小説『真・恋姫†無双〜外史の守り手〜』
作者:ブリッジ()

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第76話〜赤壁の戦い後編、決着と結束〜















華琳side

ドゴォォォォン!!!

突如、耳を覆いたくなるような轟音と共に大きな揺れが私を襲った。

華「何事だ!」

私は兵士を呼びつけ、状況の確認を急いだ。

「そ、それが・・」

華「早く報告しなさい!」

「中曲に陣を構えていた一隻の船が突如・・爆発し、粉々になりました!」

華「何ですって!?」

爆発? 船がどうして・・。

華「急いで原因を究明しなさい!」

「はっ!」

華「いったい何が・・、私達に何が起こっているの?」

必死に頭を働かせる。何が起こっているのか、どうするかを考えていると・・。

ドゴォォォォン!!!

華「っ!?」

もう一度、今度は先ほどよりも大きな爆発音と揺れが私を襲った。

華「また・・!? 昴・・まさかあなたなの・・」



















※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※


昴side

ドゴォォォォン!!!

2発目の爆発が魏の陣から起こった。

昴「手筈通りだな。タイミングもばっちりだ」

雪「昴・・あなたいったい何をしたの? 魏の陣に何が起こってるの?」

昴「順を追って説明する。まずあの爆発だけど、あれは火薬という物を爆発させたんだ」

冥「カヤク? カヤクとは何だ?」

昴「そうだな、簡単に説明すると、火を付けると大爆発を起こす粉末だ。あんな感じにな」

俺は曹魏の陣の左翼を指差す。

ドゴォォォォン!!!

冥「!?」

雪「あなた達はそんな危険な物を持ってたの!?」

昴「爆発の規模は分量にもよるが、大体、この樽ぐらいの量の火薬なら船一隻軽く吹っ飛ぶな」

雪「何て危険な物を・・」

雪蓮及び、ここにいる全員が驚愕している。

俺達が益州を治めて幾ばくか経ったある日。俺が成都近くの岩山に鍛練に行った時、俺はある物を見つけた。氣で岩をふっ飛ばしたらそこから偶然硝石が出てきた。硝石とは火薬を精製するために必要な原料だ。俺はただちに発掘を命じ、原料を集めて火薬を精製した。もともと別の外史で精製法を学んでいたので、完成にはさほど時間はかからなかった。

朱「はわわ・・。そんな物を作ってたんですか・・」

雛「知らなかったです・・」

昴「悪いな。火薬ってものすごく危ない物だから・・」

静電気が起きるだけでドカン! だからな。

冥「カヤクという物は分かった。しかしどうやって魏軍に仕掛けたのだ?」

昴「魏軍にはあらかじめ、俺直属の部隊を忍ばせておいたんだ」

桃「ご主人様の直属の部隊って・・」

朱「特殊隠密部隊、『忍』ですね」

乱世は情報を制した者が勝つ。だから俺は各部隊から50人ほど厳選し、密偵に必要なものを叩き込んだ。結果、1人1人は明命に及ばないまでも、優秀な隠密部隊を結成できた。俺はその部隊を忍と名付けた。

昴「その忍を事前に忍ばせておいて、曹魏の軍勢が陣を構築している隙に配置するように指示を出したんだ」

桃「でもでも! そのカヤクってのをどうやって持ち込んだの? いくらなんでもそんな物が運ばれれば曹操さんも気付くんじゃ・・」

昴「だろうな。ただ持ち込めば当然バレる。だから、曹操軍が船を繋ぐ為の鎖を運び入れる際に鎖に紛れさせて運ばせたんだ」

桃「あっ、その時なら・・」

昴「ああ、上手く工夫すれば運び入れられる」

例え気付いても錆止めとでも言っておけばあまり疑わないだろう。

ドゴォォォォン!!!

ドゴォォォォン!!!

3発目、4発目の爆発が起こる。

冥「くっ! ・・それで、カヤクはいくつ仕掛けたのだ?」

昴「船を吹き飛ばせるほどの量の火薬を6箇所に仕掛けた」

冥「与えられる被害はどの程度だ?」

昴「人的被害だけなら1割にも満たないだろうな」

祭「それだけでは状況は変わらぬのではないか?」

冥「・・いや、一概にそうとも言えん」

雪「どういうこと?」

冥「人的被害は昴の言う通り、1割にも満たないのだろう。だが、敵方からすれば突如自分達の船が前触れもなく爆発を起こしているのだ。曹魏の将兵は今、いつ自分の船が爆発するかもしれないという恐怖の中にいるのだ。当然頭の中は恐怖で占められる」

雪「あ・・」

昴「そういうことだ。だから俺は仕掛けた火薬を一度に全て爆発させるのではなく、時間差で爆発するように指示を出した」

1度目の爆発で、相手の思考も止める。2度目で状況を理解させる。3度目、4度目で恐怖を煽り、5度目で恐怖に突き落とす。

昴「あともう1つ。船の爆破にはもう1つ利点がある。それは爆発と同時に巻き起こる爆風だ」

爆発と聞けば皆爆熱を警戒するだろう。もちろんそれは間違いではない。だけど本当に恐ろしいのは爆風だ。爆発起きると大概爆風で殺られてしまう。

昴「船を吹き飛ばせるほどの爆発が起きればその爆風も恐ろしい。隣接してる船は吹き飛ぶだろうし、近い船はその帆を吹き飛ばせる。帆が無くなれば船は動かない。動かない船はいわば的だ。動かない船を避けようとすれば陣形は乱れる。被害は少なくとも効果は絶大だ」

雪「なるほど・・」

昴「とはいえ、曹魏の将兵は優秀揃い。時間を与えすぎればこの混乱は収まる」

雪「ならすぐに攻勢を掛けるわ」

昴「こっちもそのつもりだ。・・だが立て直しをさせないために、騒ぎが沈静化する直前辺りに最後の1発を爆発させる。それと同時に一気に両勢力で攻勢を掛けよう」

雪「分かったわ。爆発に合わせてこっちも動くわ」

昴「頼む。・・桃香、朱里、雛里、俺達もこの気に動くぞ」

桃「うん。分かったよ!」

返事をする桃香。すると朱里が・・。

朱「あの、ご主人様・・」

昴「どうした?」

朱「ご主人様は私達の策が見抜かれると確信していたんですか?」

朱里がおずおずと尋ねる。

昴「確信はしてないさ。あれだけ綿密に練り込んだ策だ。見抜かれるとは思わなかった。俺はあくまでも朱里と雛里の策が見抜かれる前提で策を考案して仕込んだに過ぎない」

雛「でしたら私達に一言・・」

昴「あくまでも保険だよ。教えなかったのは策が失敗しても大丈夫って空気を兵達に伝染させたくなかったからだ。朱里や雛里は周瑜や黄蓋さんと違って演技は得意じゃないからな」

朱「はわわ・・」

雛「あわわ・・」

2人がシュンとしてしまった。

昴「悪いな・・」

以前にも詠に同じ事して疑念を抱かせてしまったんだよな。

昴「とりあえず今はこの機を生かして一気に行くぞ」

朱・雛「ぎょ、御意です!」

昴「よし、急いで自陣に戻ろう」

俺達は自陣に急いで戻り、部隊を纏めにかかった。



















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曹操軍side

春「くっ! 皆静まれ! ・・貴様らそれでも華琳様の兵か!? この程度の事で取り乱すな!」

「は、はっ!」

秋「・・どうにか兵達も落ち着いてきたか・・真桜、原因は何かまだ分からないのか?」

真「分からんわ。爆発させた物が何か見ぃひんことには・・。ただ・・」

春「ただ?」

真「こないな仕掛けを発明したんは間違いなく隊長や」

秋「・・やはり昴か・・」

沙「うぅ・・、隊長は味方だと頼もしいけど、敵だとすごく怖いの〜」

秋「・・確かにな。だが驚きはしたが被害はそれほど出ていない。急ぎ立て直し、連合軍を・・」

騒ぎが沈静化し、部隊を再編成しようと試みようとしたその時・・。

ドゴォォォォン!!!

秋「っ!?」

春「ぐっ・・!」

沙「きゃあ!」

6度目の爆発が起こり、その轟音に皆思わず耳をふさいだ。

「もう、駄目だ・・」

「敵には妖術使いがいるんだ・・」

「嫌だ! 死にたくない!」

曹魏の兵士達がとうとう爆発の恐怖で錯乱を始めた。

春「くそ! 皆静まれ!」

秋「落ち着け! ・・駄目だ、今の爆発で完全に統制を失った」

沙「怖いの・・。きっと隊長が妖術か何かで・・」

真「落ち着き沙和! 隊長が妖術使いやないのはウチらがよう知っとるやろ! 何か仕掛けがあるに決まっとる!」

沙「うぅ・・」

真桜はどうにか沙和を落ち着かせる。だが、その時間もなく・・。

「も、申し上げます! 蜀呉の連合軍の船団がこちらに向かってきました!」

春「くそっ! こんなときに・・!」
 
秋「奴らがこの機を逃すわけはないか・・。急いで部隊を立て直せ! 迎撃するぞ!」

「そ、それが、爆発の時にその周辺の船が大破及び航行能力を失っており、その船が進行の邪魔をしているために陣の構築に時間がかかっています!」

春「何だと!?」

秋「ならば動ける船を急いで1つに纏めろ! バラバラでは各個撃破されるぞ!」

「りょ、了解です!」

秋「こんな悪魔染みた策・・本当に昴が・・」

曹魏の将兵は皆その恐怖に震えた。



















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昴side

ドゴォォォォン!!!

昴「!? 6度目の爆発が起きたか・・。蜀の精兵達よ皆聞け! 今が好機! 曹魏の軍勢を突き崩すぞ! 既に孫呉の船団は曹魏の軍勢に向かっている。俺達も遅れずに向かうぞ!」

「「「「応ーっ!」」」」

昴「黄忠隊、厳願隊、及び弓隊を前曲へ、火矢を射かけさせろ! 他の隊も一斉射撃の後に白兵戦を仕掛けろ! 恐れるな! 敵は精兵なれど皆恐れおののいている! もはや流れ、天命は俺達にある! 皆行くぞ!」

「「「「応ーーーっ!!」」」」

赤壁の地に兵士達の雄叫びが木霊した。




















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愛紗side

桔「放てー!」

紫「弓隊、一斉に斉射しなさい!」

桔梗の隊と紫苑の隊から大量の矢が放たれる。

愛「行くぞ! 皆我に続けーっ!」

「「「「応ーーーっ!!!」」」」

私の船を先頭に一気に曹魏の船へと突進していった。





















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華琳side

謎の爆発から既に幾ばくか経った。先ほどまで高かった士気が今では嘘のように下がりきっている。私の軍全体が皆爆発の恐怖に身を震わせ、もしくは発狂しだしているため、もはやまともに機能しているのは一部の精兵のみ。そしてここにきての連合軍の侵攻。私の軍はもう統制が取れない。

華「・・撤退するわ。桂花、皆に指示を出しなさい」

桂「・・かしこまりました」

苦々しい顔をしながら桂花が兵に指示を飛ばしに向かった。

茉「・・申し訳・・ありません」

華「何を謝っているの?」

茉「もう少し・・注意深く・・警戒するべきでした」

華「あなたの責任ではないわ。むしろ、あなたがいなければ私達は今頃壊滅状態よ。それに・・・こんな策、誰も見抜けるはずがないわ」

何らかの方法で船を次々爆発させ、恐怖を煽り、爆発させた船の周辺の船を航行不能にすることで陣形を乱し、すかさず追い討ちをかける。・・・これを見抜ける者がいるなら、その者はもはや人ではないわ。

茉「センセが・・こんな策を取るなんて・・」

華「信じられない?」

茉「・・(コクッ)」

華「あなたが自分で言ったでしょ? 昴は私以上の覇王だと。これが昴の本当の姿よ。そして昴は、本当の覇王と言うものを私に見せたのでしょう」

茉「本当の・・覇王・・」

華「速やかに赤壁より撤退し、急ぎ軍を立て直すわ。茉里、今一度あなたの力を貸してもらうわよ」

茉「御意・・」

昴・・。私はあなたに・・。



















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昴side

曹魏の船が次々と後退していく。

桃「勝ったの?」

昴「ああ。俺達の勝利だ」

雪「ええ。あなたのおかげでね。・・・でもあなたらしくない策ね。これで良かったの?」

昴「当然だ。戦には勝ったんだ」

雪「こんなやり方じゃ、劉備の名に傷が付くんじゃないかしら?」

桃「私の事は大丈夫ですよ、孫策さん。どうしても勝たなければならない戦ですし、それに、理想ばかり見てたら、理想ごと失っちゃいますから」

雪「そう・・」

昴「乱世では綺麗事はほとんどまかり通らない。負けたら理想も何もかも水泡に帰す。桃香に降りかかる汚名は俺が被ればそれで済む話だ」

俺がそう言うと桃香が俺の手を握り・・。

桃「私も皆の代表だよ。だからご主人様1人で全部背負わないで。2人で一緒に持とう?」

昴「・・そうだな」

俺は桃香の手を握り返す。

冥「話している所にすまない。今後の事について話がしたい」

昴「ああ、そうだな」

冥「我らはこのまま曹操を追撃しようと思う。・・蜀はどうする?」

昴「俺達も追撃に向かう。だが、大勝とはいえ、2倍の兵力を相手にしたんだ。お互いにすぐには無理だろう。そこで提案だ」

冥「なんだ?」

昴「曹操の逃走経路に伏兵を配置して銅鑼や声で脅そう。曹操の軍勢の8割が徴兵された一般兵。たちどころに離散するだろう」

雪「良いわね。赤壁から逃げるとなると、ある程度道は限られるしね。昴の作戦通りにするわ。・・冥琳。周泰と甘寧に通達しておいて」

祭「その役、儂も仰せつかろう」

雪「あなたは怪我をしているでしょ?」

祭「怪我ならば昴のおかげですっかり良くなりました故に問題はありませぬ。儂にも活躍の場を与えてくだされ」

雪「・・分かったわ。じゃあ祭に伏兵の指揮はお願いするわ」

祭「御意。・・此度の汚名、払拭させていただこう」

桔「呉の老体が出るのならば・・お館様。儂も行くぞ」

昴「任せる。焔耶もついていってくれ」

焔「はっ! お任せ下さい!」

冥「今回の戦いにより、曹操の兵力は大幅に減っただろう。再び立ち上がれるようになるまで、恐らくは2月以上・・。それに伏兵を利用して曹操の退却を遅らせる。恐らく10日は時間が稼げるだろうな」

雪「私達は1週間で態勢を整え、曹操を追撃する。・・昴。劉備。あなた達はどうする?」

桃「私達もこのまま国境の城に戻って、一度態勢を整えます。・・それで良いよね?」

昴「ああ。問題ない」

桃「じゃあ1週間後、もう一度お会いしましょう!」

雪「了解。その時を楽しみにしているわ」

桃「私もです♪」

そういって、桃香が雪蓮に手を差し出す。

雪「ふふっ・・昴があなたを選んだ訳が、今なら分かるわ」

桃「? ・・孫策さん?」

雪「雪蓮よ。私の真名、あなたに預けるわ」

桃「分かりました。では、私の真名は桃香です。私の真名、雪蓮さんに預けます」

2人ががっちり手を握った。

雪「・・天下は諦めても、昴は諦めるつもりはないわよ♪(ボソッ)」

桃「!? ・・私も負けませんよ♪(ボソッ)」

昴「?」

何か呟いていたが、俺には良く聞こえなかった。

桃「では雪蓮さん。1週間後にお会いしましょう♪」

雪「ええ―――」


















こうして、赤壁での戦いは終わった。天下分け目の大戦は蜀呉の連合軍の勝利に終わった。











続く

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