連れて、消火と迎撃に向かっとる」

華「動いたわね」

霞「あと、呉の船団も近付いてきとる。明かりがなかったから気付くんが遅れたって」

華「今の兵力差なら、地の利を利用するのは当然のことね。・・他の皆は?」

霞「春蘭て秋蘭も稟達と合流してボチボチ呉の連中と接敵する頃や。ウチは指示がなかったから、さしあたり華琳の直衛に来た」

華「風と桂花に伝令を出して、風向きが変わったことだけ伝えておいてちょうだい。私の軍は?」

霞「とっくに準備完了しとる。出られるで!」

華「ならば我々も呉の本隊を迎え撃つわよ!」

霞「応っ!」

ふふっ、動いてるわね。予想通りに・・。




















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祭side

「ぐわあぁっ!」

祭「くっ・・!」

「黄蓋様! お逃げ下さいっ! ・・ぐはっ!」

次々と儂の隊の兵が射ぬかれていく。

祭「ぐっ、さすがにやるのう・・。風は既にこちらに吹いている! 火計だけでも成功すれば・・」




















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真桜side

「消火が間に合わん船は片っ端から外に押し出し! 鎖の付け根の唐繰を押せば、鎖はすぐに外れるようにしとる! ・・強度を保ちつつ、簡単に外せる仕掛けなんて無茶振りしおってからに・・けど、これがウチの見せ所や! ポチッとな!」

ガチャン!!!

船の鎖が外された。

風「せーの、で押し出してくださーい! せーの!」

桂「使えそうな船なら少々壊して構わないわよ! ・・凪!」

凪「はい! ・・はあああああっ!」

凪から氣が放たれ、船が爆発し、その勢いで炎が吹き飛ぶ。

桂「凪、次々行くわよ!」

凪「はっ!」

風「真桜ちゃーん。もう限界の船があるんですけど、間に合いそうにないんですー。穴を開けて、沈めてもらえませんか?」

真「まかしときー!」

ウチは螺旋槍に氣を流し込み・・。

真「でりゃああああっ!」

槍で突撃をした。




















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祭side

祭「なっ!?」

火を付けた船が次々と切り離されていく。火が付いた船も氣の爆発や破壊で火をかき消されていく。

「黄蓋様! 曹操の本隊が・・!」

本隊じゃと! 何故・・・・そうか・・。

祭「くくくっ・・。はははははっ!」

「黄蓋様?」

祭「兵をまとめろ! これより我らは、曹操に最後の一撃を叩き込む!」

「はっ!」

祭「曹孟徳、聞こえるか! 我が計略、ここまで完璧に見破られるとは思わなかったぞ! 見事じゃ!」

すると曹操が前方に現れた。

華「敵軍の将のままでありながら、私の眼前まで現れたことは褒めてあげるわ。それに、あれほどの大胆無比な作戦もね」

凪「華琳様!」

桂「このような場所に・・危のうございます、華琳様!」

華「けれど・・その呉の宿将も、私の手のひらの上で踊るだけだったということよ」

祭「敵将の前にむざむざ顔を見せるか、曹孟徳」

華「せめてもの礼儀よ。・・名将黄蓋。あなたの誇りを踏みにじり、あなたに参ったと言わせてあげる」

祭「言うではないか・・ならば、いざ尋常に参る!」



















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「ぐはっ!」

次々と兵士達が倒れていく。

祭「やはり多勢に無勢・・。もはや、これまでか・・!」

華「大人しく降参なさい。あなたほどの名将、ここで散らせるのは惜しいわ」

祭「ぬかせ! 我が身命の全てはこの江東、この孫呉、そして孫家の娘達のためにある! 貴様らになど、我が髪の毛一房たりとも遺しはするものか!」

春「黄蓋!」

祭「夏候惇か・・。貴様も儂に命乞いをしろとでも言いに来たか?」

春「・・・」

祭「貴様も曹魏一の忠臣ならば、分からんか? 国を犯し、その後になお愛した魏に足を踏み入られるか?」

春「っ!」

秋「黄蓋・・」

春「・・華琳様」

華「いいでしょう。ならば・・」

祭「応! 来るがいい!」

儂は矢を3本取り、放った。

春「ちっ!」

夏候惇はそれを弾く。

祭「おおおおー!」

儂は次々と矢を取り、放ち続ける。将だけではなく、兵にも放つ。

「がはっ!」

兵は矢を避けきれず射ぬかれていく。しかし将には・・。

キィン! キィン!

祭「さすが曹魏の将じゃ」

避けられるか弾かれてしまう。

秋「ふっ!」

ドスッ!

祭「ぐっ・・!」

夏候淵が放った矢が儂の左肩に刺さった。

祭「くっ・・潮時か・・」

無念。せめて一矢報いたかったが・・やむを得ん。ならば意地だけでも通させてもらおう! 儂は足に力を入れ、立ち上がる。

祭「聞けぃ! 愛しき孫呉の若者達よ! 聞け! そしてその目に焼き付けよ!」

見ておれ、策殿、冥琳、そしてひよっこども!

祭「我が身、我が血、我が魂魄! その全てを我が愛する孫呉の為に捧げよう! この老躯、孫呉の礎となろう! 我が人生に、何の後悔があろうか! ・・呉を背負う若者達よ! 孫文台の建てた時代の呉は、儂の死で終わる! じゃが、これからはお主らの望む呉を築いていくのだ! 思うがままに、皆の力で! しかし決して忘れるな! お主らの足元には、呉の礎となった無数の英雄達が眠っていることを! そしてお主らを常に見守っていることを! 我も今より、その英霊の末席に穢すことになる! ・・夏候淵!」

秋「っ!」

祭「儂を撃て! そして儂の愚かな失策を、戦場で死んだという誉れで雪いでくれ!」

秋「・・・」

祭「さぁ、夏候妙才!」

秋「―――っ!」

夏候淵が自身の矢をつがえ、儂の心の臓をめがけ、放った。

その瞬間、周りの全てが遅くなった。矢がゆっくり、ゆっくりと儂めがけ、向かってくる。儂の頭に、色々な顔が浮かぶ。権殿、尚香様、穏、思春、楓、明命、亜莎・・。

ひよっこ達よ。精進するのじゃぞ。

冥琳・・。

孫呉の大都督よ。お前の頭脳で孫呉を頼む。・・。

策殿・・。

前王であり、母君である堅殿を超え、堅殿の悲願を叶えてくだされ。

堅殿・・。

今からそちらに逝きます。また昔のように酒を酌み交わし、語り明かしましょうぞ・・。

そして最後に浮かんだのは、勇ましく、賢く、優しいあの流麗のあの男・・。

ははっ、最後に現よで想うのがあの男か! 束の間の女の夢。堅殿の悲願の成った後に叶えたかったのう。

皆、さらばじゃ・・。

儂はきつく瞳を閉じた・・。















・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・


儂は死んだのか・・。

何も感じぬ・・。痛みもこぬ・・。

うっすら目を開けると、儂の目の前に誰かおり、放たれた矢を掴んでいた。

祭「堅・・殿?」

?「死に急がないで下さい、祭さん」

そこに立っていたのは・・。


















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桃香side

雪「火の付いた船が次々と切り離されていく?」

冥「くっ! こちらの策が読まれていたのか!?」

朱「あれだけ策を労したのに・・」

朱里ちゃんと雛里ちゃん、そして周瑜さんの策が失敗した・・。皆が驚愕している。すると雛里ちゃんが・・。

雛「茉里ちゃん・・。きっと茉里ちゃんに・・」

冥「誰だそれは?」

朱「司馬懿仲達・・魏の軍師です・・」

雪「司馬懿仲達って、魏の鬼謀って呼ばれている軍師のこと?」

朱「はい。・・こと軍略に関して言えば、私と雛里ちゃん以上の娘です」

冥「・・我ら3人の策は、たった1人の軍師に看破されたと言うのか・・」

朱里ちゃんと雛里ちゃんと周瑜さんが苦々しそうな顔を浮かべている。

雪「そんなことより早く祭を・・、祭を助けに行かないと!」

そうだ。黄蓋さんは今曹操さんの軍の最前線に・・。助けないと! でもどうすれば・・。

桃「ご主人様、どうしよう・・・ご主人様?」

私はご主人様に尋ねた。けどご主人様は何も答えない。気になってご主人様の方を向くと、そこには誰もいなかった。





















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昴side

祭「昴! 何故お主がここに!?」

昴「救援に来ましたよ。祭さん」

俺は敵方の船が切り離されていくのを見て即座に動いた。策は失敗した。それはつまり祭さんが窮地にいることに他ならないからだ。さすがに祭さんのいる船にはいくら氣を使って飛んでも届かないので途中から泳いできたが・・。

祭「救援じゃと!? 無用じゃ! 儂はここで逝く! 策をしくじり、むざむざ生き恥を晒すつもりはない!」

昴「だから死ぬのか? 恥を晒して死ぬはこれ以上にない恥。そして不忠だ」

祭「だが!」

昴「祭さんが死ねば悲しむ人がたくさんいる。雪蓮や冥琳達。・・俺だって・・」

祭「昴・・」

昴「諦めないで下さい、恥辱も汚名も後に払拭すればいい。だから生きて下さい」

祭「昴・・すまぬ・・」

祭さんは納得してくれたみたいだ。・・・さてと・・。

俺は前方にいる華琳達に視線を移す。

華「久しぶりね昴」

昴「・・ああ。久しぶりだな、華琳」

華「連還の計に黄蓋の裏切り、そしてこの時期に一時的に変わる東南の風を利用しての火計、見事だったわ」

昴「・・・」

華「でもね昴。その策は見破ったわよ。あなたが連れてきたこの茉里が」

華琳が横にいる茉里の頭を撫でる。

茉「センセ・・」

やはり茉里に看破されたか・・。

華「投降なさい、昴。もはやこの戦、私達に勝ちよ」

昴「・・・」

華「どのみちあなたに逃げ道はない。投降を拒否するなら私はあなた言えど討つわ」

華琳が手を上げる。それと同時に弓隊がこちらに向けて矢を構えた。

祭「昴、逃げるのじゃ。お主だけなら逃げ切れるやもしれぬ」

昴「・・断る。俺はあくまでも俺の道と理想を曲げるつもりはない」

華「そう・・残念だわ・・」

華琳が上げた手を振り降ろした。それと同時に弓隊の矢が俺を襲った。

祭「昴!」

俺は朝陽と夕暮を抜き、飛来する矢を弾く。

キン! キン! キン! キン! キン! キン!

全て弾いていく。そして間隙を縫い、氣弾を飛ばす。

ダダダダダダッ!

「ぐふっ!」

「がはっ!」

「うぐっ!」

氣弾で弓隊を撃ち抜いていく。

やがて一時的に矢の雨が止み、その隙を付いて祭さんを肩に担ぐ。

祭「昴!?」

昴「矢が止んでいるうちに撤退します。口を閉じて下さい。舌を噛みますよ!」

俺は脚に氣を集中させ、全力で跳躍する。

祭「うおっ!」

俺はこちらに向かってきた船に飛び移りながら撤退した。



















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雪蓮side

雪「皆急いで! 祭を救援に向かうわよ!」

急がないと、早くしないと祭が・・!

冥「分かっている。だが雪蓮。あなたも無茶をしないで」

雪「・・なるべくね」

ある程度の無茶はするわよ。

私はいつでも飛び込めるように構えていると・・。

?「戻ったぞ」

突如上空から声が。この声って・・。

ドン!!!

大きな音と共に人が私の船に飛来した。そこに居たのは昴と・・。

雪「祭!」

昴に抱き抱えられた祭の姿があった。

祭「策殿、冥琳よ・・。どうやらは儂は死に損ねたようじゃ」

雪「そんなこと・・本当に良かった・・」

私は祭を力いっぱい抱きしめた。

雪「昴。本当にありがとう」

昴「なに、当然のことだ・・それより今は・・」

昴は前方の曹魏の軍勢に視線を移す。

冥「・・策は失敗だ。予想の半分も被害を与えられていない。もはやこの戦・・」

冥琳はそこで言葉を止める。

策は見破られ、士気も兵数も向こうが上。いくら操船技術が長けていると言ってもこのままじゃ・・。

誰もが勝利を諦め、敗北を覚悟していると・・。

昴「さてと・・、皆俺の指を見ろ」

昴が人差し指を立て、それを空高く上げる。

昴「俺が天の奇跡を見せてやるよ」

天の奇跡? あなたいったい何を・・。

昴「3・・2・・1・・」

昴が数字を数えている。そして・・。

昴「0・・」

パチン・・。

昴が指を鳴らす。その直後・・。

ドゴォォォォン!!!

はるか前方。突如曹魏の軍勢から大きな爆発音がした。皆が驚愕している。1番驚愕しているのはおそらく曹魏の軍・・。

あなた、いったい何をしたの?

昴はそんな私を見つめ・・。

昴「さあ、反撃開始だ」

ただそれだけ言った・・。











続く

-77-
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